奇怪な街にアリアX

結局は俗物( ◠‿◠ )

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未完結打切り版(2010年)

NO TITLE 3

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 頬が痛んだ。ずきずきと疼くのにひんやりと冷えている。湿布の臭いが鼻腔を占領している。目が覚める、というよりはまるでロボットやアンドロイドが起動する、というような感覚だった。
見慣れた汚れの天井。上体を起こすと見知っているベッとに胸を撫で下ろしたが、胸を走る痛みに身体が跳ねた。銃創だろう。今まで痛みがなかったせいで、忘れていた。
 アレイドは顔を顰めながらゆっくりとベッドから降りる。アレイドの部屋は1人部屋としては広いが2人部屋としては少し狭い。真っ白い壁には大きな液晶テレビが埋め込んである。リモコンはいつも枕元に置いている。静けさに寂しさを覚えて、観たい番組があるわけでもないのにアレイドはいつもテレビをつける。アレイドは枕元にあるリモコンを手に取り、適当なボタンを押す。それだけで寂漠とした部屋が賑やかになる。

『みなさんこんにちは。チェシャ猫です』

 静かな部屋を支配した声にアレイドは眉間に皺を寄せた。

『ヴォーカルのDanteです』

 記憶の中にいる人物と、同じ人物だ。頬の痛みが増した気がした。

『ギターのzeloでっす』

 がりがりと怠そうに頭髪を掻き乱すクリーム色の髪をしたギタリスト。アレイドがまだヴォーカルをやっていた頃と変わらない。

『ドラムのalda』

 チャシャ猫の中で一番メイクの少ない寡黙なメンバーだ。誰と話すときもぼそぼそと話す。

『キーボードのlukeでぇっす』

 メンバー唯一の女性だ。しかし、彼女は男なのだ。ルークというのは別名で正式にはルクレツィアという。


『ベースのリーダーです。え~っと、この番組を御覧の皆様、応援ありがとうございます!』

 懐かしい姿にアレイドの痛む頬は綻んだ。
 この番組は音楽番組だ。アレイドがチェシャ猫に在籍していたときも何度か出演したことがある。

『自己紹介ありがとうございます。それでは新曲“変ぜるとグレーてる”の準備お願いします』

 名の売れた司会者が慣れた様子でチャシャ猫にそう言った。
「目が覚めたなら顔くらい見せてよ~」
 トレーに湯気の立つティーカップを一つ乗せて黄ばんだ白衣に白髪の男がアレイドの殺風景な部屋のドアを開ける。
「・・・・白兎さん。お久し振りですね」
「ん~?半年振りかな?」
 黄ばんだ白衣の下には新品同様な純白のYシャツを着ている。白兎はトレーをテーブルに置いた。アレイドがティーカップの取っ手に指を引っ掛けるよりはやく、白兎はティーカップをとって口に運んだ。
「・・・・・白兎・・・・さん・・・・?」
「うん~?お父さん、って呼んでもいいよ?っていうか、まだチェシャ猫に未練たらたらなの~?」
 アレイドは疼く頬を引き攣らせた。
「あぁ、何、飲みたかったの?ごめん、ごめん。今淹れてくるよ」
 白兎はトレーを持ってまた部屋を出ていった。痛み止めの錠剤がテーブルに置いてあった。
そうだった、こういう人だった・・・と思いながらまたテレビに目を戻す。
 
 生中継だ。リーダーが観客に手を振っている。ダンテはスタンドマイクに凭れながら俯いている。このスタイルはアレイドがヴォーカルだった時期によくやっていた。
 ドラマーのアルダのドラムスティックが叩かれる。ゼロのギターが鳴った。

「今頃戻ってもダンテ君で足りてるよ。それにもともと君はこういう仕事をするために生まれたんだ。あーゆー人に希望とか与える仕事なんて他にやれるヤツがいる。ダンテ君とかね」
 いつものようなふざけた調子はなく、白兎はトレーを持ってきた。
「・・・・・・白兎さん」
「嫌ならいいんだよ。ただ、君は死んだことになってるから、この仕事辞めたいなら死んでくれるかな。ボクもリスク背負ってんの。それとも人間サンドバッグにでもなってくれるの?射的の的でも構わないけど」
 アレイドには何となく分かった。白兎が怒っているということを。
「白兎さん、どうして怒ってるんですか」
「・・・・怒ってるようにみえたかい」
「ええ」
 ダンテの歌声は綺麗だ。歌も上手い。練習もなっているのだろう。
「ボクは君をチェシャ猫に入れてよかったのか、と思っているんだよ。人間臭くなったよね、アレイドちゃん。君は兵器だ。要らないんだよ、そういうの」
 見たこともないくらいに満面の笑みを白兎はアレイドにみせた。忘れていた。自分は自由の身ではない、ということに。死すら与えられない、永遠の生。縛られたままの。
「貴方が後悔しても、僕はこれでよかったんだと思います」
 白兎の持ってきたティーカップを手に取り、口に含んで、トレーに置いた。
 手に蘇るギターの感覚。パートチェンジで弾いたベースの感覚。スポットライトに色を変えていくマイクと暑さ。
「やめなよ、アレイドちゃん。君にそういうのはやっぱり要らないんだよ。邪魔なだけなんだよ」
 アレイドは俯いた。
「傷付いた顔をするのはやめてよ。そうやって人間らしくなっていくんだ。僕が傷付くんだよ、一番。後悔に苛まれる」
「どうしてですか?」
「人間に、君みたいなことをさせられると思うかい?変に道徳心を持たれたら、任務に差し支えるだけじゃない。見てるこっちも滅入るんだよ。身勝手だとは思うんだけどね」
 白兎はがしゃがしゃと髪を掻き乱した。
「大丈夫ですよ。感情くらい、殺して戦えます」
 拳を強く握って言った。だからチェシャ猫に入れたことを後悔だなんて言わないで。
「本当に?君は死なないんだ。そういう余裕が任務にも隙を与えるんだよ。君の代わりはたくさんいる、と言いたいところだけど、実際問題、いないんだよね」
 白兎は溜息をつく。
「それなら、期待に応えます。それで、次の任務はもう来ているんですか?」
「うん。でも今回のはちょっと悲惨かな」
「悲惨?」
「そ、悲惨。でもまぁ、ダンテ君の妨害が入らないよう、君の援護は頼んであるから。任務遂行には支障でないけど」
「わかりました。でも悲惨ってどういうことですか」
「復讐の代理かな。内容聞かないほうがいいと思うけど、どうする?話してもいいよ」
 私情を挟んでしまうかもしれないから、聞かないほうが賢明だということは分かっているが、好奇心には抗えずに頷いてしまう。
「聞きたいです」
 白兎の唇の端が吊り上げるように笑った。
「いいよ」
 黄ばんだ白衣のポケットから小さく畳まれた茶封筒を出した。
「それは?」
「証明写真だよ。依頼人のね。結構美人でさ」
 白兎は茶封筒テーブルにぱらぱらと中身を出した。長方形のものだ。アレイドは摘み上げて見つめる。
「依頼人の以前の顔立ち」
「美容整形に失敗したからそこの医者始末しろってことですか?」
「ちょっとアレイドちゃん」
 はははははと苦笑いされる。
「そんなんじゃないよ。まぁ、依頼人に会いに行った方が手っ取り早いと思うけど話せる範囲まで言うと、彼女、数十年前に誘拐監禁されてるんだよ」
 アレイドは顔を顰めた。
「どれくらいの期間だかは覚えてないな。でもリアルタイムで報道見てたから何となく知ってるだけなんだけどね」
 白兎はそう言った。
「それで、監禁されて、どうしたんです?逃亡中とか?」
 アレイドは証明写真を見つめたまま訊ねる。
「静かに暮らしているよ。確か今30歳前半かな」
 白兎はもう一つ折り畳まれた茶封筒を出す。中身を掌に出すとアレイドに渡した。これも証明写真だ。
「同一人物なんですよね?この2枚の写真て」
そうだよ、という白兎の返事は聞かずに2枚の写真を見比べた。
「証明写真なんて撮った数だけ顔立ちも違って見えるもんでしょ。プリクラもらってきた方がよかったかな?」
 白兎はふざけたように笑う。
「要するに、実物見てこいって言ってるんですね?」
「物分かりのいい息子で助かるよ」
 息子、という単語に不快感を覚えた。

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