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3章
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「でさあ、私はどうすれば良いのかなあ。」
居酒屋チェーン店の喧騒の最中、紗綾が僕に問いかける。紅がかった頬を、こういった店特有の暗い照明が写し出す。
大学のいつもの自習スペースで論文を読んでいる時の事だった。携帯に一本の電話が入った。「紗綾」の二文字が小さな画面に写し出される。
「もしもし、今日暇?」
元気そうな声だったが、何か彼女にとって良からぬ事があったのだろうと、その突然すぎる切り出しと会話のトーンから察することができた。
「特に用事はないよ。どうしたの?」
「いや、私も特に何もないんだけどさ。ちょっとご飯に付き合ってほしくて。」
特に断る理由はなかった。廉も誘うかと聴いてみたが、忙しいかもしれないからいいと言われた。どうせ僕は活字を追うことでしか過去の恋愛を払拭できない暇な男だ。
せっかくの機会なので学校内の食堂で食べるのではく、お酒でも飲みながら話をすることにした。どうせなら全部はいてしまう方が楽だろう。そういう僕は下戸に近い程お酒が弱いのだが。
平日ながらも忘年会シーズンのせいか意外と混んでいた。予約なしでもなんとか入れたが、店内はそれなりに騒がしい。隣の席では学生グループが痴話で盛り上がっている。僕の正面の席ではくたくたのスーツを着たサラリーマンが部下らしき人に大きな声で愚痴をこぼしている。欲望と不満の肥溜めはかきいれ時を迎えている。
揃いのユニフォームを着たお姉さんが注文を取りに来た。お姉さんと言っても、もしかしたら僕より若いかもしれない。僕らは二人とも生ビールを注文した。すぐに溢れそうな泡を抱えた黄金色が手元に届いた。適当なメニューを注文し、またお姉さんはどこかへ消えていく。二人の空間に引き戻された僕たちはとりあえず乾杯をした。
「んで、どうしたの?また元カレと何かあった?」
「まあね。」
短い返答の中に重々しさを感じさせられた。
「この前さ、あの人のところに泊まっちゃった。」
想像の斜め上を行く事態に飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
「え、何してんの?」
口に含んでいた分のビールを無理やり喉の奥に押し込んで、代わりに心の底からの叫びを吐き出した。
紗綾は元カレに浮気をされた上でふられた。そんな彼女が彼の家に泊まるのも勿論だが、泊まらせる彼にも疑問符をつけざるを得なかった。
「新しくできた彼女と上手くいかなかったんだって。それで、戻ってきてほしいって。私も最初は断ったんだよ?そんな調子の良いこと言われても今さら信用できないって。でも、あまりに熱心に言われるものだから、とりあえず家に行ってみたの。そしたらさ、私やっぱりこの人のことまだ好きなんだなって。バカらしいよね。結局その日は泊まっちゃったの。」
紗綾の気持ちは理解できる。きっと僕も彼女に甘い言葉をかけられたら、情けなく思っても着いていってしまうだろうから。
「泊まったってことはさ、その」
「うん、したよ。セックス。」
呆気ない程素直に出されたセックスという言葉に現実味がなかったが、その信憑性は彼女の表情が物語っていた。
「私ね、頑張ったんだよ。彼への恋心を愛に変えようとして。彼のあらを探してみたり。別の男の子と遊んでみたり。でもね、彼のダメなところに私は恋をしたみたいだし、彼以外上手く恋愛対象として見れないって気づいたの。少なくとも今の私にはね。だからさ、正直嬉しかったんだ。彼とセックスができて。まだ私たちは繋がれるんだって。」
こうゆう話の時に「繋がる」ってワードは生々しいよね、って彼女は笑ってみせた。
「でもね、泊まって朝になって、バイバイしたその日から、また連絡は来なくなった。当たり前なんだけどさ。私は彼の事が好き。でも彼にとって私はそうでもないみたいだよ。でさあ、私はどうすれば良いのかなあ。」
もはや彼女に流す涙はないようだ。
居酒屋チェーン店の喧騒の最中、紗綾が僕に問いかける。紅がかった頬を、こういった店特有の暗い照明が写し出す。
大学のいつもの自習スペースで論文を読んでいる時の事だった。携帯に一本の電話が入った。「紗綾」の二文字が小さな画面に写し出される。
「もしもし、今日暇?」
元気そうな声だったが、何か彼女にとって良からぬ事があったのだろうと、その突然すぎる切り出しと会話のトーンから察することができた。
「特に用事はないよ。どうしたの?」
「いや、私も特に何もないんだけどさ。ちょっとご飯に付き合ってほしくて。」
特に断る理由はなかった。廉も誘うかと聴いてみたが、忙しいかもしれないからいいと言われた。どうせ僕は活字を追うことでしか過去の恋愛を払拭できない暇な男だ。
せっかくの機会なので学校内の食堂で食べるのではく、お酒でも飲みながら話をすることにした。どうせなら全部はいてしまう方が楽だろう。そういう僕は下戸に近い程お酒が弱いのだが。
平日ながらも忘年会シーズンのせいか意外と混んでいた。予約なしでもなんとか入れたが、店内はそれなりに騒がしい。隣の席では学生グループが痴話で盛り上がっている。僕の正面の席ではくたくたのスーツを着たサラリーマンが部下らしき人に大きな声で愚痴をこぼしている。欲望と不満の肥溜めはかきいれ時を迎えている。
揃いのユニフォームを着たお姉さんが注文を取りに来た。お姉さんと言っても、もしかしたら僕より若いかもしれない。僕らは二人とも生ビールを注文した。すぐに溢れそうな泡を抱えた黄金色が手元に届いた。適当なメニューを注文し、またお姉さんはどこかへ消えていく。二人の空間に引き戻された僕たちはとりあえず乾杯をした。
「んで、どうしたの?また元カレと何かあった?」
「まあね。」
短い返答の中に重々しさを感じさせられた。
「この前さ、あの人のところに泊まっちゃった。」
想像の斜め上を行く事態に飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
「え、何してんの?」
口に含んでいた分のビールを無理やり喉の奥に押し込んで、代わりに心の底からの叫びを吐き出した。
紗綾は元カレに浮気をされた上でふられた。そんな彼女が彼の家に泊まるのも勿論だが、泊まらせる彼にも疑問符をつけざるを得なかった。
「新しくできた彼女と上手くいかなかったんだって。それで、戻ってきてほしいって。私も最初は断ったんだよ?そんな調子の良いこと言われても今さら信用できないって。でも、あまりに熱心に言われるものだから、とりあえず家に行ってみたの。そしたらさ、私やっぱりこの人のことまだ好きなんだなって。バカらしいよね。結局その日は泊まっちゃったの。」
紗綾の気持ちは理解できる。きっと僕も彼女に甘い言葉をかけられたら、情けなく思っても着いていってしまうだろうから。
「泊まったってことはさ、その」
「うん、したよ。セックス。」
呆気ない程素直に出されたセックスという言葉に現実味がなかったが、その信憑性は彼女の表情が物語っていた。
「私ね、頑張ったんだよ。彼への恋心を愛に変えようとして。彼のあらを探してみたり。別の男の子と遊んでみたり。でもね、彼のダメなところに私は恋をしたみたいだし、彼以外上手く恋愛対象として見れないって気づいたの。少なくとも今の私にはね。だからさ、正直嬉しかったんだ。彼とセックスができて。まだ私たちは繋がれるんだって。」
こうゆう話の時に「繋がる」ってワードは生々しいよね、って彼女は笑ってみせた。
「でもね、泊まって朝になって、バイバイしたその日から、また連絡は来なくなった。当たり前なんだけどさ。私は彼の事が好き。でも彼にとって私はそうでもないみたいだよ。でさあ、私はどうすれば良いのかなあ。」
もはや彼女に流す涙はないようだ。
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