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3 更紗の場合
4 ほら、ピッタリだ
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舞踏会はとっくのとうに始まっていた。
でも私にそんなの関係ない。私の目的は集団お見合いなんかじゃないから。
目論見通り、多少前衛的なドレスでも目立っていない。みんなお見合いに必死だからね。
無数に立ってる衛兵さんからは凝視されたけど、彼らも仕事中であからさまじゃないから気にしない気にしない。
念のため会場正面からは入らず、ぐるりと回っていくつもあるテラスの一つから上がっていく。通ってきた中庭には、すでにチラホラとカップルが見え隠れしていた。
上がってきたテラスのカーテンをさり気なく閉める。こうすると、このテラスには人がいますよ~、使用中ですよ~と言うのが伝わって、人は別のテラスを使ってくれる、社交界暗黙のマナーだ。
このまま陰に隠れて、ドレスに仕込んできた紙とペンを取り出し、目についたドレスを写生していく。
お姉様たち見事な着こなしですわ~、さっすが私。お姉様の魅了を十二分に引き立たせる完璧なドレス!
あぁマーガレット様もなんて可憐で美しいのかしら。あのシフォンの揺れが芸術的ッ、グッジョブ私!
ダリア夫人の襟の角度完璧ね! ますますスタイル良く見せてる、いよっ私ぃ!
うわぁ、やられた! あのドレスのドレープが新しいわ!
あの切り替えはどういう作りになっているのかしら!?
肩のレース使いが繊細なのにゴージャスで素晴らしいわ、うっとりしちゃう……。
夢中で写生していると、人だかりがこちらに向かってきていた。
先頭にいるのがたぶん今回の目玉の王太子だろう。夜風にでもあたりに来たのだろうか。
それにしてもあのタキシードひどいわぁ。勲章とか鎖とかでジャラジャラで、変なシワが寄っちゃってるじゃんか。誰よあれ着付けたの。
部分的に生地を厚くするとか、裏で生地を吊るとかしてあげないと恥ずかしいですよ。
もっとビシッと着させてほしいよ全く。国の威信ってもんがですねー。
「素材は良いのに着る物があれじゃあ台無しじゃない」
「それは、どうも?」
「ああ”?」
変なシワが寄ったタキシードが目の前にあった。
声がほとんど真上から聞こえてきて、思わず変な声が出た。見上げれば王太子。
「そんなに熱く見られると照れるな」
「えっ! あっ! し、失礼しました!」
カーテンの陰から出していた首を慌てて引っ込める。
ヤバイ! バレた!
いえ、正式に招待客なんだからバレたっていいんだけど、ガンつけてたと思われてる!
いえ、それも事実ですけど! だってあの服ヒドイんだもん! 一国の王子に着せる物じゃないよ。
とりあえず中庭に逃げて、他のテラスからまたドレス観察しよう。ここは一旦退却!
メモ用紙とペンを無理やり胸元に挟み込んで、走りやすいようドレスの裾をたくし上げる。
急ぎすぎてハイヒールが片っぽ脱げた! なんで今!
これでも貴族の端くれ。多少のダッシュでハイヒールが脱げるほどヤワな鍛え方はしていないと言うのに。
脳裏にチャラついた魔法使いが過ぎった。あいつか! あいつのせいなのか?
