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第15話「弾劾と“静かな追放”」
しおりを挟む王宮大広間は、いつもよりも静かだった。
壁一面にかかった王家のタペストリー。
天井から吊られた巨大なシャンデリア。
赤い絨毯は、玉座からまっすぐ伸びて、広間の中央――一人の女が立つためだけの場所へと続いている。
その真ん中に、レティシア・ド・ヴァロワは立っていた。
豪奢さとは裏腹に、空気は冷たい。
ささやき声も、衣擦れの音も、すべてが氷に閉じ込められたみたいに薄く響く。
雪雲の下の王都の冷え込みが、そのまま大広間の天井まで侵食してきたかのようだった。
(さあ、“断罪イベント”本番)
心臓は、意外と静かだった。
怖くないと言えば嘘になる。
でも、ここに来るまでに何度も、“最悪のパターン”はシミュレーション済みだ。
あとは――殴られるなら、正面から。
◆
玉座の上には王。
その横に、王妃。
少し下がった位置に、王太子アルマンと第二王子シャルルが並ぶ。
その左右には、王妃派と王太子派の有力貴族たち。
彼らの視線は、一斉にレティシアへ刺さっている。
「弾劾を始めよ」
王の声は、老いで少し掠れていた。
だが、その一言には、まだ“この国の頂点”としての重みがある。
先に進み出たのは、王妃派の重鎮侯爵だった。
「ヴァロワ公爵令嬢、レティシア・ド・ヴァロワ」
彼は高らかに名前を読み上げる。
「貴殿には、幾つかの疑いがかけられている。
まず――“国庫の浪費”」
ざわ、と周囲がざわめく。
「王太子殿下の許可なく、ロジェ商会を通じて多額の金を動かし、
王都および貧民街に食糧と薬品を供給した件。
一見慈善のように見えるが、その資金源はどこから出たのか。
公爵家の私財のみならず、“国庫からの流用があったのではないか”という疑いがある」
(“疑い”ね。便利な言葉)
レティシアは、内心で冷笑した。
「次に、“民衆扇動”」
今度は、王太子派の伯爵が一歩前に出る。
「市場での“謎の食糧供給”、孤児院での“食事は十分ではない”発言、
思想家サロンに匿名で出入りし、王権批判を煽るような場に顔を出していたとの報告もある」
(……誰よ、サロンでチクったのは)
ダミアンの顔が一瞬脳裏をよぎる。
彼が直接売ったとは思わないが、あの場には“耳の軽い連中”も多い。
「そして、“第二王子の政治利用”」
広間の空気が、ぐっと重くなった。
王妃派の別の貴族が、扇子を畳んで言う。
「ヴァロワ嬢は、近頃第二王子殿下と頻繁に接触し、
王太子殿下に反対する勢力を作ろうとしていたのではないか――と」
ざわめき。
シャルルの肩が、ぴくりと動いた。
アルマンは、表情を変えない。
「以上の点について、説明を求める」
重ねられた“罪状”は、実際より少し盛り気味で、
けれど一つ一つに“まったくの嘘ではない”要素が混ざっている。
(上手いわね、“真実と嘘のサンドイッチ”)
完全なでっち上げのほうが、まだ反論しやすかった。
これは、わざと反論を難しくしている。
レティシアは、ゆっくりと一礼した。
「ご説明いたしますわ」
◆
その頃。
王宮の外れの廊下では、別の戦いが繰り広げられていた。
「証言を撤回する……?」
テオ・ランベールは、信じられないという顔で目の前の男を見つめていた。
孤児院で働いていた元従業員。
彼は以前、「院長が物資を抜いていた」と証言してくれた人物だ。
今日、その証言を正式に弾劾の場で提出する手筈だった。
なのに、男は今、震える声で首を振っている。
「む、無理だ……。
あいつらに“口を出したら家族ごと路地に転がすぞ”って言われた……」
「“あいつら”?」
テオの目が細くなる。
男は、青ざめた顔で廊下の向こうをちらりと見る。
そこには、王妃派の紋章をつけた兵士が控えていた。
「す、すまない……!
俺は、もう……何も見てないことにする……!」
男は、逃げるように去っていった。
テオは、歯を食いしばる。
(証人、買収と脅迫。
……こちらの動き、完全に読まれていた)
別の廊下では、ルネが息を切らして駆け込んでくる。
「テオ! やべぇ、さっきまで“証言してやる”って言ってた商人の親父も、ビビって黙っちまった!」
「やはり……」
テオは、拳を握りしめた。
数字と帳簿だけでは、弾劾の場では“弱い”。
感情に訴える証人が必要だった。
そこを、相手は真っ先に潰してきた。
(……レティシア様の言っていた通りだ)
「弾劾の場は、正しさを争う場所じゃない。
“誰の物語が勝つか”を決める場所」
テオは、悔しさに唇を噛みながら、書類の束を抱え直した。
「それでも――諦めるわけにはいかない」
数字しか武器のない自分にできることは少ない。
それでも、ゼロではない。
「行くぞ、ルネ」
「お、おう!」
二人は、大広間へと走った。
◆
「まず、“国庫の浪費”についてですが――」
レティシアは、一つ一つ丁寧に言葉を選んでいた。
「ロジェ商会を通じた食糧と薬品の支出は、すべてヴァロワ家の私財からです。
証拠として、こちらに帳簿の写しを」
テオから受け取った資料の束を掲げる。
王妃派の貴族が、鼻で笑った。
「ヴァロワ家の帳簿など、いくらでも都合よく書き換えられるのでは?」
「だからこそ、文書局から取り寄せた税記録と照合してあります」
レティシアは静かに返す。
「ヴァロワ家の納税額は、ここ数年増加していますわ。
“国庫から抜いた”のなら、それは数字に現れます」
ざわ、と周囲が揺れる。
王妃派の顔が、僅かに歪んだ。
彼らも、“数字”では簡単に嘘をつけないことを知っている。
「しかし、“民衆扇動”についてはどうかな?」
別の貴族が声を上げた。
「市場で食糧をばらまき、孤児院で“食事は十分ではない”と発言したことは事実だろう」
「事実です」
レティシアは、あっさり頷いた。
「今年の冬、王都で飢えた人がどれだけいたか、ご存じないのなら教えて差し上げましょうか?」
その皮肉に、何人かの貴族が顔をしかめる。
「わたくしがしたことは、“民衆を扇動するための見せ物”ではありません。
パンがなければ、人は死にます。
薬がなければ、人は苦しみます。
それを少しでも減らすために、私財を投じたまでですわ」
王太子派の貴族が、すぐさま噛み付く。
「だが、その結果、“王太子殿下ではなくヴァロワ嬢が民を救っている”という噂が広まった!」
「それは、殿下の側近がうまく動かなかった結果ですわね」
「何だと!?」
「――だって、“食糧を配る権限”も、“税制を変える権限”も、本来は王族と政府にあるのでしょう?」
レティシアは、わざと首をかしげてみせる。
「権限も金もある方々が何もしないから、
権限もない公爵令嬢が、自分の財布をひっくり返して走り回る羽目になっている。
それを、“扇動”と呼ぶのは、少し違うんじゃなくて?」
広間のどこかで、抑えた笑い声が上がり、すぐに咳払いで誤魔化された。
シャルルの口元が、わずかに緩む。
(この人、ほんと“口”だけなら無敵なんだよな)と、どこかでテオが苦笑していそうだ。
だが――。
「口は達者ですね、ヴァロワ嬢」
王妃が、扇子をひらひらと動かした。
「けれど、今ここで問われているのは、“貴女がどれほど弁が立つか”ではございませんわ。
“王家の権威を傷つけたかどうか”。
“この国にとって危険かどうか”。
その一点だけです」
王妃派と王太子派の視線が、ぴたりと重なる。
彼らは、すでに結論を決めている。
レティシアがどれほど論理を積み上げようと、
“物語の結末”は変える気がない。
◆
「“第二王子の政治利用”については?」
王太子の側近が、勝ち誇ったように言葉を投げる。
「最近の貴女の動きは、すべて第二王子殿下と繋がっているという噂です」
「噂は噂ですわ」
レティシアは、わざと軽く答えた。
「第二王子殿下とお話しする機会が増えたのは事実です。
ですが、それは“王家の一員として、この国の現状を一緒に見てくださった”からであって――」
「貴女は、“兄に不満を持つ弟の影”にすがったのではありませんか」
――アルマンだった。
今まで黙っていた王太子が、ようやく口を開いた。
その声音には、奇妙な熱が混ざっている。
「私が“王太子として未熟だ”と、何度も指摘してきたな、レティシア」
彼は、ゆっくりとレティシアを見た。
その目は、怒り、恐怖、執着――色々な感情が混ざって、判別しづらい。
「君は、いつも“正しいこと”を言う。
だが、それは“王太子を傷つけるため”でもあった。
私が君との婚約を破棄したあと、君は第二王子のもとへ行った。
“より賢い王の側に立つほうがいい”とでも思ったのではないか?」
“そう言ってくれたほうが楽なんだろうな、この人は”。
レティシアは、心の片隅で冷静に分析していた。
(“自分を批判した女が弟のほうを選んだ”って形にしとけば、自分のプライドの傷が少しマシになるもんね)
だが、口には出さない。
「殿下」
代わりに、一歩だけ前に出た。
「わたくしが第二王子殿下とお会いしていたのは、“殿下を貶めるため”ではありません」
「なら、何のためだ」
「――“この国を少しでもマシにするため”です」
空気が、ぴん、と張り詰めた。
「殿下。
重税。
飢え。
兵糧の横流し。
腐敗した貴族。
その全部を放置すれば、いずれ“革命”が起きます」
レティシアは、まっすぐに言った。
「前世の歴史書で読んだ言葉を、そのまま口にしているわけじゃない。
この目で見て、この耳で聞いて、この手で触れた現実です」
“前世”の部分は飲み込む。
「私は、それを少しでもマシな形に変えたくて動いていました。
殿下が“間違っている”と言うのは、そのためです」
アルマンの顔が、強張る。
「“この国を浪費している”のが誰か――
本当は、殿下ご自身が一番よくご存じなのでは?」
それは、ほとんど宣戦布告だった。
貴族たちが息を呑む。
王妃が扇子を握る手に力を込める。
シャルルが、横で小さく目を閉じた。
アルマンは、一瞬だけ言葉を失い――すぐに、冷たい笑みを浮かべた。
「やはり、危険だな、君は」
彼の声は、静かだった。
「“革命”という言葉を口にし、
王太子を批判し、
第二王子と結託し、
民衆に匿名の慈善をばらまく。
君の存在は、“王家の安定”にとって火種にしかならない」
彼は、玉座のほうを振り返った。
「父上。
彼女を、このまま王都に置いておくのは危険です」
◆
「異議あり」
その瞬間、シャルルが声を上げた。
大広間の視線が、一斉に彼へ向く。
「第二王子殿下?」
王妃派の貴族たちが眉をひそめる。
シャルルは、まっすぐ王のほうを見た。
「ヴァロワ嬢がしてきたことは、確かに“王家にとって都合のいいこと”ばかりではない。
だが、彼女が救った命があることも事実です」
彼は、淡々と続ける。
「市場での暴動未遂。
あのとき彼女が麦とパンを流していなければ、
もっと多くの血が流れていたでしょう。
飢えで死ぬはずだった子どもたちが、彼女の支援で冬を越せた例も報告されています」
テオとルネの報告を、彼はすでに全部受け取っている。
「“民を救った”という事実を無視して、“王家への批判”だけを取り上げるのは、
王族として誠実とは言えないのでは?」
王宮の空気が、さらに冷たくなる。
王妃の目が、きつく細められた。
「シャルル。
貴方は、“兄を公然と批判する”つもり?」
彼女の声は、甘い毒を含んでいる。
「……そうは申し上げておりません」
シャルルは、あくまで冷静に返した。
「私は、“事実を無視するな”と言っているだけです」
「その“事実”とやらが、王家の権威を損なうものであったとしても?」
別の王族が口を挟む。
「第二王子よ。
お前は、自分の立場をわきまえろ。
ここでヴァロワ嬢を庇い立てすることは、“王太子に楯突く”ことと同じだ」
シャルルの口が、きゅっと結ばれる。
(……これ以上言えば、殿下まで一緒に潰される)
レティシアは、彼の横顔を見ながら、心の中でそっと呟いた。
(ここは、“引くしかない”場面)
「……申し上げたいことは以上です」
シャルルは、一礼して一歩下がった。
それが、彼なりの「ギリギリの抵抗」だった。
◆
結論は、最初から決まっていた。
王は、長い沈黙のあと、ゆっくりと口を開いた。
「ヴァロワ公爵令嬢――レティシア・ド・ヴァロワ」
その声は、年老いて震えているが、よく通る。
「汝の行いは、確かに“この国を想う心”から出たものかもしれぬ。
しかし、王太子への批判、
“革命”という言葉を軽々しく口にする態度、
民衆の間に“王家以外の救い”があるかのような噂を広めたことは、
この国の安定を乱す火種となっておる」
王妃が、満足げに目を閉じた。
アルマンの肩の力が、わずかに抜ける。
(ああ、“処刑”はない)
レティシアは、その空気の変化を察した。
彼らにとって、ここで自分を殺すのは早すぎる。
「悪女を晒したまま生かしておいたほうが、“見せ物”として使える」と判断するはずだ。
王の次の言葉は、それを裏付けた。
「よって――」
広間が、静まり返る。
「汝を、死罪には処さぬ」
一瞬、緊張がほどける。
同時に、別の冷たさが足元から這い上がってくる。
「“精神の静養”を名目に――
王都より離れた地方の領地にて、しばらく静かに暮らすがよい」
ざわ、と貴族たちがざわめいた。
「つまり、“追放”……」
「表向きは慈悲深い処置というわけか」
王妃が、扇子で口元を隠しながら微笑む。
「殿下のご温情ですわ。
“危険な思想”を持つ令嬢を処刑せず、“静かに療養させる”という形にすることで、
王家の寛大さを示せますもの」
アルマンは、無言だった。
その沈黙が、何より雄弁だった。
(“権力中枢からの排除”。
でも、“完全には殺さない”)
レティシアは、自分の胸の中でその言葉を噛みしめた。
政治的に見れば、それは最高に合理的な一手だ。
彼女をここから遠ざける。
王都と宮廷から、革命のタイムラインを見ている“厄介な目”を消す。
同時に、“悪女に情けをかけた王太子”という物語を作る。
(……本当に、この国のトップは“物語づくり”が好きね)
レティシアは、ほんの少しだけ笑った。
その笑みが、さらに「冷たい」と思われているのだろう。
◆
ヴァロワ邸に戻る馬車の中。
レティシアは、窓の外をぼんやりと眺めていた。
王都の石畳。
見慣れた通り。
屋根の上に積もる雪。
全部が、少しだけ遠く感じる。
「お嬢様……」
向かいに座るクロエは、目を真っ赤にしていた。
「ひ、ひどいです……!
お嬢様は、ちゃんと人のこと考えて動いてたのに……!
どうして“静養”なんて……! どう考えても追放なのに……!」
レティシアは、彼女の言葉を遮るように、そっと手を伸ばした。
クロエの手を握る。
自分の指が、震えていることに、そのとき初めて気づいた。
(ああ、私――)
悔しい。
悔しくて、腹が立って、
今すぐ王宮の壁を殴りに戻りたいくらいだ。
でも同時に――。
「……少し、ほっとしてる自分もいるんだよね」
ぽろり、と本音がこぼれた。
クロエが、きょとんとした顔でレティシアを見る。
「え?」
「“戦場から一度降りられる”って、ちょっと思っちゃった」
自嘲気味に笑うと、頬を何かが伝った。
指で触れると、それは冷たい涙だった。
あまりに静かに落ちたものだから、泣いていた自覚すらなかった。
「毎日毎日、火の粉と数字に追われて。
誰が死ぬか、誰を救うか。
自分の選択で、誰かの人生が変わるって自覚を抱えながら、前に進み続けるのって……」
言葉が、喉の奥でつっかえる。
「正直、しんどかった」
クロエの目からも、涙が溢れる。
「お嬢様……」
「だから、“逃げ場”を与えられたことに、少しだけ安堵してる自分がいる。
最低でしょ、これ」
レティシアは、自分を軽蔑するように笑った。
「革命のタイムラインは、私がいなくても進むのに。
私が王都から離れている間に、きっと“何か”が起きる。
それでも、“少し休める”って思っちゃったんだよ」
その矛盾が、胸の中でぐちゃぐちゃに絡まり合っている。
守りたかったもの。
捨てたくなかった人たち。
それでも、心は限界に近かった。
「……最低なんかじゃありません」
クロエが、鼻を啜りながら言った。
「ずっと、ずっと、前から思ってました。
お嬢様、寝てないし、食べてないし、
それでも笑って、“大丈夫よ”って言ってて。
正直、こっちが壊れそうでした」
彼女は、ぎゅっとレティシアの手を握り返した。
「少し、休んでください。
休んで、また――戻ってきてください」
“戻ってきて”。
その言葉に、また新しい涙が溢れた。
「……戻れるかな」
「戻ってきてもらいます」
クロエの声は震えていたけれど、その瞳は真剣だった。
ギルバートも、向こうの席で静かに頷く。
「お嬢様がいない間も、こちらでできる限りのことはいたします。
テオ様も、ルネも、すでに動き続ける気でおります」
戦場から降りる。
でも――戦いそのものは続く。
立ち位置が変わるだけ。
レティシアは、涙を拭って笑った。
「……じゃあ、辺境の地から、“遠距離戦”でもやってみようかな」
◆
その夜。
レティシアを乗せた馬車は、静かに王都を離れた。
雪は、しんしんと降り続いている。
街灯の光が、白い粒を淡く照らす。
遠ざかっていく城壁。
王宮の塔。
全部が、暗闇の奥に飲み込まれていく。
新たな赴任先は、王都から遠く離れた辺境の地。
雪深い寒村と、小さな砦しかないような場所だと聞いている。
「精神の静養」。
その名目の裏で、彼女を中央から遠ざけるには、これ以上ない地理的条件だ。
でも――。
「雪、きれいだね」
レティシアは、窓の外を見ながら呟いた。
冷たい世界。
白い闇。
その中で、彼女の心には、まだ小さな炎が残っている。
(ここで終わりにはしない。
どれだけ遠くに飛ばされても、
“革命の時間”は、私の中にも刻まれてる)
辺境は、捨てられた土地じゃない。
革命が起きたとき、
一番最初に切り捨てられるのは、いつも“周辺”だ。
(……だったら、そこから守りを固めるのも、悪くない)
王都での戦いは、一旦幕を下ろした。
噂という刃に切り刻まれ、
悪役フレームで塗り固められ、
“静かな追放”という形でステージから降ろされる。
――それでも。
レティシア・ド・ヴァロワという悪役令嬢の物語は、まだ終わらない。
雪の夜を裂いて進む馬車の中で、
彼女は、ゆっくりと目を閉じた。
「次の戦場は――辺境の地、ね」
唇に浮かんだ笑みは、
どうしようもなく疲れて、
それでも、確かに前を向いていた。
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