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第四章 三つの世界の謎

実態

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 熱くたぎった男のものがリオの蕾に押し当てられる。内腿を愛しげに撫でながら、京は一気に先端をもぐり込ませた。
「んっ……」
 欲望を体現したかのような質量に、一瞬リオは顔を歪める。
「痛いか?」
 せわしなく男が囁いた。目を開けると、心配そうな瞳がこちらを覗き込んでいる。リオはううん、と被りを振った。大きくて、熱くて、違和感はあるけれど、でもこれが京の愛し方なのだ。痛くなんかない。ただ、ちょっとだけ怖いだけだ。
 従順な態度に励まされ、男は深く腰を入れる。たちまち、幼い肉襞が、男根にまとわりつき、締めつけた。
「んんっ……あっ……」
 半分だけ蕾にめりこませた男根が、リオの零した愛液で濡れていく。抵抗をかき分けるようにして、京は、ゆっくりと腰を進める。ぴくん、と小さな身体が痙攣し、リオは京の背中に両手を回してしがみついた。
「京ちゃん……ああ……」
 男根が、リオの中で、硬度を増す。じゅわり、とはしたない音を立てて、またリオの先端から液が零れた。
「感じてるのか? ん?」
 ぴっちりと入り口を欲棒で塞ぎ、甘い声で京は囁いた。舌先が、ちろちろと耳たぶをなぶる。大きく広げられた少年の下腹が、ずくん、と淫らに収縮する。まだ、何もはじまっていないのに、肉体はいやらしく綻びていた。
「可愛い……ったく、たまんねえぜ」
 京は、大きなため息をつき、そして、思い切ったようにぐいと内部を抉った。
「ああっ……」
 のけぞる背中を、男は片手で支え、
「好きだぜ。リオ」
 ずるりと男根を抜き、角度を変えて深々と突き立てる。
「はっ……京ちゃん……ああっ……」
 激しすぎる快感。リオの目尻に涙が滲んだ。
「お前がずっと忘れないように、身体中に俺を刻みつけてやる」
「あっ、あっ、そこっ……はあっ……んっ……」
「いいのか? いいんだな? リオ」
 ばしばしと尻と尻が打ち合う音がして、ピストン運動は激しさを増す。
「京ちゃん……そこ……ああ……いい……駄目……ああっ……」
 最奥まで串刺しにされ、リオは何度も、男の腕の中で気をやった。自分で自分をコントロール出来ない。男に抱かれ、弄られて、少年の身体はゆっくりと、ただ愛されるためだけの容れ物へと作り替えられていく。
 口づけが与えられ、タバコの匂いのする舌を、リオは思い切り吸い上げた。そうしている間にも、京の男根は大きく体内を抉っていく。
「あっ……、やっ……はっ……もう……」
 うわ言のように意味不明な言葉を繰り返す唇を、京はもう一度しっかりと自身のそれに結び合わせた。逃げないように、片手を頬に添え上向かせる。
「んんっ……」
 一際大きな痙攣の後、リオは断続的に小さな痙攣を繰り返す。
 男の腹が、白い粘着質な液体で濡れた。
「ふわっ……」
 やっと開放された唇が、悩ましげな吐息を洩らす。つぶらな目が、しっとりと濡れたまま男を見上げていた。まだ、アクメは続いているのだ。男は痩せた身体をかき抱いた。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※

 終わった後は、照れくさくてたまらなくて、リオは顔を赤くしたまま、京の身体にぴったりとしがみついていた。
 京は、優しげな笑みを浮かべたまま、リオに何度もキスをした。
 恋心を自覚した今、まじまじと見る京は、本当に、信じられないくらいに男っぽくて綺麗だった。きっと元の世界では、女にずいぶんもてただろう。自由の身になった時、彼はまだ自分の事を想ってくれるのだろうか。ふいに、微かな不安がよぎる。
「んじゃ、俺ちょっとシャワー浴びてくるわ」
 そう言うと、京はリオの手をそっと払いベッドからすり抜けた。
「俺も……」
 半身を起こしたリオに、
「ん? 俺と一緒に入りたいの?」
 男はからかうような笑みを浮かべる。リオは顔を真っ赤にして俯いた。そんなつもりはなかったのだけど、誘ってるように思われただろうか。
「ちょっと取ってきたいものもあるし、部屋に戻るよ。お前はここの風呂を使わせてもらえ」
 屈んでリオの頭をぽんぽんと叩いた後、京は床の上のズボンを取った。
 身支度を整える京を、リオはケットにくるまったまま、ぼんやりと見た。筋肉質で、でも細身な、鍛えられた身体。
 無駄のない動き。ベルトを調節する、繊細な長い指。
 見ているだけで、胸が次第に高鳴ってくる。好き、という言葉が自然に浮かんだ。
「じゃあな。リオ。またすぐ戻る」
 カーキ色の制服に身を包んだ京は、最後に綺麗な笑顔を見せた。ドアがぱたりと閉まり、男はリオの視界から消えた。

 腰のあたりが甘だるくて、すぐに動く気にはなれず、リオはベッドヘッドに背中をもたせ掛けてじっとしていた。
 かちかちと、時計の音が部屋の中に響く。
 すぐに戻ると言いながら、京はなかなか帰ってこなかった。待ちくたびれたリオは、のろのろと立ち上がり、裸のままで、バスルームへと移動する。頭からシャワーを浴びて、汗と、そして互いに出したものを洗い流した。
 大きなバスタオルで身体を拭き、衣服を着る。
 頭にタオルをぐるぐる巻きにしたままソファに座り、数分間をやり過ごす。男はまだ帰らない。
 時計の音がやけに大きく感じられ、リオの心臓は嫌な予感に早鐘を打つ。
 そういえば、本来京はとらわれの身で、地下牢に繋がれているはずの男だ。施設内は沙蘭の部下ばかりである。見つかったら、きっとまた捕まってしまう。
 京を一人で行かせるなんて間違いだった。一星が戻るまで、ここに身を隠しているべきだった。リオの背中に汗が滲む。
 それでもしばらく耐えたが、やはり京は帰らない。おかしい。シャワーを浴びるだけで、こんなに長い時間がかかるとは思えない。
「京ちゃん!」
 はじかれたようにリオは立ち上がった。はずみで頭に巻いたタオルがはらりと落ちる。今や時計の音は脳内で、サイレンみたいに鳴り響いている。一星の部屋を飛び出して、リオは京の部屋に向かって走った。部屋に人の気配はなかったけれど、バスルームの戸を開けて、中を確かめてみる。
 無人だった。床も、乾いていて、使用された様子はない。
 リオは医務室へと走った。


 そこには、キムと一星、そして光が集まっていた。無機質なガラステーブルを囲み、三人で顔を突き合わせている。
「あいつは来てねえよ。別にほっといてもいいんじゃねえの。どうせ俺も明日には地下に戻すつもりだったし」
 あたふたと状況を語るリオに、一星は言った。
「なんでっ? なんでまたわざわざ牢屋に行かなきゃなんないの?」
 リオは大声を上げた。
「なんでって、明日沙蘭が帰ってくるんだろうが。京が逃げたのに気付いたら、馬鹿でも警戒するだろう。そしたら、計画はぱーだ」
「計画って……」
「沙蘭を油断させておいて、その隙に俺があいつを殺す。キムも、光も賛成だ。京だけは……反対してたけど、奴だってわかってんだよ。それ以外方法がない事くらい。だから俺たちと顔を合わせたくないんだろう。甘っちょろいあいつらしいぜ」
 一星は言った。
「京ちゃんは甘っちょろくなんかないもん!」
 リオは反論した。
「わかってる。あいつは優しいからな。自分を傷つける相手にだって優しい……」
 一星は何か考え込むように天井を見て、
「まあ、そこに座れよ。お前にも協力してもらわなきゃなんねえしな」
 くい、と顎で、キムの横にある丸椅子を指してみせた。京の事が気になってそれどころじゃなかったけれど、迫力に負けて渋々従う。
 キムも、光も、いつになく厳しい顔をしていた。
 一星は、朝方言っていたのとほぼ同じ計画を再び語ってみせた。やり方はより具体的になっていて、キムや光、そしてリオにも、それぞれに役割があり、三人とも相当な演技力が必要みたいだった。リオは裏切りに気付いた時の沙蘭のショックを想って、胸を痛めた。
「勘違いするなよ。俺らは、沙蘭を倒すんじゃねえ。救ってやるんだ。どれほどこの場所があいつにとって都合よくできてても、所詮はまやかしの世界だ。そんなのいつかは崩れる。今俺たちが引導をわたしてやるのが、一番なんだよ」
 青ざめたリオを、一星が睨む。
「あっちに戻れば、沙蘭の意識が戻るよう、全力を尽くす。私を信じて」
 キムが、リオの肩に手をやり、
「毎日見舞いに行こうよ。あっちの沙蘭は、大人しくて、いい奴だったよ。だから、こんな町作るなんて、よっぽど寂しかったんだろう。俺は、あいつの事、ちっとも恨んでないし」
 光もそう言って励ました。あまりにも楽観的にすぎる気もしたが、確かに少しでも前向きに考えないと、先には進めない。
「ねえ、先生も、光も、元の世界の事、全部思い出したの?」
 尋ねれば、二人とも頷いた。
「俺、ちっとも思い出せないよ……」
「沙蘭が、お前の記憶だけは必死で守ってるんだろう。自分が実は寝たきりで、今にも死にかけてるなんて、惚れたお前には絶対知られたくないだろうからな」
 肩を落したリオに一星が言った。
「そんな言い方……」
 むきになるリオを、キムがとどめた。
「今一番つらいのは、一星だ。彼の気持は知ってるんだろう」
 はっとしてリオは、一星を見た。シャープな頬に憂いの影がある。もし、自分が彼の立場なら。
 京が、本当は寝たきりで、彼の魂を救うには、ここでの彼を殺すしかなくて。
 想像しただけで、怖くなる。ぶるぶるとリオは頭を振り、心から一星に同情した。
「ねえ、そう言えば、元の世界での京ちゃんって、何してる人なの?」
 話題を変えようと、リオは殊更明るい口調で尋ねた。そういえば、今まで気にならなかったのが不思議なくらいだ。自分と京は、どういう関係だったのだろう。
 答えはなく、目の前で、キムと光が意味深に視線を交わし合う。
「もしかして……学校の先生?」
 口にした後、いかにもありそうな気がしてきた。
 京の背広姿は想像出来ないが、ジーンズにTシャツ姿のラフな格好で、校長や父兄の顰蹙を浴びながら、でも生徒には絶大な人気がある先生なんて、まさしく京にぴったりなイメージの気がする。
「ねえ、まさか、俺と兄弟とかじゃないよね?」
 目配せしあっている二人に、リオは言った。恋した相手が、肉親だなんて最悪だ。だが、二人は黙ったままである。
「京の前の世界の記憶は、戻ってない。それに、俺たちのあいつの記憶も、ない」
 色のない声で一星は言った。
「? どういう事?」
 わけがわからずに、リオは首を傾げる。
「誰も、元の世界のあいつを知らないんだ。本人でさえ」
 一星はもう一度言った。
「つまり、私たちはこう思ってる。京は、赤夜叉の暴走を押さえるために作り出された人格だと。沙蘭は願望の実現のため、紅龍とドラゴンシティを作った。でも、深層心理では、自分の行為を恥じている。だからセーブ用に京を生み出した、と」
 キムが言い、
「もしくは、お前が、恐怖から逃れるために作りだした味方。それが京だ」
 一星が引き取った。
 わけがわからない。リオの瞳が、ろうそくの灯のように、たよりなく左右に揺れる。
「リオ……京さんは、現実にはいない。ドラゴンシティだけに存在する、実体のない存在なんだよ」
 光が、そう言い渡した。
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