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2 近江花音は小学生

1.カラフルな灰色(2)

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 00年7月21日金曜日。

 終業式で、学校が午前で終わる今日も私はママのお迎えで家に帰る。

「ただいま、ママ」

「お帰りなさい、花音ちゃん」

 車のドアを開けると、いつもと同じに迎えてくれるママ。

 助手席に乗り込んで、シートベルトを締めると車は動き出す。

 ――今日、いる……。

 動き出す車の中から外を見ると、去年まで毎日のように見かけていた男の子が、門の前に立っているのが見えた。

 去年までとは制服が違っているから、彼は中学生になったんだとわかる。

 私が通う、桜月学園付属桜ノ女子小学校の近くにある、桜月学園付属月ノ男子中学校の制服だ。

 桜月学園の初等部から付属の男子中学校に進学したんだ、とそんなことを思う。

 私はたぶん、このまま進学して来年には桜ノ女子中学校の制服を着るんだろうな、なんて。

「花音ちゃん、お昼は英会話教室の近くに新しくできたお店に行こうと思うんだけど、どうかな?」

 運転をしながら言うママに、私は窓の外の男の子から目線を外した。

 ママが家とは反対の方向にハンドルを切った。

「英会話教室は5時からなのに?」

 今から英会話教室の近くまで行っても、お昼を食べたあとはどんなに頑張ってゆっくり食べても3時間は待つことになってしまう。

「いつもの英会話教室は5時からだけど、夏休みの間だけグループレッスンがあるの。2時から説明会と体験教室があるから時間のことは心配しなくて大丈夫」

 ――グループレッスン……。

 頭の中で、ママの言葉を繰り返す。

「ママ」

「なあに?」

 ママは前を見たまま返事をする。

「月曜日はピアノでしょ、火曜日はお習字で、水曜日はバレエで、木曜日は声楽で、金曜日が英会話で、土曜日がお茶とお花で、日曜日はバレエで……」

 指を折りながら、1週間の習いごとを並べていく。

「グループレッスンに行ける日、ないよ?」

 1週間は7日間。

 折られた7本の指を見て、1週間のすべてに習いごとがあることを実感した。

「大丈夫よ。夏休みだもの」

 ママは言う。

「学校がお休みだから、学校の時間にレッスンするの。バレエ教室と同じだから、心配しなくていいのよ」

「……そっか」
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