22 / 53
第二章 柴イヌと犬人族のお姫様
第二十二話 三人一緒に
しおりを挟む
「ええっ? コテツ殿はBランカーになっていたのですかっ!?」
「はい、リリアンさんが迷宮というところへ仕事で行っている間になりました」
「もうっ、教えて下さいよ~っ!」
「忘れてましたっ!」
「酷っ! でも凄いですね、ギルド史上最速じゃないですか? ってことは特別依頼なら私もコテツ殿と組んでやれますねっ! 楽しみですッ!」
「モニカさんもそう話してくれました。でも特別依頼は少ないそうなのでオレはAランクを目指しますよっ! リリアンさんが危険なときにはいつでも守れるようにしておきたいですから」
「私を、守ってくれる?……」
「はい、守ります」
「あ、あの……コテツ殿……わ、私ってコテツ殿にとって、そんなに大事な存在なのでしょうか?……キャッ、聞いちゃったッ!」
「ええ、もちろん」
なにをリリアンさんは顔を赤くして聞いているのでしょうかね? おともだちどうしなんだから大事に決まっています。
「イヤ~ン嬉しいッ! わ、わ、私の乙女はコテツ殿のものですからねっ! キャッ」
「ケッ! なにが乙女だ馬鹿女めっ! 昼間っからデレデレしやがって、あんたみたいのが女の社会進出を阻む敵だってえのよっ!」
モニカさんがまるでジェインさんのようなことを言っています。最近ずっとこんな感じで荒れているんです。おめでたいことがあってからずっとです。
なにか悩みでもあるのでしょうか? 困惑となげやりの匂いがプンプンしますが……
「クスクス、その社会進出を見事に果たしたモニカは立派だな! タリガの町でも頑張ってくれっ! クスクス」
「モニカさん、なにか悩みでもあるんでしょうか? オレ、モニカさんがつらそうに見えます。モニカさんがつらそうだとオレはイヤですっ」
「コテツさん!?……コテツさんはいつも優しいですわね。本当に他人の心に敏感で驚いちゃう」
それはイヌなら普通にある特性ですので、別に驚くことではありませんが……
「そんなに優しくされると私……うっ、うう、コテツさんっ! うわ~んっ」
モニカさんが泣き出してしまいました。やっぱりなにかつらいことを抱えていたようです。可哀想に……
「泣くほど何がつらいんですか?」
「き、聞いてくれますか? コテツさん……」
「はいっ! 聞きましょうッ!」
「私、ひとりぼっちでタリガの町へなんか行きたくないんです。友達もいないあんなド田舎で暮らすなんて……もう絶対に孤独とストレスで心を病むに決まっています!」
「じゃあ行かなければいいのでは?」
「それが出来ないから悩んでいるんですわ! 実は私……ギルドに誓約書を握られているんですぅーッ! うわ~んっ」
ああ、モニカさんがまた泣きだしてしまいました……
ちょうどその時、汗と脂の懐かしい匂いをさせたギルドの偉いおじさんがやって来て。
「モニカ君、また油を売って! 引継ぎ用の書類もまだ──」
「呪ってやる、誓約書返せ、呪ってやる、誓約書返せ、呪ってやる、誓約書返せ……」
妙に光る目をさせながらなにかブツブツ言ってるモニカさん、怖いです……
「あっ、いや、モニカ君、て、転勤前で個人的にも忙しいかな?……う、うん、時間が出来たら書類お願いします……」
偉いおじさんは一層汗と脂の匂いを激しくさせて逃げてしまいました。
ところでさっきからモニカさんが憎々し気に呼んでいる誓約書とは何でしょうか?
オレはそのことをモニカさんに訊いてみました。
「それは……私は昔……まだ冒険者だった頃に、ある失敗の代償にとギルドで働く約束をさせられたのです……その誓約書で」
「モニカさんは冒険者だったのですね!」
「ええ……リリアンは知っていると思いますけど。チッ、そんな過去、もう忘れてしまいたいっ!」
よくわかりませんが、とにかくタリガの町へはどうしても行かなければならないようです。
「モニカ、なんかあんたらしくもないぞ? いつもなら、さっさと出世してもっと大きな街の支部長になるわ! とか言ってそうだが……」
リリアンさんからもモニカさんを心配する匂いがしてきました。やはりこれは見過ごせません。
「私だって、一旦はそう気持ちを切り替えたのよ。それでタリガのギルドに所属する冒険者たちの事を調べていたら……」
そこで言葉を切ったモニカさんは、オレのことを見つめたかと思うと急に抱きついてきて。
「元カレがいたんです~っ! それも誓約書を書かされるはめになった原因の奴なんですう~ッ!」
「ちょっ! 離れろモニカっ! って、え? あいつがいたって!?」
「そうなのよリリアン! 私が冒険者資格を剥奪され、要監視人物として二十年間のギルド就業義務を誓約させられた元凶よッ! あの顔だけイケメンの糞野郎よッ!」
「そのイケメンに夢中になった挙句、まんまと利用されて捨てられたんだったな」
「やめてっ! それを言わないでーっ!」
うーん、昔にモニカさんをイヤな目にあわせた人が、タリガの町にいるということでしょうか?
「その糞野郎という人は、この先もモニカさんにイジワルしそうなんですか?」
「そ、そうなんですっ! どうやら奴はタリガのギルドを仕切っているみたいで……小さなギルドですからそんな処に私が支部長で行ったら、元カレ面されて何をさせられるか……」
「粛清してやればいいんだっ!」
「リリアン、あんた馬鹿なの? あの陰険で狡猾な奴にそんなことしたら殺されるわ! もしかしたら奴隷で売られるかも……そんなのイヤーッ!」
「じゃあ波風を立たせないように上手くやるしか……」
「絶対に無理っ! また私のことをいいように使って、毎日が生き地獄になるに決まってるわ……そんなのイヤーッ!」
これはかなり深刻な事態のようです。いうなればモニカさんの大ピンチですね!
よしっ! そういうことなら。
「大丈夫ですよモニカさん、危険があればオレがモニカさんを糞野郎から守りますッ!」
「えっ!? それって……」
「はいっ、オレもモニカさんと一緒にタリガの町へ行きますんでッ!」
大事なおともだちに、つらく悲し思いをさせたくはありませんからね。
「コテツさんッ! もう大好きッ!」
ぐえっ。
モニカさん苦しいので首に腕を回して締め上げるのは止めてください……
「お、オレも大好きですが、苦しくて吐きそうです……」
「ガーンっ! こ、コテツ殿がモニカを好き!?……ガーン、ガーン、ガーン」
く、苦しい……おえっ。
「コテツさんっ! もう吐いちゃって! 吐いて私をドロドロにしてえッ!」
「こ、こんな変態女に私のコテツ殿が盗られるなんてっ!……うっ、うわ~んっ、うわ~んっ」
ちょっ! 今度はなぜかリリアンさんが泣き出しましたっ! もうわけがわかりませんッ。おえっ。
「うわ~んっ、私を守ってくれるって言ったのにいっ、コテツ殿の嘘つきーっ! うわ~んっ」
「り、リリアンさん、も、もちろんリリアンさんも大事なおともだちですから守りますよっ? おえっ」
「で、でもモニカのことが好きなんでしょ? うっ、うわ~んっ」
「リリアンさんのことだって、おえっ、大好きですよ! おともだちはみんな大好きですっ、おえっ」
「ほ、本当に!? コテツ殿は私のこと好きなんですかッ?」
「ほ、本当です……おえっ」
「よ、良かったあッ! うわ~んっ」
そう言ってリリアンさんまで抱きついて、オレの首を締め上げました。
はい、そこで吐いたのは言うまでもありません。
まあ、オレが吐いたおかげで二人が冷静になってくれましたけどね。
なんで時々こんなにも狂暴になるのか……ほんと謎な二人です。
「じゃあリリアンさんも一緒に来てくれるのですね!」
「もちろんですともコテツ殿! 親友のモニカの一大事とあっては、私も一肌脱がねばなりますまいっ! ハッハハ」
「頼もしいです、リリアンさんっ!」
「じぃーーーっ……」
「な、なによモニカ」
「ふーん……さっきまで悩んでいた私を嘲笑っていたあんたがねえ」
「うっ!……」
「女の友情って虚しいわ」
「や、やめろっ! 遠い目をするなっ!」
これでまた三人一緒にいられて嬉しいです。ご主人様を探すにはあまり良い場所ではないそうですが、案外とこのままホークンの街に居るよりはいいかもしれません!
