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第一章 柴イヌ、冒険者になる
第十二話 リリアンの修行
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オレはリリアンさんへの恩返しに、武術というものを教えることになりました。
どうやら武術とはイヌになることのようなので、まずはイヌの基本であるところの感情は吠えて伝える! を実践してもらったのですが……
「うっ! 人間の声で吠えられると、からかわれた時の記憶がよみがえります」
「つ、つらい過去の記憶なんですね……もう止めますか?」
「なにを言ってるんですか! いま止めたら本当の負けイヌですっ、さあ、続けてください!」
自分の声もそうですが、おともだちのリリアンさんの声で吠えてもイラッとするとは……
しかし克服しなければ、オレをからかった人間たちに負けた気がするのです!
「わ、わかりましたっ! わんっ! わわんっ! くう~ん、キャインッ!」
「うっ! い、いい感じですよリリアンさんっ!」
「で、でもコテツ殿が……」
「だ、大丈夫です。イライラしているだけなので……では最後にイヌの遠吠えをお教えしましょう」
「は、はい……」
「イヌが遠吠えする理由は色々ありますが、一番大事な理由は仲間に危険を教えたり助けを呼ぶところです」
「な、なるほど」
「では、オレが遠吠えしますので続いてリリアンさんもお願いします。いきますっ! ワオォーーーーンッ」
「わおぉーーーーんっ」
ぐはっ! 強烈にイラッときましたっ! しかしなんとか無事にやりとげましたよ……
「ふぅ、リリアンさん、イヌの吠え声は合格ですっ!」
「ほんとですかっ!? や、やったッ!」
イヌの動きを教えるのも大変ですね。かなりイラッときて毛が抜けるかと思いました。
さて、次は何を教えましょうか……うーん、やっぱり縄張りのことでしょうかね。
「リリアンさんはイヌが何故オシッコを、外でちょびとずつするのかわかりますか?」
「たしか縄張りの主張かと」
「その通りです! 知っているとは優秀です」
「そんな優秀だなんて、照れます。エヘヘ」
「じゃあここでオシッコしてください」
「は? はいっ!?」
「オレにリリアンさんがオシッコをするところを見せてください」
「ちよっーッ!? そ、それは変態プレイではなくて修行なのですよね? 間違いなく……」
「マーキングはイヌの基本ですよ?」
「わ、わかりました……で、では、かなり恥ずかしいですが……ぬぎぬぎ」
はて、一体なにが恥ずかしいのでしょうか。メスイヌになりたいという覚悟が足りてないのでは……って、あっ、リリアンさんはメスでしたね。
メスは基本的に発情期以外はマーキングしないのでした。
「こ、これは何かを試されているような気がします……くっ、た、躊躇うなっ!」
「ごめんなさいリリアンさん、ちょっとオシッコ中止です。メスはマーキングしないのでした」
「ええっ!?」
「あ、でもリリアンさんが発情していたら話は別ですが。いま発情していますか?」
「し、してませんから! 発情なんてしていませんからッ!」
「ならやっぱりマーキングはしなくていいです」
「は、はい……ホッとしたような、残念なような……」
マーキングがナシとなると、他に何かありますかね? 意外とこれぞイヌ! ってのはないものです……困りました。
「とりあえず四つん這いになって楽しくその辺を走り回っててください」
「わかりました! だんだん鍛練っぽくなってきましたねっ」
「楽しく走らねばなりませんよ?」
「わんっ!」
リリアンさん、ノリノリですね。なんかちょっとイラッとしました。しかもアホみたいです。
ん?……そうだ、アホで思いだしました!
ご主人様がオレに、イヌの動きとは何かを教えてくれたことがあったんです! すっかり忘れていましたが、さすがはご主人様ですねっ──
『おいコテツ、犬ならアホな動きをしろ。犬の間抜け動画は低俗な民衆に大人気だからな。特に柴犬はホットだ、この動画でユー○ューバーになって大金を稼ぐぜ!』
どうやらイヌはアホな動きをするのがいいようです。しかしそれだけでは駄目だとも言っていました。
『アホなのだけじゃあ再生回数のびねえ! よし、ここは初心に返ってフリスビー犬やってみよう。これこそ犬の王道だ!』
フリスビーのキャッチこそ犬の王道! そしてめっちゃ楽しい! これならリリアンさんに恩返しができるでしょう。
「リリアンさん、走るのはもういいです。てかすごく楽しそうですね」
「はい! 自分は犬だと思って走ったら楽しくなっちゃいました! どうでしょう、ご、合格でしょうか?」
「すばらしいですね、合格です!」
「やったあ! わおぉーーーーん」
なんかもう十分アホっぽいですが、ご主人様のいう通りにアホな動きをしてもらいましょう。
「次のはご主人様から直々に教わったイヌの動きです」
「えっ! そ、それは謎の組織ドッグランの首領直伝という事ですか……」
「よくわかりませんが、大金も稼げるそうです」
「くっ! 汚いっ! しかしそれだけに効果的な技の鍛練なのでしょうね……」
「はい、そういうことなのでアホな動きをしてください」
「ア、アホな動き!?……ですか?」
「そうです、いつでもどうぞ」
「は、はい!……こう? こんな感じ?」
ふむ、リリアンさんがウネウネと踊りだしました。
「ウキキ、ウキキーっ」
おや、これはおサルさんの真似ですか? リリアンさんはおサルさんのことをアホだと思っているようです。
「それっ、よっと、こう、です、かッ!」
おっ? それはまさに江○さんの気持ち悪い動き! いいですねえ、ご主人様もオレも江○さんは大好きです!
「ブー、ブーっ」
ほう、ブタさんを真似た変顔ですね。リリアンさんは動物に恨みでもあるのでしょうか? まあいいです。
「リリアンさん、アホ合格です!」
「ほんとですか? やったあー!」
しかしこうして見ていると、イヌの動きとはまったく関係がない気がしますね。
オレはなにか勘違いしたのでしょうか? 間違ってもオレはやりたくありませんし……まあリリアンさんが喜んでいるのでよしとします。
「よかったですねっ! さて次は、いよいよイヌの動きの王道を極めてみましょう!」
「王道を極めるッ! つ、ついにですか! お、お願いしますっ」
オレはリリアンさんにフリスビーのキャッチの仕方を教えました。必ず口で咥える! ここが一番重要です。
ちなみにフリスビーは、ギルドのキッチンに似たようなものがあったのを思い出して取ってきました。
「そのお盆を口で……わかりました、頑張ってみます!」
「立派なフリスビー犬になってください! おそらく楽しすぎて、リリアンさんは止まらなくなるかもです!」
「なんだかワクワクしてきましたっ!」
「フフ、期待していいですよ! ではいきますっ! それっ!────」
「わんっ!」
ええ、そうですとも──あの時は本当にリリアンさんに楽しんでもらえると、そう思っていたんです……
あれから我々は一体何回挑戦したのでしょう……本当にリリアンさんが止まらなくなりました。
リリアンさんは瞼と唇を腫らし鼻血だらけになっています……これでも楽しんでもらえているのでしょうか? 不安です……
「リリアンさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……まだやれます! せめて一回は咥えてみせます! だんだん分かってきたんです、動体視力と瞬発力、そして咥えるという技術。これらが渾然一体となって初めてキャッチできるんですっ!」
そうなんですか? そんなこと考えているイヌはいないと思いますが……
まあいいです、リリアンさんがやりたいというなら付き合います。
「ではいきますよー、それっ!」
「うおおおーーーーッ! あぎゃっ」
あ、いまキャッチするとき舌を噛みましたね、とても危険な行為です。
「く、くぞお……もういじどおねがいじまずっ!」
口から血が流れていますが……ほんとにリリアンさんは大丈夫でしょうか。
「では、もう一度いきますよー、それっ!」
「うおおおーーーーッ! ガブッ」
おおっ! 見事に口で咥えてキャッチしましたね!
