【完結】AnimaRoom

桐生千種

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ミヨちゃんは居候

2.懐かれた!? 魔法の薬

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 まさか、ご飯もお風呂もご勝手に、だとは思わなかった。

 一応家主にお断りを、と思ったのに……。

「……今、忙しい。勝手にしてって言ったはずだよ」

 と、扉をほんの少しだけ開けて、あの前髪で隠された顔を覗かせて、ホラー映画ばりの恐怖だった。

 本気で泣きそうになった……。

 お言葉に甘えて、ご飯もお風呂もお先にいただいてしまった。

 一応、ご飯はふたり分つくっておいたけど……。

 やっぱり、居候させてもらうのに自分の分だけつくって「はい終わり」って言うのは、さすがにダメだよね。

 でも、「ご飯どうぞ」って言いに行く勇気はない……。

 だってさっき、本当に怖かったんだもん!!

 テーブルにおいておけば、ここに来たときに気づくよね。

 うん。

 それにしても、喉乾いた……。

 冷蔵庫を開けて、ジュースを探す。

 さっき、ご飯をつくるときに見つけたジュース。

 勝手に、って言ってたし。

 明日、同じの買ってくればいいよね。

 ――あれ?

 さっきあったジュースが見当たらない。

 ――飲まれちゃったかな……?

 いや、ここは私の家じゃないし。

 そもそも買って来たの探さんだし。

 飲まれていても文句は言えない。

 でも代わりに、さっきはなかった小さな瓶が入っていた。

 栄養ドリンクみたいな瓶で、ラベルは……貼ってない。

 ――もらっちゃってもいいかな……?

 いいよね?

 ラベル貼ってないし。

 明日、同じの買って返そう。

 ゴクン――

「おおっ!!」

 おいしい!!

 初めての味!!

 これはリピーターしよう!!

 どこに売ってるのかな?

 家の近所のコンビニとかスーパーじゃ、見たことないけど。

 ダンッ!!

「っ!? ゲホッ!! コホッコホッ」

 突然、なにごと?

 この家にいるのは、私と。

「飲んだの!?」

 この人――家主の探さんだけで……。

「ダメ、でしたか……?」

 探さん、こんなに素早く、力強く動けたんだ……。

「……あ、いや。飲んじゃったものは仕方ないよね」

 あれ?

 なにか、さっきと雰囲気が違うような……?

「それより、体調とか、どう? 具合悪くない?」

「へ? 別に、なんともないですけど」

 ――た、体調って、なに? もしかしてこれ、ヤバイヤツ、だった?

「そう、よかった」

 ――わあ……。

 笑った。

 初めて、前髪で隠れていた顔を見せて、私を見て、笑った。

 しかも超カッコイイ。

 親戚にこんなカッコイイ人、いたんだ。

「ミヨちゃん」

「はい?」

 ――ん? なんだろう、この違和感。

「ミヨちゃんって、可愛いよね」

「……はい!?」

 ど、どうしたの探さん!?

 どうしちゃったの!?

「髪、まだ濡れてるね。俺が乾かしてあげる」

 ま、まさか……。

「あのっ!」

「ん?」

 返事をするのは、さっきとはまるで別人、のような同じ人。

「つかぬことを、伺いますが、これは一体どういった飲み物だったのでしょうか」

 持っていた、飲んでしまったジュースの瓶を見せる。

「それ? 俺がつくった。好かれる薬。動物にね。それよりほら、髪乾かさないと」

 ――つくった。

 ――好かれる、薬。

 ――動物に……。

 人間(動物)に好かれた!?


「見つけた!! いい匂いのヤツ!!」

「えええええ!?」

 この家には、私と探さんのふたりだけだと思っていた。

 だけど、実際にはもうひとり男の子がいて……。

 抱き付かれている。

 なぜ!?

「なに? いたの?」

「待ってよぅ。おいてかないでよぅ」

「もう、騒がしいわねぇ」

 前言撤回。

 ひとりどころではありませんでした。
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