ASMR!~精神安定剤が触診してくるっ!

keino

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43 悔しいです

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 車は夜の首都高をすべるように走った。
 会話はもちろんなく、音楽もラジオもない。
 うちはお父さんが音がないのが嫌な人だから、車でも家でもなにかしらがかかっている。けれど逆に、お母さんは音がいらない人だから、今の無音状態でも別に構わなかった。

 でも、どこ行くんだろう……。
 訊きたくても訊けない。でも運転中のスマホダメゼッタイ。でも行き先は気になる。
 横顔をこっそりうかがう。
 本当イケメンだなぁ、この人。スタイルも海外モデル並みだし、ナンパとか、ガチのスカウトすごそう。
 私に声かけてくるのなんか、ホストかキャバのスカウトしかないもんな~。声をかけられたいわけじゃないけど、見事に黒服ばっかだと笑えてくる。そんなにカモに見えるのか。

 ……あながち間違ってないかもしれない。現在進行形でダスグリに沼ってたわ……。
 侮りがたし、黒服。さすが沼らせのプロ。うん、やっぱりこれからも気を付けよう。
 街中での突然の声掛けには耳を貸さないが基本だよね、知ってる。

 首都高を降り、信号で止まったと思ったら、四ッ橋さんがハンドルに突っ伏した。

「ど、どうしました? 大丈夫ですか?」

 声を掛けたら突っ伏したままこちらを向き、恨めしそうな目で見られた。なんで。
 信号が変わり、ふうっと息を吐いたかと思ったらまた車を走らせる。
 私はその溜め息にまたやられ、耳をふさいでドアに背中をくっつけた。
 四ッ橋さんはそんな私をちらりと見て、楽しそうに目が笑った。

 そういえばよく考えなくても、daiの声持ちと、二人っきりで夜ドライブってどういうこと!?
 ちょっととんでもなくない!?
 ううん、大丈夫、落ち着けー。しゃべらなきゃただのイケメンなんだから大丈夫だって、私!
 バイト柄出会う芸能人含め、バイト先の場所柄出会う外人含め、イケメンなんて見飽きてるんだって、私!
 ただちょっとイケメンランクが高いくらいなによ。

 うわぁ、この薄暗い中、街灯や車のライトの当たりで、あの新曲のPVまで思い出したぁっ。
 あのPVは髪で目元が隠れていたし、今はマスクで鼻からあごまで隠れているのに、心臓のバクバクが止まらない。痛いほどで、視界がにじむ。
 私の脳内補完優秀すぎるでしょ! やめてやめて、同一人物として認識なんてしてないったら!
 四ッ橋さんは四ッ橋さんで、daiはdaiだから! 私も含め、みんなに失礼だから!

 もう何度目かもわからない自己暗示を繰り返す。
 耳を抱えてあわあわしているうちに、車はすうっと止まった。

『着きましたよ。何か飲みましょうか』

 ぼうっとしている私に四ッ橋さんが微笑み、ベルトのバックルを外す。ドアを開けてくれて私に手を差し出す。
 断るのも悪い気がしてその手を取った。私を立たせるとスマートに腕組みに移行した。なんなの、このできる人。イケメンはこんなことまで標準装備なのか。

 外に出ると身を切るような海風に吹かれた。
 ああ、ここお井々場だ。じゃあさっきのはオーロラブリッジだったんだね。夜景がきれいだ。
 どこにでもあるコーヒーショップに入り、四ッ橋さんはメニューを指さして私を見た。
 あ、そうか。

「えっと、本日のコーヒーの……」

 四ッ橋さんはトールサイズを指す。ホット?と訊いたらコクンと頷いた。
 うー、大型犬もかわいいな。

「私は、デカフェのラテ、ホットで」

 バッグに手をやれば、これまたやんわりと手をおさえられ、四ッ橋さんは会計を済ませた。
窓際に並んだスツールに座ると、四ッ橋さんがコーヒーを渡してくれた。

「ありがとうございます」

 本当はシュガー代わりにチョコソースを掛けたかったけど、コンディメントバー前で首を傾げられたとき、なんとなく首を振ってしまった。
 スヌードをとって膝に置く。ラテを両手で持って、手を温める。ふはーあったかい。しあわせ。

「いただきます」

『どうぞ』

 おおう、男パイさん即返事来たよ。また予測済みですか。
 隣の四ッ橋さんを見れば、私の方を向いて微笑んでいた。
 思わずビクッとして、肩がちょっと引く。それを見た四ッ橋さんは、また眉を下げて苦笑した。
 しばらく二人で黙ってコーヒーを飲んだ。あったかいの飲むと落ち着くー。

『少し悔しいですね』

 男パイさんがさらっと言葉を発した。

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