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第1章 緋王氷利
第2話 ふたりの出会い
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私と彼が出会ったのは、私が14歳になった年の夏。
私が、村の近くの川辺に水を汲みに行ったとき。
私の家は、都から遠く離れた村にあって、そこは国の中でもかなり貧しい地域だった。
井戸、なんてものもなかったから、私は1日に3度、川辺に水を汲みに行っていた。
家族みんな、働ける人間は働く。
できることをする。
それが貧しい村では当たり前のことだった。
だから私も、私ができることならなんでも手伝った。
1日に3度の水汲み、お料理、お洗濯、お裁縫……。
家族みんなが働いて、やっとその日を過ごせる日々。
それが当たり前の生活だった。
そして、緑の生い茂る夏の暑い日に、私と彼は出会った。
その日の2度目の水汲みで、川辺まで行くと、朝とは違う、いつもとは違う光景が広がっていて……。
正確には見慣れない人が1人立っていただけで、他に変わったところは1つもなかったけれど、その人がいるだけですべてが変わって見えた。
白銀の長い髪を微かに吹き抜ける風になびかせて、じっと佇むその姿はどこか煌々と輝いて見えて、その周りの景色さえも巻き込んでいるように見えた。
村では見かけることのない、立派な身なりのせいかもしれないと思ったけれど、服装なんてものは関係なくて、その人が持つ独特の雰囲気がそう見せていた。
最初、私は彼のことを都から来ただけの物好きなお金持ちだと思った。
貧しい村に好き好んで足を運ぶなんて、物好き以外に考えられなかったから。
ふと、ずっと佇んでいた彼が動き出して、私の方へと歩いて来た。
なにごとかと思った。
けど同時に、私みたいな貧しい身なりが物珍しいのかと思った。
だって彼は、貧しいとは無縁の本当に立派でキラキラした服をまとっていたから。
彼は、私の目の前まで来ると立ち止まって言った。
「キミは、この辺に住んでるの?」
近くで見ると、とても綺麗な人だった。
紅い瞳が、魅力的な人。
私は、彼の言葉に頷いた。
「そう」
彼は呟くと、続けてこう聞いてきた。
「ここの水を汲みに来たの?」
答えはもちろん決まっている。
ここでしか、水は手に入らないから。
「いつも、ここの水を汲んでいるの?」
なぜ彼が、そんな質問をするのかわからなかった。
けど、私は正直に答えた。
毎日、1日に3度、水を汲みに来ていると。
「キミ、名前は?」
「さくらの……白羽桜ノ」
名前を聞かれて、私が答えて、たぶん、それがすべての始まり。
もしかしたら、私が彼を見た瞬間から……。
もしかしたら、彼があの川辺に立った瞬間から、すべては始まっていたのかもしれないけれど……。
「そう。いい名前だ」
彼のそのひと言で、なぜか心臓が波打った。
けど、たぶん、名前を気に入ってもらえたのが嬉しかったんだと思う。
「桜ノ」なんて変だって、よく言われていたから……。
お母さんをバカにされているみたいで、悲しかった。
名前を気に入ってもらえて、お母さんを褒めてくれたみたいで、嬉しかった。
「けど、ちょっと怖いな……」
彼は言った。
「遠くに……手の届かないくらい遠くに行ってしまいそうだ」
そう言う彼の目は少し悲しそうで、だから私は彼に言った。
「どこにも行かないよ?」
そうしたら彼は、今度は目を見開いて、驚いたような顔をして……けどすぐ笑ってくれた。
すごく綺麗な笑顔で、つい心臓がドキリとしてしまった。
「うん」
頷く彼はもう、悲しそうな顔ではなくて安心した。
「じゃあ、俺はもう行かないと。話ができてよかった」
そう言い残して、彼は立ち去った。
それからしばらくして、夏の終わりの秋にさしかかろうというころに、再び彼と出会った。
「桜ノ」
と、先に声をかけてきたのは彼のほう。
「俺のこと、覚えてる?」
なんて、こんなにも綺麗な人を忘れるはずがないのに。
「うん。夏にここで会った」
そう答えると、彼は嬉しそうに笑った。
やっぱり、綺麗な笑顔だった。
「寒くないの?」
次に彼が言ってきた言葉は、私を気遣ってくれるものだったけど、それがとても悲しく思えた。
「寒く、ないよ。慣れてるから」
毎年味わってる寒さだから、これが当たり前。
それに、これからもっと寒くなる。
彼はきっと、寒さとは無縁の生活を送ってきた人。
だから、もしかしたらこの土地の気候は彼には寒いのかもしれないと、彼を少し心配した。
「寒いの?」
逆に私が聞いてみると、彼はなぜか悲しそうな顔をした。
「俺は平気」
そう答える彼は笑っていたけど、やっぱり悲しそうな顔をした。
「水汲み、手伝おうか」
突然彼が立ち上がって、そんなことを言い出して……。
どういうわけか、私の記憶はここで途切れていて、曖昧になっている。
そのあとの出来事で、はっきりとしている記憶は彼が私に言った言葉。
「桜ノは今から俺の恋人。桜ノが満足する以上に愛してみせるから、ね?」
彼のその言葉の意味が理解できなかったことも、なんの冗談かと思って彼を見つめていたことも覚えている。
「ここに、誓いの口づけを」
なんて言って、本当に、キス、してきて……。
心臓が壊れるかと思ったことも、覚えているけど……。
