24 / 24
3章
4
しおりを挟む
「どうすればいい、って言われてもなあ。」
つい心の声が口から漏れる。
紗綾の気持ちは痛いほどに理解できる。都合が良いとわかっていながら着いていくという行動も、その日切りになるかも知れないと予測できながらも流れにその身を預け抱かれることも。いつでも僕らにとって大事なのは今現在における充足感であり、その後に待つ未来でもなく、その未来から見た過去でもないのだ。それ故過ちを繰り返し、その都度傷つく。
「紗綾はさ、どうしたいわけなの?」
数秒の沈黙が流れる。もはや僕らの耳に店内の喧騒は届かない。
「そうだね。やっぱり一番はよりを戻せるといいかなと思うよ。もしも別れる前、いやそれよりももっと前かな、お互いが心の底から愛しているって言えて、その言葉をお互いが信じられたあの時と同じくらいの仲に戻れるなら。でもねそれは無理だって知ってるんだ。」
一度割れたグラスをもう一度引っ付けても、それはもはや元のグラスとは物が違う。引っ付けるために使った何かが介在し、亀裂の入った場所には、目には見えないかもしれないが、微少な傷が残る。それはきっと人間関係に至ってもそうだ。一度失った信頼を取り戻すことはできない。放たれた言葉にオフレコーディングの文字はない。経験上僕らはそれをよく理解しているから、自分の言動に強い責任を抱くことができる。たぶんそれを最小限の言葉に纏めたものが社会性というやつなのだろう。
「私は彼の事が今も好きだよ。でもあの時と同じように言えるかはわからない。それに彼がもし、私に好きだよなんて言ったとしても、私がその言葉をそのまま信じれるとは到底思えない。いや、いつかは思える日が来るかも知れないよ。でも相当時間はかかるよね。」
お互いの手元のビールはまだ半分ほどずつしか減っていなかったが、雰囲気のせいか二、三軒目に来たような気分だ。
「じゃあよりを戻す気はないんだね。」
紗綾は小さく頷いた。ジョッキグラスを両手で包み、結露してでた水滴が彼女の細い指に滴る。
「そうならさあ、やっぱりもう新しい出会い探すしかないんじゃないか?」
ビールを一口飲み、枝豆に手を伸ばしながらそんな軽口を叩いた。
「新しい出会いって行ってもさ、大学内で会う人と言えば学科内の知り合いばっかしだし、サークルなんてのも入ってないし、バイト先は塾だから自分より5つも年下だし、いったいどこにあるわけよ。」
「そんなもん探しゃどこにだってあるだろうに。」
ついつい言葉が荒くなったのは紗綾に腹を立てからではない。同じ事で自分も悩んでいたからだ。
誰かと別れた悲しみを埋めるのに最も手っ取り早く効果的なのは新しい出会いを見つけること。そんなことは今時小学生でもわかるだろう。ただそれがある種の人間にとっては難しくもあることを知るのはちょうど僕らくらいの年齢になってからだ。そしてこの「ある種」ってゆうのは僕らのようなある環境に依存し、外に出ることに嫌けがさし、いつしか有りもしない内と外という概念で境界策定してしまった人間だ。
結局のところ僕らは似た者同士であることを忘れていた。それは置かれている状況だけの話ではなく、内的な本質までもがである。
そんな事をぼんやりと考えているときに廉と話していたある馬鹿げたアイデアを思い出した。いや、僕が馬鹿げたと思っているだけで、世間一般の皆々様からすれば意外と当たり前の事なのかもしれない。紗綾が何かを行っているがいまいち耳に入ってこない。今はそれどころではない。これを紗綾に伝えるか否か迅速に決定するための脳内会議にかけなければならない。ひねり出した枝豆を口に運び、アルコールで押し込むほんの数秒で行われた議会の結果、若干票の差で賛成派が押しきった。
「なあ、」
まだ何かを話していた紗綾の文脈を立ちきる。
「マッチングアプリ始めないか?」
つい心の声が口から漏れる。
紗綾の気持ちは痛いほどに理解できる。都合が良いとわかっていながら着いていくという行動も、その日切りになるかも知れないと予測できながらも流れにその身を預け抱かれることも。いつでも僕らにとって大事なのは今現在における充足感であり、その後に待つ未来でもなく、その未来から見た過去でもないのだ。それ故過ちを繰り返し、その都度傷つく。
「紗綾はさ、どうしたいわけなの?」
数秒の沈黙が流れる。もはや僕らの耳に店内の喧騒は届かない。
「そうだね。やっぱり一番はよりを戻せるといいかなと思うよ。もしも別れる前、いやそれよりももっと前かな、お互いが心の底から愛しているって言えて、その言葉をお互いが信じられたあの時と同じくらいの仲に戻れるなら。でもねそれは無理だって知ってるんだ。」
一度割れたグラスをもう一度引っ付けても、それはもはや元のグラスとは物が違う。引っ付けるために使った何かが介在し、亀裂の入った場所には、目には見えないかもしれないが、微少な傷が残る。それはきっと人間関係に至ってもそうだ。一度失った信頼を取り戻すことはできない。放たれた言葉にオフレコーディングの文字はない。経験上僕らはそれをよく理解しているから、自分の言動に強い責任を抱くことができる。たぶんそれを最小限の言葉に纏めたものが社会性というやつなのだろう。
「私は彼の事が今も好きだよ。でもあの時と同じように言えるかはわからない。それに彼がもし、私に好きだよなんて言ったとしても、私がその言葉をそのまま信じれるとは到底思えない。いや、いつかは思える日が来るかも知れないよ。でも相当時間はかかるよね。」
お互いの手元のビールはまだ半分ほどずつしか減っていなかったが、雰囲気のせいか二、三軒目に来たような気分だ。
「じゃあよりを戻す気はないんだね。」
紗綾は小さく頷いた。ジョッキグラスを両手で包み、結露してでた水滴が彼女の細い指に滴る。
「そうならさあ、やっぱりもう新しい出会い探すしかないんじゃないか?」
ビールを一口飲み、枝豆に手を伸ばしながらそんな軽口を叩いた。
「新しい出会いって行ってもさ、大学内で会う人と言えば学科内の知り合いばっかしだし、サークルなんてのも入ってないし、バイト先は塾だから自分より5つも年下だし、いったいどこにあるわけよ。」
「そんなもん探しゃどこにだってあるだろうに。」
ついつい言葉が荒くなったのは紗綾に腹を立てからではない。同じ事で自分も悩んでいたからだ。
誰かと別れた悲しみを埋めるのに最も手っ取り早く効果的なのは新しい出会いを見つけること。そんなことは今時小学生でもわかるだろう。ただそれがある種の人間にとっては難しくもあることを知るのはちょうど僕らくらいの年齢になってからだ。そしてこの「ある種」ってゆうのは僕らのようなある環境に依存し、外に出ることに嫌けがさし、いつしか有りもしない内と外という概念で境界策定してしまった人間だ。
結局のところ僕らは似た者同士であることを忘れていた。それは置かれている状況だけの話ではなく、内的な本質までもがである。
そんな事をぼんやりと考えているときに廉と話していたある馬鹿げたアイデアを思い出した。いや、僕が馬鹿げたと思っているだけで、世間一般の皆々様からすれば意外と当たり前の事なのかもしれない。紗綾が何かを行っているがいまいち耳に入ってこない。今はそれどころではない。これを紗綾に伝えるか否か迅速に決定するための脳内会議にかけなければならない。ひねり出した枝豆を口に運び、アルコールで押し込むほんの数秒で行われた議会の結果、若干票の差で賛成派が押しきった。
「なあ、」
まだ何かを話していた紗綾の文脈を立ちきる。
「マッチングアプリ始めないか?」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
#秒恋9 初めてのキスは、甘い別れと、確かな希望
ReN
恋愛
春休みが明け、それぞれに、新しい生活に足を踏み入れた悠里と剛士。
学校に向かう悠里の目の前に、1つ年下の幼なじみ アキラが現れる。
小学校時代に引っ越した彼だったが、高校受験をし、近隣の北高校に入学したのだ。
戻ってきたアキラの目的はもちろん、悠里と再会することだった。
悠里とアキラが再会し、仲良く話している
とき、運悪く、剛士と拓真が鉢合わせ。
「俺には関係ない」
緊張感漂う空気の中、剛士の言い放った冷たい言葉。
絶望感に包まれる悠里に対し、拓真は剛士に激怒。
拗れていく友情をよそに、アキラは剛士をライバルと認識し、暴走していく――
悠里から離れていく、剛士の本心は?
アキラから猛烈なアピールを受ける悠里は、何を思う?
いまは、傍にいられない。
でも本当は、気持ちは、変わらない。
いつか――迎えに来てくれる?
約束は、お互いを縛りつけてしまうから、口にはできない。
それでも、好きでいたい。
いつか、を信じて。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる