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未完結打切り版(2010年)
NO TITLE 6
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「リーダーさんたちには、言えたのか?」
自宅に戻ると、兄のハンスがダンテに訊ねた。
「・・・・・え、あぁ、まぁ」
ダンテは適当に笑って誤魔化す。十数年前から兄とは二人暮らしだった。過保護な兄は弟から離れようとはしない。
「新しい仕事が入っちゃったんだ。これで儲かれば、母さん、喜んでくれるかも・・・・」
作った笑いを浮かべるのは得意だったけれど、それを兄は嫌った。
「母親の話なんかするな!あんな奴のために稼ごうとしなくていい、兄さんがやる」
母親の話をしてはいけないのは分かっている。
「・・・・悪ぃ」
ダンテの部屋は2階にある。螺旋階段を上がった。
ベッド、勉強机、椅子、テーブル、テレビ、クロゼット、ベースギター。部屋に入って目に入るのはこれくらいだ。勉強机は整理整頓がきっちりとされて落書きひとつない。勉強が好きなわけではないが、この机と向かい合っている時が一番落ち着いた。
勉強机とセットになっている椅子に腰掛けて突っ伏した。
゛命を狙われている!俺を狙ってるやつを殺してくれ!"
ダンテに依頼してきた男の名はレヴィといった。
゛アリアという人間を殺してくれ!"
初めての任務失敗。思い出すだけで身体中が熱くなり、いらいらと、じっとしていられなくなる。憧れの先輩。見る方向が変われば敵にしか見えなくなる。
ダンテにファンの襲撃があったことは偶然だった。傷付くといえば傷ついたけれど、活動休止という理由にするにはちょうどよかった。ダンテは顔を上げた。
写真が目に入ってしまう。リーダーと、ゼロと、ルーク、アルダ、そして自分。ボーカル加入記念のときの集合写真だ。
何をしているんだ。何をしているんだ。何をしているんだ!
チェシャ猫の元ボーカルを殺しておいて、またチェシャ猫に戻るつもりでいるのか。周りはどう思うだろう?隠し通せたとして、自分は平静を装えるか?なんと愚かなのだろう。けれど、依頼は絶対だ。首を横に振る選択肢は今の自分にはない。
アリアを殺してしまったら、リーダーはどんな表情をするのだろう?ゼロは何と自分を罵るだろう?ルークはどんな想いで周りから庇ってくれるだろう?アルダはどう尋問してくるのだろう?
バレたらどうなる?謗られる?
拳を強く握り締めた。
「ダンテ、腹減ってるだろう?」
ノックもなしにドアが開く。
「兄さん、ノックくらいしてくれよ」
ダンテはいらいらとしながらも笑顔を装う。
「インスタントラーメン、作ったんだ、食えよ」
「兄さん、そういえば、あの取材頼んできた人、おかしいよ。おまけにスタジオ遅刻しそうになった」
「キッチンにあるから絶対食えよ?それで、あの人か。悪かったね。でもあれで有能なんだ。取引先の社長の息子で、きっと将来も決まっている。俺の弟がチェシャ猫のボーカルってことを知っている上司がいてね」
ハンスは微笑んでいる。
「兄さんの会社が潰れたら困るもんな」
ダンテは椅子から立ち上がって、ハンスが作ったというインスタントラーメンを食べに行こうとキッチンに向かおうとした。
「ダンテ」
実兄が呼んで、ダンテは振り返った。
「なんだよ?」
「もし、ツラいなら、他人のために生きる必要なんてないんだ」
ダンテに背中を向けたまま兄は言った。
「ツラくないよ。オレ、大丈夫だから」
断ることは許されない。失敗することも許されない。拒否権は無いのだ。
周りを悲しませることになっても、周りを敵に回すことになっても、絶対に守らなければならないものがあるのだ。
「ありがとうな」
「リーダーさんたちには、言えたのか?」
自宅に戻ると、兄のハンスがダンテに訊ねた。
「・・・・・え、あぁ、まぁ」
ダンテは適当に笑って誤魔化す。十数年前から兄とは二人暮らしだった。過保護な兄は弟から離れようとはしない。
「新しい仕事が入っちゃったんだ。これで儲かれば、母さん、喜んでくれるかも・・・・」
作った笑いを浮かべるのは得意だったけれど、それを兄は嫌った。
「母親の話なんかするな!あんな奴のために稼ごうとしなくていい、兄さんがやる」
母親の話をしてはいけないのは分かっている。
「・・・・悪ぃ」
ダンテの部屋は2階にある。螺旋階段を上がった。
ベッド、勉強机、椅子、テーブル、テレビ、クロゼット、ベースギター。部屋に入って目に入るのはこれくらいだ。勉強机は整理整頓がきっちりとされて落書きひとつない。勉強が好きなわけではないが、この机と向かい合っている時が一番落ち着いた。
勉強机とセットになっている椅子に腰掛けて突っ伏した。
゛命を狙われている!俺を狙ってるやつを殺してくれ!"
ダンテに依頼してきた男の名はレヴィといった。
゛アリアという人間を殺してくれ!"
初めての任務失敗。思い出すだけで身体中が熱くなり、いらいらと、じっとしていられなくなる。憧れの先輩。見る方向が変われば敵にしか見えなくなる。
ダンテにファンの襲撃があったことは偶然だった。傷付くといえば傷ついたけれど、活動休止という理由にするにはちょうどよかった。ダンテは顔を上げた。
写真が目に入ってしまう。リーダーと、ゼロと、ルーク、アルダ、そして自分。ボーカル加入記念のときの集合写真だ。
何をしているんだ。何をしているんだ。何をしているんだ!
チェシャ猫の元ボーカルを殺しておいて、またチェシャ猫に戻るつもりでいるのか。周りはどう思うだろう?隠し通せたとして、自分は平静を装えるか?なんと愚かなのだろう。けれど、依頼は絶対だ。首を横に振る選択肢は今の自分にはない。
アリアを殺してしまったら、リーダーはどんな表情をするのだろう?ゼロは何と自分を罵るだろう?ルークはどんな想いで周りから庇ってくれるだろう?アルダはどう尋問してくるのだろう?
バレたらどうなる?謗られる?
拳を強く握り締めた。
「ダンテ、腹減ってるだろう?」
ノックもなしにドアが開く。
「兄さん、ノックくらいしてくれよ」
ダンテはいらいらとしながらも笑顔を装う。
「インスタントラーメン、作ったんだ、食えよ」
「兄さん、そういえば、あの取材頼んできた人、おかしいよ。おまけにスタジオ遅刻しそうになった」
「キッチンにあるから絶対食えよ?それで、あの人か。悪かったね。でもあれで有能なんだ。取引先の社長の息子で、きっと将来も決まっている。俺の弟がチェシャ猫のボーカルってことを知っている上司がいてね」
ハンスは微笑んでいる。
「兄さんの会社が潰れたら困るもんな」
ダンテは椅子から立ち上がって、ハンスが作ったというインスタントラーメンを食べに行こうとキッチンに向かおうとした。
「ダンテ」
実兄が呼んで、ダンテは振り返った。
「なんだよ?」
「もし、ツラいなら、他人のために生きる必要なんてないんだ」
ダンテに背中を向けたまま兄は言った。
「ツラくないよ。オレ、大丈夫だから」
断ることは許されない。失敗することも許されない。拒否権は無いのだ。
周りを悲しませることになっても、周りを敵に回すことになっても、絶対に守らなければならないものがあるのだ。
「ありがとうな」
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