婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト

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第14話「噂という刃と、孤立」

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 噂は、雪より早く積もる。

 落ちて、溶けずに、そのまま人の心に張り付いていく。
 一度こびりついたら、もう簡単には落ちない。

 ――少なくとも、この国の宮廷では。



 最初の一週間は、まだ「違和感」で済んでいた。

 すれ違う令嬢たちのご挨拶が、ほんの少しだけ早く終わる。
 視線が、いつもよりほんの少し上を通り過ぎていく。

 話しかけようとして、言葉を飲み込む。
 扇子の陰で交わされる囁きが、わずかに増える。

(ああ、始まった)

 レティシア・ド・ヴァロワは、そんな空気の変化にはもう慣れていた。

 王太子の婚約者だった頃から、
 「頭が良すぎる女」
 「生意気な女」
 「殿下の前で平気で口を出す女」

 ラベルには事欠かなかったから。

 でも――今回は、質が違った。

 孤児院の“氷の悪女”事件が広まるにつれ、その違いは、はっきりと形を持ち始める。

「聞いた? 孤児たちの前で、“こんなものでは足りない”って言い放ったんですって」
「王太子殿下とマリエル様が、どれだけ優しく振る舞っていたか、記事に書いてあったわ」
「ヴァロワ嬢って、やっぱり“自分のやり方”しか認めないのよ。
 慈善まで政治利用するなんて」

 まるで、見てきたように語る人たち。

 実際には、ほとんどが新聞の一面と、その要約を聞いただけだ。
 でも、人は、「直接見ていないものほど、確信を持って断言できる」生き物だ。



 王宮での午後の小茶会。

 レティシアが会場に足を踏み入れた瞬間、空気が目に見えるほど変わった。

 ざわめきが一瞬止まり、
 数秒後、何事もなかったように再開する。

 輪になってお喋りをしていた令嬢たちが、距離を詰める。
 あからさまに、輪の中に空きがないように見せる。

「ごきげんよう、ヴァロワ嬢」

 形式的な挨拶だけが、ぎこちなく飛んでくる。

「ごきげんよう。皆様、寒さはいかが?」

 レティシアは、いつも通りの笑みで返した。

 その笑みが、逆に皆を怯えさせる。

 視線が、すっと彼女の後ろへ通り過ぎていく。
 そこに誰もいないことがわかっていても、「見ていないふり」のためだけに。

 ほんの数週間前までは、
 「ヴァロワ家と繋がっていれば王太子の決定に口出しできるかも」
 「頭のいいレティシア様の側にいれば、最新の情報が手に入るかも」

 と、利害で近づいてきていた貴族たち。

 彼らは、見事なまでの団結力で、一斉に距離を取った。

 まるで、同じマニュアルでも配られたみたいに、同じタイミングで。

(……まあ、合理的よね)

 レティシアは、内心だけで苦く笑う。

 王太子派と王妃派が、「氷の悪女」フレームを作り上げた。
 それに逆らってまで、彼女と共に立とうとする貴族は、そう多くない。

「陣営を見誤って巻き込まれるくらいなら、最初から関わらないほうが安全」

 彼らの頭の中は、きっとそんな計算でいっぱいだ。

 彼女は、テーブルに並んだカップと皿を眺めながら、
 「前世の教科書に書かれていた“貴族階級の自己保身”」を思い出していた。

(あのとき、本当にわかってた? 私)

 “貴族は、都合が悪くなった瞬間に簡単に誰かを切り捨てる”。

 この一行を、前世の自分は、どこか「物語の中の話」のように読んでいた。
 今は、その物語のど真ん中にいる。

 主語が、“彼らは”ではなく、“私たちは”になっている。



 そんな中でも、変わらない顔はあった。

 ヴァロワ邸の書斎。

 クロエは、相変わらず不器用に淹れたハーブティーを運び、
 ギルバートは、いつも通り無表情で報告を並べる。

「王都北地区の倉庫で、また燃料の横流しが見つかりました。
 テオ様が数字の矛盾に気づかれたようです」

「テオが、ね」

 レティシアは、微かに笑った。

 書斎の隅には、テオから届いた手紙が山積みになっている。

『孤児院の帳簿、一部ですが写しを手に入れました。
 いくつか“消えているはずのない数字”があります。
 詳細は、別紙にて――』

 几帳面な字。
 淡々とした報告。

 行間から、「僕はあなたの味方でいますよ」と言われている気がした。

 ルネも変わらない。

 貧民街で情報集めを任せている少年は、
 ヴァロワ邸の裏口からこっそり忍び込んでは、

「また変な噂が増えてたぞ。
 “ヴァロワ様は孤児たちのパンを奪って、自分の馬のエサにしてる”とか」

 とんでもないデマを報告してくる。

「馬のエサのほうが、孤児院のパンより豪華なんじゃない?」

 レティシアが苦笑すると、ルネは、むっと唇を尖らせた。

「笑い事じゃねぇって。
 奴ら、マジでそう信じてる。

 でも……俺の家の連中は、誰も信じちゃいねぇよ」

 そう言って、彼は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

「お前が、誰より先にパンと薬持ってきたこと、忘れてねぇからな」

 その言葉に、レティシアの胸の奥がじん、と熱くなった。

 味方はいる。

 貴族社会では孤立しても、
 別の場所で繋がっている人たちがいる。

 それでも――。

(守るべきものが、増えていく)

 クロエの不器用な笑顔。
 ギルバートの寡黙な忠誠。
 テオの真面目な文字。
 ルネの不器用な信頼。

 それは、確かに彼女の支えだ。

 同時に、「私が失敗したら、この人たちが一緒に巻き込まれる」という恐怖の種でもある。



 シャルルとの距離も、変化していた。

 以前は、週に一度か二度はヴァロワ邸に顔を出していた第二王子は、
 今では、十日に一度、二十日に一度――というペースに落ちていた。

 理由は、わかっている。

 王宮では、すでに囁かれているのだ。

『第二王子殿下はヴァロワ嬢に入れ込んでいる』
『王太子に対抗するための駒にしようとしている』

 そんな噂が。

 シャルルが頻繁に訪ねてくるたびに、その声は大きくなる。

 それは、彼の足を引っ張る。
 同時に、レティシアの首に縄を増やす。

 だからこそ、彼は距離を取った。

 ――理性的に見れば、正しい判断だ。

 頭では理解している。
 国全体のことを考えれば、「一度手を引くタイミング」が必要なのもわかる。

 でも、心は別だ。

 夜。

 ヴァロワ邸のバルコニーで、レティシアは冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んでいた。

 遠くに王城の影が見える。
 あのどこかに、シャルルがいる。

(“一人じゃない”って、あの人は言ってくれたけど)

 今の感覚は、かなり「一人」に近い。

「お嬢様、寒くなりますよ」

 背後から、クロエの声。

 レティシアは、振り返らずに笑った。

「大丈夫。
 寒いほうが、頭が冷えていいの」

 本当は、寒さよりも、心のほうが凍っている。

 でも、それを口にしたら、きっとクロエは泣いてしまう。

 だから、言わない。

 守るべきものが増えるほど、
 自分の言葉に重しが乗る。

 簡単に弱音を吐けなくなる。

 ――それが、こんなにも息苦しいものだと、前世の自分は知らなかった。



 前世では、ただ歴史を眺めるだけだった。

 図書館の窓際。
 ノートパソコンと資料に埋もれながら、「旧体制崩壊と民衆暴動」という卒論を書いていた自分。

 教科書の中の“パンの暴動”。
 “恐怖政治”。
 “処刑台”。

 そのどれもを、冷静に、分析的に、
 「これは構造の問題であって、個人の善悪の話ではなく――」なんて、もっともらしく語っていた。

(あのときの私を、本気で殴りたい)

 今の自分は、構造に殴られている。

 噂という刃で。
 評価という鎖で。
 “悪役”というラベルで。

 これは、「そういう構造なんです」で済ませられるほど軽くない。

 毎日、息をするたびに、
 「あなたは悪女だ」と囁かれているようなものだ。

 笑ってやり過ごすのも、段々体力が要るようになってくる。



 そんな中で、アルマンは――笑っていた。

 王太子の執務室。

 側近が、新しい新聞の束を机に置く。

「ご覧ください、殿下。
 “氷の悪女ヴァロワ嬢”の記事は、どの新聞でもよく売れているようです。
 街の噂も、すっかりそのイメージで固まりつつあります」

「そうか」

 アルマンは、紙面をざっと眺めた。

 見出し。
 挿絵。
 「涙ぐむマリエル」と、「冷たく微笑むレティシア」の対比。

 自分が演出した構図が、そのまま紙の上にバランスよく配置されている。

(これで、あいつは二度と這い上がれない)

 胸の内に、満足感が広がる。

 王宮内でも、誰もレティシアの名前を積極的に出さなくなった。
 彼女と親しくする貴族は減り、
 ヴァロワ公爵でさえ、娘の話をするときは表情を固くしている。

 「切り捨てられた駒」。

 その構図が、ようやく現実になろうとしている。

 それなのに。

 胸の奥のどこかで、奇妙なざわめきが消えなかった。

 新聞の中のレティシアの挿絵。

 誇張された冷たい微笑み。
 人形のように整った横顔。

 ――そこに、“本物の彼女”はいない。

 あの日、
 自分に向かって平然と「それは愚策です」と言った少女。

 自分を真っ直ぐに見て、「あなたは間違っている」と言えた婚約者。

 婚約破棄の場で、泣き崩れる代わりに、
 どこか呆れたように笑っていた女。

(……本当に、これで“終わり”でいいのか?)

 ふいに、そんな考えが頭をよぎる。

 もし、本当にレティシアが“役目を終えた駒”なら――
 これほどまでに、彼女の動向を気にする必要はないはずだ。

「殿下?」

 側近の声に、アルマンは我に返った。

「どうかなさいましたか」

「いや、何でもない」

 彼は、新聞を丁寧に重ねて端に置いた。

「次の案件だ。
 ヴァロワ家に対する正式な調査の準備を進めろ」

「調査……と申しますと?」

「弾劾裁判だ」

 アルマンの声は、静かだった。

「“王太子に楯突き、国庫を私物化し、民衆を扇動しようとした令嬢”として――
 レティシア・ド・ヴァロワを、王宮の大広間で裁く」

 側近の目が、満足げに光る。

「ついに、ですな」

「このまま噂だけで終わらせるつもりはない」

 アルマンは、目を細めた。

「噂は、あくまで“土台”だ。
 最後に必要なのは、“公式な断罪”」

 彼の中では、すでに絵ができあがっていた。

 大広間。
 見下ろす貴族たち。
 中央に立たされるレティシア。

 その姿を想像するだけで、胸のざわめきが、甘い快感と混ざり合う。

(俺の前で、もう一度、“あいつを”跪かせてやる)

 それが、彼の執着の形だった。



 弾劾裁判の通達は、想像していたよりもずっと簡素に届いた。

 白い封筒。
 王家の紋章。

 ヴァロワ邸の玄関で、それを受け取った執事が、
 血相を変えてレティシアの元へ運んできた。

「お嬢様……!」

 書斎で帳簿を眺めていたレティシアは、顔を上げる。

「どうしたの?」

「王宮からの、正式な通達です」

 封を切る。

 羊皮紙の上には、
 冷たく整った文字で、こう書かれていた。

『ヴァロワ公爵令嬢、レティシア・ド・ヴァロワ殿。

 貴殿のこれまでの行いに関し、
 王太子殿下の名のもと、
 王宮大広間にて弾劾裁判を行うことを通達する。

 期日は――』

 日付が、簡潔に記されている。

 近い。
 思っているよりずっと、近い。

 クロエが、紙を覗き込んで青ざめた。

「だ、弾劾裁判……?
 お嬢様が、裁かれる……?」

 ギルバートの表情も、さすがに固い。

「王宮の大広間での弾劾となれば、貴族だけでなく、各方面に大きな影響が出ます。
 ヴァロワ家の立場も――」

 彼の言葉は、途中で止まった。

 レティシアが、ふっと笑ったからだ。

 本当に、ふっと。

 肩から力が抜けるような笑いだった。

「……やっと」

 思わず、口から小さく漏れる。

「お嬢様?」

「やっと、正面から殴り合えるのね」

 紅茶を一口飲むときと同じくらい自然な調子で、レティシアはそう言った。

 クロエが、ぽかんと口を開ける。

 ギルバートも、珍しく返す言葉を失っていた。

 レティシアは、羊皮紙を丁寧に畳み、机の端に置いた。

「今まではずっと、噂みたいな、陰口みたいな、“後ろから刺される”やり方だったから」

 その目が、静かに光る。

「ようやく、真正面から。
 “あなたは悪女です”って言ってくれる場所ができた」

 前世で、歴史の外側から眺めていた「断罪の場」。

 今の彼女は、その内側に立つつもりでいる。

 噂という刃で何度も切り刻まれて、
 心も評判も傷だらけになって。

 それでも――。

(どうせ殴られるなら、正面からがいい)

 レティシアは、静かに息を吸い込んだ。

「さあ、準備しなきゃ」

 机の引き出しから、テオの資料が入った束を取り出す。

 帳簿。
 証言。
 兵糧の記録。

 全部を武器に変える。

「“悪役令嬢”の弾劾裁判。
 悪役らしく、派手にやってあげないとね」

 自分にしか聞こえない声で、彼女は呟いた。

 窓の外では、雪がまた降り始めている。

 白い世界の中で、
 ひとりの女の瞳だけが、静かに、確かに、燃えていた。
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