15 / 17
第4話 従者と姫君
偽りの気持ち
しおりを挟む
4日目。
龍麗が龍雅の私室を出ることを許された。
「本当に行くの? 無理していかなくてもいいんだよ?」
龍雅は言う。
まるで、学舎へ向かおうとする龍麗を引き留めるように。
「私が、行きたいって、言った、から……。最後まで、ちゃんと通いたい、です……」
俯いて答える龍麗は何かに――龍雅に怯えるように、慎重に言葉を選んでいる。
「そう。龍麗は頑張り屋さんだね。えらい、えらい」
よしよし、とあくまでも優しく、龍雅は龍麗の頭を撫でた。
「優雅を迎えに行かせるから、授業が終わったら早く帰っておいで。愛してるよ」
「はい……」
「……」
俯き、それ以上の言葉を発そうとしない龍麗を見つめる龍雅は、その言葉の続きを待つ。
「龍麗」
言うべき言葉がまだあるだろうと、咎めるように名を呼ぶ龍雅に、龍麗はビクリと肩を震わせた。
「っ……、わ、たしも……、愛してます……」
心の籠らない、ただ言わされているだけの音の羅列。
けれど、龍雅は満足そうにその表情を歪ませた。
近づく唇を、龍麗は何の抵抗もなく受け入れ、施されるキスに龍麗の心が動くことはない。
「いってらっしゃい、龍麗」
「いって、きます……」
逃げられない。
龍を継ぐ者として、龍麗を縛る見えない鎖はより強固なものへと変わっていく。
*****
「おいルリ!」
「キバ……」
数日振りに見るキバの姿に、龍麗の胸が痛んだ。
「どうしたんだよ。ずっと休んで。具合、悪かったのか?」
「うん、ちょっと……。でも、もう平気」
慣れない嘘を、龍麗は並べる。
キバと接したことで罰を受けた。
閉じ込められていた、などと口が裂けても言いたくなかった。
「……お前、変」
慣れない嘘は簡単に見破られ、訝し気な視線を向けるキバから逃れるように、龍麗は目を逸らした。
「まだ、体調……戻ってない、のかな……?」
ごまかすように、龍麗は笑う。
「嘘」
キバの言葉に、龍麗の心臓は跳ねる。
「家で、何かあった?」
龍麗は答えない。
紫季も凜音も沙花も音葉も、この場に居合わせる誰もが、何も口にできずに佇む。
「そっか……仕方ねぇよな、俺みたいな野良とつるむなんて、家が許すわけねぇよな。悪い、俺なんかに近づいたせいで……」
ぎゅう……と、締め付けられるような龍麗の心臓。
「もう、近づかねぇから。野良は野良らしく、今まで通り気ままにやるよ」
苦しい、と何かが龍麗の胸の内から訴えかけてくる。
「ありがとな。俺、お前と少しでも仲良くなれて、嬉しかった。じゃあな、ルリ」
走り去るうしろ姿は、流れ出す涙に気づかなかった。
龍麗が龍雅の私室を出ることを許された。
「本当に行くの? 無理していかなくてもいいんだよ?」
龍雅は言う。
まるで、学舎へ向かおうとする龍麗を引き留めるように。
「私が、行きたいって、言った、から……。最後まで、ちゃんと通いたい、です……」
俯いて答える龍麗は何かに――龍雅に怯えるように、慎重に言葉を選んでいる。
「そう。龍麗は頑張り屋さんだね。えらい、えらい」
よしよし、とあくまでも優しく、龍雅は龍麗の頭を撫でた。
「優雅を迎えに行かせるから、授業が終わったら早く帰っておいで。愛してるよ」
「はい……」
「……」
俯き、それ以上の言葉を発そうとしない龍麗を見つめる龍雅は、その言葉の続きを待つ。
「龍麗」
言うべき言葉がまだあるだろうと、咎めるように名を呼ぶ龍雅に、龍麗はビクリと肩を震わせた。
「っ……、わ、たしも……、愛してます……」
心の籠らない、ただ言わされているだけの音の羅列。
けれど、龍雅は満足そうにその表情を歪ませた。
近づく唇を、龍麗は何の抵抗もなく受け入れ、施されるキスに龍麗の心が動くことはない。
「いってらっしゃい、龍麗」
「いって、きます……」
逃げられない。
龍を継ぐ者として、龍麗を縛る見えない鎖はより強固なものへと変わっていく。
*****
「おいルリ!」
「キバ……」
数日振りに見るキバの姿に、龍麗の胸が痛んだ。
「どうしたんだよ。ずっと休んで。具合、悪かったのか?」
「うん、ちょっと……。でも、もう平気」
慣れない嘘を、龍麗は並べる。
キバと接したことで罰を受けた。
閉じ込められていた、などと口が裂けても言いたくなかった。
「……お前、変」
慣れない嘘は簡単に見破られ、訝し気な視線を向けるキバから逃れるように、龍麗は目を逸らした。
「まだ、体調……戻ってない、のかな……?」
ごまかすように、龍麗は笑う。
「嘘」
キバの言葉に、龍麗の心臓は跳ねる。
「家で、何かあった?」
龍麗は答えない。
紫季も凜音も沙花も音葉も、この場に居合わせる誰もが、何も口にできずに佇む。
「そっか……仕方ねぇよな、俺みたいな野良とつるむなんて、家が許すわけねぇよな。悪い、俺なんかに近づいたせいで……」
ぎゅう……と、締め付けられるような龍麗の心臓。
「もう、近づかねぇから。野良は野良らしく、今まで通り気ままにやるよ」
苦しい、と何かが龍麗の胸の内から訴えかけてくる。
「ありがとな。俺、お前と少しでも仲良くなれて、嬉しかった。じゃあな、ルリ」
走り去るうしろ姿は、流れ出す涙に気づかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
政略結婚の意味、理解してますか。
章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。
マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。
全21話完結・予約投稿済み。
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる