193 / 339
193
しおりを挟む
嗚咽に包まれた葬式だった。騒動の死者は少なくはなかった。被害者の中には武装していない下回りも幾人かいた。喪主である二公子の招待制で、事態が事態だったため拒否することも赦された。城の敷地内にある茅屋が斎場になっていた。目元に腕を当てたまま動かない紫暗が見えた。畳を凝視し硬直している群青もいた。珊瑚と山吹の姿はなかった。数人だけ個人的な知り合いを呼ぶことを許され、銀灰と桜に手紙を出した。謀反人の姪である以上、検閲もあった。杉染台に出すわけにもいかず、宛名は柘榴の宿の名にしていたが無事に届いたらしかった。彼等も呆然としながらどこでもないどこか一点を凝らしていた。色を失った空間を覗いて踵を返す。喪服すら着ていなかった。帰り際に菖蒲とすれ違う。彼は気の毒そうな顔をして会釈するだけだった。極彩もそれに応じ、軟禁されている部屋に戻った。真後ろには兵が連なっていた。香の焚かれた部屋で何をするでもなくぼうっとしていた。
つい先程のことが遅れて鮮明さを取り戻す。叔父の亡骸と対面したのは納棺された後だった。死化粧も施されていた。上質な装束に身を包み、色素の薄い髪は収監の際に切られたらしいが、毛先を整えてあった。顔は殆ど当布によって隠され首にはさりげない刺繍のある織物が巻かれていた。謀反人の死体にしては華美だった。噛み傷のある唇に茶を塗る。この死肉を包むものとはまた別の花の匂いがした。重ねられた布越しの両手に触れる。体温はなかった。肉感は失せ、骨の固さばかりが掌に伝わった。時が経っていく。彼は目覚めない。息もしない。ただ薫るのだった。
いつまでそうしてるの。
優しい声で男が問う。自然と眉根が寄ったことを隠した。
彼は罪なき人を私利私欲で殺めたけど、病に怯える人を救えるんだ。
男は自身の麗らかな顔についた傷をそっとなぞり、朗らかに微笑する。
焼いてください。火葬してください。
女は言った。男は陰険な笑みを浮かべる。
本当に言ってる?この血を利用すれば洗朱風邪とか、それだけじゃない、多種多様な病とか、怪我で苦しんでる人が助かるんだよ?君だってその効能で一命を取り留めたんだから。
男の調子は満更でもなかった。これは愉快だ、といった笑みがさらに陰湿さを端整な面を飾る。
焼いてください。女はもう一度同じことを言った。
この叔父上は物じゃない、薬じゃない…って?自然の理に反する?ひとりの死体に群がる蝿みたい?一体人間と蝿にどれほどの差がある?高等な知能でオレたちは生き延びてしまったというだけで、その人間で愛でられる価値があると犬猫にまでその自然の不自然を与えてしまったね…今では家畜や農作物にもだ…?でも自然の不自然の、自然の中にいるんじゃ自然さ。君の叔父上も、自然が作り上げた不自然に思える理のひとつに過ぎないよ、安心して。
男は笑う。求められている。期待されている。
焼いてください。
男は大声を上げた。悦びに満ち溢れている。
生きている人間をオレは優先したいけどね。
まだ足らないらしかった。
焼いてください。この人の亡骸で助かる命を愛しく思うでしょう。同時に恨めしく思うでしょう。
誤ったらしかった。男は顔を歪める。それは困るな、とこぼした。
君の叔父上の死骸を切り刻んで、干して、擂り潰して粉末にしてさ、それでも限りがあるからね。生きたいと望む人はさ!その死体から作られる薬よりきっと多いからね!争いが起きるよ!いっぱい死んでいっぱい殺される!救えた人間より多いかも知れないな!オレはこの叔父上のことを公表しちゃいないけど、前例があればきっと次なる花労咳患者を望む人が出るだろうな!そして死を望まれるんだ!無為に生まれて、意義と名分を持って死ねるなんてなぁ!…よく頑張ったよ、君の叔父上は。このつらい病をさ。
男は再び歓喜を灯す。
焼いてください。粉薬ではなく、灰にしてください。
ああ!君も思いやりのない冷たい魑魅魍魎になるんだ?罪悪感のない、利己的で我儘な鬼畜生なんだ。魔憑きの卑劣なろくでなしだよ。そういうの、大好きだな。素敵だよ…雅やかだ…一緒に血生臭くなろう?助けられる術があったくせに見殺そう?いっぱい…選択権のない弱者たちを嘲笑しよう…?自然の理ばかりに固執する自然主義の過激派かと思ったよ…でも…君の叔父上の遺言に反するな。それじゃあ君は、葬儀に出る資格がないね…叔父上なんて呼ぶ立場に、ないよ―
