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2章 希望を目指して

53話 リオンの希望

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 人質を取られていた相手との戦いを避けることはできたが、次の戦いは避けられないだろうな。
 ルミリエの情報によると、帝国の将軍、アルスと言う名の男が率いる部隊がこちらに来ているとのことだ。
 そのアルスは、武芸によって成り上がった本格的な武闘派。和解など望むべくもない。

 まだぶつかるまでには時間がある。1日や2日ではない。だから、今のうちに備えをしておくつもりだった。

 とりあえずは、みんなの調子を確認しておくところだな。サクラやシルク、ミナにルミリエ、ユリアとの共同で戦うことになるだろうからな。
 マリオ達とも協力できればいいが、サクラ達は彼らとあまり親しくできていない。半端な連携をするくらいなら、別々に戦ったほうがマシだろうという判断だ。

「今回こそはリオンさんのおそばを離れませんよっ。ずっと着いていきますからっ」

「あたしだって同じよ。あんたを1人で戦わせたりはしないわ」

「同感です。本音を言えば、人質救出にもリオン君を送り出したくなかったですから」

「リオンちゃん、大変だね。でも、私も同じ気持ち。ハラハラするのは嫌だよ」

 みんな俺を大切に思ってくれているからこその言葉だから、大変だとは思わない。
 それでも、心配をかけていることへの罪悪感はある。俺が同じ立場なら、祈ることしかできないのはつらいからな。

「ああ。今度は一緒に戦おう。俺達が力を合わせたならば、きっと誰にも負けはしない」

「どんな敵でも、わたしが切り捨ててあげますねっ。リオンさんのお力になるために」

「あたしの分の敵も残しておきなさいよ。役立たずはゴメンだわ」

「反対します。手柄よりも、全員で生きのびるほうが大切ですから」

「そうだね。誰にも傷ついてほしくはないから。またキラキラした日々を過ごすためにも」

 サクラが活躍する代わりに死ぬのなら、絶対に止める。そんな形で役に立たれても、悲しいだけだ。
 俺はサクラとの日々に幸福を感じているのだから、無事でいてくれるだけで十分なんだ。もちろん、他の人達も。

 いつかディヴァリアを止めたいと思っているのは本音だ。そのために他者の協力が必要なのも。だとしても、サクラ達が傷つくのならばやめておく。
 俺の幸せの形は分かっているんだ。親しい人と穏やかな時間を過ごすこと。だから、平和を守りたい。

 ……理解できているんだ。俺の考えは矛盾だらけだと。平和がほしいのならば、ディヴァリアを全力で止めるべき。
 だけど、全く実現できていない。ただディヴァリアに流されるだけ。その場その場で場当たり的に行動しているだけ。
 民兵を助けておいて、他の帝国軍と彼らが何が違うかなど説明できない。今まで殺してきた帝国の人間たちはどうでもよかったのか?

 俺が本当にすべきことは何なのか、まるで見えてこない。希望を目指して行動しているといえば聞こえはいい。だが、結局俺はディヴァリアの手先でしかない。
 そもそも俺達が戦争を仕掛けなければ、民兵など必要なかったんだ。ディヴァリアが自作自演で戦争を引き起こしていることは悪事だと思っている。俺も同じじゃないか?
 結局、俺達が侵攻して出た被害を俺が解決するだけ。自作自演でしか無いと言われても、返す言葉を持たない。

 ユリアを助けたのだって、俺が中途半端な行動をしたからだ。そもそも、あの子が平和に過ごせる未来もあったはずなのに。

 今考えるべきではないかもしれないな。戦場に迷いを持ち込んでは、サクラ達まで危なくなってしまう。だが、俺はあくまで罪人なのかもしれない。その考えは忘れられそうにない。

「リオン? つらそうな顔をして、どうしたの? あたしで良ければ聞くわよ。あたしはリオンのおかげで幸せなの。だから、あんたの幸せに力を貸すくらい、なんてことないわ」

「わたしだって同じですっ。リオンさんのおかげで、今の幸福があるんですからっ。それに、リオンさんが苦しいと、わたしも苦しいんですっ」

「ミナちゃんも心配してるよ。いつものリオンちゃんに戻ってほしいな」

「同感です。ですが、リオン君は1人で抱え込む人ですから。悩みを話してくれる気がしません」

 そんなにシルクからは信用されていないのか。なら、少しずつでも信用を取り戻せるように、話しておこうか。
 もちろん、ディヴァリアの本性を語るわけにはいかない。問題のない部分だけを伝えるつもりだ。

「フェミル達を助けて感謝されたのはいいが、そもそも俺達が帝国を攻めなければ、人質を取られることも無かったんじゃないかと思えてな」

「帝国が私達の村を攻めてきたからじゃないですかっ。それに、リオンさんはできるだけの事をしましたよっ。その証拠に、フェミルさんたちは幸せそうでしたよっ。わたしと同じように」

「あんたが気にすることじゃないのよ。あたし達だって死ぬわけにはいかない。そのために殺すだけ。仕方のないことよ。それに、あんたはあたしに幸福をくれた。だから、それで十分よ」

「共感します。リオン君の苦しみは分かります。ですが、諦めましょう。私はリオン君に生きていてほしい。誰かを殺してでも。あなたが死んだことで生きのびる人を、私は恨むかもしれませんよ」

「そうだね。私にとっていちばん大事なのは友達だから。リオンちゃん達といっしょだから、ワクワクした気持ちで歌えるんだ」

 やはり、ディヴァリアの真実を隠したままでは全部は伝わらない。それでも、サクラ達の笑顔は俺にとって大切だ。だから、俺が死ぬ訳にはいかないよな。帝国兵を殺してでも。そのはずなんだ。

「ああ。ありがとう。お前達のために、かならずみんなで生きのびてみせる」

「十分です。リオン君は私達の中心なんですから。あなたが欠ければ、きっと私達は破綻する」

「リオンちゃんがいたから、私達は友達になれたんだもんね。ドキドキできる関係のためにも、リオンちゃんには無事でいてもらわないとね」

「リオンさんが死んだら、わたしは死にますからねっ。嫌なら、生きていてくださいねっ」

「あたし達に幸福を教えた責任、最後まで取ってもらわないとね」

 サクラの言っていることはよく分かる。一度助けた相手を半端なところで放り出すなど、助けないことよりも罪深い。
 だからこそ、これからもみんなに幸せでいてもらうために、生きなければならない。
 ユリアなど、俺が死ねば死ぬのだと言っているのだ。冗談だとは思えない。シャーナさんの件もある以上、何が何でも生きてやる。

「これから先に素晴らしい未来を作るためにも、俺は生きて新しい希望を目指してみせる。きっとみんなとなら、夢見たような世界にできるはずだから」

 ディヴァリアが悪事をやめ、俺達で平和な時間を過ごす日々をつかみ取りたい。そのためにも、ディヴァリアに匹敵するだけの名声がほしい。
 俺の名のもとに、平和を求める活動をする目的のために。そうすれば、俺は未来にまで希望を残すことができるはずだから。

 俺自身が直接何かをせずとも、世界に希望が生まれるのなら、きっとそれ以上はない。
 今まで曖昧あいまいだった誰かの希望という目的に、形が生まれたような気がする。
 いつか未来の平和のために、今を生きなくては。帝国軍を仕留めることは悲しいが、未来のためだ。

「そんな日が訪れたのなら、あんたに言いたいことがあるわ。答えは分かりきっているけれど、どうしても伝えたい言葉があるから」

「サクラがそんなに言いたいことか。楽しみだな。だが、まずは今の戦いに勝ってからだな」

「ええ、そうね。きっとあんたは驚くでしょうね。その時の顔、きっと見ものだわ」

 サクラはどんな思いを伝えようとしているのだろうな。まだ先の話だろうから、ゆっくり待つとするか。
 これから先も厳しい戦いが待ち受けているだろうが、みんなとならば、きっと乗り越えられる。
 いつかやってくる平和な未来のために、全力を尽くそう。
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