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第1話 箱入りの姫君
姫君の従者2
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龍麗がいる部屋を出た優雅は、真っ直ぐに厨房へと向かう。
すれ違うような使用人はいない。
龍を背負う一族の次期当主――龍麗の教育係を任される優雅が厨房に立つなど、他所の一族から見ればあり得ないことだろう。
けれど、優雅にとってはこれが日常だった。
住まう人数に対して広すぎる屋敷は、他所の家から使用人を雇い入れるようなことはしていない。
優雅を除いた他の従者たちが屋敷を空けている日中、厨房へと向かう優雅とすれ違うような人物は現れなかった。
広すぎる厨房にも慣れたもの。
慣れた手つきで優雅はお茶とお菓子を用意する。
「龍麗のおやつ?」
不意にかけられた声に、優雅は驚くことなく振り返った。
「はい。今日は、みんな帰りが遅いようで」
困ったものだと言うように、優雅は肩をすくめた。
その視線の先には、優雅のよく知る見慣れた男――龍雅(りゅうが)が立っていた。
「龍麗様のお心を、少しでも紛らわせて差し上げられればと」
そう言った優雅は、手元へと視線を落とす。
いいころ合いにお茶の香りが立った。
ふと、優雅が顔をあげる。
「ご一緒なされますか?」
龍雅は、まだ当主になるには幼い龍麗の代わりに当主としての役目を果たす当主代理だ。
いつも忙しくしている龍雅が厨房に来てのんびり優雅と会話をしているということは、今は時間に余裕があるのだろう。
龍雅にとっても、龍麗とお茶をする時間は何より心が休まるに違いない。
たとえ、龍麗が好む甘いお菓子を龍雅は苦手としていても。
「……そうだね」
答えた龍雅は、自分の茶器を取り出した。
「キミもどう?」
そう聞く龍雅に、優雅はにこやかに首を振る。
「甘いものは得意ではないので」
「そう……。昔は好んでいたのにね」
「私も大人になったんですよ」
思えばお茶菓子の取り合いに参加するほどに甘いものを好んでいた幼い日。
その日々が懐かしいと思うくらいには、ときは流れ人を変えていた。
無邪気さを残していた日々を思い起こし、もう戻ることのないその日々は立ち上るお茶の香りの中に溶けていった。
すれ違うような使用人はいない。
龍を背負う一族の次期当主――龍麗の教育係を任される優雅が厨房に立つなど、他所の一族から見ればあり得ないことだろう。
けれど、優雅にとってはこれが日常だった。
住まう人数に対して広すぎる屋敷は、他所の家から使用人を雇い入れるようなことはしていない。
優雅を除いた他の従者たちが屋敷を空けている日中、厨房へと向かう優雅とすれ違うような人物は現れなかった。
広すぎる厨房にも慣れたもの。
慣れた手つきで優雅はお茶とお菓子を用意する。
「龍麗のおやつ?」
不意にかけられた声に、優雅は驚くことなく振り返った。
「はい。今日は、みんな帰りが遅いようで」
困ったものだと言うように、優雅は肩をすくめた。
その視線の先には、優雅のよく知る見慣れた男――龍雅(りゅうが)が立っていた。
「龍麗様のお心を、少しでも紛らわせて差し上げられればと」
そう言った優雅は、手元へと視線を落とす。
いいころ合いにお茶の香りが立った。
ふと、優雅が顔をあげる。
「ご一緒なされますか?」
龍雅は、まだ当主になるには幼い龍麗の代わりに当主としての役目を果たす当主代理だ。
いつも忙しくしている龍雅が厨房に来てのんびり優雅と会話をしているということは、今は時間に余裕があるのだろう。
龍雅にとっても、龍麗とお茶をする時間は何より心が休まるに違いない。
たとえ、龍麗が好む甘いお菓子を龍雅は苦手としていても。
「……そうだね」
答えた龍雅は、自分の茶器を取り出した。
「キミもどう?」
そう聞く龍雅に、優雅はにこやかに首を振る。
「甘いものは得意ではないので」
「そう……。昔は好んでいたのにね」
「私も大人になったんですよ」
思えばお茶菓子の取り合いに参加するほどに甘いものを好んでいた幼い日。
その日々が懐かしいと思うくらいには、ときは流れ人を変えていた。
無邪気さを残していた日々を思い起こし、もう戻ることのないその日々は立ち上るお茶の香りの中に溶けていった。
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