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20 なんつう斜め下だ

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「ひーなっ、帰るぞ」

「ひぇ!? う、うん」

 HRが終わり後ろからひなたを抱きしめると、ひなたはぎょっとしつつも小さく返事を返す。
 それを見た教師も目を丸くし、女子からは声にならない悲鳴が上がり、男子からは拝まれた。たぶん賭けについてだな。
 廊下に出れば、俺が手を繋いでいる事で、ひなたを口説きに来た野郎共の波が割れていく。
 頑固なひなたが他の男に落とされるとは考えていなかったが、今朝の様子を見る限り昨日の内に取りつけておいて本当に良かったと思う。数日中にはこの波も引いていくだろう。
 但し学園の外、他校生や一般人は変わらないと思う。

「どこに行くんだ?」

 駅に向かわず歩きだした俺にひなたが怪訝そうに訊ねた。

「ホテル」

「え!!」

「JEBでの話も報告したいし、誰にも聞かせられない」

「それはそうかもだけど、他にも場所があるだろ」

「例えば?」

「うっ」

 代案が出てこないのでこの辺りでハイクラスのホテルに連れ込む。
 どんな店でも個室ならば全てセックスOKなので、ホテルと店の違いは、体勢的にセックスがやり易いかやりにくいかでしかない。
 最後までしなくとも俺が触れるのに慣れさせるため、毎度いけるとこまで突き進みたい。なのでそこら辺の店や安ホテルに連れ込む気はなかった。
 ワンルームの中で一番良い部屋を選んだ。隙あらばもつれ込む気満々だから、下手に別部屋があっても困る。ひなたなら腰砕けにしたと思っても、ベッドルームへの横抱き移動中の僅かな間隙で暴れかねない。

 身を固くしてソファに座るひなたの隣に腰を下ろし、さっさと話始める。

「昨日あの後JEB本部に行ってきた。
 結論から言えば献精免除は受けられなかった」

 ひなたは冷めた顔で「ふ~ん」とだけ言う。

「とりあえず1週間は医者の診断書で何とかなるが、最年少クアドラの精子を、3ヶ月も無為に捨てられちゃ敵わないんだと」

 クレジットローンでJEB強権派から弱みを握られそうだとは言わない。
 ひなたは何かにカチンと来たのか、ますます冷めた目で俺を見て言った。

「そう。でもそれって約束と違うよね?」

「うん、ごめん。
 それで妥協案なんだが、センズリはどうだ? バーチャルやオートが嫌なんだろ?」

「は?」

「俺が自分で精子回収具フィルムつけて自分でしごいて提出する。これじゃだめか?」

 正直、顔のニヤけを出さないために必死だ。ひなたにはより必死に説得してるように見えてたらラッキーだがどうだろう。表情筋がピクピクする。
 異性と接触するな、献精も嫌とか、ひなたは俺との賭けに勝つための作戦のつもりなんだろーが、俺には独占欲にしか見えないんだよ。
 さすがの俺でも、ひなたが俺を好きかもとか自惚れている訳ではないが、もしもセックスの時を考えてるって事に見えてついニヤけてしまう。

「ひなたと一緒に献精センターに行く許可も取ってあるんだ。
 そこで、話し2つ目だ。
 TSした者にはTSプログラムを受けなければいけない。
 定期的なカウンセリングと健康診断、それからTS教育」

 ひなたの冷ややかだった目付きが訝しげなものに変わる。

「1回目のカウンセリングと健康診断は受けたはずだ。じゃなきゃオメガ認定受けられないからな。そっちは予定通り定期的に受けてくれ。
 で、問題のTS教育なんだが講義はネットで受けられるし、そっちで組むからいいな。で、実習だが俺が教える事になった。
 そのために献精センターにはひなたも通ってもらう必要がある」

 ひなたは大きな瞳を見開いて絶句している。
 別に俺が実習をするにしたって、普通にTSが実習を受ける会場に行ったって、なんならここでだっていいんだが、折角だし献精センターに誘う言い訳にさせてもらった。その方が何かと都合が良い。

「…………聞いてないんだけど」

「今言った」

「違う。予定も何もない。TSプログラムなんて知らない」

 今度は俺の眉間が寄った。
 ひなたの突っ込みは、「なんでお前が先生役なんだ」という怒りのものだとばっかり考えていたのに、なんつう斜め下だ。
 まさかひなたの親が、ひなたに何も教えていないとは思わなかった。

 もちろんうちの親や、JEBの人たちが言うように、体が作り替わるというのに正味5日しか休ませない、転校もさせない、名前も替えないといったところから、一般的なご両親とは違うのだと覚悟はしていたが、本人に与える情報が全くのゼロだとは考えていなかったのだ。
 だって、本人の心と体の事だぞ。
 ひなたも親や医者に訊かないのか、と考えて、たった5日でそれを言うのは酷だと思った。
 本人こそが混乱の極みだろうから。

 だからこそ親のサポートなんだろうが! と一瞬で怒りが煮えるも、ああうちの親たちが言っていたのはこういうことなんだと、自分の浅はかさ、至らなさに自嘲を覚える自分もいた。


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