17 / 22
第十七話「恋心」
しおりを挟む
ルーナはまだ初恋の経験もない乙女である。父親と村で生活をしていた頃には歳の近い男の子と遊んだりもしたが、恋どころか異性を意識した事すらなかった。
そんなルーナに結婚の二文字はあまりにも非現実的すぎたのだろう。だがそれなのに。
──なんで私、こんなにドキドキしているのかしら。
大人の男性から愛しているなんて告白されれば、動揺して当たり前だとルーナは自分を納得させようとするのだが。
(オジサマなのに、もうオジサマに見えないのはどうして!?)
ルーナの目の前にいるソレイユが、何だか別人のようにキラキラと見えてしまっているのだ。
(ワケわかんない!)
目を回して一人ジタバタしているルーナを、ソレイユは心配そうに凝視した。
「ル、ルーナ? とりあえず落ち着こうか。今すぐ決断を下さなくていいんだよ? 今晩ゆっくり考えてみたらいい」
「そ、そうですよね!」
「ごめんよ。いきなりプロポーズなんてされたら、驚いて当然だよね」
プロポーズ。その一言がルーナの狼狽に拍車をかけ、思わずきつく目を瞑る。
(プ、プっ、プロポーズッ! そっか、作戦とは言えこれってプロポーズなんだよねっ!)
ルーナは自分が作戦の実行を決断した暁には、ソレイユのお嫁さんになるのだと初めて実感した。そう、お嫁さんになるのだと。
(お嫁さん──)
するとルーナのまぶたの裏に、まだほんの幼い頃の自分が父親と母親にじゃれつく姿が浮かんでくる。
父親がいつかルーナが誰かの嫁になる事を嘆き、母親が笑って嗜める。そんなありふれた家庭のありふれた情景。
『お父さん、お嫁さんってなあに?』
『お嫁さんってのはね、大好きな人と新しい家族を作り始める女の人の事だよ。ルーナもいつか、いつか……うううあ』
幼子だったルーナは特にお嫁さんに興味を持つ事もなく、「ふーん」と頷くだけだった。だってもうすでに大好きな両親がいて家族があったのだから。
しかしその家族はもういない……
だからなのだろうか? 一人が急に寂しくなった。ルーナはソレイユと新しい家族になれたら嬉しいなと思った。
(あっ……)
そう思ったら自分がソレイユの事を大好きなんだと、胸に灯った暖かい何かが教えてくれた。
(私、オジサマのお嫁さんになりたいな)
ルーナは素直にそう思えた自分の事が、何だかとても心地よかった。
ソレイユは深く考えの中に沈んでいるルーナの邪魔をしない様にと、静かに退室を告げてドアへと踏み出す。
「じゃあルーナ、また明日ね」
ところがその踏み出した一歩は、ソレイユのシャツの袖を掴んだルーナの指先に遮られてしまう。
「ルーナ?」
「オジサマ……私」
半分俯いたまま大きな瞳だけを上に向けたルーナは、自分の思いを言葉にかえてソレイユへと伝える。
「私、結婚とかまだよく分からないです。恋とかもした事なくて、私のオジサマへの気持ちが何なのかも正直分かりません」
「うん、そっか」
「だけど私……オジサマのお嫁さんになって一緒の家族になりたい、です……」
ソレイユはルーナのその言葉が、花びらとなってその可憐な口から溢れたような錯覚に陥った。
我ながら頭が変になったのかと思うのだが、ルーナへの愛おしさで今はそれどころではなくなっている。
「そっか! うん、そっか!」
三十歳にもなる中年男が、気のきいた返事も出来ずに頷くだけというのも滑稽である。
しかしそれ以上何かを言ったら、花びらが儚く消えて失くなってしまいそうで恐かったのだ。
