ASMR!~精神安定剤が触診してくるっ!

keino

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9 私のせいじゃないのに自業自得

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 なんだろうね。とにかく私が言いたいことはね、せっかくピル始めたんだから、もう少し私に都合の良い日程で調整できなかったのかってことだよ。
 そうすれば予約したい週がお盆休みにぶち当たることもなかっただろうし、それに伴って病院が激混みなんていうこともなかったと思うの、うわーん!

 でもでも無事に院長先生の予約が取れたって、四ッ橋先生に直接電話もできる気しなかったしね。
 あの声で電話なんかされたら、義理堅い四ッ橋先生に押し切られるのは目に見えてた。あの声に逆らえる気がしない。
 だから結果オーライだよね、うん。そう思おう。

 診察はいつもと変わらないように見えた。
 いつも必要なことしか話さないし、今日はそれに増して必要最低限って感じはしたけど、診察も3回目だしそんなもののような気もする。
 ただ、基礎体温表を出した時に、少し眉間が動いた気がした。
 あれ? そういえば長ったらしい前髪がサイドに流されていて、いつもより顔が見やすい。それでもセットまではしていないからか、すぐに髪が垂れてきているのだけれど。

 と言うか、顔面情報を小出しにしてくるの本当やめてほしい。
 夢での顔がだんだん鮮明さを帯びてきているような気がして――うわうわうわっ、夢先生カットインしてこないでって!
 私の夢だからか、声はもちろん、顔もイメージ通りでなんという私好みなご尊顔でいや夢だからはっきりとは覚えていないんだけどだからこそイメージが崩れないといいますか――だから私ぃ! 自重して!!

「では診察しますね、体の楽にしてください」

――力を抜いて、若葉――

「――っ!」

 先生の指が侵入してくる。うぐぐぐぐぐ痛いやっぱり痛い痛いいたい――すると指はくちゅくちゅと私のいところを探るように動かしてきて――痛みで頭が勝手に現実逃避しようとして朦朧となる。

「ぐぅっ!!」

 夢か現実かわからなくなって始まってしまったバカな妄想を、ぐっと力を入れて弾き飛ばす。変な声が漏れたけど構っていられない。これは奇声じゃなくて気合の声だから!
 これは現実! これはリアル!! 診察! 検査なの、夢じゃないの、バカじゃないの私。

「うぎぎぎぎぎ……ッ」

「すみません、痛いですよね、もう少しで終わりますから。見れれば触診も簡単で済むんですが、すみません」

 ごめんなさいごめんなさい。先生は悪くないんです本当です。バカでごめんなさい。これからはちゃんとします、だから勘弁してください。
 ――ぐっは! これ、腹痛のとき、トイレの上でやるやつだ。アグノスティックだけど神様に祈るやつ。神様仏様ごめんなさいー。

 本当に快感なんて感じてない。なのに夢のせいで脳が勝手に錯覚させてくる。……生理痛のときやってた思い込み作戦も、それに一役買ってると言うかつまり条件反射と言うかなんだろうけどこれはひどい。
 ああもうやだ! 私のせいじゃないのに自業自得とか!

 そういえば前回の生理……ピルを始めて2回目のは土下座して毛布被るほどは痛くなかったなーぐぎぎぎぎ!
 思考を逸らすも中で動かされるカメラに、現実に引き戻される。世の中には生理痛の全くない人もいるし、きっとこの診察も痛くない人がいるんだろう。なんて羨ましいんだ! 私にもその十分の一でもいいので痛覚軽減能力をお授けください~。

 支度中、毎度のことながら鼻を鳴らす。なんで子供みたいに病院で泣かなくちゃいけないの。うう、ぐすっ。
 また看護師さんに慰められた。痛みに弱くてご迷惑かけます。血液採取のときも、看護師さんに手を握ってもらって本当に申し訳ございません。
 言い訳させてもらえば普段はこんなことないんです。内診の恐怖でですね……。

「――本原さん? 聞いていますか?」

「は、はいっ」

 慌てて顔を上げれば、真っ向からバチィッと先生と目が合う。現実逃避している間に、すでに内診室から診察室へ移動していた。
 分厚い眼鏡越しだけど、前髪は目にかかっていなくて、鋭い眼光に射抜かれたみたいに、私は椅子の上で直立(?)不動になった。
 ただでさえ熱かった体なのに、またぶわぶわと顔が熱くなって、そのせいか目まで潤む。目を逸らしたいのに、先生が許してくれないみたいに私の目を見たまま話す。

「次は、基礎体温をつけるのを、忘れないでくださいね。いいですね?」

 ええっと、体が少し跳ねる。だって私、基礎体温つけるの、1日だって忘れてない。
 トントントンと先生が基礎体温表を指で叩いている。その音にようやく体の硬直がとれた。ついっとそちらに視線を逸らす。
 ……クリップが変わっている。
 私が使ったクリップは、前回先生が使った一般的なものをそのまま使った。今回は、これもありふれたやつだけど、三角のに差し変わっていた。

「今回の血液検査の結果も挟んでおきました。よく読んでおいてください」

 ビクッと体が震えた。
 さっきの「忘れないで」は、連絡しなかったことを非難している? 「よく読んでおいて」は今回また先生からのメモが入っていることを示唆している?
 もう、私からのメモは読んだのだろうか。
 これでもかとへりくだって懇切丁寧に謝辞を尽くしたつもりなんだけど。
 本当に、先生が気にすることないんですって。

 私はこれ以上先生の顔を見ないように見ないように、顔を下げっぱなしで退室した。

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