【完結】中原マナの片想い

桐生千種

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高等部

3年生

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 小春が3年生になって、僕は大学2年生。小春は学校に仕事に受験勉強と、今までよりさらに忙しくしている。小春が、桜月学園大学に行かないと知ったのは、小春が3年生になってから。
 同じキャンパスで過ごせるからと、下心で進学した僕への罰だろうか。小春は、桜月学園とは関係のない女子大へ進学することを決めていた。
 小春が大学生になっても、同じキャンパスでは過ごせない。
 けれど、それに憤りを覚えることなく素直な気持ちで小春を応援できるくらいには僕も大人になった。
 男女共学の桜月学園に進学するより、女の子しかいない女子大に進学した方が、小春にはあっている。余計な虫もつかないだろう。それに、僕が大学を卒業すれば、毎日だって小春の送り迎えをしてあげる。仕事も常に小春と一緒だ。何も焦る必要はない。

「そこを何とか」

 僕の目の前で頭を下げる男性はかれこれ1時間、事務所に居座っている。

「そう言われても、本人がやらないって言ってるんで」

 対応している空も、頭を下げる男性も気の毒になってきたけれど、僕は僕の意思を曲げるつもりはない。ドラマにも映画にもこれまで通り、その手の仕事を受ける気はない。

「失礼します」

 入って来たのは、海だ。どうしてか、小春を連れている。
 この状況で、どうして小春を連れて来るのか。モデルならともかく、映像の芝居を小春は受けないはずだ。

「マナ、顔が怖い」

 海に言われ、けれど表情を戻すことはしない。

「マナ君どうしたの? お腹でも痛い?」
「……なんでもないよ」

 小春に言われてしまえば、意識して表情を戻す。変な誤解をされたくはない。

「トラブル?」
「やっぱり、マナは受けないって。でも、……熱意が凄くて」

 空が言葉を選んだ。本当は「しつこい」と言いたいことは長い間関わってきた者ならわかる。

「原作者が是非中原君にと。中原君じゃないなら映像化はさせないと、そう言うんですよ」
「まあ、無理でしょうね」

 海が一蹴する。

「相手役は三好さんにお願いしたいと、これも原作者の意向で」

 ……ちょっと待って。相手が小春だって聞いてない。

「でも、マナ君は受けないんでしょ?」

 小春のその言葉は、僕にいらない期待を持たせる。

 僕が受けないなら、受けない。なら、僕が受けると言えば? 相手が僕なら、この仕事を受けてもいいと、そう考えてくれてるってこと?

「相手がマナ君なら、やってみたいけど、そうじゃないなら、私にはちょっと……。ごめんなさい……」

 パラパラと資料に目を通した小春は残念そうにそう言った。

「待って……」
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