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第2話

晨星はほろほろと落ち落ちて 第十三幕

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 まだできたばかりの町並みはどこへ行っても清潔感に溢れており、それでいてどこか落ち着きのある風情を感じさせるのは、やはり大きな建物などが見当たらないためだろう。

「できる限り当時の面影を残そうとのクエルオック様のお達しでな」

 しかし、住民の住みやすさも重視しなければと完全再現は諦めたともルセットは、どこか申し訳なさそうにしているものの……

「いえ、それでもこうして町が戻っただけでも……お父様は喜んでいるはずですから」

 ポムカは笑顔で答えるのであった。

 そんなここは町のやや高いところ。
 長い階段を上った先にある見晴らしのいい所にやってきたポムカたちは、道中買ったアイスクリームを食べながら、つい今のようにそこから見える町並みに思いを馳せてしまっていたのであった。

「そうか……そう言ってもらえるのなら光栄だ」

 ポムカの言葉に、自分が作った訳ではないにしろ、自分が守ってきた街並みを褒められるのは嬉しいとルセット。

 そうして、ポムカと和やかな雰囲気を醸し出している中……

「……ん?」
「ルーザー? どうかした?」
「あ、いや……誰かに見られてたような気がしてな」
「なに?」

 そばにエルがいないのを確認しつつ、ルーザーが後ろを見やりながらそんなことを口にする。

 ちなみにエルはベンチで買った食べ物に舌鼓をうっていたりする。
 ……しかも、大量の物に。

「相手はどんな感じだった?」
「そうだな……気配はなんか小さかったし、もしかしたら子供だったかもな」
「子供だと?! 今は何処に居るかわかるか?」

 ルーザーの言葉に顔つきを変えたルセット。
 しかし、その理由がわからないと「どうした? 急に」とルーザーが問いかける。

「昨日、教えてもらったじゃない。誰かわからない子供たちが現れるようになったって」
「……ああ、そういや言ってたな」

 それはそもそもルセットとルーザーたちが出会った理由。
 最近出没するという謎の子供たちの関係者かも知れないルーザーたちを尾行したのが始まりとする出会い。

「今は……どうかな?」
「すまないが、一緒に来てくれ。うまくいけば、話が聞けるかも知れない」
「しゃーねぇな」

 食べてたアイスを一気食いしたルーザーは、「こっちだ」と言ってルセットを先導する。

「すまないが、すぐ戻る」
「わかりました」

 ルーザーの後を追っていたルセット。

 そんな2人の様子を見て、「……ルザっちたち、どったの?」と首を傾げながら近づいてきたナーセルたち(エル除く)にポムカ。

「なんかあいつが子供に見張られてたかもしれないって言ってね。それでその子たちを探しにいったわ」
「子供? ……って、ルセっちたちが探してるっていう子たちか!」
「ええ。まぁ、本当かどうかは私もわからないけど……」

 ポムカの言葉に得心がいったとナーセルだったが、一方でその話を聞いたモニクンたち。

「水臭いっスね、姐さん。オレたちにも声をかけてくれりゃ良かったっスのに」
「でも、急いでいたのなら、仕方ないんだなぁ」
「それもそうっスね」

 真剣な表情でそんなことを口にしたのだが……

「……わ~お。本当に騎士団の人っぽい」
「話を聞いてるだけだと~、まじめな人たちなんですけどね~?」
「わか、る」

 その振る舞いにナーセルたちはちょっと驚いてしまうのであった。

「いや、最初からオレたち、真面目だったっスよね?!」
「どういう目でオイラたちを見てたんだなぁ!?」

 彼女たちの言葉に逆に驚きを隠せないといったモニクンたちにポムカは、「仕方ないでしょ? 名は体を表すって言うけど……あなたたちはその真逆なんだから」と、いつもルーザーに対して言ってるような皮肉を口にする。

「いや、ポムっち。言葉選ばなさすぎ……」
「「あぁん!?」」
「今の、どういう意味っスか!?」
「なんだなぁ!?」

 そんな怖い顔をした相手に対しても態度を変えないポムカに呆れるナーセルを余所に、ポムカを睨みつけるようにメンチを切る2人。

 しかし、そんな顔は怖くもなんともないとポムカは、努めて冷静にこう語る。

「どういう意味も何も、騎士団に所属しているように見えない服装をしているあなたたちが悪いってこ……「……あぁ、そういう意味っスか」「なんだなぁ」……って! 本当に意味が解らないから聞いてたんかい!!」

 ともすれば怒り心頭ともいえる表情であった2人だが……実はただ単にポムカの言い回しが理解できなかっただけであり、解説を聞いて腑に落ちたと睨むのをやめていた。

 ちなみに、睨んだように見えたのもただ顔が怖いだけだったりする。

「つっても、これはもうオレたちのオフィシャルっスからね~」
「そもそも、町の奴らにも認めてもらってるんだなぁ」
「いや、認めてるんじゃなくて……」
「諦めてる、だけ」

 自分たちの服装を見つつ感想を漏らしていた2人に呆れるナーセルたち。

「……そ・れ・に! できることなら姐さんにはよく見られたいっスからね!」
「そうなんだなぁ。常に最高のお洒落をしないとなんだなぁ!」
「「「「……え?」」」」

 しかし、そんな彼女たちを余所に最高のお洒落と語りながらカッコいいポーズをとる2人を見たことで、ポムカたちは呆れた表情を強張らせてしまう。

「ちょ、ちょっと待って? お洒落って何? その恰好……お洒落、だったの?」
「そうっスよ? どう見てもカッコいいじゃないっスか! 毎日1時間かけてセットしてる甲斐があるってもんっスよ!」

 モヒカンの形を整えながら語るモニクン。

「オイラもこのカッコイイマスクでクールでミステリアスを演出してるんだなぁ!」

 一方でブテルもそのマスクに指を触れながら、二枚目フェイス(自称)を更にキリリと光らせる。

「もしかして……他の皆も?」
「勿論、そうっスよ?」
「そもそも、騎士団の奴らは皆、姐さんのことが大好きなんだなぁ!」

 曰く、彼らは孤児だったり、家族とうまくいかず家を飛び出したりして身寄りが無く日陰者として生活していた者たちであり、殺人以外の悪いことにはいくつも手を染めてきていたんだとか。

「中には殺人を犯した奴もいるかもっスが、詳しい過去は語らないってのが姐さんが決めたルールなのでよくはわかんないっス」

 しかし、そんな時に出会ったのがルセット。
 彼女は自分たちが何度拒絶しようとも声をかけ続け、彼らが折れるまでずっと説得し続けたんだそう。

 そうして、根負けして集ったのが彼らであり、居場所を作ってくれた彼女には感謝してもしたりないとも。

「うちらが出した被害の賠償や弁償までしてくれて……」
「姐さんは、うちらにとっては最高以上のボスなんだなぁ」
「そんなことが……」

 だからこそ彼らは突然団長を名乗ったガイルを認めないのかと納得しつつ、ルセットの振る舞いに感動していたポムカたち……だったが。

「……でも、それでルセットさんによく思われたいってのはわかったけど……何でよりにもよってその恰好?」

 もっといいお洒落あるだろうにというポムカの言葉も、「何言ってるっスか! これ以上に最高のお洒落なんてある訳ねぇっスよ!」と曇り一つない眼で語るモニクンだった。

「そうなんだぁ! それに、もっと格好よくしなきゃ、他の奴らに置いて行かれかねないんだなぁ」
「そうっスね! 最近、ビョールのやつが頭一つ抜けてお洒落になってきてっスし」
「そういやぁ、ウグボットも他の町から何かを取り寄せたって言ってたんだなぁ? 確か……ブーツか何か……」
「あ~! あの棘の付いた厳ついやつっスね! あれは確かにやられたって思ったっスよ!」
「そうなんだなぁ! オイラももっとお洒落へのアンテナは張っておかないとなんだなぁ」
「オレもっスよ! もっとカッコいいデザインのやつ見つけて、姐さんの隣に立つに相応しい男になりたいものっス!」
「なんだなぁ!」
「「「「……」」」」

 彼らなりのお洒落トークを聞かされていた3人は、昨日聞かされたルセットの言葉を思い出す。


「……まぁ、声をかけた時よりも更に奇抜な恰好になっているのは、未だに理解できないが……とはいえ、ちゃんと働いてさえくれれば服装などは彼らの自由だからな。そこは尊重してやろうと思っている」


「……伝わってない!! ルセットさんに伝わってないよ!」

 大声を出してモニクンたちに抗議をしたナーセルだったが、当の本人たちは何を言ってるのやらと首を傾げている。

「なんでこんなことに~?」
「……たぶん周りから浮いてたせいで、ファッションのセンスがその界隈のものになっちゃったんでしょうね」

 そしてそれが彼らのお洒落の基本思想になったため、こんなことになったのだろうとポムカ。

「なるほどです~」
「それで……どう、する?」

 一方のルーレ。
 真実を知った手前、このまま放置も何だろうと、皆の意見を聞いてはみたが……

「オレ、今度はこのモヒカンをもっと伸ばしてよりカラフルにしようと思ってるんっスよね~」
「おぉ、そいつは挑戦的なんだなぁ! ならオイラももっと腕とかにシルバーを巻いてみるんだなぁ!」
「おっ! いいっスね! オレも今度真似して……」
「……ま、まぁ、特に不幸せな人が出てないのならいいんじゃない? モニっちもブテっちも幸せそうだし……」
「そうね……」

 ポムカたちは2人の喜々としたファッション談義を邪魔してはいけないと、黙っていることにしたのであった。

 ◇ ◇ ◇

「……すまない、待たせた」
「どうでした?」
「残念だが逃げられちまったよ」

 少しした後、ルセットたちと合流したポムカ。
 一応、手ごたえを聞いては見たものの、その様相から芳しくはないと理解していたので、そう言われても特に驚くことはなかったようだ。

「そう……あなたですら取り逃がすってことは、転移系の魔術は確定かもね」
「だろうな」

 転移系の魔術――即ちワープともいうべき魔術。
 その場から瞬時に別の場所へ移動できる魔術であれば、確かに素早さが売りのルーザーから逃げることも容易だろう。

「まぁ、子供が何故そんな力を使ってこの界隈に出没しているのかというのが謎ではあるが……」
「それはまぁ、声をかけた時にわかることかと」
「……それもそうだな」

 ポムカの言葉に深く考えても仕方がないかとルセットは、「さて、それはそれとしてそろそろいい時間だし、今日はこの辺でお開きにしよう」と観光を終えるべきだと告げていた。

「そうですね」
「残念~。まだ回りたいところ、いっぱいあったのにな~」
「ですよね~」
「意外と、広い」
「そうだな。確かに全ては回り切れない程には広大な町ではあるな」

 残念がるナーセルたちではあったが、町が広いのには理由がある。
 それは新しく作り直すために住民を募集した際、ルセットの家族同様、今の領地が嫌すぎて半ば逃げだしてきた住民が多かったせいだ。
 そのため、この町は過去にも増して住民が増えており、その結果、町が大きくなってしまっていた訳だ。

「まぁ、十三騎族のお膝元ともなれば、彼らの庇護下にあるも同然だからな。貴族の手出しも出来なくなるのならば、わたしの家族同様命懸けでも出る甲斐はあるというものさ」
「……なるほど、よくわかってなかったが、本当に貴族ってのは面倒な生き物なんだな」

 一方のルーザー。
 ド田舎出身であったため貴族という人種を理解していなかったと、貴族に酷い目に遭わされてきた組の言葉に理解を示す。

「……ま、あなたは別にけどね」
「あん? どういう意味だ?」
「別に」

 しかし、何故かルーザーには理解を示さないで欲しいとでもいうように口にしたポムカ。

 その真意は測りかねると首を傾げるも、特にポムカは言及せず。

「……まぁ、なんにせよだ。お前らも学校で何かあれば言ってくれていいぜ? いつものように殴っておくからよ」
「凄い台詞だけど……ありがと、ルザっち。超頼りにしてる!」

 そんなポムカはいいかとルーザーは、ナーセルたちが似たようなことにならないようにと力を貸す宣言すると、心強いパトロンを手に入れたとナーセルたちは笑顔になりつつ、「さ、それじゃあ帰ろっか」と帰宅を促すのであった。


 そうして、帰路を歩み始めた面々だったが……

「……うっ……お母さん……」

 道すがら、涙を流してキョロキョロとしている少年と出会う。

「んだぁ? ワーギん所のガキンチョじゃねぇかぁ」
「あ……モニクン! ブテル!」

 ブテルの言葉に、見知った顔だとモニクンの足に抱き着いてくる少年。

「まぁたおめぇ、迷子になっちまったのかぁ?」
「うん……」
「しょうがねぇっスね~」

 そう言うと、モニクンが子供を肩車。

「うわっ!?」
「すんませんっス、姐さん。こいつを親んとこまで連れてくんで」
「オイラたちはここで失礼するんだなぁ」
「ああ、構わない。ワーギ殿に長話には気をつけろと言っておいてくれ」
「了解」でさぁ!」っス!」

 ルセットに別れを告げつつ歩き始めたモニクンたち。

 そんなモニクンに肩車をしてもらっていてなお、悲しみに暮れる子供にブテル。

「おいおい、泣くのはいいが、その掴んでるモヒカン引っ張るなよ? そいつ、それ引っ張られるとちゃんと歩けなくなるんだから」
「……え?」

 モニクンのモヒカンを指さしながら子供に注意を促す。

「おいおい、ブテル! オレの秘密を勝手に喋るんじゃねぇっスよ!」
「おっと! 悪ぃ悪ぃ」
「……こう?」

 しかし、注意を促された子供がモヒカンを右に引っ張ると、「う、うわぁ!? 体が右に動いちまう~!!」とモニクンはよろけたように体を右に動かしてしまう。

 その振る舞いに少し楽しくなったと子供は、今度は左に引っ張ってみる。

「今度は左だとぉ!?」

 すると先ほど同様、左によろけるように体を動かしたモニクンを見て「へへへ……」と笑みをこぼした子供。

 それを見て、ブテルは「よ~し! このままモニクンを操って母ちゃん探すとしようぜぇ!」と子供に促す。

「うん!」
「おいおいおい! この代償は高くつくぜぇぇぇ!!」

 と言いつつ、モヒカンを前に引っ張られたモニクンは前へ向かって走り出すのであった。

「……本当、顔に見合わずいい人たちなんですね」

 そんなやり取りを見ていたポムカ。
 不意に口にした言葉にルセットは笑みをこぼすも、どこか慈愛溢れる眼差しでこう語る。

「そうだな。確かにあいつらもまたはぐれ者で……中には犯罪に手を染めていた者だっているだろう。勿論、その罪はしっかりと償わせてきたが」
「確か、ルセットさんが賠償金とか肩代わりしたんですよね?」
「ん? あぁ、あいつらから聞いていたか。……そうだな。できる限りはしてやったさ。……まぁ、そのままでは甘やかすことになりかねないから、わたしへの借金ということで今も給料から差し引かせてもらっているがな」

 ちなみ賠償金などは今まで働いてきたルセットのポケットマネーや、訳を聞いてお金を貸してくれた人たちからの借金で返していたそうだが、借金自体は話を聞いたガイルが出してくれたおかげで何とかなったそう。

「それでも、あいつらを見捨てるという選択はできなくてな……なにせ、わたしもシブル婆に拾ってもらえていなければ、あいつらと同じ末路を辿っていたかも知れないんだから……」

 しかし、そんな彼らと自分も同じになっていたかもとルセット。

 だからこそ、彼らが荒れているのは頼れる場所も人もいないのが原因と彼女は、「一緒にこの町を守らないか?」と街の人の反対を押し切って仲間に引き入れることにしたんだとか。

