追放後に拾った猫が実は竜王で、溺愛プロポーズが止まらない

タマ マコト

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第13話「土下座の再会と、竜王の威圧」

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 その日、村の空は、やけに騒がしかった。

 鳥たちがいつもと違う方向へ飛んでいく。
 犬が落ち着きなく吠え、家畜たちが柵の中でそわそわと足を鳴らしていた。

「……なんか、嫌な感じする」

 畑から戻る途中、リラは足を止めて空を見上げた。

 薄く黒い靄は、ここ数日で少しずつ濃さを増している。
 遠くの山の稜線が、かすかに歪んで見えた。

 背中に、ざわり、と冷たいものが走る。

「リラ!」

 マリアが村の入口の方から叫んだ。

「ちょっと! アンタも来な! 面倒くさいのが来た!」

「言い方!!」

 叫び返しながらも、リラは走り出していた。

 “面倒くさい”の意味を、嫌でも察してしまう。

(……来たんだ)

 王都からの──“厄介な客”が。



 村の入口は、妙な静けさに包まれていた。

 いつもなら、子どもたちが虫を追いかけていたり、畑に行く人たちが行き来していたりする場所だ。
 今日は、村人たちが一列に並んで、遠くの土煙を固唾を飲んで見つめている。

 やがて、土の道の向こうから、馬の蹄の音が聞こえてきた。

 ドッドッドッ──と、重たいリズム。
 近づいてくるにつれて、そのリズムが妙に乱れているのがわかる。

 疲れている。馬も、人も。

 姿が見えたとき、リラは息を呑んだ。

 本来なら、眩しいくらいに煌びやかなはずの装束。
 金糸の刺繍、白いローブ、王家の紋章の入ったマント。

 その全てが──泥と血と煤で汚れていた。

 裾は破れ、紋章は煤で黒ずみ、金糸は土に沈んで光を失っている。
 顔も同じだ。
 騎士たちの鎧には傷が刻まれ、神官たちの頬はやつれ切っていた。

「あれが……王都から?」

 隣で、誰かが小さく呟く。

 騎馬の列の真ん中に、ひときわ立派な馬車があった。
 だが、その車体もまた、泥で汚れ、片方の車輪はギリギリのところで持ちこたえている。

 村の手前まで来ると、使節団は足を止めた。

 しばしの沈黙。
 風が、土の匂いと、遠くから混じってきた鉄臭さを運ぶ。

 騎馬の前に、一人の男が進み出た。
 髭をたくわえた、高位神官の一人。
 リラも、何度も見た顔だ。聖堂の奥でいつも偉そうに座っていた男。

「……ここが、例の辺境の村か」

 彼は、村を見下ろすような目で言った。

 その視線に、マリアが小さく舌打ちする。

「辺境だの無名だの、さっきから失礼なのよね、ああいう顔した連中」

「マリアさん、声……」

「聞こえていいの」

 平常運転で強い。頼もしい。

 高位神官は、村人たちの前に立つと、かろうじて作った威厳をまとって口を開いた。

「我らは、王都よりの使節団である」

 よく通る声が、村の空気を無理やり押し広げる。

「王の命により、“かつての大聖女候補”リラを探し、この地へ到来した」

 村人たちの視線が、一斉にリラへ向く。

「……“かつての”とか、言い方」

「いちいちムカつくわね」

 小声でマリアと毒を吐き合いながらも、リラは一歩前に出た。

 喉の奥が、ぎゅっと詰まる。
 膝が少し震える。

「……私が、リラです」

 はっきりと、名乗る。

 もう、“補欠”とか“基準以下”とか、余計な肩書きをくっつける気はない。

 高位神官の目が、じろりとリラを舐めた。
 どこかで見たことがあるような、それでいて「ここにいるのが信じられない」とでも言いたげな顔。

「おお……本当にいたか。
 もっとやつれているかと思ったが……案外元気そうだな」

「開口一番それですか」

 マリアの低いツッコミが飛ぶ。
 リラは、半分笑いそうになりながらも、ぐっと堪えた。

 高位神官は、咳払いを一つしてから、言葉を慎重に選ぶような顔になった。

「リラ。久しいな」

「そうですね。追放されてからは、一度も会っていませんから」

 自分でも驚くほど、声は冷静だった。

「……おお、そうだな。
 その件については、色々な行き違いがあった……」

「“行き違い”」

 口の中でその言葉を転がす。

 “行き違い”で済ませるには、あの日の痛みはあまりに生々しい。

 高位神官は続けた。

「過去のことはともかくとして──」

「出たよ、“ともかく”」

 マリアがまた小さく唸る。
 リラの胸の中にも、同じ言葉が刺さってくる。

「今は、王都が危機に瀕している。
 女神の加護が揺らぎ、多くの民が倒れ、魔物が街を蹂躙している。
 我らは、その惨状を前に、可能な限りの力を集めねばならぬと判断した」

 そこで、男の視線がぐっと鋭くなる。

「リラ。
 お前の力が、我々にとって“必要”になった」

 その一言で、胸の奥がチリチリと焼けた。

(“必要になった”)

(今までは“いらなかった”って言いたいんだね)

「だから、お前に協力を求めに来た。
 王都のために、一緒に立ってほしい」

 言葉だけ聞けば立派だ。
 けれど、その裏側に透けて見えるのは、都合のいい打算と恐怖。

(“助けてください”じゃないんだ)

(まだ、“上から”なんだ)

 唇を噛みそうになったそのとき──。

 その男の影に、別の影が重なった。

 白いローブ。
 金の髪。
 以前より痩せた頬と、深く落ちた目の下の隈。

「……リラ」

 レイナだった。

 上等なはずの聖女服は、他の神官たち以上にボロボロだった。
 裾は泥で黒く染まり、袖には乾いた血の跡がこびりついている。
 髪は丁寧に結い上げられているはずなのに、ところどころ乱れていた。

 その姿を見た瞬間、胸の奥がぎゅうっと締めつけられる。

(……レイナ様)

 声をかけるべきか、迷う。
 喉の奥にいろんな言葉が渦巻いて、どれから出せばいいのかわからない。

 迷っている間に──レイナは、動いた。

 す、と一歩前に出る。
 そしてそのまま、膝をついた。

「え……?」

 次の瞬間。

 彼女は、地面に額をつけていた。

 ボロボロのローブが土にまみれ、金の髪に土埃が絡みつく。
 村の入口の、決して綺麗とは言えない道の上で。

「レイナ様!?」「なっ──!」

 神殿の者たちがざわめく。

 レイナは、それを無視するように、震える声を絞り出した。

「ごめんなさい、リラ」

 その声は、ひどくか細かった。

「本当に……本当に、ごめんなさい……」

 ガリ、と土を掻く音がする。
 額を押しつける力が、尋常じゃない。

「わたし……あなたを、庇えなかった。
 測定器の結果を、信じたふりをして。
 神官たちの言葉に、縋って。
 “あの子は弱いから仕方ない”って、自分に言い聞かせて……」

 言葉が、そこで一度途切れた。

 レイナの肩が震えている。
 涙が土に落ち、泥水と混じる。

「本当は、わかってた。
 あなたが、弱くなんかないこと。
 治癒の時の光が、誰よりもあたたかいってこと。
 わたし一人じゃ背負いきれないものを、ずっと一緒に持ってくれてたこと……」

「……」

 リラは、何も言えなかった。

 怒りと、哀しみと、安堵と、嫉妬と、懐かしさと。
 ありとあらゆる感情が、胸の中でぐちゃぐちゃに混ざっていく。

「それでも……わたし、怖かったの」

 レイナは、声を震わせ続ける。

「“大聖女”って肩書きが。
 “たった一人の真の聖女”って、持ち上げられることが。
 もしあなたと一緒に立ったら、わたしの存在意義がなくなるんじゃないかって……」

 嗚咽が混じる。

「だから、“基準以下”って言葉に、甘えた。
 神官たちの“切り捨てても仕方ない”って言葉に、縋った。
 庇うことをやめた。
 あなたを、守るのをやめた」

 胸の奥が、ズキッ、と痛む。

(知ってた)

(どこかで、ずっと知ってた)

 レイナが、自分を完全に信じていなかったこと。
 どこかで、自分と並び立つ存在を恐れていたこと。

「その結果が、これなの……」

 レイナは顔を上げた。
 泥と涙と血でぐちゃぐちゃになった顔。

「王都は崩れかけてる。
 結界は破れて、魔物が街に溢れて……
 わたしは、“ひとりの大聖女”として、何もできなかった……」

「レイナ様……」

「だからお願い、リラ」

 レイナの目が、リラを真っ直ぐに見た。

 そこには、言い訳も、体裁も、プライドもなかった。
 ただ、必死さだけがあった。

「今さら、どんな顔して会えばいいのかわからないけど……
 謝る資格があるのかもわからないけど……」

 声が、少しだけ裏返る。

「お願い……助けて。
 王都の人たちを……わたしの、大切な人たちを……死なせたくないの」

 その一言で、リラの胸は、どうしようもなく掻き乱された。

「……ずるい」

 ぽつりと、声が漏れる。

「そういうふうに言うの、ずるいよ、レイナ様」

 怒りがないわけじゃない。
 むしろ、怒りの方が強いくらいだ。

 追放された日のこと。
 門が閉まる音。
 “庇えなかった”と言いながら、その目の奥に浮かんだ安堵。

 全部、まだ鮮明に覚えている。

「今さら……今さら、そんなふうに謝られても、傷は消えないよ」

 唇を噛む。
 涙が、じわりと滲む。

「“ごめんなさい”って言葉で、あの日の私の気持ちが全部チャラになるわけじゃない」

「……うん……」

 レイナは否定しなかった。
 うつむきながら、小さく頷く。

「許されるなんて……思ってない。
 罰を与えるなら、何だって受ける。
 嫌われたっていい。
 それでも──」

 顔を上げる。
 その目は、涙でぐちゃぐちゃでも、光を失ってはいなかった。

「王都のみんなが、死んじゃうのは嫌なの」

 その一言が、胸に刺さる。

(私だって、嫌だよ)

 心の中で、誰かが叫ぶ。

(嫌に決まってる)

 神殿が嫌いでも、王都が苦くても。
 治したことのある人たちが死ぬのを、“どうでもいい”なんて言えるはずがない。

(でも……)

 喉の奥で、何かが渦巻く。

 怒り、悲しみ、罪悪感、そして、今の居場所への愛着。

(私だって、ここを守りたい)

 村の人たち。
 マリア。
 子どもたち。
 シロ──いや、アゼル。

(ここを守りたいし、あっちも見捨てたくない。
 どっちもなんて、都合よすぎるのかもしれないけど……)

 答えを出せずに、唇をさらに噛みしめたとき。

 背中の方から、ふわりと空気が変わった。

 冷たくも熱くもない、ただ濃い何か。
 空気が一瞬、ぴたりと止まる。

 村人たちのざわめきが、すっと引いた。

「……これ以上、リラの感情を掻き回すな」

 低い声が、リラのすぐ後ろから響いた。

 振り返るまでもない。
 聞き慣れた声。

 アゼルが、一歩前に出た。

 いつもの農作業用のシャツではなく、マリアが「まともなとき用」にとっておいた、少しだけきちんとした服を着ている。
 黒い髪は風に揺れ、蒼い瞳が、村の入口にひざまずく一団を射抜いた。

