ASMR!~精神安定剤が触診してくるっ!

keino

文字の大きさ
42 / 48

42 ごまんとある

しおりを挟む

 駅ビルの中に入っていき、エレベーターの前で止まる。

『上と下、どちらがいいですか』

 は? 上と下? ここの上って……ホテル? オフィスとかじゃなかった気がする。この駅ビル、お店の上はホテルだったよね? 何言ってんのこの人!?
 じゃあ下はって言うと、普通に駅の構内に入れるんじゃなかったっけ?
 ああ、ここの出入り口からこの駅に入ったことがないからはっきりしない。

『別に取って食べはしません』

 そうはっきり言われると私も反応に困るんですけど。
 ジョークで言ってるのか、真面目に言ってるのかわからないし、もっと表情に出してほしいよ。ただでさえ男paiさんは、感情の起伏に乏しいんだからさ。
 ちゃんとジョークはジョークっぽく言わないと、周りの空気を冷やしちゃうんだからね。本人がそのつもりでも、周りに伝わってなかったら意味ないんだからね。
 そもそもこの上下二択なに。

『おすすめは上のホテルの……』

「下っ、下にします!」

 四ッ橋さんは素直にコクリと頷き、エレベーターの下ボタンを押した。
 そこは……地下鉄駅構内かと思いきや、駐車場?
 車で出得谷駅まで来てたの? うわ、ここまでよく車で来たね。逆にめんどくさくないのかな。どっか出かけてたのかな。

『バイトの時間まで、ドライブに付き合ってください』

 車のドアを開けられて、どうぞと手で促された。
 ドライブ? その言葉にようやく少し冷静な思考が戻る。
 いや、ムリでしょ。いくら春希の太鼓判があるからって、さすがの私でも、まだ会って数回の人と二人きりでドライブはちょっとどうかと思う。
 ためらいの空気を感じたのか、四ッ橋さんが私を見据える。反射的に半歩下がり体をかたくした。

『本当に、あなたとの事は、ちゃんと大切にしていきたいんです。そこは信じてほしい。
 だけど僕は、若葉さんを一人、街で遊ばせておけるほど、人間ができていません」

 私は反射的にコクンと頷いた。
 あれ? やっぱりおかしいよ、私こんなチョロい性格じゃないと言うか、いつもなら、面倒になったらさっさと帰る人だったはずなのに。
 面倒くさくもなければ、いやでもない?
 いや、面倒くさいしいやなんだけど、いつものとはなんだか違う。いつもにはない、別の感情がある。
 なんなんだろう、このもやもやする気持ちは。

 わけのわからない気持ちを抱えたまま、結局四ッ橋さんの車に乗ってしまった。
 この車、前のと違うね。色は違うし、2ドアの二人乗りになってる。一応右ハンドル――ハンドルの真ん中についてるエンブレムが目に飛び込んできて、思わずのけ反った。
 私でも知ってる、三大外国車メーカーのものだ。

 お母さんは言っていた。世の中知らなくてもいいことはごまんとあると。
 お父さんの趣味の一つにアメリカンなバイクがあるが、母は絶対に値段を訊かないし、調べないし、テレビや店などでうっかり知っちゃわないようにしていると言う。
 その他の趣味にも、値段に関しては徹底的に避けているらしい。

 お母さんありがとう。その意味を今知ったよ……!
 ちなみにうちは、一般家庭でよく聞かれる、父へのおこづかい制ではないらしい。うちの台所事情がどうなっているのか詳しくは知らない。
 でも、私も弟も何不自由なく好きな学校に行かせてもらっている。ありがとうございます。

 でもさ、気が付くとバイク用品とか趣味のものや、キャンプ用品が増えているよね。
 キャンプ用品は、子供のころは楽しかったしうれしかったけど、大人になった今、正直微妙な気持ちだ。だって使うのって良くて年2回とかだし。レンタルじゃダメなのかなとかさ。
 よくお母さんは許しているよね。
 などと現実逃避してみても、車に乗った事実は変わらない。

『バイトは何時からですか』

「に、23時、です」

 有無を言わさない視線に負けて、時間を告げる。目を逸らすとモニターの時間表示が目に入って、それはまだ20時半過ぎで、なんだか少し気まずく感じた。別に私悪くないのに。
 今度は四ッ橋さんが、こめかみに手を当てて天を仰いだ。

『わかりました』

 やがて再起動を果たし、車はなめらかに発進した。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...