31 / 110
それぞれの思惑
会いたくない彼
しおりを挟む
重い足取りで廊下を歩いていると、
「冬華」
背後から逢いたくない人の声がする。
「昨日から連絡しているんだけど」
立ち止まった背中に声が掛けられる。冬華は足を止め、ゆっくりと振り向いた。
「もしかして俺、避けられてる?」
いつもと変わらない笑顔で興俄は言った。
「どうしてですか」
冬華の声は震えていた。
「ん、何が?」
「私を馬鹿にして何が楽しいんですか? 北川先生との関係、何も知らないと思ってふざけるのもいい加減にしてください。先輩は私と付き合う前から北川先生と付き合っていたんでしょう」
絞り出すように冬華が告げると、一方の興俄は笑顔のまま答えた。
「前にも言ったろ。あの人とは腐れ縁だって。愛しているのはお前だけだよ」
「そんなの、口では何とでも言えますよね」
「じゃあ態度で示せ、と?」
興俄の顔から笑みが消える。彼は冬華との距離をじりじりと詰めた。冬華の足が一歩下がる。すると興俄が一歩前に出る。一歩、また一歩と後ろに下がるたびに、彼は追い詰めるように前に出た。冬華の背中が廊下の壁に当たり、もうこれ以上は逃げられなくなった時、興俄は彼女を見下ろして言った。
「これから二人で逃げるか? このまま学校を抜け出して、どこか遠くに行くか? そうすれば俺を信用するのか? お前は黙って俺についてくるのか?」
「それは……」
目の前で放たれる低い声に、冬華は口ごもる。
その時、
『冬華!』
遠くから名前を呼ばれて、冬華は顔を向ける。と、同時に興俄は溜息をつく。声を掛けたともちゃんとゆかりんが二人に駆け寄った。
「じゃあ、俺は教室に戻るから。キミたちも授業が始まるよ」
興俄は友人二人に微笑んでゆっくりと去って行った。
「あ、もしかして声掛けちゃまずかった?」
気まずそうにゆかりんが言うと、
「神冷先輩、一瞬すごく怖い顔したよね。あんな顔、初めて見た」
ともちゃんは興俄が去って行った方向を見つめている。
「え? そう? それより、冬華の具合が悪そうだって椎葉くんに聞いてさ。一緒に保健室へ行ってあげるよ」
ゆかりんは首を傾げ、冬華の腕を取った。
「ありがとう。でも、もう大丈夫だから」
「ダメ。冬華、朝から様子がおかしいよ」
「そうそう、ちょっと休んだほうが良いって」
二人に付き添われて、保健室へと向かった。
「冬華」
背後から逢いたくない人の声がする。
「昨日から連絡しているんだけど」
立ち止まった背中に声が掛けられる。冬華は足を止め、ゆっくりと振り向いた。
「もしかして俺、避けられてる?」
いつもと変わらない笑顔で興俄は言った。
「どうしてですか」
冬華の声は震えていた。
「ん、何が?」
「私を馬鹿にして何が楽しいんですか? 北川先生との関係、何も知らないと思ってふざけるのもいい加減にしてください。先輩は私と付き合う前から北川先生と付き合っていたんでしょう」
絞り出すように冬華が告げると、一方の興俄は笑顔のまま答えた。
「前にも言ったろ。あの人とは腐れ縁だって。愛しているのはお前だけだよ」
「そんなの、口では何とでも言えますよね」
「じゃあ態度で示せ、と?」
興俄の顔から笑みが消える。彼は冬華との距離をじりじりと詰めた。冬華の足が一歩下がる。すると興俄が一歩前に出る。一歩、また一歩と後ろに下がるたびに、彼は追い詰めるように前に出た。冬華の背中が廊下の壁に当たり、もうこれ以上は逃げられなくなった時、興俄は彼女を見下ろして言った。
「これから二人で逃げるか? このまま学校を抜け出して、どこか遠くに行くか? そうすれば俺を信用するのか? お前は黙って俺についてくるのか?」
「それは……」
目の前で放たれる低い声に、冬華は口ごもる。
その時、
『冬華!』
遠くから名前を呼ばれて、冬華は顔を向ける。と、同時に興俄は溜息をつく。声を掛けたともちゃんとゆかりんが二人に駆け寄った。
「じゃあ、俺は教室に戻るから。キミたちも授業が始まるよ」
興俄は友人二人に微笑んでゆっくりと去って行った。
「あ、もしかして声掛けちゃまずかった?」
気まずそうにゆかりんが言うと、
「神冷先輩、一瞬すごく怖い顔したよね。あんな顔、初めて見た」
ともちゃんは興俄が去って行った方向を見つめている。
「え? そう? それより、冬華の具合が悪そうだって椎葉くんに聞いてさ。一緒に保健室へ行ってあげるよ」
ゆかりんは首を傾げ、冬華の腕を取った。
「ありがとう。でも、もう大丈夫だから」
「ダメ。冬華、朝から様子がおかしいよ」
「そうそう、ちょっと休んだほうが良いって」
二人に付き添われて、保健室へと向かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる