【完結】EACH-その先の未来-

桐生千種

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04 紡がれる未来

01

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 コツン、コツンと窓を叩いた。
 月明かりの照らす静かな夜に、シロエはヒトの住む住宅街まで来ていた。

 目的の部屋を見つけ、静かに、けれどもその部屋の住人には気づいてもらえるように、コツン、コツンと窓を叩いた。

 そって、静かに、人の動く気配を感じ取り、シロエは窓を叩くのをやめた。

 静かにカーテンが動き、隙間から覗かれた黒い瞳とシロエの空色の瞳の視線がぶつかった。
 黒い瞳の少女――トモコは驚き、迷うことなく窓を開けた。

「シロくんっ」

 思わず声を出したトモコに、シロエは人差し指を立てた。

「しー。静かに。みんなが起きちゃうよ」

 コソコソ、ヒソヒソと話すシロエに習って、トモコも小さな声を出した。

「どうしたの? 怒られちゃうよ?」

 もう、夜も遅かった。
 こんな時間に子供が出歩いていることは褒められることではなかった。

 その上、ネオであるシロエは夜の外出が厳しく禁じられていると、ヒト社会で育てられているトモコでも知っていた。

「うん。でも、どうしてもトモちゃんに謝りたくて」
「トモちゃんに?」

 シロエの言葉に、トモコはキョトンとした目を向けた。

 そのために、わざわざ怒られる危険を冒してまでここまできたのか、と。
 そこまでして、謝ってもらうようなことがあっただろうか、と。

「僕ね、トモちゃんにひどいことを言うつもりなんてなかったんだ」

 「ひどいこと」と言われても、トモコにはピンと来なかった。

 けれど、シロエは続けた。

「僕は毎日、トモちゃんが遊んでくれてすごく嬉しいから。お礼をしなくちゃいけないのは僕のほうなんだ。だから、お礼なんて考えなくていいって、そう言いたくて。ひどいことを言って、ごめんなさい……」

 そう言って項垂れるシロエに、トモコはニコリと笑って見せた。

「いいよ。シロくんが来てくれたんだもん」

 シロエの話を最後まで聞いて、トモコは昼間の出来事を思い出した。

 確かに、昼間は怒って帰ってしまったけれど、そのあと母親に言われたことのほうが強烈にトモコの心を支配していた。

『あんな子と仲良くしていたら、トモコが不幸になる』

 母親は、はっきりとそう言った。

 ヒトの多く、特に大人は、ネオの存在に否定的だった。

 けれど、トモコはそれを信じたくはなかった。
 トモコにとってはネオであってもなくても、ヒトであってもなくても、シロエは大切な友達だった。

「トモちゃん、嬉しいよ」

 ニコニコと、トモコは笑った。

「本当?」
「うん」
「よかった」

 シロエは安心したように息を吐いた。
 けれど、思い出したようにもう1度息をつめた。

「あのね、トモちゃん」

 シロエは真剣な眼差しでトモコを見た。

「もし、許してくれるなら」

 シロエの真剣な眼差しに。トモコもしっかり聞かなくてはとシロエを見返した。
 無意識に、肩に力が入った。

「ずっと、僕と友達でいてください」

 頭を下げてみせたシロエに、トモコは笑って「なんだ、そんなことか」と肩の力を抜いた。

「うん。明日も明後日も、大人になってもずっとずっと友達だよ」

 トモコが差し出した小指に、シロエも自分の小指を差し出した。

 互いに小指を絡め合い、交わされた約束の指切りを、月だけが見守っていた――
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