ASMR!~精神安定剤が触診してくるっ!

keino

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16 恋愛魔王が強い

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 あのエンカウントから数日後の、都内某所カラオケ店。うちの店ではない。うちの店高いもん。せめて大人数じゃないと行けない。
 この店の平日昼間フリータイム、なんと朝8時から夜20時まで一人ワンコインだ。安い! アルコール飲み放題つけてもイチキュッパである。価格破壊ここに極まれり。

 別に今、怒られているわけではないのだが、気分は正座したいところである。
 春希がテーブルに片肘をついて私を眺め、片手はカクテルグラスを揺らしている。
 室内は明るくも暗くもしていないのだけれど、それがなにか雰囲気を醸し出していて、私に対する圧力プレッシャーが増している気がする。

「それで? 初回以来スタンプしか返してないと。それってほぼほぼ無視では」

「いぃやぁぁぁ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」

 私は正面のテーブルに突っ伏した。

「私に謝ったって仕方ないでしょうが」

「だって無理。あれは無理なんだよぉぉぉおお!」

「そのうち電話かかってきても知らないよ?」

「ううううう……」

 とりあえず現実逃避に、大人気アーティストのドームライブを本人歌唱で流してみる。
 いいなぁ、こんな大会場を埋められるアーティスト好きになってみたいなぁ。それでライブに行ってみんなで盛り上がりたいなぁ。会場中でおんなじフリをして、おんなじ言葉を叫ぶんだ。フゥーッ!

 付き合いで行ったライブや学園祭、海水浴や街なかで遭遇したゲリラライブは、私じゃメジャー曲しか知らないアーティストだったからか、いまいち乗り切れなかった。なんか恥ずかしさもあるしね。

 ダスグリならドームだろうがスタジアムだろうが埋められると思うんだけど、いかんせん顔出ししてないから仕方がない。
 ダスグリのライブなんて夢のまた夢、まずはまともに本人達が出ているPVすら夢とか、ファンになんのいじめなの。でも好き。むしろだから好き。

 現実逃避に合いの手で叫んだ私を、春希が冷めた目で見てくる。
 ううう、心が痛いよぉ。
 にゅっと手のひらが差し出される。なんだ?
 首を傾げれば、ニッコリかわいい笑顔で「スマホ見せて?」と言われた。
 まぁ初めから春希にアドバイスもらうつもりで来てるからね。私よりよっぽど恋愛経験豊富だし。

「…………こんなの脈ありです、追ってくれと言ってるようなもんじゃないの」

 冗談でしょ!? どこが!?
 これでも私頑張ってるんだけど!?
 すっごい頭をひねってひねって当たり障りのないスタンプ返してるんだけど!?
 ほら、甘い系とかかわいい系は一切使ってないよ! もっとよく見てっ、私の意を汲んでぇっ。

「これは悪手ですよ若葉さん。本気で嫌がってないんじゃないのと思われても仕方ないわ。むしろ相手を本気にさせる高等テクニックなのではなかろうか?」

 ふむ? とどこかの教授よろしく首を捻ったあと、ええ? ウソ、若葉サンわざと? あざと系でしたの? とニヤニヤヒソヒソ奥様の井戸端会議風に言われる。

「違っ、本当にあの声は無理で……っ!」

「ええー、それって嫌とは違うと思うな~」

 耐え切れず私は再びテーブルに突っ伏した。
 もうオーバーキルだからやめてぇっ。

「そりゃそうだよね、小学生の頃からずっと好きだったアーティストそっくりのイケボに、好みのイケ顔ついてて更にはお医者様でしょう?
 そんなのにグイグイ来られたら恋愛偏差値高い私だってグラつくもの」

 ここで春希は一旦溜めた。降ってこない声に恐る恐る顔を上げると、ニッコリと魔性の笑顔で私を追い詰める。

「恋愛偏差値ゼロの若葉は恥ずかしいんだよねぇ?」

 ひぃぃぃぃぃ! やめてーっっ!
 恋愛魔王が強すぎる!!

「なーんて、いじめるのはここまでにして、本当に若葉が良いなら、通訳、もしくはお断りメッセ入れてあげよっか?」

 バッと顔を上げる。
 えっ、本当に? いいの?
 ――でもでも本当に、、私?
 困惑する私に春希がケロッと次の言葉を続ける。

「但し、私と婚活パーティー参加してね?」

「へ?」

 突然のことにぽかんとする。
 今まで何度も、時間が合えば合コンは参加している。確かに声フェチこじらせてるけど、別に男性が苦手でもないし特にコミュ障でもないので、サークルの延長みたいなものだ。
 連絡先交換して連絡しあってみたり、ご飯に行ってみたりしたものの、なんとなく合わないとか疲れるとか感じて結局お付き合いまで発展しなかった。大学での出会いもそうだ。ナンパはお断りしてるけど。
 春希も私に参加強制してくることもないし、「彼氏一度は作ってみるべき」とは言うものの、紹介とかで押し付けられたこともない。

「それがね、出してみたら受かっちゃったんだよぉ、医・者・コ・ン」

「イシャコン?」

 なんぞそれ?
 マザコンの親戚? オケコンとかコンサートのコン? あっ、コンテストのコン? 受かったとか言ってるし。
 イシャ……医者、慰謝料、イシャキイモコンテスト……は無理やり感あるな。

「セレブリティーな婚活パーティーよっ」

 春希がビシィッと斜め上を指差し見つめながら、高らかに宣言した。
 うえええ? つい目を指先の向こうにやるが、もちろんそこにはスピーカーくらいしかない。

 セレブが集まる婚活パーティー?
 どんなものか多少の興味はあるけど、そんなちっぽけな好奇心を吹っ飛ばす、春希のポージング付き宣言が、めんどくささを予感させた。
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