柴イヌのコテツですが異世界ってなんですか?

灰色テッポ

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第二章 柴イヌと犬人族のお姫様

第二十三話 いざ辺境へ!

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 今日はいよいよタリガの町へと出発する日です!

 オレとモニカさんは駅馬車に乗る場所で、リリアンさんが来るのを待っているところなのですが──すでに向こうからノロノロと歩いて来るのが見えています。

「リリアン遅いですわねえ、寝ているのかしら?」

「大丈夫ですモニカさん、もうこっちに向かって歩いて来るのが見えますよ。すごい沢山荷物を背負しょってのノロノロ歩きです」

「まあ! ったくあのったら、冒険者たる者つねに身軽であるべしって言葉を知らないのかしら……」

「オレ、ちょと荷物を運ぶのを手伝ってきますね!」

 それにしてもリリアンさんは、なぜ鎧や兜というものを着て腰に剣を沢山ぶら下げているのでしょう?
 まるで戦いに行くようです。しかも背中に壺を三つも背負っています……

「あのリリアンさん……少し荷物を持ちましょうか?」

「こ、これはコテツ殿! おはようございます。だ、大丈夫ですっ」

「いや、大丈夫じゃなさそうなので、両手に持った荷物をかしてください」

「くっ、かたじけない!」

 なんでしょうかこの木彫りの大きな人形は? すごく不気味ですが……

「それは金運が良くなる人形です。コテツ殿にもぜひオススメしたい!」

「いりません、気持ち悪いです」

「そ、そうですか……」

 リリアンさんがようやく駅馬車のところに着くと、モニカさんが呆れ顔で怒りはじめました。

「あんた何で重騎士用の鎧なんて着てるの? 馬鹿なの?」

「い、いや、ずいぶん前にカッコいいなと思い、つい鑑賞用に買ってしまったのだ。しかし持ち運べないので自分で着てきたのだが……重くてとても戦いには使えんな」

「で、その背中の壺は?」

「よくぞ聞いてくれた! 右から幸福になる壺、健康でいられる壺、結婚出来る壺だっ! フフ、結婚出来る壺は最近買ったばかりだ……チラッ」

 リリアンさんが意味あり気にオレをチラ見しています。なんでしょうか?

「モニカ、この壺がある以上、もう私が勝ったも同然だっ! ワハハ……チラッ」

「全然負ける気がしないけど……それよりそれだけ荷物が多いと別途に運賃かかるわよ、お金あるの?」

「えっ、うそっ!?」

 何はともあれ三人で出発できそうで良かったです。
 駅馬車のおじさんたちがリリアンさんの荷物を乗せながら、間もなく出発すると大きな声をあげました。

 オレは馬車というものに乗るのは初めてなのでワクワクします。

「モニカっ! 俺も連れて行ってくれーっ!」

 おや? 何事でしょうか……沢山の男の人がやって来てモニカさんの周りに集まってきました。

「モニカ様っ、行かないでっ!」

「俺のモニカっ! なぜ行ってしまうんだっ」

「君がいなくなったら、俺もうナンバーワンから陥落しちゃうよーっ!」

 なんでしょうか、このキラッキラした男の人たちは? モニカさんのおともだちですかね。

「ちょっ! あんたら、何しに来たのよ!?」

「なんだモニカ、この無駄にイケメンな男たちは?」

 リリアンさんがオレと同じ疑問を、モニカさんにたずねています。

「やあ、重騎士のお姫様、俺たちはこの街のホストクラブのナンバーズだよ。みんなモニカの担当なんだ、でも今日から君の担当になってあげてもいいよ? 君ってラッキー!」

 男の人たちの一人がリリアンさんの肩を抱いて、耳元でささやきながらその質問に答えてくれたようですね。親切な人です。

「さ、さわるなっ! ぶった斬るぞっ!」

「おやおや、つれないお姫様だなあ」

「あんたたち! 見送りには来るなって言ったでしょ! 売掛うりかけだって残ってはいないはずよっ」

 モニカさんがずいぶんあわてていますね。しかしお見送りに来てくれたおともだちには、もっと優しくしてあげるべきです。

「おーい、みんなっ! この馬車だぞっ! 絶対に出発させるなーッ!」

 ん? 今度は一体何事でしょうか……

 また別の沢山の人が来て馬車を取り囲んでいますが。

「ローンの貸倒かしだおれなんか絶対にさせないぞーっ!」

「ツケをちゃんと払っていけーっ!」

「Aランク剣士リリアンの横暴を許すなーっ!」

「ゲッ! な、なんなのだお前たちっ!?」

「この街のギルドに所属しているからこそローンを組んだんだ! タリガへ行くなら買った物の代金を全額払っていけーっ!」

 あ、このおじさんは知っています。武器屋の店長さんですね。
 てか、リリアンさん、顔を青ざめさせてかなり驚いてますが、大丈夫でしょうか?

「ま、待て、みんな落ち着くんだっ! わ、私は代金を踏み倒すような事はしないからっ! ちゃんとここのギルドを通して支払うから安心しろッ!」

「そう言って借金を踏み倒していった冒険者たちが、いままで何人いると思っているんだっ! ここにいる債権者全員分、しめて二百四十三万八千三百七十六キンネ。全額支払って貰うまでは、リリアンさんを何処にも行かせないからなっ!」

「そ、そんな大金あるわけないだろっ!」  

「お客さん、そろそろ馬車を出発させたいんですがね? トラブルなら話がついてから、また別の馬車に乗って下さいよ。こっちも困りますんで」

「ぎ、馭者ぎょしゃ殿、そんな殺生なっ! おいっ、武器屋、壺屋、ビューティーサロン、下着屋、定食屋、研ぎ師、酒屋、魔道具屋、その他もろもろっ! 絶対に完済するから今日は見逃してくれッ!」

 リリアンさんが涙目になっていますね。これは何だかピンチなようです。
 もしかして一緒に行けないのでしょうか?

「そ、そうだ武器屋! この鎧と兜を買ってくれ、確か百万キンネくらいだった、それを返済の足しにしろっ!」
  
「買い取るのはいいけど、中古だからせいぜい二十万だね。そんなぐらいじゃこの街から出す訳にはいかねえっ!」

「くっ! 足元を見やがって……」

「あらっ? やっとホストたちを追い返したと思ったら、今度は何事ですのコテツさん」

「あ、モニカさん。オレはよくわからないのですが……リリアンさんがお金を返さないせいで、タリガへ行かせてもらえないようです」 
 
「はぁ、ほんとに仕方のない娘……」

 するとモニカさんがオレに頭を下げてお願いしてきました。自分が保証人になるからリリアンさんにお金を貸してやって欲しいと。
 保証人が何なのかわかりませんが、オレはモニカさんに三百万キンネを預けているそうです。全然憶えていませんでしたが。

 なのでオレはモニカさんからお金を受け取って、武器屋のおじさんに渡しました。

「ここに三百万キンネあるそうです。これでリリアンさんが借りたお金を返します」

 まあ、こうしてオレたちはやっと馬車を出発させることが出来たのですが……

「コテツ殿……まことに申し訳ない……」

「オレは全然問題ないですよ!」

「私は恥ずかしい……よりにもよってコテツ殿に借金するなんて……」

 馬車の中でのリリアンさんはずっとこんな感じで、椅子にも座らずに床で正座してションボリしています。
 
「あっー、鬱陶うっとうしいわね! あんたAランカーなんだから真面目に依頼こなしていけば、コテツさんにした借金なんてすぐに返せるでしょっ!」

 モニカさんはリリアンさんのそんな態度が気に入らないようです。
 まあ、確かにリリアンさんに元気になってほしいのはオレも同じですが。やっぱり心配ですからね。

 それにしても馬車というのは、思ったよりも揺れて不快な乗り物でした。
 第一気持ちが悪くなります。

「あ、あの、コテツ殿? 先ほどから猛烈な勢いでコテツ殿のヨダレが床に落ちてきますが……空腹なのですか?」

「いえリリアンさん。お腹は一杯です」

「あらほんと、どうしたんですか? こんなにヨダレを垂らして」

 モニカさんがオレのヨダレを拭いてくれました。優しいです。

「はい、気持ちが悪くてヨダレが止まりません……」

「コテツさんは馬車に乗るのが初めてでしたわね、なら酔ったんでしょう。窓の外に顔を出して外の空気を吸うといいですわ」

 モニカさんに言われた通りに、オレは窓の外に顔を出しました。
 はあ~、少しだけ気持ちの悪いのがおさまってきた気がします。

「おうおう、こいつはめずらヒヒーン。人間の姿した犬だブルル」

 顔を出していたら横を歩いていたお馬さんが、オレに話かけてきました。

「こんにちは。オレは柴イヌのコテツです」

「おう、俺はシルバーだヒン。あんたたちの護衛をしていヒーン、よろしくだブルル」

 感じのいいお馬さんです。仲良くなれそうな気がするので、あとでおともだちの儀式のクンカクンカをしましょう!

「つーか、何でコテツくんはそんな箱に乗っているブルル? それは俺たち馬の間では憐れな人間の箱と呼んでいるヒヒン。犬の君なら歩いたり走ったりしたほうが、よっぽど気分がいいヒヒーン?」

 確かにそうですね! わざわざこんな不快な乗り物に揺られていることはないのでした!

「シルバーさん、ありがとう!」

 オレはさっそく歩こうと馬車のドアを開けました。

「リリアンさんとモニカさん、オレ歩いて行くことにしますね! このままだと吐きそうですしっ」

 二人が驚いた顔をするのを放っておいて、オレは外へ飛び降りました。
 あ~っ、やっぱり自分の足で歩いているほうが全然気分がいいですっ!

「シルバーさん、あとで競争しましょう! はは、こいつはいいやっ、走るのって楽しいーッ!」

「犬には負けないブルルって、はやっ!」

 お天気もいいし、風もほどよく冷たくて、走るのってなんて気持ちがいいのでしょう。
 ホークンの街ではなかなか走れる場所がなくて、正直ちょとストレスだったんですよね。

 ああ、やっぱりイヌは走ってこそ生きている実感を持てます、最高ですっ!

──あれ?

 いま一瞬知っている人の匂いがしましたが、誰でしたっけ……
 オレは止まって辺りを見回してみました。

 そうだ、この匂いは──ジェインんさん!

 その匂いの先には馬に乗ってこっちを見ているジェインさんの姿がありました。
 オレが大きく手を振ってみたら、ジェインさんは馬の向きを変えて走って行ってしまったようです。

 もしかして見送りに来てくれていたのでしょうか?

 結局ジェインさんとはおともだちにはなれませんでしたね……

 ほんとにイヤな人でしたが、オレは案外キラいではなかったんです。

 どうかお元気で、またあいましょう。
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