もう拾っている時間はない。あとで回収するしかないわ。いっそのこともう片っぽも脱いでガチダッシュかまそうと、残ったハイヒールに手をかけた瞬間その手を掴まれた。
「落とし物ですよ、姫」
「ひ、人違いでございます、ミスター」
「そうだろうか?」
王太子は私の背中と膝裏に手をかけたかと思うと抱き上げて歩き出し、オブジェが乱立する中庭のベンチにふわっとおろした。
私が何か言う前に私の足を掴んでハイヒールを履かせる。
「ほら、ピッタリだ。左右同じだな」
見事な金髪碧眼に似合う爽やかな笑顔をまとっている王太子。しかし隠しきれていない黒いオーラがにじみ出ているような気がした。
でも私にそんなの関係ない。私の目的は集団お見合いなんかじゃないから。
目論見通り、多少前衛的なドレスでも目立っていない。みんなお見合いに必死だからね。
無数に立ってる衛兵さんからは凝視されたけど、彼らも仕事中であからさまじゃないから気にしない気にしない。
念のため会場正面からは入らず、ぐるりと回っていくつもあるテラスの一つから上がっていく。通ってきた中庭には、すでにチラホラとカップルが見え隠れしていた。
上がってきたテラスのカーテンをさり気なく閉める。こうすると、このテラスには人がいますよ~、使用中ですよ~と言うのが伝わって、人は別のテラスを使ってくれる、社交界暗黙のマナーだ。
このまま陰に隠れて、ドレスに仕込んできた紙とペンを取り出し、目についたドレスを写生していく。
お姉様たち見事な着こなしですわ~、さっすが私。お姉様の魅了を十二分に引き立たせる完璧なドレス!
あぁマーガレット様もなんて可憐で美しいのかしら。あのシフォンの揺れが芸術的ッ、グッジョブ私!
ダリア夫人の襟の角度完璧ね! ますますスタイル良く見せてる、いよっ私ぃ!
うわぁ、やられた! あのドレスのドレープが新しいわ!
あの切り替えはどういう作りになっているのかしら!?
肩のレース使いが繊細なのにゴージャスで素晴らしいわ、うっとりしちゃう……。
夢中で写生していると、人だかりがこちらに向かってきていた。
先頭にいるのがたぶん今回の目玉の王太子だろう。夜風にでもあたりに来たのだろうか。
それにしてもあのタキシードひどいわぁ。勲章とか鎖とかでジャラジャラで、変なシワが寄っちゃってるじゃんか。誰よあれ着付けたの。
部分的に生地を厚くするとか、裏で生地を吊るとかしてあげないと恥ずかしいですよ。
もっとビシッと着させてほしいよ全く。国の威信ってもんがですねー。
「素材は良いのに着る物があれじゃあ台無しじゃない」
「それは、どうも?」
「ああ”?」
変なシワが寄ったタキシードが目の前にあった。
声がほとんど真上から聞こえてきて、思わず変な声が出た。見上げれば王太子。
「そんなに熱く見られると照れるな」
「えっ! あっ! し、失礼しました!」
カーテンの陰から出していた首を慌てて引っ込める。
ヤバイ! バレた!
いえ、正式に招待客なんだからバレたっていいんだけど、ガンつけてたと思われてる!
いえ、それも事実ですけど! だってあの服ヒドイんだもん! 一国の王子に着せる物じゃないよ。
とりあえず中庭に逃げて、他のテラスからまたドレス観察しよう。ここは一旦退却!
メモ用紙とペンを無理やり胸元に挟み込んで、走りやすいようドレスの裾をたくし上げる。
急ぎすぎてハイヒールが片っぽ脱げた! なんで今!
これでも貴族の端くれ。多少のダッシュでハイヒールが脱げるほどヤワな鍛え方はしていないと言うのに。
脳裏にチャラついた魔法使いが過ぎった。あいつか! あいつのせいなのか?
もう拾っている時間はない。あとで回収するしかないわ。いっそのこともう片っぽも脱いでガチダッシュかまそうと、残ったハイヒールに手をかけた瞬間その手を掴まれた。
「落とし物ですよ、姫」
「ひ、人違いでございます、ミスター」
「そうだろうか?」
王太子は私の背中と膝裏に手をかけたかと思うと抱き上げて歩き出し、オブジェが乱立する中庭のベンチにふわっとおろした。
私が何か言う前に私の足を掴んでハイヒールを履かせる。
「ほら、ピッタリだ。左右同じだな」
見事な金髪碧眼に似合う爽やかな笑顔をまとっている王太子。しかし隠しきれていない黒いオーラがにじみ出ているような気がした。
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