【完結】中原マナの片想い

桐生千種

文字の大きさ
上 下
7 / 22
初等部

入学式

しおりを挟む
 小春の入学式。それは、僕の始業式と同じ日。そして、僕の小学校の入学式も同じ日にやる。つまり、僕は小春の入学式を見に行けない。
 休みにしてくれればいいのに。そうすれば、僕は小春の入学式を見に行けるんだ。小春がいないのに、どうして入学式で新入生を迎えないといけない?
 系列校の行事を全部同じ日程で組んでいる学校を恨んだ。
 入学式も幼等部の卒園式と同じ。少し遅れて登校する小春と、一緒に登校することは叶わなかった。

 どうせ始業式と、小春のいない入学式しかないのなら、休んでしまって小春の入学式を見に行こうかとも思ったけど、そんなカッコ悪いマネはできない。
 年度末の修了式で発表される皆勤賞。それを逃した理由がズル休みだなんて、小春に幻滅される。

「小春」

 一緒に登校することは叶わないけれど、入学式の朝、僕は小春の家を訪ねた。

「似合うね、制服」

 出迎えてくれた小春は、登校までまだだいぶ時間があるというのに、既に制服に着替えていた。
 僕の制服に似ているけれど、女子小学校のものだとすぐにわかる。見とれてしまうほどに愛らしくて、それでいて、本当に同じ小学校には通えないんだという現実を突きつけられる。

「ありがとう」

 照れたように微笑む小春が、また可愛い。

「どうしたの?」

 突然家を訪ねた僕に、小春は不思議そうに聞いてくる。そんな表情も愛らしい。

「入学式だから」

 僕は、用意していたハンカチを渡す。小春のためにお小遣いを溜めて買ったんだ。ピンクの縁取りがされた花柄のハンカチ。

「入学祝い。入学、おめでとう」

 本当は、卒園式の日にもプレゼントをあげたかったけど、お小遣いが足りなくて今日だけになっちゃった……。

「ありがとう、マナ君っ! 大事にするねっ!」

 ぎゅっとハンカチを抱き締めるようにする小春に、胸が高鳴る。じっと僕を見て『ありがとう』と言ってくれる。小春にこうしてもらえるのは、世界中で僕だけ。ずっと、そうであればいい。

「じゃあ、僕行くね。明日からはまた一緒に行こうね」
「? でも、違う学校だよ?」

 首を傾げる小春に、僕は笑んで見せた。

「小春が幼等部のときも、僕は初等部で違う学校だったよ。学校が違っていても近いから、途中まで送るね」

 僕の通う桜月学園初等部は、小春が通う桜ノ女子小学校の前を通り過ぎた場所にある。言っていることは何も間違っていない。

「そっか」

 小春は納得した様子で、笑って見せた。

「じゃあマナ君、ハンカチありがとう! また明日ね!」

 玄関先で手を振る小春に満足して、僕は学校へと急いだ。
 これからも小春と一緒に登校する約束を、取り付けることができた。
しおりを挟む

処理中です...