 その瞬間──空気が、変わった。

 さっきまで、ただの“疲れた旅人の一団”だった王都の使節団が、
 一気に“狩られる側の獲物”みたいな匂いを帯びる。

「な、何者だ……?」

 騎士の一人が、震える声を漏らした。

 アゼルは、返事の代わりに、息をひとつ吐く。

 ただのため息。
 それだけのはずなのに──。

 空気が、びり、と震えた。

 見えない圧力が、上から押し寄せてくる。
 地面がきしみ、周囲の空気が重く沈む。

 胸の奥がざわつく。
 それは、あの日、魔物を圧倒したときに感じた“片鱗”よりも、ずっと濃い。

 竜の威圧。

「っ……!」

 高位神官が、思わず一歩後ろに下がる。
 騎士たちも、息を詰めて足を踏ん張る。

 膝が、かくん、と折れた。

「な、なんだ、この……」

「重い……体が、動か……」

 使節団の面々は、誰ひとりとして顔を上げられなくなっていた。
 地面に押し付けられたみたいに、頭が勝手に垂れる。

 レイナだけが、土下座の姿勢のまま、小刻みに震えながらも、必死に顔を上げようとしていた。

 アゼルは、一歩、また一歩と前に出る。
 リラの前に立ち、完全に庇う位置。

 その姿は、どこからどう見ても、“彼女の盾”だった。

「お前たちの都合で」

 低い声が、じわじわと使節団の耳に染み込んでいく。

「これ以上、リラを振り回すことは許さない」

 一語一語が、重い。

「追放したのはお前たちだ。
 “基準以下”“役立たず”と切り捨て、“ここにはいらない”と突きつけた。
 その結果、リラはここで、ようやく“居場所”を見つけた」

 アゼルの目が、冷たい光を宿す。

「今さら、“必要になったから返してくれ”と?」

 高位神官の喉が、ごくりと鳴る。

「そ、それは……我々も、誤りを認め……」

「誤りを認めれば、過去が消えるとでも?」

 淡々とした声の中に、鋭い刃が潜んでいる。

「お前たちが呼び出した魔物によって、傷ついた者や死んだ者が、元に戻るとでも?」

 言葉が続かない。
 誰も反論できなかった。

 沈黙。
 重い沈黙。

 リラは、アゼルの背中を見上げた。

 いつもの、猫の時のふにゃっとした空気は欠片もない。
 そこに立っているのは、“天と地の均衡を司る竜王”だった。

 王都の結界を見張り、世界の魔力の流れを監視してきた存在。
 その威圧を、真正面から浴びている。

(……怖い)

 思わず本音が零れかける。
 でも、同時に。

(心強い)

 胸の奥に、それ以上に強い感情が広がっていた。

「リラは、“ここにいたい”と選んだ」

 アゼルは続ける。

「居場所とは、与えられるものではない。
 自分で選び、積み上げたものだ」

 その言葉に、リラの指先が小さく震える。

「お前たちは、それを一度奪った。
 今度は、勝手に引き摺り出そうとしている」

 蒼い瞳が、細められた。

「我は──それを許さない」

 空気が、さらに一段重くなった。

 騎士の一人が、とうとう両膝をつき、その場に崩れ落ちる。

「ひ、ひぃ……!」

「やめ、やめろ……!」

 高位神官も、背筋を折られたようにして地面に手をついた。
 額から汗が滝のように流れ落ちている。

 マリアたち村人は、驚きはしているものの、そこまで強く押さえつけられてはいない。
 アゼルが無意識に「対象」を選んでいるのがわかった。

(……完全に、“敵”って認識されてんだな、あの人たち)

 リラは、複雑な気持ちでそれを見つめた。

 沈黙を破ったのは──やっぱりレイナだった。

「っ……!」

 土の上で、彼女の指がぎゅっと握りしめられる。

 押しつけられるような魔力に、震えながらも。

 それでも、必死に顔を上げた。

「ま、待って……!」

 声は掠れていた。
 それでも、はっきりと響いた。

「お前たちは黙っていろ」

 高位神官が反射的に怒鳴ろうとするが、アゼルの視線一つで声が喉の奥に消える。

 レイナはそんなことすら気にしていないように、アゼルの方を見上げた。

「あなたが……どれだけ強い存在か、わたしには……全部はわからないけど」

 ひゅう、と乱れた息を吐きながら、それでも続ける。

「リラを守ってくれていることだけは、見ればわかる。
 そのことには……本当に、感謝してる」

「……」

 アゼルの目が、わずかに細くなる。

 レイナは、震える手で地面を掴み、さらに頭を垂れた。

「でも……それでも……!」

 声が、少しだけ大きくなる。

「王都のみんなが……死んじゃう……!」

 その一言に、空気が揺れた。

「子どもたちが……泣いてる。
 家族を失って、行き場をなくした人たちが、絶望してる。
 わたしは、もう……あの街を、“女神の加護の場所です”なんて胸を張って言えない……!」

 涙が、土に落ちて跳ねる。

「わたしは悪かった。
 神殿も、王都も、たくさん間違った。
 欲に目が眩んで、力を求めすぎて、禁忌に手を出して……取り返しがつかないことになってる」

 うつむく高位神官たち。
 誰一人、否定しない。否定できない。

「だからって……だからって……」

 レイナは、必死に顔を上げた。

「“だから死んで当然だ”って言われるのだけは……耐えられない……!」

 その声には、虚勢も飾りもなかった。

 ただ、切実で、どうしようもない祈りだけがあった。

「お願い……リラ」

 レイナは、地面に額をつけたまま、震える声で呼ぶ。

「わたしは……あなたに謝る資格なんてないかもしれないし、
 “助けてください”なんて言う資格もないのかもしれない。
 それでも──」

 喉の奥から、絞り出すみたいな声。

「どうか……どうか、あの街の人たちを……“見捨てないで”って言ったら、あなたは……それでも、怒る?」

 その問いに、リラの胸の奥で、何かがはじけた。

 怒り、悲しみ、赦せない気持ち。
 全部全部、まだそこにある。

 でも──。

(“見捨てないで”)

 その言葉にだけは、どうやっても“嫌だ”と言えない自分も、確かにいた。

 アゼルの威圧が、少しだけ和らぐ。

 彼は無言で振り返り、リラを見た。

 蒼い瞳が問うている。

 ──どうしたい?

 選ぶのは、お前だ、と。

 リラは、ぎゅっと拳を握りしめた。

 喉の奥に溜まっていた感情を、一つずつ噛み潰すみたいに飲み込んでいく。

 居場所を奪われた痛み。
 “いらない”と言われた記憶。
 今ようやく見つけた“ここにいたい場所”。

 その全部を抱えたまま──それでも。

 視線を、土下座しているレイナへと向けた。

 今にも壊れそうなその姿は、かつて自分が頭の中で作り上げた“完璧な大聖女”像とは、似ても似つかなかった。

 だからこそ──やっと、同じ高さに立てた気がした。

 胸の奥で、ぽつり、と言葉が生まれる。

(……ずるいなあ、本当に)

 深く息を吸う。
 アゼルの背中の横から、一歩、前に出た。

 竜王の威圧が、リラの周りだけ少し薄くなる。
 視界が、はっきりと開けた。

「……レイナ様」

 静かな声で呼ぶ。

 レイナの肩が、びくんと震えた。

「顔、上げてください」

 ゆっくりと、レイナが顔を上げる。
 泥と涙でぐちゃぐちゃの顔に、かすかな希望と、深い絶望が混ざった表情が浮かんでいる。

 リラは、唇を噛んで、それから──。

「“見捨ててほしい”なんて、言われても、無理です」

 絞り出すように言った。

「私、そういうの、できないから」

 レイナの目が、わずかに見開かれた。
 アゼルの視線も、静かにリラへ向く。

 それでもまだ、返事は最後まで言わない。

 王都をどうするか。
 ここをどう守るか。

 リラの選択は、今まさに形を取り始めたところだった。
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