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2章 希望を目指して

52話 再会とこれから

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 エリスと一緒に行動してしばらく。ついに民兵として使われていた人たちの所まで到着した。
 ルミリエが案内してくれたが、俺が出発してからも、学生ともども移動を続けていたらしい。
 ミナ達が協力してくれていて助かったな。はぐれたままになるとか、想像するだけで怖いからな。

「サクラ、ひさしぶりだな。フェミルはいるか?」

「ええ。元気にしてるわ。あんたがいない間、ユリアが大変だったんだからね。しっかり面倒を見なさいよ」

 どういうことだろうか。まあ、ユリアからは俺に対する依存のようなものを感じるから、それ絡みだろう。
 あの子は俺がどこにいても着いていくと言っていたから、離れ離れになったことが不満だったのかな。
 とはいえ、俺1人が一番効率が良かったのだから、仕方のないことだ。我慢してもらうしかない。

「じゃあ、ユリアの顔も見に行くとするか。サクラは問題なかったか?」

「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。でも、あんたのほうが気になるわよ」

 それもそうか。サクラ達が戦ったような様子はないからな。念のために確認しておきたかっただけだから、十分だろう。
 まあ、俺は問題なく勝てた。だから、サクラが気にするようなことは何も無い。

「俺も大丈夫だ。シルクの世話になる必要はない。安心してくれ」

「できれば、あたしも一緒に戦いたかったけど。まあ、潜入とあたしの能力は相性が悪いから。仕方ないわよね」

「これから何度だって頼りにさせてもらうさ。その分、サクラも俺を頼ってくれ」

「あんたはもっとあたしに頼りなさいよ。借りばっかり作るのも気分が良くないわ」

「サクラに貸しなんて無いと思うが。それに、サクラにはいっぱい助けられているぞ」

 間違いなく本音だ。サクラがいたから、俺はディヴァリアの強さを目にしても諦めずに済んだ。
 サクラがあのとんでもない強さを知っても立ち上がってくれたから。
 それに、サクラと心奏共鳴を使えたおかげで、ユリアと心奏共鳴ができたからな。あの時死なずに済んだのも、サクラのおかげだ。

 俺は何度も何度もサクラに助けられている。だから、もっとサクラの役に立ちたいだけなんだが。

「あんたは相変わらずね。でも、あんたには死んでほしくないの。だから、無理をされると困るのよ」

「俺だってサクラには死んでほしくない。だから、サクラこそ無理をするなよ」

「分かってるわ。あんた達とこれからも過ごすために、死んでなんかいられないもの」

 なら、安心だな。かつてはサクラが主人公だから死なれたくなかった。今は大切な友達だから、ずっと笑顔でいてほしい。
 短い付き合いだが、サクラは俺にとっては絶対に欠けてはいけない1人だからな。

「お互い、なんとしても生き残ろう。じゃあ、俺はフェミルに会いに行く。エリス、行こう」

「おはなしおわった? じゃあ、お姉ちゃんに会えるんだね」

「その子はフェミルの妹か何か? そっくりね」

「わたしはエリス! お姉ちゃんはサクラっていうの?」

「そうね。リオンの友達。時間を取らせて悪かったわね。フェミルも心配しているみたいだから、すぐに会ってきなさい」

「ああ、行ってくるよ。またな、サクラ」

「ええ、またね」

「じゃあね~!」

 サクラのもとから去って、フェミルのもとへと向かう。民兵たちのところへ行くと、すぐに見つかった。

「フェミル、ひさしぶりだな。エリスはここにいるぞ」

「お姉ちゃ~ん!」

「エリス!」

 駆け寄っていくエリスに、しっかりと抱きしめるフェミル。どちらも素晴らしい笑顔で、俺はわざわざ戦いに行った価値を感じ取っていた。
 やはり、フェミル達のために戦って良かった。今みたいな顔が見られるのなら、報酬には十分だよな。

「全員が無事かは分からないが、俺が行った時に生きていた人間たちは助けた。エリスもその1人だ」

「ありがとう、リオン……! おかげでエリスとまた会えた。お互いに死なずに済んだ。リオンのおかげよ」

「ああ。お前達が無事に再会できて何よりだよ。それで、これからどうするんだ? エリスには行き場がないみたいだから、フェミルと相談しようと思ってな」

「そうね。私達には親も親戚もいない。だから、2人でどうにか生きていくしか無いのよ」

「お姉ちゃん、エリスは聖女さまの孤児院にいきたい!」

 そういえば、前に話していたな。ディヴァリアだって、俺の紹介した人を殺したりはしないはず。
 だから、2人がこれからどうしようも無いのなら、悪い選択ではないと思える。
 エルザさんはとても頼りになる人だから、きっとエリスは幸せな日々を過ごせるはずだ。

「ディヴァリアの孤児院に向かうのなら、一筆書く程度のことはするぞ。どこまで効果があるのかは分からないが」

「ありがとう。なら、2人でお世話になることにするわ。力仕事が必要なら、私が役に立てるでしょうし」

「これからお姉ちゃんといっしょに居られるんだよね。たのしみ!」

「ええ。もう絶対に離れたりしない。ずっと一緒よ」

 これから2人が幸せでいられるのなら、俺が力を尽くした甲斐かいがある。やはり、誰かの笑顔は素晴らしいものだ。
 民兵達と出会った時に、話し合うという選択をして良かった。おかげで、今が心地良い。

「ルミリエ、どうやってフェミル達を孤児院まで連れていけばいいと思う?」

「ミナちゃんに頼んで人を派遣してもいいけど。どうする?」

「いえ、大丈夫。私の心奏具なら、どうにかできるわ」

「お姉ちゃんの心奏具、すごいんだよ!」

 前にもエリスが言っていたな。それほどすごい心奏具なら、俺との戦いを避けようとしたこと、エリスを助けようとしなかったことの理由が気になるな。
 とはいえ、聞いてみても良いものだろうか。何か大事な理由があるのかもしれない。

「どんなものか、見せてもらってもいいのか?」

「ええ。リオンなら構わない。怨恨うらめ――ペインオブディスタンス!」

 フェミルの頭に現れたサークレットのようなものが、心奏具なのだろう。
 飾りのような姿ということは、直接戦闘をするような能力ではないのか? 別になんでもいいか。敵ではないのだから。

「お姉ちゃん、これで色んなところに行けるんだ。おでかけしたりしたな~」

「正確に言うと、見える範囲くらいになら転移できるのよ。だから、そう時間もかからずにエインフェルト領には行けると思う」

「念のため、私とミナちゃんで案内するね。だから、リオンちゃんは安心していていいよ」

「だったら、しばらくはお別れだな。この戦争が終わったら、会いに行くよ」

「ええ、楽しみにしているわ。エリスともども、歓迎するから」

「またね、お兄ちゃん!」

 フェミルにエルザさんあての手紙を渡すと、すぐに2人は転移していった。少しだけ名残惜しいが、遠くないうちにまた会えるはずだ。その時を楽しみにしておこう。

「リオンさん、エリスの他にはどれほどの人数が無事でしたか?」

「2、30人ほどだな。正確には数えていないんだ。申し訳ない」

「いえ。それほどの人数が無事ならば、十分です。本当に、ありがとうございました。我々も故郷に帰りたいと思います」

「なら、達者でな。大変なこともあるだろうが、頑張って生き延びてくれ」

「ええ、そうします。リオンさんのことは忘れません。かならず語り継いでみせます」

「そこまでしなくてもいいぞ。ちゃんと幸せに過ごしてくれたらな」

「そんなリオンさんだからこそ、私達は救われた。このご恩に報いるためにも、無事に生き延びてみせますから」

 それから、民兵として扱われていた人々も去っていった。これで大きな仕事が終わった。だが、まだ戦いは続く。悲しいことだが、生き延びるためにも勝たないとな。
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