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2 動乱の始まり編
103 救出作戦2
しおりを挟む「バリオス殿、案内願おう」
そう声をかけたゼノビアに、ジルが待ったをかける。
「ゼノビアさん、ちょっと待って下さい。普通に行ったのでは、ベイロンの一行に追いつけません。ここは私とミリエルがフライを使います。頼むぞ、ミリエル!」
「分かったわ。私はこのおじさんを運ぶから、貴方はゼノビアを頼むわね」
4人はフライによって林を飛び越え、かなりの速さでカッセルを目指して飛行する。バリオスはフライでの飛行速度が速いのに驚いていた。
「奴らは徒歩です。この速さなら、奴らがカッセルに入る前に追いつけるはずです!!」
バリオスが大声でそう伝える。ジルは飛びながら、はるか前方に松明の明かりらしきものがあるのに気がついた。しかもその明かりは移動しているようだ。
「ゼノビアさん! あれを見て下さい」
ジルが明かりの方を指差す。
「こんなところを歩いているのは、ベイロンたちの他にいません。急ぎましょう」
バイロンが主人を救おうと一行を急《せ》かした。だが、少ない人数でエルンストを救うためには作戦も必要だ。
「あの明かりの少し前に降りよう! 作戦を立てて奴らを待ち構えるんだ」
ゼノビアの指示によって、ジルたちはベイロンの一行の前方に着地した。距離からしておよそ5分ほどでベイロンたちがやってくるだろう。
「さて、どうするか……」
ゼノビアが考えこんだ。エルンストが居なければ彼女一人で斬り込んでもいい。ルミナスブレードを使えば、決して無理な人数ではないだろう。ただ、強引な方法をとればエルンストの命が危うくなるかもしれない。王国の目的は、エルンストを帝国の陰謀の証人とすることであるから、彼を生かして連れていかなければ意味が無いのだ。
ゼノビアの思考を邪魔しないようにしながら、ジルはミリエルに確認した。
「ミリエル、お前のインビジブルの魔法は他人にもかけられるのか?」
「無理よ。術者単体にしか効果ないわ」
「そうか、ゼノビアさんにかけられるなら良かったんだがな……。ならお前に透明化してもらうしかないな。剣は使えるか?」
「そこらの人間よりは強いつもりよ」
ミリエルはニコリと笑って、腰のレイピアを見せた。
「ゼノビアさん、こういうのはどうでしょうか。まずゼノビアさんに奴らを奇襲していただきます。噂に聞くルミナスブレードの力を見せてもらいましょう。私は後方から出来る限り魔法で支援します。そして奴らの注意が我々に向いたところで、透明化したミリエルにエルンスト殿を確保してもらいます」
ゼノビアは眉をひそめて心配そうにミリエルを見た。
「わたしは良いが、ミリエルは大丈夫か? かなり危険な役目だろう?」
「当然エルンスト殿の近くには数人の護衛が居るでしょうから、戦闘はさけられないでしょう。ですからバリオスさんも後方に潜んでいただき、ミリエルをサポートしていただきます。ミリエル、できそうか?」
「ちょっと! かなり危険じゃないの」
ミリエルが冗談じゃないと抗議する。
「済まない。透明になれるのがお前だけなのでな。ここで重要なのは奴らを倒すことではなく、エルンスト殿を確保することなんだ。だから、できるだけ奴らに気づかれないように近づける者が必要なんだ。頼むよ、ミリエル」
ジルは両手を合わせてミリエルに頼んだ。こう頼まれると性格的にミリエルは断れなくなってしまう。
「あなた、そうやって頼めば私が断れないって知ってるんでしょう? ずるいわね……。まあいいわ、やってあげるわよ。ただし、これは明らかに過重労働よ。あとで何かご褒美もらうからね!」
「分かった。ロゴスに帰ったら、何でもお前の言うことを聞いてやる」
「その言葉、忘れないでよ」
「よし、作戦は決まったな。ジルの立てた段取りでいこう」
ゼノビアが自らの言葉で作戦会議をしめた。彼女はジルが現場で的確な作戦を立案したことに、密かに舌を巻いていた。
(この男は、上にいって益々力を発揮できる男に違いない)
そう思っていたのである。
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