感性。

文芸部員N

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 落下の中、アラームの音で目が覚めた。液晶画面は午前六時を表示している。
 さて、最期の一日が始まったのだ。

 カーテンを開けると、軽い曇り空が広がっていた。だから別にどうということは無い。
 冷蔵庫を開けて、適当な朝食を胃に放り込む。顔を洗って、歯を磨いて、髪を梳かして、黒いセーラー服に袖を通し、臙脂のスカーフをきゅるきゅると結ぶ。
 最期とて、女の子ならば可愛くありたい。だから今日は昨日買った緑のリボンで髪を結わえた。
 ほんのり色付くリップクリームを唇に添えて、今日の私が完成した。

 登校中、いつも思うのは、勝手に足が動いてしまう不思議。別に止まって引き返す事だってできるのに、私たち学生の足はすたすたと、学校という一点へ向かう。
 皆、俯いていたり、早歩きだったり、日直忘れてたと走ったり、各々が引き込まれるよう、学校へ向かっている。
 
 一限目、数学。二限目、英語。三限目、家庭科。四限目、美術。
 給食の献立はクリームシチューとパンとサラダ。
 そして私は最後の晩餐ならぬ、最期の昼餉を食べ終えた。とてもとても、美味しかった。
 五限目、国語。六限目、理科。
 
 放課後、友達との些細なお喋り。それも今日で、おしまいなのだ。

「それで、どうなったの?」

「それじゃまるで宗教よ!」

「いつかは絶対終わるでしょ」

「イルミネーションと遺跡を見てる人の感情は同じものだと思う」

「あぁ、帰らなきゃ。塾があるの」

「それじゃあ、バイバイ」

「また明日」

「また明日」


 えぇ、ばいばい、さようなら。

 六時を回った教室に西日が差す。いつの間に、晴れていたのだろう。雲は何処へ。
独り残された私は、階段を上へ上へ、軽やかに、踊るよう登った。
 立ち入り禁止と書かれた古い紙を無視して、屋上へと入る扉を開けた先に、夕日は待っていた。
 フェンスを飛び越えて、ふぅっと息を吐く。なんて綺麗な夕日だろう。

 コンクリートから足が離れて、重力に逆らわず夕日と共に落ちていく。
 私の物語から、脱出。目を閉じて、祈ろう。無事に脱出できるよう。



 落下の中、アラームの音で目が覚めた。液晶画面は午前六時を表示している。
 さて、最期の一日が始まったのだ。
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