箱庭サークルでは恋愛を禁止しています。

しゃこじろー

文字の大きさ
12 / 16

12

しおりを挟む
「あ、宮本先輩、こんちわっす」
「あぁ遠州か」

 目の前の宮本先輩はどこか顔色が悪く、目つきもなんだかうつろな様子だった。なんだかこういう疲れた表情をする女性も魅力的だな。

「どうしたんすか、顔色悪いですよ」

「それは、お前たちの横暴が許され、生徒会は手のひら返すかのように花屋敷さんの意思を尊重、箱庭サークルは前代未聞の廃部撤回で復活を果たす、私のこれまでの働きかけはいったい何だったんだろうかと思うとここ最近気分が晴れなくてな」

「あ、あぁ、それはなんかすんません、あと責任とらなくてすんません」
「なんの話だ?」

 キョトンとする宮本先輩に俺も何を言ってるのだろうと思ったが、そんなこともはやどうでもよかった。

「いや、でも、なんかいろいろすんませんでした宮本先輩」
「気にするな、これはもう決まったことだ、今更お前たちにどうこう言うつもりはない、ちゃんとしたサークルとして成立することになったんだ、よかったな遠州」

「ありがとうございます」
「あぁ、それでなんだがな遠州」

「なんすか?」
「このサークルの会長は誰だ?」

 そういうと、いつになくけだるげな様子の宮本先輩はついに近くにあるパイプ椅子に腰かけてしまった。よほど疲労がたまっている様子だ、肩で揉んであげれば少しは喜んでくれるだろうか?
 なんてことを思いつつ、思えば会長という役職に就く人間がいなかった事に気づいた俺は、年長者であるガミネ先輩に目を付けた。

「えっと、そうですね、じゃあガミネ先輩で」
「霧ヶ峰、お前が会長なのか?」

 このサークルで一番の年上であるガミネ先輩を指名すると、先輩は薄ら笑いを浮かべていた。

「何言ってるんだミヤチ、ミヤチともあろう女がこのサークルの会長も知らないなんて、まだまだだな」

「どういう意味かは分からないが、ここの会長はお前じゃないのか?」

「当然だ、私のような奴が会長になれるわけがないだろう」

「あの、まさか俺とか言わないでくださいよ先輩」

 唐突に嫌な予感がしてそういってみると、ガミネ先輩は涼しい顔しながら首を横に振った。

「案ずるな遠州、お前でもいいとは思っているが、会長っていうのはすでにいるもんだ」

「誰だ霧ヶ峰、教えてくれ」

「いいだろう、では初めに、お前たちはこのサークルに小森 桐人《こもり きりと》という名前の男がいたことをご存知か?」
「小森?知らない人っすね、そんな人がいたんすか?」

「そうだ、あの人はこのサークルの裏番長ならぬ裏会長だ」

「そんな話初めて聞きましたよガミネ先輩、どうしてもっと早くいってくれなかったんすか」

 そう尋ねるとガミネ先輩は無言になった、どうやらこの様子だと今の今までその小森とかいう人を忘れていたのだろう。

「まぁ、そういうことでだなミヤチ、このサークルの会長に用があるなら小森会長のところに行け」

「なるほど、ではその会長とやらはどこにいるんだ霧ヶ峰」

「会長なら大学の近くにある『アトム荘』ってところにいる」

「なんだ、学内にいないのか?」

 『アトム荘』その名に聞き覚えがある、なぜならそこは俺が下宿している場所だからだ。

 超激安で借りられる下宿先であり、俺以外の住人はほとんどいないと聞いていたその下宿先に、まさかそんな先輩が住んでいるなんてこと、もはや運命的としか思えない。

「ちなみだがミヤチ、会長は休学中とかいってしばらく大学には来てないみたいだ。だから、行くならあの人の自宅に行くしかない」
「自宅に行かないといけないのか?」

 宮本先輩は明らかに嫌そうな声色と顔でそうつぶやくと、小さくため息を吐いた。

「そうだ、でもミヤチは美人さんだからなぁ、一人であの人の自宅に訪れるものなら、それこそ飢えた獣のように無理やり部屋に引きずり込まれて、あんなことやこんなことされるかもしれないなぁ」
「な、なにを言っているんだ霧ヶ峰、そんなことをするわけないだろう」

 動揺した様子の宮本先輩はなぜか俺の背後に回って身を隠してきた。相変わらずガミネ先輩は宮本先輩には強気のようだ。

「冗談冗談、大丈夫だ行ってくるんだミヤチ」
「そ、そんなことを言われたら行けるわけないだろっ」

「でも、小森会長はそこにしかいないからそこに行くしかないんだよなぁ」
「いや、私はいかないぞ、ほらサークル会合の案内だ、お前たちが小森会長とやらに渡しておいてくれ」

 宮本先輩は俺の背後からそういって、俺に一枚の紙を手渡してきた。

「あ、ちょっと宮本先輩、サークル会合って何すか?」
「会合というのはサークルの会長たちがそろって集まり今後の活動報告や、功績を発表する場だ、毎月行われている、絶対に参加するんだ」

「へぇ」
「まぁ、お前たちがこの会合に出たところで何の影響もないだろうが、一応渡しておく、じゃあ私はこれで失礼するからなっ」

 宮本先輩はそういうと勢いよく部室から出て行った。まぁ俺が宮本先輩の立場だったら間違いなくいかないだろう。そう思い、さっきまで宮本先輩が座っていた椅子に腰かけ、改めて手渡された紙に目を移した。そこには会合の場所と時間がかかれており、各サークルや部活の長は出席するようにと書かれていた。
 何やら面倒くさそうな文字の並び思わずため息を漏らしつつ、これに出席してもらうための会長について話を切り出すことにした。

「で、ガミネ先輩はその小森会長とはどういう関係なんすか?」
「関係?」

「はい」
「関係も何も、私は会ったこともない」

「え?」
「だからあれだ、頑張ってくれ遠州お前だけが頼りだ」

「な、なんでっすか、めちゃくちゃ知り合いみたいな口調だったじゃないっすかっ」
「なにをいう、私に知り合いがいるわけないだろう、まだそんなこともわからんのか」

「でも、なんかいろいろ知ってるじゃないですか、どこからその情報仕入れてるんですか?」
「そんなものは秘密だ、とっとと行ってこい遠州」

「そ、そんなぁ」
「ほら行け遠州、お前はこのサークルで唯一の男なんだ、男の相手は男って決まっているだろう」

 何を言っているのだろうと困惑していると、突如として室内に明るい声が響き渡った。

「はいはい、私もそう思いますっ」

 突然同調してきたのは、ハイテンションな美琴さんだった、彼女はガミネ先輩の言葉に興奮した様子でいたが、すぐに我にかえり静かに座りなおした。急にハイテンションになった理由がわからないが、美琴さんもまた不思議な人なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...