薄暗い部屋の扉が開き、葬儀から戻ってきた二公子は長らく会っていなかったとばかりに座る女を力強く抱擁する。彼から与えられた衣類は胴体を引き締め、下部は足首から大腿まで切れ込みが入っているものの、ひどく動きづらかった。
「知らない髪飾りだな」
天藍は女の髪を括る簪に気付いたようだった。城で雇われている髪結いへ渡した物だった。房飾りが大きく揺れ、繊細な高音が鳴っている。喪服に合わせた色調と素材の手袋に掴まれ、引き抜かれる。項に毛が落ちた。
「君にこんな粗悪品は似合わないよ。こんな無難で、どこにでもある、こんな安物…」
ばきり、と軽快に簪は2本に変わる。滑らかに白く塗装された軸は木製だった。壁に投げ捨てられ、房飾りの周りに吊るされた銀の板が悲鳴を上げる。
「もっと綺麗な簪、買ってあげる。白いのがいいの?」
二公子の好みの衣服に散らばる髪を掬い上げ、彼はそこへ唇を当てた。
「でも簪は危ないな。君の顔に傷を付けたのだってそうだろ?オレはこの世に簪禁止令を出したっていいんだから」
耳に髪を掛けられ、彼の兄弟同様に波打つ毛を何度も整えただろう空色の櫛で女の前髪を梳いた。
「…すごくかわいい」
櫛を通すことに満足すると、天藍は衣嚢から貝殻を取り出した。まだ数えるほどしか使った形跡のない艶紅だった。咥えた手袋から現れた薬指で人形の唇を彩る。葬儀前に交わした接吻で落ちかけていた桜色の顔料に上塗りされた。
「彩には薄橙のほうが似合ってるのにね。あの美粧師も分かってないな。この傷が目立たなくなっちゃうだろ?」
恍惚に両目を眇め、天藍は人形の顔面を走る傷痕を汚れた薬指でなぞった。上擦った吐息が耳に届いている。
「今すぐにでも簪を一緒に買いに行きたいけど…あんなことがあったばっかりだし…ほら、市井でも有名だっただろ?良くも悪くもさ?君の叔父上…縹はさ、『家族殺しの一輪桔梗』なんて呼ばれていてね…ああ、君の方が知っているかな。とにかく、まぁあの見た目だろ?女はみんな首丈でさ?男から見ても綺麗だろ?反感も買うよ。女の嫉妬も怖いけど、男の嫉妬は抑圧されるからさ。まぁそんなだから、暫くは君を外に出せないよ。城にも置いておけない。危険だし。残念だけど、オレとは少しの間離れなきゃなんだ」
話している間も二公子は人形を優しい手付きで撫で摩り、触れた。少し開いている胸元が気に入っているらしく光沢のある布と素肌の間に指を差し込む。聴診されているようだった。
つい先程のことが遅れて鮮明さを取り戻す。叔父の亡骸と対面したのは納棺された後だった。死化粧も施されていた。上質な装束に身を包み、色素の薄い髪は収監の際に切られたらしいが、毛先を整えてあった。顔は殆ど当布によって隠され首にはさりげない刺繍のある織物が巻かれていた。謀反人の死体にしては華美だった。噛み傷のある唇に茶を塗る。この死肉を包むものとはまた別の花の匂いがした。重ねられた布越しの両手に触れる。体温はなかった。肉感は失せ、骨の固さばかりが掌に伝わった。時が経っていく。彼は目覚めない。息もしない。ただ薫るのだった。
いつまでそうしてるの。
優しい声で男が問う。自然と眉根が寄ったことを隠した。
彼は罪なき人を私利私欲で殺めたけど、病に怯える人を救えるんだ。
男は自身の麗らかな顔についた傷をそっとなぞり、朗らかに微笑する。
焼いてください。火葬してください。
女は言った。男は陰険な笑みを浮かべる。
本当に言ってる?この血を利用すれば洗朱風邪とか、それだけじゃない、多種多様な病とか、怪我で苦しんでる人が助かるんだよ?君だってその効能で一命を取り留めたんだから。
男の調子は満更でもなかった。これは愉快だ、といった笑みがさらに陰湿さを端整な面を飾る。
焼いてください。女はもう一度同じことを言った。
この叔父上は物じゃない、薬じゃない…って?自然の理に反する?ひとりの死体に群がる蝿みたい?一体人間と蝿にどれほどの差がある?高等な知能でオレたちは生き延びてしまったというだけで、その人間で愛でられる価値があると犬猫にまでその自然の不自然を与えてしまったね…今では家畜や農作物にもだ…?でも自然の不自然の、自然の中にいるんじゃ自然さ。君の叔父上も、自然が作り上げた不自然に思える理のひとつに過ぎないよ、安心して。
男は笑う。求められている。期待されている。
焼いてください。
男は大声を上げた。悦びに満ち溢れている。
生きている人間をオレは優先したいけどね。
まだ足らないらしかった。
焼いてください。この人の亡骸で助かる命を愛しく思うでしょう。同時に恨めしく思うでしょう。