そのあと、どういう経緯で私が彼のお屋敷に住まうことになったのかも、私は覚えていない……。
私が、村の近くの川辺に水を汲みに行ったとき。
私の家は、都から遠く離れた村にあって、そこは国の中でもかなり貧しい地域だった。
井戸、なんてものもなかったから、私は1日に3度、川辺に水を汲みに行っていた。
家族みんな、働ける人間は働く。
できることをする。
それが貧しい村では当たり前のことだった。
だから私も、私ができることならなんでも手伝った。
1日に3度の水汲み、お料理、お洗濯、お裁縫……。
家族みんなが働いて、やっとその日を過ごせる日々。
それが当たり前の生活だった。
そして、緑の生い茂る夏の暑い日に、私と彼は出会った。
その日の2度目の水汲みで、川辺まで行くと、朝とは違う、いつもとは違う光景が広がっていて……。
正確には見慣れない人が1人立っていただけで、他に変わったところは1つもなかったけれど、その人がいるだけですべてが変わって見えた。
白銀の長い髪を微かに吹き抜ける風になびかせて、じっと佇むその姿はどこか煌々と輝いて見えて、その周りの景色さえも巻き込んでいるように見えた。
村では見かけることのない、立派な身なりのせいかもしれないと思ったけれど、服装なんてものは関係なくて、その人が持つ独特の雰囲気がそう見せていた。
最初、私は彼のことを都から来ただけの物好きなお金持ちだと思った。
貧しい村に好き好んで足を運ぶなんて、物好き以外に考えられなかったから。
ふと、ずっと佇んでいた彼が動き出して、私の方へと歩いて来た。
なにごとかと思った。
けど同時に、私みたいな貧しい身なりが物珍しいのかと思った。
だって彼は、貧しいとは無縁の本当に立派でキラキラした服をまとっていたから。
彼は、私の目の前まで来ると立ち止まって言った。
「キミは、この辺に住んでるの?」
近くで見ると、とても綺麗な人だった。
紅い瞳が、魅力的な人。
私は、彼の言葉に頷いた。
「そう」
彼は呟くと、続けてこう聞いてきた。
「ここの水を汲みに来たの?」
答えはもちろん決まっている。
ここでしか、水は手に入らないから。
「いつも、ここの水を汲んでいるの?」
なぜ彼が、そんな質問をするのかわからなかった。
けど、私は正直に答えた。
毎日、1日に3度、水を汲みに来ていると。
「キミ、名前は?」
「さくらの……白羽桜ノ」
名前を聞かれて、私が答えて、たぶん、それがすべての始まり。
もしかしたら、私が彼を見た瞬間から……。
もしかしたら、彼があの川辺に立った瞬間から、すべては始まっていたのかもしれないけれど……。
「そう。いい名前だ」
彼のそのひと言で、なぜか心臓が波打った。
けど、たぶん、名前を気に入ってもらえたのが嬉しかったんだと思う。
「桜ノ」なんて変だって、よく言われていたから……。
お母さんをバカにされているみたいで、悲しかった。
名前を気に入ってもらえて、お母さんを褒めてくれたみたいで、嬉しかった。
「けど、ちょっと怖いな……」
彼は言った。
「遠くに……手の届かないくらい遠くに行ってしまいそうだ」
そう言う彼の目は少し悲しそうで、だから私は彼に言った。
「どこにも行かないよ?」
そうしたら彼は、今度は目を見開いて、驚いたような顔をして……けどすぐ笑ってくれた。
すごく綺麗な笑顔で、つい心臓がドキリとしてしまった。
「うん」
頷く彼はもう、悲しそうな顔ではなくて安心した。
「じゃあ、俺はもう行かないと。話ができてよかった」
そう言い残して、彼は立ち去った。
それからしばらくして、夏の終わりの秋にさしかかろうというころに、再び彼と出会った。
「桜ノ」
と、先に声をかけてきたのは彼のほう。
「俺のこと、覚えてる?」
なんて、こんなにも綺麗な人を忘れるはずがないのに。
「うん。夏にここで会った」
そう答えると、彼は嬉しそうに笑った。
やっぱり、綺麗な笑顔だった。
「寒くないの?」
次に彼が言ってきた言葉は、私を気遣ってくれるものだったけど、それがとても悲しく思えた。
「寒く、ないよ。慣れてるから」
毎年味わってる寒さだから、これが当たり前。
それに、これからもっと寒くなる。
彼はきっと、寒さとは無縁の生活を送ってきた人。
だから、もしかしたらこの土地の気候は彼には寒いのかもしれないと、彼を少し心配した。
「寒いの?」
逆に私が聞いてみると、彼はなぜか悲しそうな顔をした。
「俺は平気」
そう答える彼は笑っていたけど、やっぱり悲しそうな顔をした。
「水汲み、手伝おうか」
突然彼が立ち上がって、そんなことを言い出して……。
どういうわけか、私の記憶はここで途切れていて、曖昧になっている。
そのあとの出来事で、はっきりとしている記憶は彼が私に言った言葉。
「桜ノは今から俺の恋人。桜ノが満足する以上に愛してみせるから、ね?」
彼のその言葉の意味が理解できなかったことも、なんの冗談かと思って彼を見つめていたことも覚えている。
「ここに、誓いの口づけを」
なんて言って、本当に、キス、してきて……。
心臓が壊れるかと思ったことも、覚えているけど……。
そのあと、どういう経緯で私が彼のお屋敷に住まうことになったのかも、私は覚えていない……。
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