【完結】中原マナの片想い

桐生千種

文字の大きさ
13 / 22
中等部

1年生

しおりを挟む
 小春が中学1年生になって、僕たちの日々は忙しさを増していった。

 重ねるライブ活動に、テレビや雑誌の取材。知名度が上がっていっていることは、忙しくなる日々の中実感していった。

 同じ事務所に所属する、同じグループで活動しているメンバーは、グループ活動の他に個々での活動も始めていた。
 1人はドラマに出始めて、1人は自分で作詞作曲を手掛けて発表する。ファッション雑誌の専属モデルになった子もいた。各々が個々の活動の場を広げる中、小春が掴んだ固有の仕事は声のお芝居――声優だった。

 主人公の女の子を実際に13歳の女の子に演じさせたい。そんな制作側の思惑から小春が抜擢された。

 僕はというと、僕自身に個人でやりたいことなどないので、小春のマネージャーよろしく本物のマネージャーである海に伴って収録に必ずついて行った。
 海はマネージャーと言っても小春だけのマネージャーではないから、ずっとついていられるわけじゃない。男の役者、スタッフが出入りしている収録現場に、小春を1人置き去りになんてできるわけがない。

 ただ、人が少ないときならいざ知らず収録ブースには滅多に入れてはもらえない。僕はガラス越しに、ガラスの向こう側にいる小春を見つめた。

 マイク前で演技をする、いつもとは違う人格を持ったような小春も、僕を惹きつけた。

 ただ、その現場には1つ問題があって……。

「ルリ、アメあげる」
「あ、ありがとう……」

 同じ現場にいる男の役者は、小春を役名で呼ぶ。そうすれば、小春は少し迷いながら、少し緊張しながら、少し勇気を奮い立たせて、その役者相手に言葉を返す。それを知った男たちが揃いも揃って小春を役名で呼ぶようになった。
 答える小春に、素直に受け取る小春に、僕は苛立つ。ただの嫉妬だ。今まで、僕だけに許されていたことが、他の誰でも可能なことになってしまう。

「龍麗、キャラメルあげるよ」
「ありがとう……」

 相手役の役者には、より一層の憎悪。お芝居の上だと、ただの演技だとわかっていても、小春に好きだの愛しているだの、画面の中だけのキスもハグも僕を苛立たせる。

「マナ君! アメとキャラメルもらったの!」

 にこにこと僕に報告してくれる小春に、苛立ちがすっとその身を潜めていった。

「……よかったね」
「うん!」

 この笑顔を見せてくれるのは僕にだけ。そう思えば、この苛立ちも……。

「おつかれ、ルリ」

 ぽん、と小春の頭に触れる男の手。

「お、お疲れ様です……!」

 ちょっとビックリしたような小春は、普段メンバーの男子に抱き付かれたときのような悲鳴をあげない。

 ……やっぱり、気に入らない。

 男の役者たちが呼ぶように、『龍麗』や『ルリ』と、画面の中で呼ばれているように僕も呼んだら、小春は僕が触れることを許してくれる……?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

誕生日前日に届いた王子へのプレゼント

アシコシツヨシ
恋愛
誕生日前日に、プレゼントを受け取った王太子フランが、幸せ葛藤する話。(王太子視点)

処理中です...