「それでタリガへはいつ出発するんだ? 引っ越しの準備とか、武器屋への支払のこととか、色々と私も片付けておかねばならんからな」
「ここからタリガへは駅馬車と徒歩で十三日ほどだから、だいたい十日後に出発かしら」
「ふむ、それだけあれば十分だな」
オレは何をすればいいのかとモニカさんに聞いたところ、タリガへ持って行く荷物だけまとめておくように言われました。
荷物なんてぬいぐるみのメスブタしかありません。
なので暇なオレは、あくまで暇つぶしとしてニャンキチにさよならを伝えに行きました。
裏路地の汚いごみ箱の上に、あいかわらず怠惰に寝そべっていますね。
「なんニャ? お前この街からいなくなるニャか?」
「そうです、なのでさよならです」
「いいニャあ、とうとう野良イヌになれたニャか、羨ましいニャッ! 飼い主のババアが俺を縛りつけてるニャ、開放するニャっ、死ねニャッ!」
「いえ、野良になるのではありません、引っ越しです。てか、野良になんかなりたくありませんしっ!」
「ふん、引っ越しニャか。羨ましがって損したニャ。イヌは所詮死ぬまで人間の奴隷ニャ!」
せっかくさよならを言ってやったのに、ほんとネコは腹が立ちます!
「俺も行きたいニャ……」
するとニャンキチは少し寂しそうな声でそう言いました。
そうですよね、あんなに野良ネコになりたがっていたのです。その気持ちを考えてあげたなら……
「ニャンキチ……なら、オレと一緒に行きますか?」
「はあ? なんで悪いイヌのお前と一緒に行かなくちゃならないニャ? 絶対イヤだニャっ! てか、ババアの魔法で逃げられないと前にも話したニャ、やっぱりイヌは馬鹿ニャッ!」
マジでイヌパンチを食らわしてやりましょうかね。一瞬でもしんみりとしたオレが馬鹿でした。
こっちこそネコなんかと行くのはごめんですっ!
「じゃあなニャンキチ、せいぜい野良ネコになれるように頑張れ」
「あ、待つニャ、お前の名前は何ていうニャか? まだ聞いてないニャ」
「ニャンキチ?……オレはコテツ。柴イヌのコテツです!」
「そうニャか、そういう名前ニャか……」
「はい……」
「たぶん秒で忘れるニャ、あばよニャ、コテツ」
ニャンキチはそのまま振り向きもせずに行ってしまいました。
まあ、たぶんどころか絶対に秒でオレの名前を忘れます。ネコとはそういう奴らです!
それでも……最後に名前を呼んでもらえて良かった気がします。
「はい、リリアンさんが迷宮というところへ仕事で行っている間になりました」
「もうっ、教えて下さいよ~っ!」
「忘れてましたっ!」
「酷っ! でも凄いですね、ギルド史上最速じゃないですか? ってことは特別依頼なら私もコテツ殿と組んでやれますねっ! 楽しみですッ!」
「モニカさんもそう話してくれました。でも特別依頼は少ないそうなのでオレはAランクを目指しますよっ! リリアンさんが危険なときにはいつでも守れるようにしておきたいですから」
「私を、守ってくれる?……」
「はい、守ります」
「あ、あの……コテツ殿……わ、私ってコテツ殿にとって、そんなに大事な存在なのでしょうか?……キャッ、聞いちゃったッ!」
「ええ、もちろん」
なにをリリアンさんは顔を赤くして聞いているのでしょうかね? おともだちどうしなんだから大事に決まっています。
「イヤ~ン嬉しいッ! わ、わ、私の乙女はコテツ殿のものですからねっ! キャッ」
「ケッ! なにが乙女だ馬鹿女めっ! 昼間っからデレデレしやがって、あんたみたいのが女の社会進出を阻む敵だってえのよっ!」
モニカさんがまるでジェインさんのようなことを言っています。最近ずっとこんな感じで荒れているんです。おめでたいことがあってからずっとです。
なにか悩みでもあるのでしょうか? 困惑となげやりの匂いがプンプンしますが……
「クスクス、その社会進出を見事に果たしたモニカは立派だな! タリガの町でも頑張ってくれっ! クスクス」
「モニカさん、なにか悩みでもあるんでしょうか? オレ、モニカさんがつらそうに見えます。モニカさんがつらそうだとオレはイヤですっ」
「コテツさん!?……コテツさんはいつも優しいですわね。本当に他人の心に敏感で驚いちゃう」
それはイヌなら普通にある特性ですので、別に驚くことではありませんが……
「そんなに優しくされると私……うっ、うう、コテツさんっ! うわ~んっ」
モニカさんが泣き出してしまいました。やっぱりなにかつらいことを抱えていたようです。可哀想に……
「泣くほど何がつらいんですか?」
「き、聞いてくれますか? コテツさん……」
「はいっ! 聞きましょうッ!」
「私、ひとりぼっちでタリガの町へなんか行きたくないんです。友達もいないあんなド田舎で暮らすなんて……もう絶対に孤独とストレスで心を病むに決まっています!」
「じゃあ行かなければいいのでは?」
「それが出来ないから悩んでいるんですわ! 実は私……ギルドに誓約書を握られているんですぅーッ! うわ~んっ」
ああ、モニカさんがまた泣きだしてしまいました……
ちょうどその時、汗と脂の懐かしい匂いをさせたギルドの偉いおじさんがやって来て。
「モニカ君、また油を売って! 引継ぎ用の書類もまだ──」
「呪ってやる、誓約書返せ、呪ってやる、誓約書返せ、呪ってやる、誓約書返せ……」
妙に光る目をさせながらなにかブツブツ言ってるモニカさん、怖いです……
「あっ、いや、モニカ君、て、転勤前で個人的にも忙しいかな?……う、うん、時間が出来たら書類お願いします……」
偉いおじさんは一層汗と脂の匂いを激しくさせて逃げてしまいました。
ところでさっきからモニカさんが憎々し気に呼んでいる誓約書とは何でしょうか?
オレはそのことをモニカさんに訊いてみました。
「それは……私は昔……まだ冒険者だった頃に、ある失敗の代償にとギルドで働く約束をさせられたのです……その誓約書で」
「モニカさんは冒険者だったのですね!」
「ええ……リリアンは知っていると思いますけど。チッ、そんな過去、もう忘れてしまいたいっ!」
よくわかりませんが、とにかくタリガの町へはどうしても行かなければならないようです。
「モニカ、なんかあんたらしくもないぞ? いつもなら、さっさと出世してもっと大きな街の支部長になるわ! とか言ってそうだが……」
リリアンさんからもモニカさんを心配する匂いがしてきました。やはりこれは見過ごせません。
「私だって、一旦はそう気持ちを切り替えたのよ。それでタリガのギルドに所属する冒険者たちの事を調べていたら……」
そこで言葉を切ったモニカさんは、オレのことを見つめたかと思うと急に抱きついてきて。
「元カレがいたんです~っ! それも誓約書を書かされるはめになった原因の奴なんですう~ッ!」
「ちょっ! 離れろモニカっ! って、え? あいつがいたって!?」
「そうなのよリリアン! 私が冒険者資格を剥奪され、要監視人物として二十年間のギルド就業義務を誓約させられた元凶よッ! あの顔だけイケメンの糞野郎よッ!」
「そのイケメンに夢中になった挙句、まんまと利用されて捨てられたんだったな」
「やめてっ! それを言わないでーっ!」
うーん、昔にモニカさんをイヤな目にあわせた人が、タリガの町にいるということでしょうか?
「その糞野郎という人は、この先もモニカさんにイジワルしそうなんですか?」
「そ、そうなんですっ! どうやら奴はタリガのギルドを仕切っているみたいで……小さなギルドですからそんな処に私が支部長で行ったら、元カレ面されて何をさせられるか……」
「粛清してやればいいんだっ!」
「リリアン、あんた馬鹿なの? あの陰険で狡猾な奴にそんなことしたら殺されるわ! もしかしたら奴隷で売られるかも……そんなのイヤーッ!」
「じゃあ波風を立たせないように上手くやるしか……」
「絶対に無理っ! また私のことをいいように使って、毎日が生き地獄になるに決まってるわ……そんなのイヤーッ!」
これはかなり深刻な事態のようです。いうなればモニカさんの大ピンチですね!
よしっ! そういうことなら。
「大丈夫ですよモニカさん、危険があればオレがモニカさんを糞野郎から守りますッ!」
「えっ!? それって……」
「はいっ、オレもモニカさんと一緒にタリガの町へ行きますんでッ!」
大事なおともだちに、つらく悲し思いをさせたくはありませんからね。
「コテツさんッ! もう大好きッ!」
ぐえっ。
モニカさん苦しいので首に腕を回して締め上げるのは止めてください……
「お、オレも大好きですが、苦しくて吐きそうです……」
「ガーンっ! こ、コテツ殿がモニカを好き!?……ガーン、ガーン、ガーン」
く、苦しい……おえっ。
「コテツさんっ! もう吐いちゃって! 吐いて私をドロドロにしてえッ!」
「こ、こんな変態女に私のコテツ殿が盗られるなんてっ!……うっ、うわ~んっ、うわ~んっ」
ちょっ! 今度はなぜかリリアンさんが泣き出しましたっ! もうわけがわかりませんッ。おえっ。
「うわ~んっ、私を守ってくれるって言ったのにいっ、コテツ殿の嘘つきーっ! うわ~んっ」
「り、リリアンさん、も、もちろんリリアンさんも大事なおともだちですから守りますよっ? おえっ」
「で、でもモニカのことが好きなんでしょ? うっ、うわ~んっ」
「リリアンさんのことだって、おえっ、大好きですよ! おともだちはみんな大好きですっ、おえっ」
「ほ、本当に!? コテツ殿は私のこと好きなんですかッ?」
「ほ、本当です……おえっ」
「よ、良かったあッ! うわ~んっ」
そう言ってリリアンさんまで抱きついて、オレの首を締め上げました。
はい、そこで吐いたのは言うまでもありません。
まあ、オレが吐いたおかげで二人が冷静になってくれましたけどね。
なんで時々こんなにも狂暴になるのか……ほんと謎な二人です。
「じゃあリリアンさんも一緒に来てくれるのですね!」
「もちろんですともコテツ殿! 親友のモニカの一大事とあっては、私も一肌脱がねばなりますまいっ! ハッハハ」
「頼もしいです、リリアンさんっ!」
「じぃーーーっ……」
「な、なによモニカ」
「ふーん……さっきまで悩んでいた私を嘲笑っていたあんたがねえ」
「うっ!……」
「女の友情って虚しいわ」
「や、やめろっ! 遠い目をするなっ!」
これでまた三人一緒にいられて嬉しいです。ご主人様を探すにはあまり良い場所ではないそうですが、案外とこのままホークンの街に居るよりはいいかもしれません!
「それでタリガへはいつ出発するんだ? 引っ越しの準備とか、武器屋への支払のこととか、色々と私も片付けておかねばならんからな」
「ここからタリガへは駅馬車と徒歩で十三日ほどだから、だいたい十日後に出発かしら」
「ふむ、それだけあれば十分だな」
オレは何をすればいいのかとモニカさんに聞いたところ、タリガへ持って行く荷物だけまとめておくように言われました。
荷物なんてぬいぐるみのメスブタしかありません。
なので暇なオレは、あくまで暇つぶしとしてニャンキチにさよならを伝えに行きました。
裏路地の汚いごみ箱の上に、あいかわらず怠惰に寝そべっていますね。
「なんニャ? お前この街からいなくなるニャか?」
「そうです、なのでさよならです」
「いいニャあ、とうとう野良イヌになれたニャか、羨ましいニャッ! 飼い主のババアが俺を縛りつけてるニャ、開放するニャっ、死ねニャッ!」
「いえ、野良になるのではありません、引っ越しです。てか、野良になんかなりたくありませんしっ!」
「ふん、引っ越しニャか。羨ましがって損したニャ。イヌは所詮死ぬまで人間の奴隷ニャ!」
せっかくさよならを言ってやったのに、ほんとネコは腹が立ちます!
「俺も行きたいニャ……」
するとニャンキチは少し寂しそうな声でそう言いました。
そうですよね、あんなに野良ネコになりたがっていたのです。その気持ちを考えてあげたなら……
「ニャンキチ……なら、オレと一緒に行きますか?」
「はあ? なんで悪いイヌのお前と一緒に行かなくちゃならないニャ? 絶対イヤだニャっ! てか、ババアの魔法で逃げられないと前にも話したニャ、やっぱりイヌは馬鹿ニャッ!」
マジでイヌパンチを食らわしてやりましょうかね。一瞬でもしんみりとしたオレが馬鹿でした。
こっちこそネコなんかと行くのはごめんですっ!
「じゃあなニャンキチ、せいぜい野良ネコになれるように頑張れ」
「あ、待つニャ、お前の名前は何ていうニャか? まだ聞いてないニャ」
「ニャンキチ?……オレはコテツ。柴イヌのコテツです!」
「そうニャか、そういう名前ニャか……」
「はい……」
「たぶん秒で忘れるニャ、あばよニャ、コテツ」
ニャンキチはそのまま振り向きもせずに行ってしまいました。
まあ、たぶんどころか絶対に秒でオレの名前を忘れます。ネコとはそういう奴らです!
それでも……最後に名前を呼んでもらえて良かった気がします。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
【マグナギア無双】チー牛の俺、牛丼食ってボドゲしてただけで、国王と女神に崇拝される~神速の指先で戦場を支配し、気づけば英雄でした~
月神世一
ファンタジー
「え、これ戦争? 新作VRゲーじゃなくて?」神速の指先で無自覚に英雄化!
【あらすじ紹介文】
「三色チーズ牛丼、温玉乗せで」
それが、最強の英雄のエネルギー源だった――。
日本での辛い過去(ヤンキー客への恐怖)から逃げ出し、異世界「タロウ国」へ転移した元理髪師の千津牛太(22)。
コミュ障で陰キャな彼が、唯一輝ける場所……それは、大流行中の戦術ボードゲーム『マグナギア』の世界だった!
元世界ランク1位のFPS技術(動体視力)× 天才理髪師の指先(精密操作)。
この二つが融合した時、ただの量産型人形は「神速の殺戮兵器」へと変貌する!
「動きが単調ですね。Botですか?」
路地裏でヤンキーをボコボコにしていたら、その実力を国王に見初められ、軍事用巨大兵器『メガ・ギア』のテストパイロットに!?
本人は「ただのリアルな新作ゲーム」だと思い込んでいるが、彼がコントローラーを握るたび、敵国の騎士団は壊滅し、魔王軍は震え上がり、貧乏アイドルは救われる!
見た目はチー牛、中身は魔王級。
勘違いから始まる、痛快ロボット無双ファンタジー、開幕!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる