平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト

文字の大きさ
3 / 20

第3話 「薪のぬくもり」

しおりを挟む
 焦げた夢が、香りにほどけていく。
 鼻先をくすぐったのは、根菜をゆっくり煮た優しい匂いだった。玉ねぎの甘さと、乾いたハーブを砕いた青い香り。耳の奥では、薪がひとつ弾けて「ぱち」と小さく笑った。

 瞼を開けると、低い梁と煤けた天井が見えた。壁は粗い板で、隙間を土で埋めてある。片隅の囲炉裏で火が揺れ、小さな鉄鍋が湯気を吐いていた。湿った外気は扉の向こうに置き去りで、この小屋の中だけが小春日和みたいに暖かい。

「目、覚めたか」

 低い声に振り向くと、火の側に座る青年がいた。昨夜の雨の中、無言で私を背に負った人――。濡れていた外套は壁にかけられ、今は粗い布のシャツに袖を通している。光の少ない小屋の中で、目だけが冴えていた。

「……ここは」

「川沿いの外れ。俺の小屋だ」

 言葉は短いが、ぶっきらぼうではない。必要な分だけを、まっすぐ置く話し方。
 上体を起こそうとして、手のひらがずきりと痛んだ。昨日の桶と荷運びでできた裂け目が、布団のざらつきに触れただけで抗議してくる。

「待て」

 彼――カイルは腰の箱から布と小瓶を取り出した。蓋を開けると、乾いた薬草と油の匂いが立ちのぼる。
「見せて」
 ためらっていると、彼は視線だけで「大丈夫だ」と告げた。私は掌を差し出す。赤くふやけた皮膚に、細い切り傷がいくつも走っている。

「痛いの、平気なふりしてたな」

「……してないわ。ちょっと痛いだけ」

「ちょっと、じゃない」

 彼は布に薬油を浸し、触れるか触れないかの加減で塗った。指先がかすめるたび、痛みの輪郭がほどけていく。手当てが終わると、麻布で手を包み、紐で留める。仕上げに、軽く押して具合を確かめ――無言で頷いた。

「ありがとう」

 私が言うと、彼は「うん」とだけ返し、鍋の蓋を持ち上げた。
 湯気がこちらに流れ、空腹がきゅうと鳴く。恥ずかしい音だったのに、彼は笑わなかった。木の椀にスープをよそい、小さなパンの端を添える。
「熱い。ゆっくり」

 椀を受け取る手まで、あたたかくなる。ひと口運ぶと、甘みが舌に広がり、胃の奥に火がともるみたいだった。昨夜もらった一杯とは違う、今の私に向けた温度。

「……おいしい」

「塩と、庭のタイム」

「タイム?」

「ここらじゃ“羊の草”って言う。風邪に効く」

 庭――小屋に庭があるのだろうか。首をかしげる私を横目に、彼は短い柄のナイフでパンを割いた。指の使い方が無駄なくて、刃が迷わない。昨夜、雨の中で見た足取りとおなじだ。

「君の名前は」

 唐突な問いに、息が止まる。喉の奥に引っかかっている本当の名が、勝手に出てしまいそうになる。
 私は胸の布越しに、縫い付けた革袋の形を探った。鍵が小さく鳴る。
 昨夜、決めたはずだ。私はもう――。

「……ミリア」

 彼は一拍だけ間を置いて、うなずいた。
「カイル」

「知ってる。昨夜、言ってた」

「そうだったか」

 小屋の中に、火と雨だれの音だけが戻る。気まずさは不思議とない。言葉を置かない場所が、怖くないのは久しぶりだった。
 彼は椀の縁を指で叩き、火の上の鉄棒を少しずらす。炎が落ち着いた。扱い方を、手が覚えている人の動きだった。

「……カイルは、何をしている人?」

「放浪の騎士」

「騎士、なの?」

「一応。国境も街道も歩く。依頼があれば剣を貸す。なければ薪を割る」

 言いながら、彼は壁際の薪を三本ほど手に取った。外はまだ濡れているのに、薪は乾いている。切り口が白く、年輪の匂いがした。
 彼は小さな台の上で、薪を片手で支え、もう片方の手で手斧を振る。斧は重く落ち、木目に素直に入る。ぱきん、と割れる音が心地いい。

「君は」

 手斧が止まる。こちらを見ずに、静かに訊ねた。
 胸の中で、いくつもの答えが交差する。レオンハルトの娘、失墜した令嬢、指輪を捨てた婚約者、逃亡者、鍵の持ち主――。
 どれも私で、どれも今は名乗れない。

「……旅の途中で、少し道に迷ってる」

 我ながら下手な嘘。でも、カイルは首をかしげなかった。
「迷ったら、いったん座る。火のそばがいい」

「座ってるわ」

「だから、いい」

 それだけ。追い打ちの質問は来ない。
 詮索されないことが、こんなに楽だなんて忘れていた。詮索されないのに、見捨てられてもいない。この距離感に、氷みたいに固まっていた胸が、少しだけ緩む。

「ここ、居てもいい?」

「今は雨だ。乾くまで」

「乾いたら?」

「決めたほうへ」

 彼はまた薪を割った。私は椀の底をすくい、温度の名残を喉にゆっくり流し込む。
 乾くまで。――それは、どのくらいだろう。外の雨は弱まったり強まったりを繰り返し、屋根を叩く音がリズムを変える。私の心も、そのリズムを真似して落ち着いたり波立ったりを繰り返していた。

 食べ終えると、彼は空の椀を受け取り、井戸水でさっとゆすいだ。
「手、使うなよ」
「うん」
 包帯に水が触れないよう、手を胸の上に置く。
 すると、彼は小さな布袋を持ってきて、私の膝に置いた。中には、粗塩と乾いた草、細く割いた布が入っている。
「明日、これを湯に溶かして手を浸けるといい。裂け目がふさがりやすくなる」

「ありがとう。どうしてそんなの、持ってるの?」

「歩くから。怪我は、歩いてるだけで勝手に寄ってくる」

「……騎士って、そういうもの?」

「剣より、豆と靴と薬が大事」

 少し笑いそうになって、唇の端が勝手に持ち上がった。慌てて戻す。笑ってはいけない。笑うと、何かが緩む。緩めば、また誰かに踏み込まれる。
 ――でも、笑いたい。
 私の中で、二つの声が綱引きして、ちょうど真ん中ぐらいで止まった。

「昼が来る。少し寝ろ」

「眠ったら、盗られそう」

「何を」

「……全部」

 唇から滑り落ちた言葉に、自分で驚いた。
 カイルは火を見たまま言った。
「じゃあ、ここで寝る。俺は扉のそば」

「いいの?」

「外はまだ人が騒いでる。雨が止むと、もっと騒ぐ」

 彼は扉の横に古い椅子を引き、腰を下ろした。剣帯は外したが、鞘は手の届く範囲に置いてある。眠る気配はない。
 私は毛布に潜り、天井の節穴を数え始める。十、十一、十二――。
 眠りは、火の匂いと薪の音に手を引かれて近づき、気づけばこちら側にいた。

     ◇

 夢を脱ぐと、光が柔らかく変わっていた。
 扉の隙間から薄い陽が差し、埃が小さな星みたいに漂っている。雨は弱くなり、屋根の滴る音が細くなった。

 起き上がると、包帯の中の手が、朝よりずっと軽い。痛みが輪郭を失って、鈍い温度だけが残っている。
 カイルは外にいた。扉を開けると、屋根の庇の下で薪を割っている背中が見える。濡れた土の匂いと、割れた木の匂い。足元には小さな庭――と呼ぶには荒いが、土が起こされ、タイムや葱の細い葉が顔を出していた。

「起きたか」

「うん」

「歩ける?」

「……少しなら」

「じゃあ、食べる前に、これ」

 カイルは斧を置いて、切り株の上に籠を二つ置いた。一つは濡れた枝葉、一つは乾いた松ぼっくり。
「火が弱ったら、乾いたほう。強すぎたら、濡れたほう。どっちも大事」

「ふたつで、ひとつの火になるってこと?」

「そう」

 私は濡れた枝をつまんで鼻に近づけた。雨の匂いに、土の冷たさが混じる。
「覚えとく」

 庇から一歩出ると、靴の底に水が吸い上がってきた。空はまだ重く、雲の隙間でだけ光が動く。
 遠くの路地がにわかにざわつき、誰かが走る気配がした。反射的に身体がこわばる。
 カイルは一度だけそちらを見て、それから何も見なかったことにして薪を拾った。
 その何でもなさが、緊張の輪を少し緩める。見張られていない、裁かれていない、ただ「ここにいる」だけでいいという感じ。

 小屋に戻ると、彼はまた鍋を火にかけた。今度は透き通った汁に卵を落とし、木べらでそっと渦を作る。白身が柔らかくほどけ、黄色が陽だまりみたいに揺れた。

「きれい」

「崩すと、早く煮える」

 椀に注がれたそれは、雨上がりに似合う味だった。
 私はひと口すすり、決めた。言うなら今だ、と。
 火と匂いと、短い沈黙が寄り添っているこの時間なら、言葉も折れずに出られる気がした。