誤ったらしかった。男は顔を歪める。それは困るな、とこぼした。
君の叔父上の死骸を切り刻んで、干して、擂り潰して粉末にしてさ、それでも限りがあるからね。生きたいと望む人はさ!その死体から作られる薬よりきっと多いからね!争いが起きるよ!いっぱい死んでいっぱい殺される!救えた人間より多いかも知れないな!オレはこの叔父上のことを公表しちゃいないけど、前例があればきっと次なる花労咳患者を望む人が出るだろうな!そして死を望まれるんだ!無為に生まれて、意義と名分を持って死ねるなんてなぁ!…よく頑張ったよ、君の叔父上は。このつらい病をさ。
男は再び歓喜を灯す。
焼いてください。粉薬ではなく、灰にしてください。
ああ!君も思いやりのない冷たい魑魅魍魎になるんだ?罪悪感のない、利己的で我儘な鬼畜生なんだ。魔憑きの卑劣なろくでなしだよ。そういうの、大好きだな。素敵だよ…雅やかだ…一緒に血生臭くなろう?助けられる術があったくせに見殺そう?いっぱい…選択権のない弱者たちを嘲笑しよう…?自然の理ばかりに固執する自然主義の過激派かと思ったよ…でも…君の叔父上の遺言に反するな。それじゃあ君は、葬儀に出る資格がないね…叔父上なんて呼ぶ立場に、ないよ―
薄暗い部屋の扉が開き、葬儀から戻ってきた二公子は長らく会っていなかったとばかりに座る女を力強く抱擁する。彼から与えられた衣類は胴体を引き締め、下部は足首から大腿まで切れ込みが入っているものの、ひどく動きづらかった。
「知らない髪飾りだな」
天藍は女の髪を括る簪に気付いたようだった。城で雇われている髪結いへ渡した物だった。房飾りが大きく揺れ、繊細な高音が鳴っている。喪服に合わせた色調と素材の手袋に掴まれ、引き抜かれる。項に毛が落ちた。
「君にこんな粗悪品は似合わないよ。こんな無難で、どこにでもある、こんな安物…」
ばきり、と軽快に簪は2本に変わる。滑らかに白く塗装された軸は木製だった。壁に投げ捨てられ、房飾りの周りに吊るされた銀の板が悲鳴を上げる。
「もっと綺麗な簪、買ってあげる。白いのがいいの?」
二公子の好みの衣服に散らばる髪を掬い上げ、彼はそこへ唇を当てた。
「でも簪は危ないな。君の顔に傷を付けたのだってそうだろ?オレはこの世に簪禁止令を出したっていいんだから」
耳に髪を掛けられ、彼の兄弟同様に波打つ毛を何度も整えただろう空色の櫛で女の前髪を梳いた。
「…すごくかわいい」
櫛を通すことに満足すると、天藍は衣嚢から貝殻を取り出した。まだ数えるほどしか使った形跡のない艶紅だった。咥えた手袋から現れた薬指で人形の唇を彩る。葬儀前に交わした接吻で落ちかけていた桜色の顔料に上塗りされた。
「彩には薄橙のほうが似合ってるのにね。あの美粧師も分かってないな。この傷が目立たなくなっちゃうだろ?」
恍惚に両目を眇め、天藍は人形の顔面を走る傷痕を汚れた薬指でなぞった。上擦った吐息が耳に届いている。
「今すぐにでも簪を一緒に買いに行きたいけど…あんなことがあったばっかりだし…ほら、市井でも有名だっただろ?良くも悪くもさ?君の叔父上…縹はさ、『家族殺しの一輪桔梗』なんて呼ばれていてね…ああ、君の方が知っているかな。とにかく、まぁあの見た目だろ?女はみんな首丈でさ?男から見ても綺麗だろ?反感も買うよ。女の嫉妬も怖いけど、男の嫉妬は抑圧されるからさ。まぁそんなだから、暫くは君を外に出せないよ。城にも置いておけない。危険だし。残念だけど、オレとは少しの間離れなきゃなんだ」
話している間も二公子は人形を優しい手付きで撫で摩り、触れた。少し開いている胸元が気に入っているらしく光沢のある布と素肌の間に指を差し込む。聴診されているようだった。
0
あなたにおすすめの小説
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~
水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。
婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。
5話で完結の短いお話です。
いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。
お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる