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第19話「試練と、竜王の伴侶としての覚悟」
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森のさらに奥──村人たちでもめったに足を踏み入れない、獣道の先。
そこに、“世界の傷口”みたいなものが開いていた。
木々が円を描くように倒れ、土はえぐれ、中心には黒い穴。
穴と言っても、ただの空洞じゃない。
濃すぎる瘴気が渦を巻き、空間そのものを削り取っているみたいな、底なしの闇。
「……うわ。写真とかで見たくないタイプのやつだ……」
場違いな感想が口をついて出る。
ここまで来る間も、空気はどんどん重くなっていた。
森の匂いは薄れ、代わりに、金属を焼いたような焦げた匂いと、甘ったるい腐敗の匂いが混じり合う。
立っているだけで、足首から冷たい何かが這い上がってくる。
息をするたび、肺の内側がじりじりと痺れる。
「ここが……魔力の乱れの根源?」
『ああ』
隣で、アゼルが短く答える。
彼は人の姿のまま、渦をじっと見つめていた。
蒼い瞳の奥で、竜の本能と理が測りをかけているのがわかる。
『王都の結界が崩れたときに開いた“穴”の一部だろうな。
閉じ切れなかった裂け目から、余波がここまで滲み出ている』
「……このままだと?」
『じわじわと広がる。
村どころか、周辺一帯が“瘴気優位の土地”に書き換わる』
前回の魔物騒ぎは、その“前兆”にすぎないのだろう。
ここが完全に飲まれたら、ああいう異形が“普通”になる。
喉の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
(嫌だ)
単純な言葉。
でも、その一語に、自分の中のいろんな映像が芋づる式にくっついてくる。
夕方の畑。
子どもたちの笑い声。
マリアの「まずい」とか言いながらおかわりする姿。
その全部が、黒い渦の向こう側でぐちゃぐちゃに潰されるイメージ。
「……絶対に、ここで止める」
小さく宣言する。
その瞬間──空気がきしんだ。
頭上から、別種の圧が降りてくる。
アゼルのそれとも、瘴気のそれとも違う。
古い山の重み。
深い海の底の静けさ。
そんなイメージが混ざり合った気配。
(……あ、これ)
リラはすぐに察した。
「竜族の長老たち?」
『その通りだ』
アゼルが少しだけ眉をひそめる。
『“遠隔で介入”してきたな。
さっきの評議で、“要観察”と記録したばかりだからな。
ここで我らが何をするか、見ておきたいのだろう』
森の上空──木々の隙間から見える空が、わずかに歪んだ。
光でも影でもない揺らぎ。
そこに、巨大な竜たちの“輪郭”が、薄く重なる。
姿は曖昧だが、視線だけははっきりと伝わってくる。
冷静で、好奇心に満ちていて、少し意地悪。
「完全に“テストされてる”感じだ……」
『そうだな』
グレイオルの声が、空から降ってきた。
「アゼル。
今度は“辺境の小村のために世界を危うくする”真似はしないだろうな」
『皮肉が好きだなお前は』
「皮肉ではない」
別の、銀髪の竜の声が重なる。
「ここでお前が、“世界の均衡とやら”をどう扱うか──
見せてみろ」
試しにきている。
それはもう、隠す気もないくらい、あからさまだ。
(……ほんと、竜族の長老って性格悪い)
そう思いながらも、リラは一歩前に出た。
「……ねえ、アゼル」
『なんだ』
「これってさ。
“世界を守るために、この辺りの何かを捨てる”って選択肢、普通にあるんだよね」
『ある』
アゼルは淡々と認める。
『この瘴気の渦を“強制的に破壊する”方法はいくつかある。
だが、多くは周囲の魔力ごと削り取るやり方だ。
森も、土も、そこに棲んでいる命も──まとめて“代償”になる』
「あと、“完全に封印して閉じる”ってやり方もある?」
『ああ。
その場合、この辺りの魔力の流れは“死ぬ”。
世界の傷口を縫い合わせる代わりに、その部分は“麻痺した皮膚”みたいになる』
壊すか、閉じるか。
どちらも、“世界全体”だけを見るなら正しいかもしれない。
けれど、その場に生きている誰かにとっては──。
「……誰かを切り捨てる前提の選択なんて、したくない」
リラは、ぽつりと呟いた。
昔の自分なら、「そういうものなんだ」と飲み込んでいたと思う。
神殿で。
「儀式のため」「女神のため」「王都のため」と言われれば、
自分の感情なんて二の次三の次にして、ただ頷いていた。
でも、その先にあったのは──追放だった。
(あのとき、“それおかしくないですか?”って言えなかったの、ずっと後悔してる)
だから今度は。
世界とか、竜族とか、評価とか。
そういうものの前で萎縮したくなかった。
グレイオルの声が、上から降ってくる。
「人間の女」
「はい」
「お前は、竜王の伴侶としてここにいる。
“世界の均衡”の一端に、意識的に触れる立場だ」
言葉のひとつひとつが、骨に響く重さで飛んでくる。
「そのうえで、“誰も切り捨てない選択”など──
おとぎ話だと思わぬか」
「思います」
即答だった。
長老たちの気配が、一瞬だけ揺れる。
(だって、現実だもん)
どんなに頑張っても救えない人はいる。
どんなに手を伸ばしても届かない場所はある。
「……でも、“切り捨てる前提”で考え始めるのは、もっと嫌です」
リラは、黒い渦を睨んだ。
「“誰を代わりに差し出すか”って考えた瞬間、多分私、昔の神官たちと同じ顔になるから」
あの冷たい測定器。
「基準以下」と表示された数字。
「儀式のために」と笑っていた口元。
「だから、まずは“誰も切り捨てない前提”で考えます。
それで本当にどうしようもなかったら、そのときにまた悩みます」
グレイオルは、何も言わなかった。
代わりに、アゼルが小さく笑う。
『面倒な女だな』
「面倒な女ですけど?」
『そこが良い』
「そういうことさらっと言わないで、集中できなくなるから!」
ツッコミながらも、頭の中では別の歯車が動いている。
瘴気の渦。
魔力の流れ。
王都の結界。
竜族の領域で見た、魔力の“海”。
(……待って)
胸の奥で、何かがひっかかった。
竜族の領域。
あそこには、魔力が集まり、渦を巻き、循環していた。
渦は怖い。
でも、あれは“管理された渦”だった。
竜たちが、世界と話し合いながら流れを調整していた。
(瘴気って、そもそも何なんだろう)
“悪いもの”として教えられてきた。
“浄化すべき汚れ”。
でも、本当にそれだけ?
「アゼル、瘴気ってさ」
『なんだ急に』
「元は、魔力だよね?」
『ああ。
世界の魔力が歪み、淀み、偏り、行き場を失って粘りついたものが瘴気だ』
「行き場を、失った」
その言葉が、ひどく胸に刺さった。
(居場所、なくした魔力なんだ)
行き場を失って、腐って、周りを巻き込んで、暴れ出す。
それは──なんだか、救われなかった誰かの心みたいでもある。
「だったらさ」
言葉が、ふいに形を取った。
「全部、“消す”んじゃなくて──
“元の流れに戻してあげる”ことって、できない?」
浄化は、“汚れを無かったことにする”魔法だ。
封印は、“触れないように蓋をする”魔法。
でも──“循環”させる魔法があったっていい。
『理屈のうえでは、可能だ』
アゼルはすぐに否定しなかった。
『瘴気を構成する魔力の性質を一つずつほどき、
元の世界の流れに合うように組み替えればよい』
「やり方は?」
『面倒だし、誰もやりたがらない』
「正直すぎない?」
『浄化で焼き払う方が楽なのだ。
封印で閉じる方が早いのだ』
「……だよね」
効率だけ見れば、その通りなのだろう。
でも、楽だからって、そればかり選んできた結果が──今のこの渦だ。
(誰も、ちゃんと話聞いてもらえなかった魔力たちの、溜まり場)
勝手な擬人化かもしれない。
けど、そう思うと少しだけ、黒い渦への見え方が変わった。
(全部燃やして終わり、は、やっぱり嫌だ)
深く息を吸う。
「アゼル」
『なんだ』
「背中、預けていい?」
振り向くと、彼は少しだけ目を細めて頷いた。
『もちろんだ』
世界の均衡の竜王が、自分の全てを預けるような顔で言う。
『お前が選んだ道に、我が力を貸す』
その宣言は、ひどく静かで、それでいて雷みたいに胸を打った。
(選ぶのは、私)
それを今度こそ、怖がりながらも受け取る。
「じゃあ──」
リラは瘴気の渦の方へ向き直った。
足元が少しふらついた。
体は疲れている。それでも前に出る足を止めたくなかった。
胸の奥の泉に意識を落とす。
王都での浄化のときに感じた、竜の魔力との“接続”を思い出す。
あのときは、とにかく広げて、癒すことに必死だった。
今度は、もっと細かく、ひとつひとつほどいていく。
「……瘴気の渦の“流れ”って、視える?」
『見せてやろう』
アゼルが、そっとリラの肩に手を置いた。
次の瞬間、視界の端に、別のレイヤーが重なる。
黒い渦の中に、線が走っていた。
ぐちゃぐちゃに絡まった糸玉。
いくつもの色の糸が、途中でねじれ、結ばれ、ちぎれ、再接続されている。
どれがどこから来て、どこへ行きたがっていたのか。
それが、竜王の視界越しに、うっすらと見える。
(うわぁ……)
あまりの複雑さに、めまいがした。
「これ、ぜんぶ解くの?」
『全部は無理だ。
だが、“出口を作る”ことはできる』
「出口」
『瘴気の渦に、新しい穴を開ける。
そこから、ほどけた魔力を外へ流してやることができれば──
渦そのものの密度は落ちる』
ほどく。
流す。
戻す。
イメージが、少しずつ頭の中で立体になっていく。
「……私の治癒ってさ」
『ああ』
「“元に戻れ”って言う魔法なんだよね」
傷ついた皮膚に。
砕けた骨に。
熱で暴れる血に。
「本来の形、覚えてるでしょ? そこに戻って」って、優しく促す。
「だったら、“世界の魔力”に向けてだって、同じこと言えるんじゃない?」
“世界の魔力の、本来の流れ”。
竜たちが、長い時間をかけて見てきた“理”。
アゼルがいつも感じている流れ。
そこに、私の“治ってほしい”気持ちを重ねる。
『理屈としては──できなくはない』
アゼルは慎重に言葉を選んだ。
『世界そのものを治癒の対象にするつもりか。
人間なら、“傲慢”と言われるやつだ』
「知ってる。
でも、今さらでしょ。竜王の伴侶なんだし」
『自覚してきたな』
「させられたんだよ……」
王都で“世界レベルの肩書き”を勝手に貼られたときの胃痛を思い出しながら、苦笑する。
深く息を吸う。
胸の奥の泉に、アゼルの蒼い光を引き込む。
竜の理と相性の良い、自分の治癒の光を、そこに合わせていく。
今までは“誰かの体”という器に流していたものを──
今度は、“世界の傷口”に流し込む。
「……いくよ」
両手を、黒い渦に向かって差し出した。
瘴気の風が、皮膚を切るように吹きつけてくる。
指先が痺れる。
それでも下ろさない。
頭の中で、たくさんの声が混ざり合う。
“この村が好きだ”という自分の声。
“ここを守りたい”という村人たちの気配。
“世界の均衡を見たい”という竜たちの視線。
全部ごちゃ混ぜのまま、ただ一つだけ、言葉にする。
「返って」
小さく、でもはっきりと。
「壊すんじゃなくて、返って。
本来の流れに戻って。
本来の場所に、帰って」
呪文でも、古い言葉でもない。
ただの、自分の言葉。
それに、竜の魔力が反応した。
光が走る。
蒼緑の光が、黒い渦の内側へ入り込んでいく。
今までの浄化の光とは違う。
“消す”のではなく、“ほどく”。
絡まった糸の結び目に指をかけ、丁寧にほどいていくみたいに。
無理やり引きちぎるのではなく、“元の一本一本”に戻していく。
ほどかれた魔力の糸は、一瞬ふわりと宙に浮かんで──
アゼルの導きで、“世界の大きな流れ”へと合流していく。
まるで、長いこと迷子になっていた子どもたちが、
ようやく家への道を思い出したみたいに。
瘴気の渦が、少しずつ色を変えていった。
真っ黒だった中心が、濃い紫に。
それが、青黒くなり、やがて、薄い灰色へ。
密度が下がる。
圧力が弱まる。
周囲を満たしていた重さが、ゆっくりとどこかへ流れていく。
「っ……」
リラの膝が、がくんと折れた。
アゼルがすぐに支える。
『無理はするなと言っただろう』
「これは……無理のうちに入らない」
『入る』
「入るのか……」
頭がガンガンする。
視界の端がちらちらと光っている。
それでも、渦が変わっていく様子から目を離したくなかった。
グレイオルの声が、上から響く。
「……魔力を、“浄化”ではなく、“循環”させた、か」
驚きと、わずかな感嘆が混じった声。
「世界からは今まで、“壊す”か“閉じる”かしか選ばれてこなかった力の扱い方に、
第三の道を示すとはな」
銀髪の竜が、低く唸る。
「理屈としては理解できる。
だが、それを現実にやってみせた竜も人間も、聞いたことがない」
「“面倒くさそうだからやられなかった”だけじゃないですか?」
膝をつきながら、リラはぜえぜえ言いつつ返した。
「効率悪いし、時間かかるし、神官的には“数字に出ない”し」
「神官的、とはなんだ」
「こっちの話です」
軽口を叩いていないと、意識が飛びそうだった。
黒い渦は、今や、ただの“魔力の薄い霧”になりつつあった。
本来の流れに戻ることができなかった分だけの残滓が、
名残惜しそうに漂っている。
アゼルが、人差し指でそれをなぞった。
『これくらいなら──』
指先から、ささやかな光が広がる。
霧は最後の抵抗をやめ、世界の底へ静かに沈んでいった。
完璧な“消失”でも、“封印”でもない。
ただ、“帰るべき場所への帰還”。
森に、静寂が戻ってきた。
さっきまで皮膚を刺していた冷たさが、ゆっくりと引いていく。
木々のざわめきが、少しずつ音量を取り戻す。
リラは、その場に座り込んだ。
「……やりきった……」
『よくやった』
アゼルが、そっと頭を撫でる。
上空からの圧が、少しだけ和らいだ。
白髪の竜女の声が、どこか遠くから聞こえてくる。
「……黙らされた気分だな」
銀髪の竜も、苦笑混じりに言う。
「“要観察”どころか、“要教本”かもしれん」
「勝手に教本にしないでください。印税ください」
「印税とは?」
「こっちの世界の話です」
グレイオルが、最後にひとつだけ問いを投げた。
「人間の女、リラよ」
「はい」
「お前は今、“世界の均衡”に直接触れた。
そのうえで──まだ、“守りたい場所”とやらを優先すると言えるか?」
世界規模の話をしているのに、質問はひどく個人的だ。
リラは、迷わなかった。
「言えます」
息を整えながら、きっぱりと答えた。
「世界の均衡って、“どこかの誰かの犠牲の上に成り立つバランス”じゃなくて、
“それぞれの小さな“守りたい”が噛み合った結果”であってほしいから」
村。
王都。
竜族の領域。
自分の胸の中。
それぞれの“守りたい”が、ばらばらにある。
「だから私は、これからも、“ここを守りたい”って気持ちを無視しないで選びます。
その選択が世界にどう波及するかは──アゼルと一緒に考えます」
アゼルが、横で小さく頷く。
『それでこそ、竜王の伴侶だ』
長老たちは、しばし沈黙した。
やがて、グレイオルが短く告げる。
「……よかろう」
その声には、さっきまでとは明らかに違う温度があった。
「我らは記録する。
“竜王アゼルと、その伴侶リラは、世界から求められてきた“壊す”と“閉じる”の二択に、
“循環させる”という第三の道を提示した”と」
銀髪の竜が、ふっと笑う。
「“愚かで、しかし愛おしい選択”だ」
白髪の竜女も続ける。
「その愚かさが、世界を少しだけ優しくすることも、あるのだろう」
アゼルが、穏やかに笑った。
『その言い回し、嫌いではない』
竜たちの気配が、少しずつ薄れていく。
遠くの空へ、霧のように散っていく。
最後にグレイオルの声だけが残った。
「人間の女よ」
「はい」
「“選び続ける覚悟”を持て」
「……はい」
「それができるなら──
お前が竜王の隣にいることを、“世界の理”として認めよう」
認定。
テストの合格通知みたいな言葉。
全然実感は湧かないけど、それでもどこかで、肩の荷が少しだけ軽くなった気がした。
気配が完全に消えると、森には、ただ風の音だけが残った。
◇
村に戻る頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。
「遅い!!」
村の入口でマリアが腕を組んで待ち構えていた。
「死んでないならそれでいいけど、晩ごはん前に帰ってきなさいっていつも言ってるでしょ!」
「世界の循環直してました!」
「口答えの内容がスケールおかしいんだよ!!」
頭を小突かれながらも、リラは笑っていた。
体はぐったり。
魔力の残量もギリギリ。
でも、胸の奥は、不思議なくらい静かだ。
怖かった。
今でも、“あんな力に手を突っ込んで大丈夫だったのかな”って震えそうになる。
でも、それ以上に。
(選んだのは、私だ)
誰かに言われたからじゃなくて。
誰かの期待に応えるためでもなくて。
自分の頭で考えて、
自分の心で悩んで、
自分の口で決めた。
その選択に、竜王が力を貸してくれた。
竜族の長老たちが、世界が、それを“記録するに値する”と認めた。
やっと、心の底から言える。
(“竜王の伴侶”って、
ただの重たい肩書きじゃないや)
“隣に立つ覚悟”の名前だ。
「アゼル」
『なんだ』
「これからも、多分めちゃくちゃ迷うし、ぐだぐだ悩むと思う」
『知っている』
「でも、“誰かを切り捨てる前提”の選択だけは、しないでいたい」
『それも知っている』
「だからさ──」
夕焼けに照らされた村を見ながら、リラは小さく微笑んだ。
「めんどくさい伴侶だけど、よろしくね」
アゼルは、珍しくすぐには返事をしなかった。
少しだけ間を置いてから、静かに言う。
『こちらこそ。
世界ごと巻き込む“めんどくささ”であれば、歓迎だ』
「世界ごと巻き込んでる自覚、あるんだ……」
『今さらだろう』
二人の笑い声が、村のいつものざわめきに溶けていった。
“試練”と呼ばれた一件のあと。
リラの中には、新しく芽生えたものが確かにあった。
それは、竜王の伴侶としての──
そして、“この小さな村のリラ”としての──
覚悟だった。
そこに、“世界の傷口”みたいなものが開いていた。
木々が円を描くように倒れ、土はえぐれ、中心には黒い穴。
穴と言っても、ただの空洞じゃない。
濃すぎる瘴気が渦を巻き、空間そのものを削り取っているみたいな、底なしの闇。
「……うわ。写真とかで見たくないタイプのやつだ……」
場違いな感想が口をついて出る。
ここまで来る間も、空気はどんどん重くなっていた。
森の匂いは薄れ、代わりに、金属を焼いたような焦げた匂いと、甘ったるい腐敗の匂いが混じり合う。
立っているだけで、足首から冷たい何かが這い上がってくる。
息をするたび、肺の内側がじりじりと痺れる。
「ここが……魔力の乱れの根源?」
『ああ』
隣で、アゼルが短く答える。
彼は人の姿のまま、渦をじっと見つめていた。
蒼い瞳の奥で、竜の本能と理が測りをかけているのがわかる。
『王都の結界が崩れたときに開いた“穴”の一部だろうな。
閉じ切れなかった裂け目から、余波がここまで滲み出ている』
「……このままだと?」
『じわじわと広がる。
村どころか、周辺一帯が“瘴気優位の土地”に書き換わる』
前回の魔物騒ぎは、その“前兆”にすぎないのだろう。
ここが完全に飲まれたら、ああいう異形が“普通”になる。
喉の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
(嫌だ)
単純な言葉。
でも、その一語に、自分の中のいろんな映像が芋づる式にくっついてくる。
夕方の畑。
子どもたちの笑い声。
マリアの「まずい」とか言いながらおかわりする姿。
その全部が、黒い渦の向こう側でぐちゃぐちゃに潰されるイメージ。
「……絶対に、ここで止める」
小さく宣言する。
その瞬間──空気がきしんだ。
頭上から、別種の圧が降りてくる。
アゼルのそれとも、瘴気のそれとも違う。
古い山の重み。
深い海の底の静けさ。
そんなイメージが混ざり合った気配。
(……あ、これ)
リラはすぐに察した。
「竜族の長老たち?」
『その通りだ』
アゼルが少しだけ眉をひそめる。
『“遠隔で介入”してきたな。
さっきの評議で、“要観察”と記録したばかりだからな。
ここで我らが何をするか、見ておきたいのだろう』
森の上空──木々の隙間から見える空が、わずかに歪んだ。
光でも影でもない揺らぎ。
そこに、巨大な竜たちの“輪郭”が、薄く重なる。
姿は曖昧だが、視線だけははっきりと伝わってくる。
冷静で、好奇心に満ちていて、少し意地悪。
「完全に“テストされてる”感じだ……」
『そうだな』
グレイオルの声が、空から降ってきた。
「アゼル。
今度は“辺境の小村のために世界を危うくする”真似はしないだろうな」
『皮肉が好きだなお前は』
「皮肉ではない」
別の、銀髪の竜の声が重なる。
「ここでお前が、“世界の均衡とやら”をどう扱うか──
見せてみろ」
試しにきている。
それはもう、隠す気もないくらい、あからさまだ。
(……ほんと、竜族の長老って性格悪い)
そう思いながらも、リラは一歩前に出た。
「……ねえ、アゼル」
『なんだ』
「これってさ。
“世界を守るために、この辺りの何かを捨てる”って選択肢、普通にあるんだよね」
『ある』
アゼルは淡々と認める。
『この瘴気の渦を“強制的に破壊する”方法はいくつかある。
だが、多くは周囲の魔力ごと削り取るやり方だ。
森も、土も、そこに棲んでいる命も──まとめて“代償”になる』
「あと、“完全に封印して閉じる”ってやり方もある?」
『ああ。
その場合、この辺りの魔力の流れは“死ぬ”。
世界の傷口を縫い合わせる代わりに、その部分は“麻痺した皮膚”みたいになる』
壊すか、閉じるか。
どちらも、“世界全体”だけを見るなら正しいかもしれない。
けれど、その場に生きている誰かにとっては──。
「……誰かを切り捨てる前提の選択なんて、したくない」
リラは、ぽつりと呟いた。
昔の自分なら、「そういうものなんだ」と飲み込んでいたと思う。
神殿で。
「儀式のため」「女神のため」「王都のため」と言われれば、
自分の感情なんて二の次三の次にして、ただ頷いていた。
でも、その先にあったのは──追放だった。
(あのとき、“それおかしくないですか?”って言えなかったの、ずっと後悔してる)
だから今度は。
世界とか、竜族とか、評価とか。
そういうものの前で萎縮したくなかった。
グレイオルの声が、上から降ってくる。
「人間の女」
「はい」
「お前は、竜王の伴侶としてここにいる。
“世界の均衡”の一端に、意識的に触れる立場だ」
言葉のひとつひとつが、骨に響く重さで飛んでくる。
「そのうえで、“誰も切り捨てない選択”など──
おとぎ話だと思わぬか」
「思います」
即答だった。
長老たちの気配が、一瞬だけ揺れる。
(だって、現実だもん)
どんなに頑張っても救えない人はいる。
どんなに手を伸ばしても届かない場所はある。
「……でも、“切り捨てる前提”で考え始めるのは、もっと嫌です」
リラは、黒い渦を睨んだ。
「“誰を代わりに差し出すか”って考えた瞬間、多分私、昔の神官たちと同じ顔になるから」
あの冷たい測定器。
「基準以下」と表示された数字。
「儀式のために」と笑っていた口元。
「だから、まずは“誰も切り捨てない前提”で考えます。
それで本当にどうしようもなかったら、そのときにまた悩みます」
グレイオルは、何も言わなかった。
代わりに、アゼルが小さく笑う。
『面倒な女だな』
「面倒な女ですけど?」
『そこが良い』
「そういうことさらっと言わないで、集中できなくなるから!」
ツッコミながらも、頭の中では別の歯車が動いている。
瘴気の渦。
魔力の流れ。
王都の結界。
竜族の領域で見た、魔力の“海”。
(……待って)
胸の奥で、何かがひっかかった。
竜族の領域。
あそこには、魔力が集まり、渦を巻き、循環していた。
渦は怖い。
でも、あれは“管理された渦”だった。
竜たちが、世界と話し合いながら流れを調整していた。
(瘴気って、そもそも何なんだろう)
“悪いもの”として教えられてきた。
“浄化すべき汚れ”。
でも、本当にそれだけ?
「アゼル、瘴気ってさ」
『なんだ急に』
「元は、魔力だよね?」
『ああ。
世界の魔力が歪み、淀み、偏り、行き場を失って粘りついたものが瘴気だ』
「行き場を、失った」
その言葉が、ひどく胸に刺さった。
(居場所、なくした魔力なんだ)
行き場を失って、腐って、周りを巻き込んで、暴れ出す。
それは──なんだか、救われなかった誰かの心みたいでもある。
「だったらさ」
言葉が、ふいに形を取った。
「全部、“消す”んじゃなくて──
“元の流れに戻してあげる”ことって、できない?」
浄化は、“汚れを無かったことにする”魔法だ。
封印は、“触れないように蓋をする”魔法。
でも──“循環”させる魔法があったっていい。
『理屈のうえでは、可能だ』
アゼルはすぐに否定しなかった。
『瘴気を構成する魔力の性質を一つずつほどき、
元の世界の流れに合うように組み替えればよい』
「やり方は?」
『面倒だし、誰もやりたがらない』
「正直すぎない?」
『浄化で焼き払う方が楽なのだ。
封印で閉じる方が早いのだ』
「……だよね」
効率だけ見れば、その通りなのだろう。
でも、楽だからって、そればかり選んできた結果が──今のこの渦だ。
(誰も、ちゃんと話聞いてもらえなかった魔力たちの、溜まり場)
勝手な擬人化かもしれない。
けど、そう思うと少しだけ、黒い渦への見え方が変わった。
(全部燃やして終わり、は、やっぱり嫌だ)
深く息を吸う。
「アゼル」
『なんだ』
「背中、預けていい?」
振り向くと、彼は少しだけ目を細めて頷いた。
『もちろんだ』
世界の均衡の竜王が、自分の全てを預けるような顔で言う。
『お前が選んだ道に、我が力を貸す』
その宣言は、ひどく静かで、それでいて雷みたいに胸を打った。
(選ぶのは、私)
それを今度こそ、怖がりながらも受け取る。
「じゃあ──」
リラは瘴気の渦の方へ向き直った。
足元が少しふらついた。
体は疲れている。それでも前に出る足を止めたくなかった。
胸の奥の泉に意識を落とす。
王都での浄化のときに感じた、竜の魔力との“接続”を思い出す。
あのときは、とにかく広げて、癒すことに必死だった。
今度は、もっと細かく、ひとつひとつほどいていく。
「……瘴気の渦の“流れ”って、視える?」
『見せてやろう』
アゼルが、そっとリラの肩に手を置いた。
次の瞬間、視界の端に、別のレイヤーが重なる。
黒い渦の中に、線が走っていた。
ぐちゃぐちゃに絡まった糸玉。
いくつもの色の糸が、途中でねじれ、結ばれ、ちぎれ、再接続されている。
どれがどこから来て、どこへ行きたがっていたのか。
それが、竜王の視界越しに、うっすらと見える。
(うわぁ……)
あまりの複雑さに、めまいがした。
「これ、ぜんぶ解くの?」
『全部は無理だ。
だが、“出口を作る”ことはできる』
「出口」
『瘴気の渦に、新しい穴を開ける。
そこから、ほどけた魔力を外へ流してやることができれば──
渦そのものの密度は落ちる』
ほどく。
流す。
戻す。
イメージが、少しずつ頭の中で立体になっていく。
「……私の治癒ってさ」
『ああ』
「“元に戻れ”って言う魔法なんだよね」
傷ついた皮膚に。
砕けた骨に。
熱で暴れる血に。
「本来の形、覚えてるでしょ? そこに戻って」って、優しく促す。
「だったら、“世界の魔力”に向けてだって、同じこと言えるんじゃない?」
“世界の魔力の、本来の流れ”。
竜たちが、長い時間をかけて見てきた“理”。
アゼルがいつも感じている流れ。
そこに、私の“治ってほしい”気持ちを重ねる。
『理屈としては──できなくはない』
アゼルは慎重に言葉を選んだ。
『世界そのものを治癒の対象にするつもりか。
人間なら、“傲慢”と言われるやつだ』
「知ってる。
でも、今さらでしょ。竜王の伴侶なんだし」
『自覚してきたな』
「させられたんだよ……」
王都で“世界レベルの肩書き”を勝手に貼られたときの胃痛を思い出しながら、苦笑する。
深く息を吸う。
胸の奥の泉に、アゼルの蒼い光を引き込む。
竜の理と相性の良い、自分の治癒の光を、そこに合わせていく。
今までは“誰かの体”という器に流していたものを──
今度は、“世界の傷口”に流し込む。
「……いくよ」
両手を、黒い渦に向かって差し出した。
瘴気の風が、皮膚を切るように吹きつけてくる。
指先が痺れる。
それでも下ろさない。
頭の中で、たくさんの声が混ざり合う。
“この村が好きだ”という自分の声。
“ここを守りたい”という村人たちの気配。
“世界の均衡を見たい”という竜たちの視線。
全部ごちゃ混ぜのまま、ただ一つだけ、言葉にする。
「返って」
小さく、でもはっきりと。
「壊すんじゃなくて、返って。
本来の流れに戻って。
本来の場所に、帰って」
呪文でも、古い言葉でもない。
ただの、自分の言葉。
それに、竜の魔力が反応した。
光が走る。
蒼緑の光が、黒い渦の内側へ入り込んでいく。
今までの浄化の光とは違う。
“消す”のではなく、“ほどく”。
絡まった糸の結び目に指をかけ、丁寧にほどいていくみたいに。
無理やり引きちぎるのではなく、“元の一本一本”に戻していく。
ほどかれた魔力の糸は、一瞬ふわりと宙に浮かんで──
アゼルの導きで、“世界の大きな流れ”へと合流していく。
まるで、長いこと迷子になっていた子どもたちが、
ようやく家への道を思い出したみたいに。
瘴気の渦が、少しずつ色を変えていった。
真っ黒だった中心が、濃い紫に。
それが、青黒くなり、やがて、薄い灰色へ。
密度が下がる。
圧力が弱まる。
周囲を満たしていた重さが、ゆっくりとどこかへ流れていく。
「っ……」
リラの膝が、がくんと折れた。
アゼルがすぐに支える。
『無理はするなと言っただろう』
「これは……無理のうちに入らない」
『入る』
「入るのか……」
頭がガンガンする。
視界の端がちらちらと光っている。
それでも、渦が変わっていく様子から目を離したくなかった。
グレイオルの声が、上から響く。
「……魔力を、“浄化”ではなく、“循環”させた、か」
驚きと、わずかな感嘆が混じった声。
「世界からは今まで、“壊す”か“閉じる”かしか選ばれてこなかった力の扱い方に、
第三の道を示すとはな」
銀髪の竜が、低く唸る。
「理屈としては理解できる。
だが、それを現実にやってみせた竜も人間も、聞いたことがない」
「“面倒くさそうだからやられなかった”だけじゃないですか?」
膝をつきながら、リラはぜえぜえ言いつつ返した。
「効率悪いし、時間かかるし、神官的には“数字に出ない”し」
「神官的、とはなんだ」
「こっちの話です」
軽口を叩いていないと、意識が飛びそうだった。
黒い渦は、今や、ただの“魔力の薄い霧”になりつつあった。
本来の流れに戻ることができなかった分だけの残滓が、
名残惜しそうに漂っている。
アゼルが、人差し指でそれをなぞった。
『これくらいなら──』
指先から、ささやかな光が広がる。
霧は最後の抵抗をやめ、世界の底へ静かに沈んでいった。
完璧な“消失”でも、“封印”でもない。
ただ、“帰るべき場所への帰還”。
森に、静寂が戻ってきた。
さっきまで皮膚を刺していた冷たさが、ゆっくりと引いていく。
木々のざわめきが、少しずつ音量を取り戻す。
リラは、その場に座り込んだ。
「……やりきった……」
『よくやった』
アゼルが、そっと頭を撫でる。
上空からの圧が、少しだけ和らいだ。
白髪の竜女の声が、どこか遠くから聞こえてくる。
「……黙らされた気分だな」
銀髪の竜も、苦笑混じりに言う。
「“要観察”どころか、“要教本”かもしれん」
「勝手に教本にしないでください。印税ください」
「印税とは?」
「こっちの世界の話です」
グレイオルが、最後にひとつだけ問いを投げた。
「人間の女、リラよ」
「はい」
「お前は今、“世界の均衡”に直接触れた。
そのうえで──まだ、“守りたい場所”とやらを優先すると言えるか?」
世界規模の話をしているのに、質問はひどく個人的だ。
リラは、迷わなかった。
「言えます」
息を整えながら、きっぱりと答えた。
「世界の均衡って、“どこかの誰かの犠牲の上に成り立つバランス”じゃなくて、
“それぞれの小さな“守りたい”が噛み合った結果”であってほしいから」
村。
王都。
竜族の領域。
自分の胸の中。
それぞれの“守りたい”が、ばらばらにある。
「だから私は、これからも、“ここを守りたい”って気持ちを無視しないで選びます。
その選択が世界にどう波及するかは──アゼルと一緒に考えます」
アゼルが、横で小さく頷く。
『それでこそ、竜王の伴侶だ』
長老たちは、しばし沈黙した。
やがて、グレイオルが短く告げる。
「……よかろう」
その声には、さっきまでとは明らかに違う温度があった。
「我らは記録する。
“竜王アゼルと、その伴侶リラは、世界から求められてきた“壊す”と“閉じる”の二択に、
“循環させる”という第三の道を提示した”と」
銀髪の竜が、ふっと笑う。
「“愚かで、しかし愛おしい選択”だ」
白髪の竜女も続ける。
「その愚かさが、世界を少しだけ優しくすることも、あるのだろう」
アゼルが、穏やかに笑った。
『その言い回し、嫌いではない』
竜たちの気配が、少しずつ薄れていく。
遠くの空へ、霧のように散っていく。
最後にグレイオルの声だけが残った。
「人間の女よ」
「はい」
「“選び続ける覚悟”を持て」
「……はい」
「それができるなら──
お前が竜王の隣にいることを、“世界の理”として認めよう」
認定。
テストの合格通知みたいな言葉。
全然実感は湧かないけど、それでもどこかで、肩の荷が少しだけ軽くなった気がした。
気配が完全に消えると、森には、ただ風の音だけが残った。
◇
村に戻る頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。
「遅い!!」
村の入口でマリアが腕を組んで待ち構えていた。
「死んでないならそれでいいけど、晩ごはん前に帰ってきなさいっていつも言ってるでしょ!」
「世界の循環直してました!」
「口答えの内容がスケールおかしいんだよ!!」
頭を小突かれながらも、リラは笑っていた。
体はぐったり。
魔力の残量もギリギリ。
でも、胸の奥は、不思議なくらい静かだ。
怖かった。
今でも、“あんな力に手を突っ込んで大丈夫だったのかな”って震えそうになる。
でも、それ以上に。
(選んだのは、私だ)
誰かに言われたからじゃなくて。
誰かの期待に応えるためでもなくて。
自分の頭で考えて、
自分の心で悩んで、
自分の口で決めた。
その選択に、竜王が力を貸してくれた。
竜族の長老たちが、世界が、それを“記録するに値する”と認めた。
やっと、心の底から言える。
(“竜王の伴侶”って、
ただの重たい肩書きじゃないや)
“隣に立つ覚悟”の名前だ。
「アゼル」
『なんだ』
「これからも、多分めちゃくちゃ迷うし、ぐだぐだ悩むと思う」
『知っている』
「でも、“誰かを切り捨てる前提”の選択だけは、しないでいたい」
『それも知っている』
「だからさ──」
夕焼けに照らされた村を見ながら、リラは小さく微笑んだ。
「めんどくさい伴侶だけど、よろしくね」
アゼルは、珍しくすぐには返事をしなかった。
少しだけ間を置いてから、静かに言う。
『こちらこそ。
世界ごと巻き込む“めんどくささ”であれば、歓迎だ』
「世界ごと巻き込んでる自覚、あるんだ……」
『今さらだろう』
二人の笑い声が、村のいつものざわめきに溶けていった。
“試練”と呼ばれた一件のあと。
リラの中には、新しく芽生えたものが確かにあった。
それは、竜王の伴侶としての──
そして、“この小さな村のリラ”としての──
覚悟だった。
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