【完結】守り姫[完全版]

桐生千種

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2章 眠り続ける少女

3.声を聞いた大人

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 俺はな、この子の声を聞いたんだ。

 その日も変わらず、少女を見舞いに来た少年におじさんは話し始めた。

 あのとき、俺たちはどうかしていたんだ。

 子供たちを閉じ込めて火をつけるなんて、どう考えても正気の沙汰じゃない。

 だけど、どうしても、怖かった。
 わからなかった。

 俺たちとは違うこの子が、俺たちにできないことをしてしまうこの子が、何なのか。

 眩しいくらいに燃え盛る炎を見て、これでようやく安心できると思った。

 全て無くなる。

 わけのわからない力に怯えて過ごすことはない。

 だけど、安心するどころか焦りと恐怖でどうにかなりそうだった。

 こんなことをして、仕返しされるんじゃないかって。

 少年は、そう話すおじさんに怒りが沸いた。
 怒鳴りつけそうになるのを抑えることができたのは、すぐ目の前で少女が眠っていたからだ。

 でも、この子はそんなことする子じゃないよな……。

 ぽつりと言うおじさんの言葉を聞いても、少年の怒りは収まりそうになかった。

 俺、聞いたんだ。
 この子が、みんなを助けてって言ったのを。

 自分じゃないんだ。
 自分じゃなくて、みんなを助けてって。

 子供たちだけじゃなくて、俺たち大人のことも。

 自分はどうなんだよって、助からなくてもいいのかって。

 小屋の扉をこじ開けてこの子が倒れているのを見たら、死んじまったのかと、殺しちまったのかと思った。

 他にも、この子の声を聞いたって奴がいたけど、そいつが聞いたのは「ごめんなさい」だったって。

 違うだろ?
 謝るのは俺たちの方だ。

 今度はちゃんと、村の大人としてちゃんとするから、もう1度やり直させてくれ。

 おじさんが頭を下げる少女は、その日もまだ眠り続けた。
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