「いつか、あいつらが正しい道を歩んでくれると信じてな」

 実際、今の彼らは町の人たちの信任を得ており、間違いではなかったとルセットは胸を張るのであった。

「ルセっち……」
「……ふっ。だとしたら、あいつらはもう大丈夫だろうな」

 とはルーザーの言葉だった。

「そう思うか?」
「ああ。あんたみたいなのがそばにいりゃ、嫌でも人は変わるもんさ」
「そうであってくれればいいのだがな……」

 人が歩む運命に生まれなど関係はない。

 大事なのは間違ったことを間違っていると言ってくれる人が側にいることだとルーザーの言葉に、ルセットは顔を伏せてしまうも……

「……なら、あいつらがそうあれるようにあんたが頑張るんだな。面倒だろうとなんだろうと、あんたがあいつらに居場所を……いや、夢を与えちまったんだからさ」

 と笑顔で語るルーザー。

「夢、か……ああ、そうだな。確かにその通りだ」

 そんなルーザーの言葉を受け、決意を新たにしたとルセット。
 その顔は清々しい程に真っすぐ前を向いていたのであった。

「……意外と良いこと言うじゃない。脳筋の癖に」
「うっせ! ……って言いたいところだけど、これは親友からの受け売りだからな。確かに俺のじゃねぇんだよな~」

 頬を掻きながら語るルーザー。

 しかし、それは正にその通りであり、これはルーザーがまだスレットという本名を名乗り、勇者として活動していた頃にその親友に言われた台詞だったりする。

 そしてその言葉を言われたからこそ、彼は勇者と呼ばれるに相応しい活躍をしようと決意していたりするのだが……今は割愛。

「な~んだ。確かにルザっちっぽくはなかったかもね~」
「はいはい。どうせ、俺は力で物事を解決する奴ですよ~だ」

 ガッカリするように言うナーセルにルーザー。
 ちなみにこれも親友に言われた言葉だったりする。

「そこまでは、言って、ない」
「ですね~」

 ルーザーのいじけたように言う台詞に笑みを漏らすナーセルたちではあったが……

「……ちなみに、なんだけど。その親友ってのは、その……」

 一方のポムカ。
 何かが気になっているとでもいうように、チラチラとルーザーを見ながら何かを尋ねようとしていた。

「あん?」
「えっと、その……」
「男の子か女の子か知りたいんだよね? ポムっち」
「っ!?」

 言っていいものかどうか悩むとでもいうように、マゴマゴしていたポムカの代わりにナーセルが口を開くも、どうやらそれはポムカの聞きたいことそのものであったようで、ポムカは「そ、それはその……」としどろもどろになってしまう。

「? 、男だが?」

 その様子によくわからないと首を傾げたルーザーだったが、一応聞かれた事には答えようと返事をする。

「そ、そう……って、何、一応って?」
「あいつ、可愛いものが好きとか言ってよく女もんの服着てたからな。知らねぇ奴には女扱いされてたってだけ」
「なるほど……」

 ちなみにこの親友とは以前に話した猫耳を付けた子のことだが、しばらくは登場しないのでこちらも割愛します。

「……でも、そういうことなら一安心だね、ポムっち?」

 ポムカを揶揄うように告げたナーセルの言葉に、「な、何がよ?」とジトっとした目でナーセルを見つつ、少し頬を朱に染めていたポムカ。

「え~? それをあたしに聞いちゃう~?」
「ポムちゃん自身が~、一番わかってることですもんね~?」
「だ、ね」

 しかし、そんな視線は怖くはないとナーセルたちは更に続けて攻め立てる。

「な、何を言ってるのかしらね? あなたたちは」

 そんな彼女たちの振る舞いに口角をピクピクさせつつ、再び掌に炎を作ってみせたポムカだったが……

「……なるほど。ポムカ、お前はルーザーのこと……」

 何かを勘付いたとルセットが、興味津々といった風にポムカをニヤニヤしながら見つめ始めたことで、流石にその直接的すぎる言葉には冷静ではいられないと炎を消しつつ慌てると……

「はぁ!? ち、違います! 違いますからね! それはその……エルの方ですからね!?」

 と、その誤解(?)は許さないとでもいうようにエルを指す……が。

「……」

 当のエルからは全く返事が無く戸惑う面々。

「……あれ? エルっち?」
「………………くかぁ……」
「「「いや、寝てるんかい!」」」

 一体どうしたのだろうとのっそりのっそり歩くエルの顔を覗き込んでみると、そんな彼女は完全に夢の世界へと旅立っており、よくちゃんと歩いていられるなと驚くのであった。

「道理でこの話題に入ってこないはずだよ!」
「今日はたくさん動いて~、たくさん食べてましたもんね~」
「それだけ聞くと、本当に赤ん坊みたいな子だな。エルは……」
「……お前ら、さっきからなに騒いでるんだ?」
「そして張本人のこの態度! ポムっちが可哀想過ぎる!」
「もうちょっと、ポムの、こと、意識して、くれても」
「だ、だから! 何を言ってるのよ、あなたたちは?!」
「え~? それはわかってる癖に~」
「わかってません!! さっぱりわかっていません!!!」
「?」
「……ふふっ。お前たちといると飽きないな」

 こうして、エルの手を引っ張ってそそくさと歩いていくポムカにそれを追うナーセルたち、そして今の流れが理解できないと首を傾げつつ後を追いかけるルーザーなのであった。






「……赤い髪の人って噂だったけど……そんな人、いなかったね」
「うん。帽子かぶってた人はいたけど……」
「あのお兄ちゃんに気付かれちゃったせいで、よくわからなかったし」
「でも下手に報告するとまた怒られちゃうから、ちゃんと調べてからじゃないと……」
「だね。ちゃんと見てから伝えなきゃ……
 …………………………………………………顔に火傷の跡があるかどうかを……」
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