「や、や、やったあー! コテツ殿やりましたっ! ついに口でキャッチできましたあーーッ!」
「リリアンさん、おめでとうございます! これであなたも立派なフリスビー犬です!」
「ありがとうございます! やった! やったあ! 私はフリスビー犬になれましたーあッ!」
素晴らしいガッツポーズです。ちょっと感動しちゃいました。
「よく頑張りましたねリリアンさん、オレが教えられる犬の動きはもうないです。でもどうか忘れないでください。発情したらオシッコをし、感情は吠えて伝え、アホな動きで人気になり、フリスビー犬として王道を歩む。イヌの動きは一日してならずですからね」
「はい、忘れません、絶対に忘れませんッ!」
オレもこれでリリアンさんへの恩が返せて一安心です。
ああ、なんだかイヌとしての自分が誇らしい。
「では戻りましょう、もうお腹がペコペコです」
「コテツ殿、その前に最後のお願いがあります」
「はあ、なんでしょうか?」
リリアンさんがあまりに真剣な目をしているので、オレは少し驚きました。
「最後に……私の魔剣術でコテツ殿と勝負させて下さい」
「勝負? ですか?」
「はい。私の魔剣術は、ジェインが遣った魔槍術と似た魔法攻撃の技です。それがコテツ殿にとってどの程度のものか、ご意見を賜りたいのです!」
ふむ? 攻撃と言ってますが敵意の匂いもしませんし……なにかの遊びですかね?
「よくわかりませんけどわかりました、いつでも始めてください!」
「ありがとうございますっ! では早速にッ!」
あっ、一応「デキるオス」になっておきましょう。リリアンさんからも急に本気の匂いがしてきましたし……てか、これほんとに遊びですか?
するとリリアンさんの持つ棒全体が突然に、渦巻いた風に包まれたかと思うと、その棒をオレに振り抜いてきました。
空気がゆがみキラキラして向かってきます。イヤな人の火の玉より全然速いです。
ちょっとヤバい感じがするので、オレはあわてて避けました──ヒョイ。
集中を止めて元に戻ってみると、その風は後ろにあった木を切り倒しています。
「くっ! やはりかすりもしないか……」
「でもリリアンさん、すごいですよ?」
「えっ? なにがですか?」
「だってオレ、ちょっとヤバい気がしましたもん。あのまそうじゅつ? より全然速くて」
「ほ、本当ですかっ!? コテツ殿がヤバい気がしたって、う、嘘じゃないですよねッ?」
「はい、嘘じゃないです」
「やったあーっ! 私っフリスビー犬の呼吸で魔剣術を遣ってみたんですっ! そしたらすごく技がキレてッ! 嬉しいーっ!」
リリアンさんはやたら興奮してオレに抱きついてきて……
よくわかりませんが、喜んでくれてオレも嬉しいです!
どうやら武術とはイヌになることのようなので、まずはイヌの基本であるところの感情は吠えて伝える! を実践してもらったのですが……
「うっ! 人間の声で吠えられると、からかわれた時の記憶がよみがえります」
「つ、つらい過去の記憶なんですね……もう止めますか?」
「なにを言ってるんですか! いま止めたら本当の負けイヌですっ、さあ、続けてください!」
自分の声もそうですが、おともだちのリリアンさんの声で吠えてもイラッとするとは……
しかし克服しなければ、オレをからかった人間たちに負けた気がするのです!
「わ、わかりましたっ! わんっ! わわんっ! くう~ん、キャインッ!」
「うっ! い、いい感じですよリリアンさんっ!」
「で、でもコテツ殿が……」
「だ、大丈夫です。イライラしているだけなので……では最後にイヌの遠吠えをお教えしましょう」
「は、はい……」
「イヌが遠吠えする理由は色々ありますが、一番大事な理由は仲間に危険を教えたり助けを呼ぶところです」
「な、なるほど」
「では、オレが遠吠えしますので続いてリリアンさんもお願いします。いきますっ! ワオォーーーーンッ」
「わおぉーーーーんっ」
ぐはっ! 強烈にイラッときましたっ! しかしなんとか無事にやりとげましたよ……
「ふぅ、リリアンさん、イヌの吠え声は合格ですっ!」
「ほんとですかっ!? や、やったッ!」
イヌの動きを教えるのも大変ですね。かなりイラッときて毛が抜けるかと思いました。
さて、次は何を教えましょうか……うーん、やっぱり縄張りのことでしょうかね。
「リリアンさんはイヌが何故オシッコを、外でちょびとずつするのかわかりますか?」
「たしか縄張りの主張かと」
「その通りです! 知っているとは優秀です」
「そんな優秀だなんて、照れます。エヘヘ」
「じゃあここでオシッコしてください」
「は? はいっ!?」
「オレにリリアンさんがオシッコをするところを見せてください」
「ちよっーッ!? そ、それは変態プレイではなくて修行なのですよね? 間違いなく……」
「マーキングはイヌの基本ですよ?」
「わ、わかりました……で、では、かなり恥ずかしいですが……ぬぎぬぎ」
はて、一体なにが恥ずかしいのでしょうか。メスイヌになりたいという覚悟が足りてないのでは……って、あっ、リリアンさんはメスでしたね。
メスは基本的に発情期以外はマーキングしないのでした。
「こ、これは何かを試されているような気がします……くっ、た、躊躇うなっ!」
「ごめんなさいリリアンさん、ちょっとオシッコ中止です。メスはマーキングしないのでした」
「ええっ!?」
「あ、でもリリアンさんが発情していたら話は別ですが。いま発情していますか?」
「し、してませんから! 発情なんてしていませんからッ!」
「ならやっぱりマーキングはしなくていいです」
「は、はい……ホッとしたような、残念なような……」
マーキングがナシとなると、他に何かありますかね? 意外とこれぞイヌ! ってのはないものです……困りました。
「とりあえず四つん這いになって楽しくその辺を走り回っててください」
「わかりました! だんだん鍛練っぽくなってきましたねっ」
「楽しく走らねばなりませんよ?」
「わんっ!」
リリアンさん、ノリノリですね。なんかちょっとイラッとしました。しかもアホみたいです。
ん?……そうだ、アホで思いだしました!
ご主人様がオレに、イヌの動きとは何かを教えてくれたことがあったんです! すっかり忘れていましたが、さすがはご主人様ですねっ──
『おいコテツ、犬ならアホな動きをしろ。犬の間抜け動画は低俗な民衆に大人気だからな。特に柴犬はホットだ、この動画でユー○ューバーになって大金を稼ぐぜ!』
どうやらイヌはアホな動きをするのがいいようです。しかしそれだけでは駄目だとも言っていました。
『アホなのだけじゃあ再生回数のびねえ! よし、ここは初心に返ってフリスビー犬やってみよう。これこそ犬の王道だ!』
フリスビーのキャッチこそ犬の王道! そしてめっちゃ楽しい! これならリリアンさんに恩返しができるでしょう。
「リリアンさん、走るのはもういいです。てかすごく楽しそうですね」
「はい! 自分は犬だと思って走ったら楽しくなっちゃいました! どうでしょう、ご、合格でしょうか?」
「すばらしいですね、合格です!」
「やったあ! わおぉーーーーん」
なんかもう十分アホっぽいですが、ご主人様のいう通りにアホな動きをしてもらいましょう。
「次のはご主人様から直々に教わったイヌの動きです」
「えっ! そ、それは謎の組織ドッグランの首領直伝という事ですか……」
「よくわかりませんが、大金も稼げるそうです」
「くっ! 汚いっ! しかしそれだけに効果的な技の鍛練なのでしょうね……」
「はい、そういうことなのでアホな動きをしてください」
「ア、アホな動き!?……ですか?」
「そうです、いつでもどうぞ」
「は、はい!……こう? こんな感じ?」
ふむ、リリアンさんがウネウネと踊りだしました。
「ウキキ、ウキキーっ」
おや、これはおサルさんの真似ですか? リリアンさんはおサルさんのことをアホだと思っているようです。
「それっ、よっと、こう、です、かッ!」
おっ? それはまさに江○さんの気持ち悪い動き! いいですねえ、ご主人様もオレも江○さんは大好きです!