「……いつまで、ここに居ていい?」

「君が決める」

「決め方が、わからない」

「じゃあ、手が治るまで。あと、体力が戻るまで」

「そのあと、もし……ほんの少しだけ、ここで働いて。迷惑かけた分を返したら、行く」

「何を」

「皿、洗える。薪、割れないけど並べられる。野菜は、切り方を覚える」

「靴も乾かせ」

「靴?」

「濡れたまま歩くと、どれだけ強くても負ける」

「……わかった」

 言葉が胸の中で定位置を見つけて、息がゆっくり通った。
 私は毛布を畳み、寝床の藁を直す。整えるという行為が、自分の輪郭を取り戻させてくれる。
 カイルは私が動く音を邪魔しない距離で、短い刃物を研いでいた。研ぎ石の擦れる音は、不思議と眠気を連れてこない。心を平らにする音だ。

「ミリア」

「なに」

「街に、君を探す者がいる。たぶん、しばらくは」

 心臓が跳ね、腹が冷える。
 彼は顔色を変えない。火を一つ足し、言葉をもう一つ足した。

「だから、扉を開けるのは俺。外に出るなら一緒。道を選ぶのは君」

「……どうして、そこまで」

「放浪の騎士は、たいてい火を持って歩く。分ける相手がいると、火は消えにくい」

 比喩なのか事実なのか、たぶん両方だ。私は黙ってうなずいた。
 胸に縫い付けた革袋の重みは、さっきより軽い。持っているものが“鍵だけ”じゃない気がしたからだ。火の匂い、スープの温度、剪られたタイムの青い香り、薪が割れる音。数えられるものが増えるたび、心の温度が一つずつ戻ってくる。

 彼は椀を片付け、壁に立てかけていた古い外套を取った。
「市場に行く。卵と粉を少し。帰るまで鍵を閉める。誰が来ても、応えるな」

「わかった」

「怖くなったら、火に水を落とせ。煙が上がる。俺が戻る」

「そんなに早く?」

「近い」

 扉が開き、湿った光が差し込む。カイルは一歩外へ出て、なぜか振り返らずに言った。
「ミリア。……よく寝たな」

 返事をする前に、扉は閉まった。木と鉄の音が短く鳴り、閂が落ちる。
 小屋の中に、私の呼吸と火の音だけが残る。
 私は囲炉裏の前にしゃがみ、薪を一本、そっと足した。強すぎず、弱すぎない、さっき教わった火の育て方で。炎は素直に応え、赤い舌を丸めて形を整える。

 包帯の上から手を握る。熱はない。痛みも、薄くなっている。
 私は声に出してみた。
「私は、ミリア」
 名前は昨日生まれて、今日、少しだけ背骨になった。

 薪がぱち、と鳴った。
 小屋の外では、雨がもう一度だけ強くなったあと、諦めたように薄れていく。
 私は立ち上がり、台の上のパンを薄く裂いて、網のそばに置いた。焼ける匂いが広がる。
 こんな匂いを“懐かしい”と思う日が来るなんて、昨日まで想像もしなかった。

 扉のほうへ目を向ける。
 私が信じるべきものは、まだ見つけていない。
 でも、信じないと決めたはずの心には、火のための小さな隙間ぐらい、許してもいい気がした。

 ――乾くまで。
 そこから先は、私が決める。
 薪のぬくもりは、そう言ってくれている気がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

社畜OLが異世界転生したら、冷酷騎士団長の最愛になっていた

タマ マコト
ファンタジー
過労死寸前の社畜OL・神谷美咲が、目を覚ますと中世風の王国《アルセリア》の伯爵令嬢エレナに転生していた。 混乱の中で出会ったのは“冷酷”と恐れられる騎士団長ルーカス。 命を狙われ、家は「魔女の血」と噂される中、美咲は社畜仕込みの“段取り力”と現代知識で必死に状況を整理しながら生き延びようとする。 だが、冷たく見えたルーカスの瞳に隠された優しさを知り、彼の鎧の下にある孤独に惹かれていく。 「守られるだけじゃなく、働いて、この世界で生きていく」―― 異世界での再スタートが、静かに始まる。

ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜

ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが…… この世界の文明レベル、低すぎじゃない!? 私はそんなに凄い人じゃないんですけど! スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。  玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。  エリーゼ=アルセリア。  目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。 「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」 「……なぜ、ですか……?」  声が震える。  彼女の問いに、王子は冷然と答えた。 「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」 「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」 「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」  広間にざわめきが広がる。  ──すべて、仕組まれていたのだ。 「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」  必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。 「黙れ!」  シャルルの一喝が、広間に響き渡る。 「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」  広間は、再び深い静寂に沈んだ。 「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」  王子は、無慈悲に言葉を重ねた。 「国外追放を命じる」  その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。 「そ、そんな……!」  桃色の髪が広間に広がる。  必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。 「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」  シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。  まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。  なぜ。  なぜ、こんなことに──。  エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。  彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。  それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。 兵士たちが進み出る。  無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。 「離して、ください……っ」  必死に抵抗するも、力は弱い。。  誰も助けない。エリーゼは、見た。  カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。  ──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。  重い扉が開かれる。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...