【完結】龍の姫君-序-

桐生千種

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第4話 従者と姫君

偽りの気持ち

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 4日目。

 龍麗が龍雅の私室を出ることを許された。

「本当に行くの? 無理していかなくてもいいんだよ?」

 龍雅は言う。

 まるで、学舎へ向かおうとする龍麗を引き留めるように。

「私が、行きたいって、言った、から……。最後まで、ちゃんと通いたい、です……」

 俯いて答える龍麗は何かに――龍雅に怯えるように、慎重に言葉を選んでいる。

「そう。龍麗は頑張り屋さんだね。えらい、えらい」

 よしよし、とあくまでも優しく、龍雅は龍麗の頭を撫でた。

「優雅を迎えに行かせるから、授業が終わったら早く帰っておいで。愛してるよ」

「はい……」

「……」

 俯き、それ以上の言葉を発そうとしない龍麗を見つめる龍雅は、その言葉の続きを待つ。

「龍麗」

 言うべき言葉がまだあるだろうと、咎めるように名を呼ぶ龍雅に、龍麗はビクリと肩を震わせた。

「っ……、わ、たしも……、愛してます……」

 心の籠らない、ただ言わされているだけの音の羅列。

 けれど、龍雅は満足そうにその表情を歪ませた。

 近づく唇を、龍麗は何の抵抗もなく受け入れ、施されるキスに龍麗の心が動くことはない。

「いってらっしゃい、龍麗」

「いって、きます……」

 逃げられない。

 龍を継ぐ者として、龍麗を縛る見えない鎖はより強固なものへと変わっていく。

*****

「おいルリ!」

「キバ……」

 数日振りに見るキバの姿に、龍麗の胸が痛んだ。

「どうしたんだよ。ずっと休んで。具合、悪かったのか?」

「うん、ちょっと……。でも、もう平気」

 慣れない嘘を、龍麗は並べる。

 キバと接したことで罰を受けた。

 閉じ込められていた、などと口が裂けても言いたくなかった。

「……お前、変」

 慣れない嘘は簡単に見破られ、訝し気な視線を向けるキバから逃れるように、龍麗は目を逸らした。

「まだ、体調……戻ってない、のかな……?」

 ごまかすように、龍麗は笑う。

「嘘」

 キバの言葉に、龍麗の心臓は跳ねる。

「家で、何かあった?」

 龍麗は答えない。

 紫季も凜音も沙花も音葉も、この場に居合わせる誰もが、何も口にできずに佇む。

「そっか……仕方ねぇよな、俺みたいな野良とつるむなんて、家が許すわけねぇよな。悪い、俺なんかに近づいたせいで……」

 ぎゅう……と、締め付けられるような龍麗の心臓。

「もう、近づかねぇから。野良は野良らしく、今まで通り気ままにやるよ」

 苦しい、と何かが龍麗の胸の内から訴えかけてくる。

「ありがとな。俺、お前と少しでも仲良くなれて、嬉しかった。じゃあな、ルリ」

 走り去るうしろ姿は、流れ出す涙に気づかなかった。
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