「ブー、ブーっ」
ほう、ブタさんを真似た変顔ですね。リリアンさんは動物に恨みでもあるのでしょうか? まあいいです。
「リリアンさん、アホ合格です!」
「ほんとですか? やったあー!」
しかしこうして見ていると、イヌの動きとはまったく関係がない気がしますね。
オレはなにか勘違いしたのでしょうか? 間違ってもオレはやりたくありませんし……まあリリアンさんが喜んでいるのでよしとします。
「よかったですねっ! さて次は、いよいよイヌの動きの王道を極めてみましょう!」
「王道を極めるッ! つ、ついにですか! お、お願いしますっ」
オレはリリアンさんにフリスビーのキャッチの仕方を教えました。必ず口で咥える! ここが一番重要です。
ちなみにフリスビーは、ギルドのキッチンに似たようなものがあったのを思い出して取ってきました。
「そのお盆を口で……わかりました、頑張ってみます!」
「立派なフリスビー犬になってください! おそらく楽しすぎて、リリアンさんは止まらなくなるかもです!」
「なんだかワクワクしてきましたっ!」
「フフ、期待していいですよ! ではいきますっ! それっ!────」
「わんっ!」
ええ、そうですとも──あの時は本当にリリアンさんに楽しんでもらえると、そう思っていたんです……
あれから我々は一体何回挑戦したのでしょう……本当にリリアンさんが止まらなくなりました。
リリアンさんは瞼と唇を腫らし鼻血だらけになっています……これでも楽しんでもらえているのでしょうか? 不安です……
「リリアンさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……まだやれます! せめて一回は咥えてみせます! だんだん分かってきたんです、動体視力と瞬発力、そして咥えるという技術。これらが渾然一体となって初めてキャッチできるんですっ!」
そうなんですか? そんなこと考えているイヌはいないと思いますが……
まあいいです、リリアンさんがやりたいというなら付き合います。
「ではいきますよー、それっ!」
「うおおおーーーーッ! あぎゃっ」
あ、いまキャッチするとき舌を噛みましたね、とても危険な行為です。
「く、くぞお……もういじどおねがいじまずっ!」
口から血が流れていますが……ほんとにリリアンさんは大丈夫でしょうか。
「では、もう一度いきますよー、それっ!」
「うおおおーーーーッ! ガブッ」
おおっ! 見事に口で咥えてキャッチしましたね!
「や、や、やったあー! コテツ殿やりましたっ! ついに口でキャッチできましたあーーッ!」
「リリアンさん、おめでとうございます! これであなたも立派なフリスビー犬です!」
「ありがとうございます! やった! やったあ! 私はフリスビー犬になれましたーあッ!」
素晴らしいガッツポーズです。ちょっと感動しちゃいました。
「よく頑張りましたねリリアンさん、オレが教えられる犬の動きはもうないです。でもどうか忘れないでください。発情したらオシッコをし、感情は吠えて伝え、アホな動きで人気になり、フリスビー犬として王道を歩む。イヌの動きは一日してならずですからね」
「はい、忘れません、絶対に忘れませんッ!」
オレもこれでリリアンさんへの恩が返せて一安心です。
ああ、なんだかイヌとしての自分が誇らしい。
「では戻りましょう、もうお腹がペコペコです」
「コテツ殿、その前に最後のお願いがあります」
「はあ、なんでしょうか?」
リリアンさんがあまりに真剣な目をしているので、オレは少し驚きました。
「最後に……私の魔剣術でコテツ殿と勝負させて下さい」
「勝負? ですか?」
「はい。私の魔剣術は、ジェインが遣った魔槍術と似た魔法攻撃の技です。それがコテツ殿にとってどの程度のものか、ご意見を賜りたいのです!」
ふむ? 攻撃と言ってますが敵意の匂いもしませんし……なにかの遊びですかね?
「よくわかりませんけどわかりました、いつでも始めてください!」
「ありがとうございますっ! では早速にッ!」
あっ、一応「デキるオス」になっておきましょう。リリアンさんからも急に本気の匂いがしてきましたし……てか、これほんとに遊びですか?
するとリリアンさんの持つ棒全体が突然に、渦巻いた風に包まれたかと思うと、その棒をオレに振り抜いてきました。
空気がゆがみキラキラして向かってきます。イヤな人の火の玉より全然速いです。
ちょっとヤバい感じがするので、オレはあわてて避けました──ヒョイ。
集中を止めて元に戻ってみると、その風は後ろにあった木を切り倒しています。
「くっ! やはりかすりもしないか……」
「でもリリアンさん、すごいですよ?」
「えっ? なにがですか?」
「だってオレ、ちょっとヤバい気がしましたもん。あのまそうじゅつ? より全然速くて」
「ほ、本当ですかっ!? コテツ殿がヤバい気がしたって、う、嘘じゃないですよねッ?」
「はい、嘘じゃないです」
「やったあーっ! 私っフリスビー犬の呼吸で魔剣術を遣ってみたんですっ! そしたらすごく技がキレてッ! 嬉しいーっ!」
リリアンさんはやたら興奮してオレに抱きついてきて……
よくわかりませんが、喜んでくれてオレも嬉しいです!
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