だから今は万感の思いを込めて、ただ一言だけをルーナへと贈るのだった。
「ありがとう」と。
◇*◇*◇*◇*◇
その日は朝から小雨が降り続き、夏の終わりを予感させる様な肌寒い日であった。
ソレイユ辺境伯邸の客間では、国王の使者がソレイユとルーナに国王からの勅書を下達している。
その様子をブロッド侯爵の次男でありルーナの婚約者でもあるダミアンが、下品な笑い顔を浮かべて眺めていた。
「以上ソレイユ伯アランはルーナ嬢保護の役目を解かれ、ルーナ嬢は婚約者であるブロッド侯令息ダミアンの元で安泰な生活が保障されるよう申しつける」
使者が朗々と読み上げた勅書は、ソレイユが予想した通りの内容であった。格式に則り承った後、ルーナに振り向いたソレイユは別れの挨拶を申し述べる。
「ではルーナ嬢、この先も恙無くお過ごし下され」
「はい、大変お世話になりました」
むろんこのやり取りは、初めからソレイユとルーナの間で予定されていた茶番である。しかしこれで国王の勅書に従ったという名分が立つのだ。
「おいルーナ! 帰るぞ!」
まるで反省の色の見えないダミアンの声が、高圧的にルーナへと浴びせられた。
「しかし少し見ない間に可愛くなったじゃないか。むろん農夫の娘にしてはだがな。まあ、それなりには楽しめそうだ! ふふ」
そう舌舐りをしたダミアンは、荒っぽい態度でルーナの腕を掴もうとした。しかしその伸ばした手はソレイユによって振り払われたのである。
「なっ? 何をするソレイユ卿!」
目を剥いてソレイユを睨んだダミアンに、ソレイユは不敵に笑って応えた。
「ダミアン殿に決闘を申し込もう」
その言葉に唖然としたのはダミアンだけではない。国王の使者もまた威厳を取り繕うのも忘れて驚いている。
「アンドラル王国の法に基づき、ダミアン殿の婚約者であるルーナ嬢との同意のもと、貴殿に『決闘婚』の権利を行使いたす。正式に王立裁判所よりの訴状が届くのを待たれよ」
さすがに国王の使者としては、この事態の急変は見過ごせなかろう。
「ソ、ソレイユ卿? まさか王命に叛くおつもりか?」
「これは異なことを仰る。私が王命に従いルーナ嬢保護の役目を返上致した事は、使者殿もその目で確認されたはずです。それとこの決闘婚は別の話ですよ?」
「いやしかし、決闘婚など聞いたことも有りませんが!?」
すると今まで控えていたオリガが、数冊の書物を持って使者の前へと進み出る。
一礼したオリガは決闘婚の概要を口頭で説明し、手にしていた書物を捲り始めた。
「決闘婚についてはこちらの法典と判例集にてご確認頂けます」
使者は神妙な顔をしてオリガに示された箇所を丁寧に読んでいく。やがて大きく息を吐くと己の眼球を指で揉んだ。
「ふぅ、これは確かに。決闘婚なる法律は我らが王国に存在しているようですな」
「ふ、ふざけるなっ、そんな馬鹿げた法律があってたまるかッ!」
さっきから歯軋りをしながら読み終わるのを待っていたダミアンは、ついに我慢の限界となったのであろう。
国王の使者の言葉を汚い言葉で遮って、法律への悪態をついた。もちろんソレイユはその愚行を見逃さない。
「ほう? ダミアン殿は王国の法律を馬鹿げたと申しますか。畏れ多くも法律とは、歴代国王陛下の正義の顕れとして存在していると心得ておりますが、まさかダミアン殿は国王の正義をお疑いなさるとでも?」
言葉に詰まったダミアンに追い討ちをかけたのは、国王の使者だった。
「不敬ですぞダミアン殿。この件はソレイユ卿の申す通り、一度お屋敷に戻り裁判所からの訴状を待つのが宜しかろう」
