君は煙のように消えない

七星恋

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3章

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 突然だか、僕はカフェでアルバイトをしている。カフェといっても特段お洒落なわけでも、レトロで味のあるわけでもない、ごく普通のチェーン店だ。ここで働き始めたのはちょうど彼女と別れる一ヶ月ほど前の話で、前職はスーパーの品だしとレジうちだった。スーパーの店員をやめた理由としてはただ仕事に飽きたこと、カフェの店員を始めたのは美味しいコーヒーをただで飲めると思ったからだ。勤務初日に賄いどころか社割すら効かないことを知り、1ヶ月でルーティーンワークに飽きた。もっとお洒落な場所で働いていれば彼女にふられずにすんだのではという事を幾度か考えたが、きっと結果は同じだっただろう。
 課題に怯える十一月末を乗り越え、ついに今年も最終月が訪れた。師が走るほどに忙しいという月だが、僕ら学生は誰かの師ではないので特段いつもと変わりはない。そんなわけで廉の助言にあやかり、今月はいつもより多めにシフトを組んでみた。ちょうど夏休みでためまくった貯金も切り崩すものが無くなっていたところだったこともある。
 今日は十八時からの勤務で、二十二時に閉店。勤務時間はたかだか四時間だが、この短い間で翌日のモーニングの準備から後片付け、廃棄の管理をスタッフ二人で行う。接客もこなしながらなので面倒ではあるが、幸い自分は仕事覚えは早い方なのでとっくに慣れた。慣れるまでが早いから飽きるのも早いのかもしれない。
 この時間帯は店長もおらず、なんだかんだでだべりながら作業ができる。たまたま一緒に入っていた同僚Aとモーニングの仕込みをしながら適当な話をする。別に同僚Aは彼でも彼女でもいい。年上でも年下でもいい。僕はただ職場での関係をそれ以上のものにしたくない。だから彼及び彼女らはみな一様に同僚Aだし、同僚Aにとっての僕もまた同僚Aだ。
「最近冷えてきましたね。」
沈黙を破るはじめの一言は大概が天気の話しだ。
「もう十二月ですもんね。」
同僚Aが答える。当たり障りのない答えが僕らの関係に適当だ。
「もうすぐクリスマスですね。」
続けて同僚Aが言う。
「そうですねえ。」
「誰か一緒に過ごす人は居るのですか?」
 この人に彼女の話をしたことがあったか否かは覚えていない。そんな事はどうでもいいほどに僕らの関係はいかにも消費社会チックだ。利害のために必要だから共に居る。僕と同僚Aがこの狭いカウンターで共存するのに「彼女」の話の有無は重要でない。
「特に居ないですよ。」
微笑みを加えて僕は返す。できれば「最近までいたのですが」と付け加えて強がって見たかったが、これもまた不要だ。
「そうなんですね。意外です。モテそうなのに。」
同僚Aもまた微笑みと共に返す。これはきっと微笑みを加えたというより、微笑みに加えたという感じだろう。
「そちらはどうなんですか?」
「自分も特には。誰かいい人居ませんかねえ。」
「同感です。」
 ちょうど話しの切れ目で客が来た。「いらっしゃいませ」といいレジに向かう。 
 作業をして、話して、「いらっしゃいませ」の空虚な繰り返し。クリスマスの予定もない僕はそれでも我慢して働いてみる。クリスマスの予定がないことを忘れるために。
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