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第3章 わいわい、ミッション
第3話 好きな人の、好きな人 *加瀬彩梨*
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目を輝かせる姫宮先輩の傍で久世先輩が呟く。
「嫉妬かあ……」
真剣に考えるような様子を見せる久世先輩。
「世良ちゃんは、何をしたら嫉妬とかしてくれるのかなあ……」
「いや、お前はまず好かれるところからだろ」
「そんなヒドイっ!!」
ショックを受けている久世先輩だけど、ごめんなさい……。
章先輩の言う通り、久世先輩は嫉妬される以前の問題が……。
そんなことを思って久世先輩を見ていてふと気になることがあった。
「あの、久世先輩」
「ん? なに?」
こんなこと、久世先輩に聞くのもどうかと思ったけど、聞かずにはいられなかった。
「久世先輩は、嫉妬とか。しないんですか?」
「え? 僕が?」
「はい」
久世先輩は世良さんの許嫁で、久世先輩が世良さんのことを好きなのは見ていてわかる。
だけど、世良さんの方はそうじゃない。
「世良さんって、マナさんのこと大好きじゃないですか。いっつも久世先輩よりマナさんを優先させて」
世良さんの1番はどう見てもマナさんのような気がするから。
「だから、そういうの、久世先輩はイヤじゃないのかなって……」
私はイヤだ……。
清花が、直樹が、お母さんが、お父さんが、私よりも加瀬拓哉を優先するのは、イヤでイヤでたまらない。
「……別に、そんなふうに考えたことはなかったな」
久世先輩は言う。
「世良ちゃんがマナを好きだって言うなら、俺もマナが好きだって言うよ。好きな人が好きなものは、何だって好きになりたい。それは人でも、ものでも、なんでもね。同じ気持ちを共有したいんだ」
そう言う、久世先輩の言葉はホンモノで、嘘偽りなく、本当にそう思っているんだって久世先輩を見ていてわかる。
「嫉妬されたいとは思うけど、しようとは思わないな」
そんなふうに考えられる、久世先輩がとても羨ましく思えた。
「まあ、紘正のは歪んだ方向に行き過ぎてるけど?」
「何だよ、ソレ!?」
「本当のことだろー?」
じゃれ合う、久世先輩と章先輩。
「ふふっ。章君だって人のこと言えないんじゃない? ねえ?」
姫宮先輩に同意を求められて、想い当たる節があるけど……。
頷くわけにはいかない……。
「あ、あの!」
じゃれていた先輩たちが、私を見る。
「頭、少し冷えた気がします」
何かが変わる気がする。
変えられる気がする。
イヤでイヤでたまらない、そんな気持ちを少しは変えられるようなそんな前向きな気持ちになれるような気がした。
*****
「じゃあ、彩梨、お疲れ様」
「お疲れ様ー」
「バイバイ」と部活仲間の柳葉音と手を振り合って別れる。
葉音は電車を降りて、私はあと3駅電車にゆられる。
章先輩たちと話したあと、私は部活に戻って無事に練習に参加することができた。
本当なら、練習を抜けた分も含めて自主練をしてから帰りたかったけど……。
「彼女とはここで別れるんだね」
そう言って近づいて来た章先輩。
さすがに帰りの電車まで合わせてくれる章先輩を外に放置して、自主練はできない。
「律儀に一緒に下校までしてくれなくてもいいんですけど……」
「直樹君と清花ちゃんとの約束だしね。途中で寄り道されて逃げられても困るし」
う゛……。
今までの行いが……。
「私、そんなに信用ないですか?」
「うん、ない」
ひどい……。
そんな、即答しなくても……。
「普段なら、信用できるよ。しっかり者で頼りになるし、でも」
章先輩は続ける。
「彩梨ちゃんは逃げるときはとことん逃げるから、今回は信用できない。今だって、逃げる方法考えてるんじゃない?」
ドキリとした。
今まで、そんなことを言われたことなかったから。
みんな、言わないだけで心の中では思っていたと思う。
私は、イヤなことからは目を逸らす人間だから。
認めたくない現実や、知りたくない事実には、目を瞑って見えないフリをしてきたから。
でも、それを面と向かって直接言われたのは初めてだった。
「けどさ、彩梨ちゃんがそう簡単に人を邪険にできないってことを俺は知ってるんだ。関りが深くなれば、なるほど、ね」
そっと、章先輩が私の手を握った。
「だから俺は、俺が彩梨ちゃんにとって大切な人の1人だと自惚れて、それを利用するよ」
そう言う章先輩はずるい。
「昔みたいに、お手々にぎにぎして帰ろうか」
そんなふうに言われたら、私が章先輩の手を振りほどけるはずなんてない……。
それを、章先輩はわかっているんだ。
「自惚れじゃないんで、放してもらえませんか?」
「それはできない相談だ。それともなーに? 彩梨ちゃんは、俺なんかとは手も繋ぎたくないと?」
「いえ、そうではなく……。ごめんなさい……」
章先輩はずるい人。
私が抵抗できなくなるような言葉をわざと選んで言ってくる。
章先輩が私の大切な人じゃない、なんてことがあるわけない。
大切な幼馴染のお兄ちゃんで、手だって昔みたいなお兄ちゃんと妹に戻れたみたいで嬉しい。
高校生にもなると章先輩には雪音先輩がいるし、手を繋ぐことなんてなかったから。
だけど、もしこの手を振りほどいてしまったら、それらのすべてを否定することになるような気がして……。
それは、章先輩を傷つけることになるんじゃないかって思って。
でも本当は、自分が傷つきたくないだけ。
握られたこの手を、振りほどけるような自分でありたくなくて。
そんな自分を認めたくなくて。
全部、全部、自分のため。
「キミはさ、向き合うことをした方がいいと思うんだよね。壁にぶつかって、もし心が痛くてたまらなくなったら俺のところに来てもいーよ? 幼馴染として優しく慰めてあげる」
章先輩はずるくて、そして優しい。
「そのときは、雪音先輩を貸してください。章先輩より癒しをくれそうな気がします」
「そう? じゃあ、潔く立ち向かうんだね」
……え?
……あれ?
いつの間に!?
なんか立ち向かうことになってる!?
「い、今のはっ!!」
「取り消しは聞かないよ。彩梨ちゃんが今、抱えてる問題や悩みに、ちゃんと向き合いなさい」
……はめれらた。
なんという策士!!
「もし彩梨ちゃんの心が傷ついて、ズタズタのボロボロになって、2度と立ち上がれないような壁にぶち当たって瀕死状態になったら」
待って! そんな壁にぶち当たりたくない!
「俺が手を差し伸べてあげるよ、ご希望通り雪音も一緒にね。彩梨ちゃんは1人じゃないし、味方もたくさんいるんだから、怯えて逃げる必要ないんだよ?」
ほんと、ずるくて、いじわるで、優しい人。
でも、素直には頷きたくない。
「……努力することを試みます」
「そこは普通、努力しますじゃないの?」
「いえ、努力することをまず試みます」
「まあ、いいか。それで許そう」
章先輩が笑う。
ほんの少しだけ、勇気が持てたような、そんな気がした。
「嫉妬かあ……」
真剣に考えるような様子を見せる久世先輩。
「世良ちゃんは、何をしたら嫉妬とかしてくれるのかなあ……」
「いや、お前はまず好かれるところからだろ」
「そんなヒドイっ!!」
ショックを受けている久世先輩だけど、ごめんなさい……。
章先輩の言う通り、久世先輩は嫉妬される以前の問題が……。
そんなことを思って久世先輩を見ていてふと気になることがあった。
「あの、久世先輩」
「ん? なに?」
こんなこと、久世先輩に聞くのもどうかと思ったけど、聞かずにはいられなかった。
「久世先輩は、嫉妬とか。しないんですか?」
「え? 僕が?」
「はい」
久世先輩は世良さんの許嫁で、久世先輩が世良さんのことを好きなのは見ていてわかる。
だけど、世良さんの方はそうじゃない。
「世良さんって、マナさんのこと大好きじゃないですか。いっつも久世先輩よりマナさんを優先させて」
世良さんの1番はどう見てもマナさんのような気がするから。
「だから、そういうの、久世先輩はイヤじゃないのかなって……」
私はイヤだ……。
清花が、直樹が、お母さんが、お父さんが、私よりも加瀬拓哉を優先するのは、イヤでイヤでたまらない。
「……別に、そんなふうに考えたことはなかったな」
久世先輩は言う。
「世良ちゃんがマナを好きだって言うなら、俺もマナが好きだって言うよ。好きな人が好きなものは、何だって好きになりたい。それは人でも、ものでも、なんでもね。同じ気持ちを共有したいんだ」
そう言う、久世先輩の言葉はホンモノで、嘘偽りなく、本当にそう思っているんだって久世先輩を見ていてわかる。
「嫉妬されたいとは思うけど、しようとは思わないな」
そんなふうに考えられる、久世先輩がとても羨ましく思えた。
「まあ、紘正のは歪んだ方向に行き過ぎてるけど?」
「何だよ、ソレ!?」
「本当のことだろー?」
じゃれ合う、久世先輩と章先輩。
「ふふっ。章君だって人のこと言えないんじゃない? ねえ?」
姫宮先輩に同意を求められて、想い当たる節があるけど……。
頷くわけにはいかない……。
「あ、あの!」
じゃれていた先輩たちが、私を見る。
「頭、少し冷えた気がします」
何かが変わる気がする。
変えられる気がする。
イヤでイヤでたまらない、そんな気持ちを少しは変えられるようなそんな前向きな気持ちになれるような気がした。
*****
「じゃあ、彩梨、お疲れ様」
「お疲れ様ー」
「バイバイ」と部活仲間の柳葉音と手を振り合って別れる。
葉音は電車を降りて、私はあと3駅電車にゆられる。
章先輩たちと話したあと、私は部活に戻って無事に練習に参加することができた。
本当なら、練習を抜けた分も含めて自主練をしてから帰りたかったけど……。
「彼女とはここで別れるんだね」
そう言って近づいて来た章先輩。
さすがに帰りの電車まで合わせてくれる章先輩を外に放置して、自主練はできない。
「律儀に一緒に下校までしてくれなくてもいいんですけど……」
「直樹君と清花ちゃんとの約束だしね。途中で寄り道されて逃げられても困るし」
う゛……。
今までの行いが……。
「私、そんなに信用ないですか?」
「うん、ない」
ひどい……。
そんな、即答しなくても……。
「普段なら、信用できるよ。しっかり者で頼りになるし、でも」
章先輩は続ける。
「彩梨ちゃんは逃げるときはとことん逃げるから、今回は信用できない。今だって、逃げる方法考えてるんじゃない?」
ドキリとした。
今まで、そんなことを言われたことなかったから。
みんな、言わないだけで心の中では思っていたと思う。
私は、イヤなことからは目を逸らす人間だから。
認めたくない現実や、知りたくない事実には、目を瞑って見えないフリをしてきたから。
でも、それを面と向かって直接言われたのは初めてだった。
「けどさ、彩梨ちゃんがそう簡単に人を邪険にできないってことを俺は知ってるんだ。関りが深くなれば、なるほど、ね」
そっと、章先輩が私の手を握った。
「だから俺は、俺が彩梨ちゃんにとって大切な人の1人だと自惚れて、それを利用するよ」
そう言う章先輩はずるい。
「昔みたいに、お手々にぎにぎして帰ろうか」
そんなふうに言われたら、私が章先輩の手を振りほどけるはずなんてない……。
それを、章先輩はわかっているんだ。
「自惚れじゃないんで、放してもらえませんか?」
「それはできない相談だ。それともなーに? 彩梨ちゃんは、俺なんかとは手も繋ぎたくないと?」
「いえ、そうではなく……。ごめんなさい……」
章先輩はずるい人。
私が抵抗できなくなるような言葉をわざと選んで言ってくる。
章先輩が私の大切な人じゃない、なんてことがあるわけない。
大切な幼馴染のお兄ちゃんで、手だって昔みたいなお兄ちゃんと妹に戻れたみたいで嬉しい。
高校生にもなると章先輩には雪音先輩がいるし、手を繋ぐことなんてなかったから。
だけど、もしこの手を振りほどいてしまったら、それらのすべてを否定することになるような気がして……。
それは、章先輩を傷つけることになるんじゃないかって思って。
でも本当は、自分が傷つきたくないだけ。
握られたこの手を、振りほどけるような自分でありたくなくて。
そんな自分を認めたくなくて。
全部、全部、自分のため。
「キミはさ、向き合うことをした方がいいと思うんだよね。壁にぶつかって、もし心が痛くてたまらなくなったら俺のところに来てもいーよ? 幼馴染として優しく慰めてあげる」
章先輩はずるくて、そして優しい。
「そのときは、雪音先輩を貸してください。章先輩より癒しをくれそうな気がします」
「そう? じゃあ、潔く立ち向かうんだね」
……え?
……あれ?
いつの間に!?
なんか立ち向かうことになってる!?
「い、今のはっ!!」
「取り消しは聞かないよ。彩梨ちゃんが今、抱えてる問題や悩みに、ちゃんと向き合いなさい」
……はめれらた。
なんという策士!!
「もし彩梨ちゃんの心が傷ついて、ズタズタのボロボロになって、2度と立ち上がれないような壁にぶち当たって瀕死状態になったら」
待って! そんな壁にぶち当たりたくない!
「俺が手を差し伸べてあげるよ、ご希望通り雪音も一緒にね。彩梨ちゃんは1人じゃないし、味方もたくさんいるんだから、怯えて逃げる必要ないんだよ?」
ほんと、ずるくて、いじわるで、優しい人。
でも、素直には頷きたくない。
「……努力することを試みます」
「そこは普通、努力しますじゃないの?」
「いえ、努力することをまず試みます」
「まあ、いいか。それで許そう」
章先輩が笑う。
ほんの少しだけ、勇気が持てたような、そんな気がした。
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