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01 どこかにある今
01
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青く、澄んだ空が続いていた。
地上を照らす太陽が、眩しく輝いていた。
ひとりの少女が、空を見上げていた。
真っ黒な髪と、真っ黒な瞳。
それは、旧人類ヒトと呼ばれる側の人間の子供だった。
「はい、トモちゃん!」
少女が見上げていた空にから降りて来た少年は、そう言って少女に帽子を手渡した。
ふわふわとした茶色い髪と空色の瞳。
何より、その少年が空から落下するでもなく舞い降りて来たことは、その少年が新人類ネオと呼ばれる側の人間の子供であることの何よりの証明だった。
「シロくん、ありがとう!」
帽子を受け取った少女は、顔を綻ばせた。
飛ばされた帽子を、自分のために取って来てくれたことが嬉しかった。
「だって僕は、空を飛べるネオだからね! トモちゃんの帽子が飛んでいったときは、空を飛べる僕が取りに行かなくちゃ!」
少年は誇らしげに胸を張った。
「トモちゃんの帽子が飛んでいったら、どこにいっても絶対僕が取って来てあげるからね!」
「うん!」
少女はただ、少年のその気持ちが嬉しかった。
嬉しかったから、少女は言った。
「ねぇ、シロくん」
「なあに?」
「シロくんが、トモちゃんの帽子を取って来てくれるなら、トモちゃんはシロくんに何ができる?」
「ん?」
少女は、自分の気持ちを伝えようと、一生懸命に話した。
少年は、その空色の瞳に少女の姿をしっかりと映して紡がれる言葉を聞いていた。
「あのね、お礼がしたい。トモちゃんは、シロくんのために何ができる?」
「トモちゃんが、僕のために?」
少年は、少女の言葉を聞き返して目を大きく見開いた。
そして――
「あはははははっ!」
少年は笑い出した。
そんな少年の様子を、少女はキョトンと見つめることしかできなかった。
「どうしたの? トモちゃん、変なこと言った?」
不安げに聞く少女に、少年はなおも笑い続けた。
「だってさ……」
少年は、耐えきれないというように笑い声をたてながら言葉を紡いだ。
「トモちゃんはネオじゃないのに、僕のために一体何ができるって言うの?」
「あははっ!」と少年は笑い続けた。
「じゃあ、トモちゃんは、シロくんにできること、何もないの? トモちゃんができることは何もないの?」
少女の表情は、歪んでいった。
「当たり前じゃん、バカだなあ!」
少年は言った。
「トモちゃんはネオじゃなくて、ただのヒトなんだよ? 何の能力も持たないトモちゃんが、僕のためにできることなんてあるわけないじゃん!」
少年に、悪意はなかった。
ただ純粋に、ネオにはヒトにはない能力があってネオの能力はヒトが持つことのできない能力だと、事実を述べただけのつもりだった。
けれど、少年のその言葉は、ヒトよりもネオの方が優れていると、能力を持つネオよりも能力を持たないヒトは劣っていると、そう捉えられかねない言葉だった。
その言葉が、少女の心を傷つけていることに少年は気が付かなかった。
「だから、トモちゃんが困ったときは、僕に言って! 僕はネオだから、能力のないトモちゃんを助けてあげる!」
少年にとっては、優しさのつもりだった。
困っているから助ける。
たとえそれがネオでもヒトでも、少年にとっては関係なかった。
けれど、その気持ちが少女に伝わることはなかった。
「そんなの、いらない……」
くるりと、少女は少年已背を向けた。
「どうしたの? トモちゃん?」
少年は、首を傾げるだけだった。
「……帰る」
今にも、こぼれ落ちてしまいそうな涙を耐えて少女は歩き出した。
「どうして? もっと遊ぼうよ! まだ、こんなに明るいよ? また、空のお散歩に連れて行ってあげるからさ! ねぇ、ってば!」
少年は、少女んp異変に気づかなかった。
少女は、少年の呼びかけに答えることなく、1人で歩いて行ってしまった。
「変なトモちゃん……」
少年は呟いて、諦めたように少女に背を向けた。
少年が歩き出した方角は、少女が歩いて行った方角とは逆の方向だった。
地上を照らす太陽が、眩しく輝いていた。
ひとりの少女が、空を見上げていた。
真っ黒な髪と、真っ黒な瞳。
それは、旧人類ヒトと呼ばれる側の人間の子供だった。
「はい、トモちゃん!」
少女が見上げていた空にから降りて来た少年は、そう言って少女に帽子を手渡した。
ふわふわとした茶色い髪と空色の瞳。
何より、その少年が空から落下するでもなく舞い降りて来たことは、その少年が新人類ネオと呼ばれる側の人間の子供であることの何よりの証明だった。
「シロくん、ありがとう!」
帽子を受け取った少女は、顔を綻ばせた。
飛ばされた帽子を、自分のために取って来てくれたことが嬉しかった。
「だって僕は、空を飛べるネオだからね! トモちゃんの帽子が飛んでいったときは、空を飛べる僕が取りに行かなくちゃ!」
少年は誇らしげに胸を張った。
「トモちゃんの帽子が飛んでいったら、どこにいっても絶対僕が取って来てあげるからね!」
「うん!」
少女はただ、少年のその気持ちが嬉しかった。
嬉しかったから、少女は言った。
「ねぇ、シロくん」
「なあに?」
「シロくんが、トモちゃんの帽子を取って来てくれるなら、トモちゃんはシロくんに何ができる?」
「ん?」
少女は、自分の気持ちを伝えようと、一生懸命に話した。
少年は、その空色の瞳に少女の姿をしっかりと映して紡がれる言葉を聞いていた。
「あのね、お礼がしたい。トモちゃんは、シロくんのために何ができる?」
「トモちゃんが、僕のために?」
少年は、少女の言葉を聞き返して目を大きく見開いた。
そして――
「あはははははっ!」
少年は笑い出した。
そんな少年の様子を、少女はキョトンと見つめることしかできなかった。
「どうしたの? トモちゃん、変なこと言った?」
不安げに聞く少女に、少年はなおも笑い続けた。
「だってさ……」
少年は、耐えきれないというように笑い声をたてながら言葉を紡いだ。
「トモちゃんはネオじゃないのに、僕のために一体何ができるって言うの?」
「あははっ!」と少年は笑い続けた。
「じゃあ、トモちゃんは、シロくんにできること、何もないの? トモちゃんができることは何もないの?」
少女の表情は、歪んでいった。
「当たり前じゃん、バカだなあ!」
少年は言った。
「トモちゃんはネオじゃなくて、ただのヒトなんだよ? 何の能力も持たないトモちゃんが、僕のためにできることなんてあるわけないじゃん!」
少年に、悪意はなかった。
ただ純粋に、ネオにはヒトにはない能力があってネオの能力はヒトが持つことのできない能力だと、事実を述べただけのつもりだった。
けれど、少年のその言葉は、ヒトよりもネオの方が優れていると、能力を持つネオよりも能力を持たないヒトは劣っていると、そう捉えられかねない言葉だった。
その言葉が、少女の心を傷つけていることに少年は気が付かなかった。
「だから、トモちゃんが困ったときは、僕に言って! 僕はネオだから、能力のないトモちゃんを助けてあげる!」
少年にとっては、優しさのつもりだった。
困っているから助ける。
たとえそれがネオでもヒトでも、少年にとっては関係なかった。
けれど、その気持ちが少女に伝わることはなかった。
「そんなの、いらない……」
くるりと、少女は少年已背を向けた。
「どうしたの? トモちゃん?」
少年は、首を傾げるだけだった。
「……帰る」
今にも、こぼれ落ちてしまいそうな涙を耐えて少女は歩き出した。
「どうして? もっと遊ぼうよ! まだ、こんなに明るいよ? また、空のお散歩に連れて行ってあげるからさ! ねぇ、ってば!」
少年は、少女んp異変に気づかなかった。
少女は、少年の呼びかけに答えることなく、1人で歩いて行ってしまった。
「変なトモちゃん……」
少年は呟いて、諦めたように少女に背を向けた。
少年が歩き出した方角は、少女が歩いて行った方角とは逆の方向だった。
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