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01 小さな世界
14 サイト(02)
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サイトがアイラを知ったのは、カイトの意識の中でだった。
もとは同じ人間になるはずだったサイトとカイト。
ネオとしてのわかりやすい能力のすべてを持ったサイトは、自由にカイトの意識を視ることができた。
カイトがその瞳に映したものを、サイトは知ることができた。
カイトが何を思うのかも、知ることができた。
初めは、無意識の中でカイトの見る世界を覗いていた。
その中で、カイトが映した真っ白な少女。
真っ白な髪に、真っ白な肌。
そこに映える真っ赤な瞳。
そしてその少女は、カイトを見て笑った。
――っ!
その表情に、サイトの心臓は高く高く跳ね上がって、一目惚れだった。
もっと少女を――アイラをみていたいと思った。
もっと笑顔をみせてほしいと思った。
声を聞きたいと思った。
会いたいと思った。
サイトのことを知ってほしいと思った。
サイトのことを見てほしいと思った。
サイトの名前を呼んで、笑いかけてほしいと思った。
けれど、サイトが知るのはカイトの意識の中のアイラだけで、アイラはサイトのことを知らない。
アイラが見るのはサイトではなく、カイト。
アイラが呼ぶのはサイトではなく、カイト。
アイラが笑いかけるのはサイトではなく、カイト。
常に、カイト、カイト、カイト、カイト、カイト。
それがどうしようもなく、サイトは腹立たしかった。
サイトとカイトという、2つの生命体に別れることがなければ、今頃はカイトの位置にサイトがいたはずだった。
カイトという存在は初めからいなくて、サイトだけが存在していたはずだった。
そして何よりも、カイトもサイトと同じような感情をアイラに抱いていることが憎らしかった。
サイトはカイトの意識の中で、一方的にアイラを知っているだけなのに、カイトは毎日一緒にいて、見てもらえて、名前を呼んでもらえて、笑いかけてもらえている。
不公平だ、と沸き上がる不満や怒りや憎しみのドロドロとした感情を手近なところにぶつけては与えられているおもちゃを壊していった。
「今のままのサイトじゃ、アイラに会わせてあげられないね」
シノがそう言い出したのは、いつの頃からだったか。
その言葉は、何かが変われば会わせてもらえるということなのかと、サイトに期待を持たせた。
「簡単におもちゃを壊してしまうような子を、アイラに会わせるわけにはいかないよ。アイラを同じように、壊されたら困るからね」
「そんなことしないっ!」
パリンッ! と天井の明かりが音を立てて割れた。
割れたガラス片は、重力に逆らうことなく降り注ぐ。
シノは、動かなかった。
天井からガラス片が降り注いでいるとわかっているはずなのに、ニコニコと笑顔を絶やさないまま、サイトを見たまま、1歩たりとも動かなかった。
ツーっと、シノの頬に赤い線が引かれる。
シノの皮膚を薄く裂いたガラス片には血がついてた。
シノの頬を、赤い血が流れ落ちる。
「傷がついた」
そう言うシノは、平然としていた。
ニコニコとした笑顔を崩そうともしない。
「アイラの肌は弱いから、直るのに時間がかかるね」
何を言っているのか、サイトにはわからなかった。
今、サイトの目の前で血を流しているのはアイラではなくシノだ。
「僕がアイラじゃなくて、良かったね」
その瞬間、サイトは理解した。
いくらサイトがアイラにだけこの能力を向けないと誓っても、制御のできないこの能力がアイラを傷つけてしまうことが簡単に起こり得ることだと。
そうしてサイトは誓った。
自らの能力を自らの意志で制御できるようになって、アイラに会おうと。
もとは同じ人間になるはずだったサイトとカイト。
ネオとしてのわかりやすい能力のすべてを持ったサイトは、自由にカイトの意識を視ることができた。
カイトがその瞳に映したものを、サイトは知ることができた。
カイトが何を思うのかも、知ることができた。
初めは、無意識の中でカイトの見る世界を覗いていた。
その中で、カイトが映した真っ白な少女。
真っ白な髪に、真っ白な肌。
そこに映える真っ赤な瞳。
そしてその少女は、カイトを見て笑った。
――っ!
その表情に、サイトの心臓は高く高く跳ね上がって、一目惚れだった。
もっと少女を――アイラをみていたいと思った。
もっと笑顔をみせてほしいと思った。
声を聞きたいと思った。
会いたいと思った。
サイトのことを知ってほしいと思った。
サイトのことを見てほしいと思った。
サイトの名前を呼んで、笑いかけてほしいと思った。
けれど、サイトが知るのはカイトの意識の中のアイラだけで、アイラはサイトのことを知らない。
アイラが見るのはサイトではなく、カイト。
アイラが呼ぶのはサイトではなく、カイト。
アイラが笑いかけるのはサイトではなく、カイト。
常に、カイト、カイト、カイト、カイト、カイト。
それがどうしようもなく、サイトは腹立たしかった。
サイトとカイトという、2つの生命体に別れることがなければ、今頃はカイトの位置にサイトがいたはずだった。
カイトという存在は初めからいなくて、サイトだけが存在していたはずだった。
そして何よりも、カイトもサイトと同じような感情をアイラに抱いていることが憎らしかった。
サイトはカイトの意識の中で、一方的にアイラを知っているだけなのに、カイトは毎日一緒にいて、見てもらえて、名前を呼んでもらえて、笑いかけてもらえている。
不公平だ、と沸き上がる不満や怒りや憎しみのドロドロとした感情を手近なところにぶつけては与えられているおもちゃを壊していった。
「今のままのサイトじゃ、アイラに会わせてあげられないね」
シノがそう言い出したのは、いつの頃からだったか。
その言葉は、何かが変われば会わせてもらえるということなのかと、サイトに期待を持たせた。
「簡単におもちゃを壊してしまうような子を、アイラに会わせるわけにはいかないよ。アイラを同じように、壊されたら困るからね」
「そんなことしないっ!」
パリンッ! と天井の明かりが音を立てて割れた。
割れたガラス片は、重力に逆らうことなく降り注ぐ。
シノは、動かなかった。
天井からガラス片が降り注いでいるとわかっているはずなのに、ニコニコと笑顔を絶やさないまま、サイトを見たまま、1歩たりとも動かなかった。
ツーっと、シノの頬に赤い線が引かれる。
シノの皮膚を薄く裂いたガラス片には血がついてた。
シノの頬を、赤い血が流れ落ちる。
「傷がついた」
そう言うシノは、平然としていた。
ニコニコとした笑顔を崩そうともしない。
「アイラの肌は弱いから、直るのに時間がかかるね」
何を言っているのか、サイトにはわからなかった。
今、サイトの目の前で血を流しているのはアイラではなくシノだ。
「僕がアイラじゃなくて、良かったね」
その瞬間、サイトは理解した。
いくらサイトがアイラにだけこの能力を向けないと誓っても、制御のできないこの能力がアイラを傷つけてしまうことが簡単に起こり得ることだと。
そうしてサイトは誓った。
自らの能力を自らの意志で制御できるようになって、アイラに会おうと。
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