「し、しかし国王陛下のご命令は!? もうルーナは俺のもののはずじゃッ!」
「国王陛下のご命令はソレイユ卿により遂行されました。しかしその後の法的権利の行使はまた別の案件だと心得なさるがよい」
国王の使者は王族閥と呼ばれる宮廷貴族から選ばれ、中立を尊ぶ。公平性を重視する彼らの言葉は非常に重い。
それでも抵抗を諦めたくはないのだろう、ダミアンは小さく呪いの言葉を吐き捨てるとソレイユへと言った。
「とにかく! その訴状とやらが届くまではルーナは俺のものだ。返してもらうぞ」
「いや、それは成りませんぞダミアン殿。どうやら法的にその決定権を持つのはルーナ嬢のようだ」
「なにっ!?」
ダミアンの要求を撥ね退けたのは国王の使者だった。彼の述べた法とは決闘婚が申し込まれた時点で当該女性保護の立場から、女性の身柄の預け先は女性による選択で決定するというものである。
それは決闘婚の訴状が届くまでに、強制的な結婚をさせない為の法的処置であった。
「さてルーナ嬢よ、ブロッド侯爵家とソレイユ辺境伯家、いずれをお選びか?」
するとルーナは決然として答える。
「ソ、ソレイユ辺境伯家です。私はここに残りますっ!」
この期に及んではもはやダミアンの出る幕はない。
どうやらその自覚はあったのだろう、床を踏み鳴らしながら乱暴にドアを開けて出て行ってしまった。
これで作戦の第一段階は完了だなと、使者を丁重に見送りながらソレイユは次の段階の事を考える。
こういう軍人の顔をしている時のソレイユの集中力は凄まじい。しかし凄まじいだけに回りが見えなくもなるようだ。
「イタっ! な、何するんだよ!」
背後から突然オリガに尻を蹴られたソレイユは、その理由が分からないだけに少しムッとした。
だがオリガはムッとどころか怒っていたようである。
「馬鹿ですか? 作戦の事を考える前にやることがあるのでは?」
そう言った視線の先に居たルーナは少し震えながらも気丈にして、去っていく馬車を見つめていた。
今まで恐怖でしかなかったダミアンを目の当たりにして、平気でいられた訳がなかったのだ。それでもルーナはダミアンなんかに負けたくない一心で、その素振りを見せずに頑張り抜いた。
咄嗟にその事に気づいたソレイユは、ルーナの元へと一目散に駆けよって、その背中を強く抱きしめる。
「オ、オジサマ?」
「ごめんよルーナ、よく頑張ったね」
オリガはそんな二人を目を細めて見ながら、やれやれと溜め息をつくのであった。
そんなルーナに結婚の二文字はあまりにも非現実的すぎたのだろう。だがそれなのに。
──なんで私、こんなにドキドキしているのかしら。
大人の男性から愛しているなんて告白されれば、動揺して当たり前だとルーナは自分を納得させようとするのだが。
(オジサマなのに、もうオジサマに見えないのはどうして!?)
ルーナの目の前にいるソレイユが、何だか別人のようにキラキラと見えてしまっているのだ。
(ワケわかんない!)
目を回して一人ジタバタしているルーナを、ソレイユは心配そうに凝視した。
「ル、ルーナ? とりあえず落ち着こうか。今すぐ決断を下さなくていいんだよ? 今晩ゆっくり考えてみたらいい」
「そ、そうですよね!」
「ごめんよ。いきなりプロポーズなんてされたら、驚いて当然だよね」
プロポーズ。その一言がルーナの狼狽に拍車をかけ、思わずきつく目を瞑る。
(プ、プっ、プロポーズッ! そっか、作戦とは言えこれってプロポーズなんだよねっ!)
ルーナは自分が作戦の実行を決断した暁には、ソレイユのお嫁さんになるのだと初めて実感した。そう、お嫁さんになるのだと。
(お嫁さん──)
するとルーナのまぶたの裏に、まだほんの幼い頃の自分が父親と母親にじゃれつく姿が浮かんでくる。
父親がいつかルーナが誰かの嫁になる事を嘆き、母親が笑って嗜める。そんなありふれた家庭のありふれた情景。
『お父さん、お嫁さんってなあに?』
『お嫁さんってのはね、大好きな人と新しい家族を作り始める女の人の事だよ。ルーナもいつか、いつか……うううあ』
幼子だったルーナは特にお嫁さんに興味を持つ事もなく、「ふーん」と頷くだけだった。だってもうすでに大好きな両親がいて家族があったのだから。
しかしその家族はもういない……
だからなのだろうか? 一人が急に寂しくなった。ルーナはソレイユと新しい家族になれたら嬉しいなと思った。
(あっ……)
そう思ったら自分がソレイユの事を大好きなんだと、胸に灯った暖かい何かが教えてくれた。
(私、オジサマのお嫁さんになりたいな)
ルーナは素直にそう思えた自分の事が、何だかとても心地よかった。
ソレイユは深く考えの中に沈んでいるルーナの邪魔をしない様にと、静かに退室を告げてドアへと踏み出す。
「じゃあルーナ、また明日ね」
ところがその踏み出した一歩は、ソレイユのシャツの袖を掴んだルーナの指先に遮られてしまう。
「ルーナ?」
「オジサマ……私」
半分俯いたまま大きな瞳だけを上に向けたルーナは、自分の思いを言葉にかえてソレイユへと伝える。
「私、結婚とかまだよく分からないです。恋とかもした事なくて、私のオジサマへの気持ちが何なのかも正直分かりません」
「うん、そっか」
「だけど私……オジサマのお嫁さんになって一緒の家族になりたい、です……」
ソレイユはルーナのその言葉が、花びらとなってその可憐な口から溢れたような錯覚に陥った。
我ながら頭が変になったのかと思うのだが、ルーナへの愛おしさで今はそれどころではなくなっている。
「そっか! うん、そっか!」
三十歳にもなる中年男が、気のきいた返事も出来ずに頷くだけというのも滑稽である。
しかしそれ以上何かを言ったら、花びらが儚く消えて失くなってしまいそうで恐かったのだ。
だから今は万感の思いを込めて、ただ一言だけをルーナへと贈るのだった。
「ありがとう」と。
◇*◇*◇*◇*◇
その日は朝から小雨が降り続き、夏の終わりを予感させる様な肌寒い日であった。
ソレイユ辺境伯邸の客間では、国王の使者がソレイユとルーナに国王からの勅書を下達している。
その様子をブロッド侯爵の次男でありルーナの婚約者でもあるダミアンが、下品な笑い顔を浮かべて眺めていた。
「以上ソレイユ伯アランはルーナ嬢保護の役目を解かれ、ルーナ嬢は婚約者であるブロッド侯令息ダミアンの元で安泰な生活が保障されるよう申しつける」
使者が朗々と読み上げた勅書は、ソレイユが予想した通りの内容であった。格式に則り承った後、ルーナに振り向いたソレイユは別れの挨拶を申し述べる。
「ではルーナ嬢、この先も恙無くお過ごし下され」
「はい、大変お世話になりました」
むろんこのやり取りは、初めからソレイユとルーナの間で予定されていた茶番である。しかしこれで国王の勅書に従ったという名分が立つのだ。
「おいルーナ! 帰るぞ!」
まるで反省の色の見えないダミアンの声が、高圧的にルーナへと浴びせられた。
「しかし少し見ない間に可愛くなったじゃないか。むろん農夫の娘にしてはだがな。まあ、それなりには楽しめそうだ! ふふ」
そう舌舐りをしたダミアンは、荒っぽい態度でルーナの腕を掴もうとした。しかしその伸ばした手はソレイユによって振り払われたのである。
「なっ? 何をするソレイユ卿!」
目を剥いてソレイユを睨んだダミアンに、ソレイユは不敵に笑って応えた。
「ダミアン殿に決闘を申し込もう」
その言葉に唖然としたのはダミアンだけではない。国王の使者もまた威厳を取り繕うのも忘れて驚いている。
「アンドラル王国の法に基づき、ダミアン殿の婚約者であるルーナ嬢との同意のもと、貴殿に『決闘婚』の権利を行使いたす。正式に王立裁判所よりの訴状が届くのを待たれよ」
さすがに国王の使者としては、この事態の急変は見過ごせなかろう。
「ソ、ソレイユ卿? まさか王命に叛くおつもりか?」
「これは異なことを仰る。私が王命に従いルーナ嬢保護の役目を返上致した事は、使者殿もその目で確認されたはずです。それとこの決闘婚は別の話ですよ?」
「いやしかし、決闘婚など聞いたことも有りませんが!?」
すると今まで控えていたオリガが、数冊の書物を持って使者の前へと進み出る。
一礼したオリガは決闘婚の概要を口頭で説明し、手にしていた書物を捲り始めた。
「決闘婚についてはこちらの法典と判例集にてご確認頂けます」
使者は神妙な顔をしてオリガに示された箇所を丁寧に読んでいく。やがて大きく息を吐くと己の眼球を指で揉んだ。
「ふぅ、これは確かに。決闘婚なる法律は我らが王国に存在しているようですな」
「ふ、ふざけるなっ、そんな馬鹿げた法律があってたまるかッ!」
さっきから歯軋りをしながら読み終わるのを待っていたダミアンは、ついに我慢の限界となったのであろう。
国王の使者の言葉を汚い言葉で遮って、法律への悪態をついた。もちろんソレイユはその愚行を見逃さない。
「ほう? ダミアン殿は王国の法律を馬鹿げたと申しますか。畏れ多くも法律とは、歴代国王陛下の正義の顕れとして存在していると心得ておりますが、まさかダミアン殿は国王の正義をお疑いなさるとでも?」
言葉に詰まったダミアンに追い討ちをかけたのは、国王の使者だった。
「不敬ですぞダミアン殿。この件はソレイユ卿の申す通り、一度お屋敷に戻り裁判所からの訴状を待つのが宜しかろう」
「し、しかし国王陛下のご命令は!? もうルーナは俺のもののはずじゃッ!」
「国王陛下のご命令はソレイユ卿により遂行されました。しかしその後の法的権利の行使はまた別の案件だと心得なさるがよい」
国王の使者は王族閥と呼ばれる宮廷貴族から選ばれ、中立を尊ぶ。公平性を重視する彼らの言葉は非常に重い。
それでも抵抗を諦めたくはないのだろう、ダミアンは小さく呪いの言葉を吐き捨てるとソレイユへと言った。
「とにかく! その訴状とやらが届くまではルーナは俺のものだ。返してもらうぞ」
「いや、それは成りませんぞダミアン殿。どうやら法的にその決定権を持つのはルーナ嬢のようだ」
「なにっ!?」
ダミアンの要求を撥ね退けたのは国王の使者だった。彼の述べた法とは決闘婚が申し込まれた時点で当該女性保護の立場から、女性の身柄の預け先は女性による選択で決定するというものである。
それは決闘婚の訴状が届くまでに、強制的な結婚をさせない為の法的処置であった。
「さてルーナ嬢よ、ブロッド侯爵家とソレイユ辺境伯家、いずれをお選びか?」
するとルーナは決然として答える。
「ソ、ソレイユ辺境伯家です。私はここに残りますっ!」
この期に及んではもはやダミアンの出る幕はない。
どうやらその自覚はあったのだろう、床を踏み鳴らしながら乱暴にドアを開けて出て行ってしまった。
これで作戦の第一段階は完了だなと、使者を丁重に見送りながらソレイユは次の段階の事を考える。
こういう軍人の顔をしている時のソレイユの集中力は凄まじい。しかし凄まじいだけに回りが見えなくもなるようだ。
「イタっ! な、何するんだよ!」
背後から突然オリガに尻を蹴られたソレイユは、その理由が分からないだけに少しムッとした。
だがオリガはムッとどころか怒っていたようである。
「馬鹿ですか? 作戦の事を考える前にやることがあるのでは?」
そう言った視線の先に居たルーナは少し震えながらも気丈にして、去っていく馬車を見つめていた。
今まで恐怖でしかなかったダミアンを目の当たりにして、平気でいられた訳がなかったのだ。それでもルーナはダミアンなんかに負けたくない一心で、その素振りを見せずに頑張り抜いた。
咄嗟にその事に気づいたソレイユは、ルーナの元へと一目散に駆けよって、その背中を強く抱きしめる。
「オ、オジサマ?」
「ごめんよルーナ、よく頑張ったね」
オリガはそんな二人を目を細めて見ながら、やれやれと溜め息をつくのであった。
0
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる