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3話「閉じた扉、開いた窓」
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明け方の鐘が二度、薄く落ちて、屋敷の廊下に朝の匂いが流れ込んだ。眠りの底から浮かぶように目を開けると、天蓋の布は乳白色に透け、夜の名残りは枕の端にだけ薄く残っていた。夢は――覚えていない。覚えていないのに、額のあたりがひやりとして、そこに誰かの指先が触れた気配だけは、朝になっても消えなかった。
身を起こすと、肩に落ちていた外套がするりと滑り、淡い影を床に描いた。昨夜、彼――リオンが掛けてくれたものだ。触れるとまだ彼の匂いが残っている。香木と鉄の、乾いた温度。胸の奥がわずかに整い、わたしは深く息を吸った。
扉をノックする音が二度。メイドのサナが、湯と朝食のトレーを運んで来た。栗色の髪をきっちり結い上げた、目の澄んだ若い女だ。彼女は一礼し、いつもの言葉を落とす。
「本日も、どうぞご無理はなさらず」
同じ言葉。耳が覚えた合図。でも、サナの声には昨夜よりほんの少しだけ柔らかさが増えていた。わたしが頷くと、彼女は支度を手早く整え、湯気の上がる洗面器をベッド脇に置いた。
「お加減は――」
「大丈夫。頭も軽いし、眠れました」
「それはよかったです。……何かございましたら、すぐに、鈴を」
短い会話のあと、サナはすっと下がり、扉は静かに閉じられる。部屋に独りになると、わたしは白いカップの温度で指を温め、朝の光の加減をじっと眺めた。今日は歩けそうだ。歩いて、この屋敷の地図を、少しでも自分のものにしたい。
着替えを済ませ、軽い靴を履いた。廊下に出る。昨夜は長く見えた廊下も、朝は少し短く感じる。壁のランプは息を潜め、窓から差し込む光だけが床の模様を動かしていた。絨毯の毛足が指先のように足裏を撫で、遠くの方で誰かが銀器を磨く微細な音がした。
屋敷は広い。けれど、広さよりも気になるのは扉の数だ。一歩進むごとに、右手に一つ、左手に一つ。扉、扉、また扉。どれも重厚で、鉄の取っ手が冷たく光る。気づいてしまったのは、その半分以上に鍵がかかっていることだった。取っ手をひねると、カチ、と乾いた抵抗が返ってくる。扉の向こう側から、薄い拒絶が流れてくるみたいに。
手前の寝室、客間、控えの小間――開く部屋もある。開いた部屋には、使われた痕跡が薄く、どこも整いすぎていた。埃はない。匂いも淡い。ここに人がいた時間の重さが、ほとんど残っていない。鍵のかかった部屋の前に立つたび、わたしは耳を澄ます。中から音がしないか。気配が滲まないか。けれど沈黙は水のように扉の隙間を満たし、わたしの好奇心を静かに押し返した。
階段を降りる。踊り場の大きな窓から、庭が見えた。朝靄がまだ低く漂い、花壇の白と緑が柔らかくぼやけている。庭の真ん中には小さな池。表面は薄いガラスのように張りつめ、時折、水鳥が尾で波紋を描いた。水の音が呼ぶ。足が自然と庭へ向かう。
外の空気は冷たかったが、太陽は優しくて、肩の緊張がほどけた。石畳の目地から小さな青い草が顔を出し、露を抱えた白い花が低く揺れている。白百合ではない。庭師のグレッグが遠くで剪定をしているのが見える。彼は気づくと帽子に手を当てて会釈し、やはり言った。
「お嬢様、どうぞご無理はなさらず」
わたしは笑って頷く。池の縁に立つ。水は深くない。底の石が見える。覗き込むと、そこにわたしの顔が映った。朝の光に薄く透けた肌、知らない表情。目の形、唇の線――鏡で見たものと同じ。今度は水面がほんの少し揺れ、映ったわたしが微笑んだみたいに歪む。
視線が、腕に吸い寄せられた。手首の少し上、肘に向かう途中――細い傷が一本、白く伸びているのに気づいた。浅くない。古くない。目を凝らすと、周りの皮膚がうっすらと新しい。指先で触れると、ちくりとした痛みが生きていて、体が本能的に引いた。思わず袖を戻す。心臓が一拍、早く打つ。
いつ、どうやって。いくら考えても、そこだけ時間が欠けたように何も出てこない。鉄の匂いが、一瞬鼻の奥をくすぐった。昨日の夜、夢の中で嗅いだ冷たい鉄。その匂いに重なるように、額の皮膚がひやりとする。誰かの指。やさしい指。――額に触れる、あの触れ方。
「どうした」
背後から、低い声。振り向くと、リオンが庭の小径に立っていた。黒い軍衣に朝の光。肩の影、眉間の薄い皺。彼が立つと、庭の景色が輪郭を持つ。わたしは少しほっとして、けれど傷の場所を咄嗟に隠したりはしなかった。隠すべき理由が分からない。
「水を見ていました。……それから、これ」
袖をそっと上げる。傷が白く、朝の光に浮かぶ。リオンの目が、わずかに細くなった。彼はすぐに距離を詰めず、まず視線だけで傷の状態を確かめ、それから一歩、また一歩と近づいた。手を伸ばす。触れる直前で、一拍、ためらう。次の瞬間、指はやはりガラスに触れるみたいに軽く、傷の縁を撫でた。
「……転んだだけだ」
言葉は用意されていたみたいにすぐ出た。けれど声が掠れていた。乾いた石に水を一滴落としたときの音。嘘の音ではない。けれど、すべての真実の音でもない。
「痛むか」
「触ると、少し。でも、大丈夫」
「薬をつけてある。痕は残らない」
痕。残らないと言われても、残っているのは今の痛みの方だ。わたしは彼の顔を見上げる。彼は視線を傷からわたしの目に上げ、ほんの少しだけ喉を鳴らした。言いたいことがあるのに、口にしないときの癖。
「……気にするな」
「気に、します」
自分で言って、驚く。思っていたより、わたしは食い下がる声を持っている。彼の目の端がわずかに柔らかくなった。
「転んだ。石段で。俺のせいだ」
「せい、って」
「支えそこねた」
それ以上、彼は言わない。必要最小限の言葉だけが、朝の空気に落ちた。わたしの胸の中で、その言葉は別の意味をつくりはじめる。支えそこねた――ということは、支えようとしたのだ。彼の手が伸び、でも間に合わず、わたしは落ちた。石に腕を打った。鉄の匂いがした。額に触れた誰かの指――。
額に触れたのは、彼ではない。触れ方の記憶が違う。リオンの手は、今こうして触れているように、割らないように、折らないように、壊さないように触れる。あの夜の指は、別の熱を持っていた。所有の熱。甘さの熱。思わず、額に手を当てる。皮膚が記憶を抱いている。
「寒いか」
「いいえ。ただ、少し」
言葉の続きは、喉の奥でほどける。リオンはわたしの視線の揺れに気づいたようで、池の縁に視線を落とし、話題を少しだけずらした。
「この池は、浅い。子どもの頃、よく落ちた」
「……リオンが?」
「ああ。兄がいた。よく突き飛ばされて、よく笑われた」
彼が自分の過去を口にするのは珍しいのだと、なぜかすぐに分かった。言葉は少し照れたように短く、記憶は切り取られた小さな絵のようだった。それを想像すると、池の水面が柔らかく見えた。彼にも、裸足で駆ける小さな頃があった。戦場の匂いを身につける前の、泥と太陽の匂い。
「兄さんは、今もここに?」
「……いない」
それ以上、彼は言わなかった。わたしも問わなかった。問いは大抵、答えの準備ができてから口にする方が、双方に優しい。
庭の奥から、グレッグが気を遣ったように別の小径へと消えていくのが見えた。二人きりの空気が戻る。池の水が小さく揺れ、白い光がリオンの顎の線を撫でた。彼は小さく息を吐く。
「屋敷の中を、見たいか」
「はい。歩きたい」
「なら、俺が――」
言いかけて、彼は言葉を切った。代わりに、わたしの指先に視線を落とす。指輪が朝の光で薄く光る。
「……いや。今日は俺は仕事がある。サナに言って、案内させる」
「ひとりで大丈夫です」
「駄目だ」
短い。はっきり。拒絶ではない。保留でもない。必要な線引きの音。
「分かりました」
素直に頷くと、彼はわずかに息を緩める。わたしはふと池に目を戻し、映る自分に小さく笑いかけた。映ったわたしが、ほんの少し返す。同じ笑い方を、身体が練習している。
屋敷に戻ると、サナがすぐに現れて、案内の準備を整えた。鍵束を持っている。数十本の鍵が金属の輪にまとめられ、歩くたびに小さく触れ合って鳴った。その音が妙に心地よい。世界に秘密があると教えてくれる音。
「まずは一階の客間と、図書室からでよろしいですか」
「お願いします」
サナの歩幅は控えめで、わたしの歩みに合わせるのが上手かった。客間は整っていて、壁には花の刺繍のタペストリー。窓枠はきれいに磨かれ、カーテンの重さは季節に合わせられている。どの部屋も「正しい」。不足がなく、過剰がなく、丁寧だった。
ときどき現れる鍵のかかった扉の前で、サナは立ち止まり、少し困った顔をする。
「こちらは……倉庫です」
「見ても?」
「失礼がなければ」
鍵が回る。扉が少し渋い音で開く。中には布で覆われた家具、額縁、包まれた鏡。人の気配は薄い。埃は、驚くほど少ない。管理の手が入っている。サナはすぐにまた鍵をかけ、次の部屋へ進む。
「皆、よく働いていますね」
「はい。旦那様が、きれいなお屋敷を好まれますので」
屋敷の空気は、主人の呼吸に似るのだろう。整っていて、寡黙で、でも冷たすぎない。
図書室の扉の前で、サナの手が鍵束から離れた。ここには鍵はかかっていない。重たい扉は滑らかに開き、紙と革の匂いがふわりと流れる。棚が壁一面を覆い、背の高い梯子が二つ、細いレールに載っている。窓は高い位置にあり、光が本の背に薄く縞を作っていた。
「素敵」
思わず漏れる。サナが嬉しそうに笑った。
「アイリス様は、図書室がお好きでした。午後にお茶をお運びすると、よくここにいらっしゃって」
「そう、だったんですね」
わたしは一番手前の棚に手を伸ばし、背表紙の題字をなぞる。歴史、地理、魔術、詩。指が、ある背表紙で止まる。革の色が少し深く、手触りが違う。引き抜くと、薄い紙が一枚、ひらりと落ちた。拾い上げると、そこには見覚えのない筆跡で短い言葉。
――“忘れても、花は香る”
裏は白紙だ。誰が書いたのか、いつのものか。胸の奥で、何かが軽く鳴った。サナに見せるか迷い、結局、頁の間に戻して本を棚に差し込む。今は、意味が追いつかない。
「他の部屋も、見て回っていい?」
「もちろんです。ただ……」
「ただ?」
「奥の廊は、鍵のお部屋が多くて。滅多に使いません」
行ってみる。サナの言った通り、奥の廊は扉のほとんどが閉ざされ、鍵穴が黒く口を開けていた。金属の冷たい匂いが、かすかに漂う。一本だけ、扉に布が掛けられている部屋があった。布は白く、端に小さな刺繍が縫い込まれている。
「ここは」
「……昔の家族の肖像です。布は、埃よけで」
布の向こうから、絵の存在が静かな圧のように伝わってきた。わたしはほんの少しだけ近づき、布越しに額縁の角を指でなぞる。角は丸く、触り心地は柔らかい。誰が描かれているのだろう。わたしは、その中に“今のわたし”の形があるかもしれない、と思う。
サナは鍵の束を握り直し、視線を落とした。「こちらは、本日は……」
「うん。今日はいい」
引き際は、大切だ。扉は、いつでもまた開けられる。今は、ここまで。
午前の探索を終えて部屋に戻ると、窓から入る光はすでに少し白く、影は短くなっていた。昼の鐘が遠くで鳴り、屋敷の中に、昼食の準備の音が小さく走る。サナは「午後はお昼寝を」といつもの言葉に一つ笑みを足して、部屋を辞した。
ベッドの端に腰を下ろし、袖をまくって傷をもう一度見る。朝よりも赤みは引いている。痛みは薄い。触れると、皮膚の下で脈が小さく動くのが分かる。人体は小さな機械みたいだ。部品が自動で動き、壊れたところを自分で直す。わたしはその機械の持ち主なのに、取扱説明書を一冊も持っていない。
午後は短く眠り、夕刻の光に目を覚ました。部屋の隅に置いた白い花瓶が、薄金の光を飲んで柔らかく光る。頬に残った寝顔の熱がすぐに引き、代わりに窓の外から冷たい風が入ってきた。わたしは立ち上がって窓を開ける。空は青から群青に移る途中で、風が屋根の上の旗を少しだけ鳴らす。
窓辺の風は、日中の心配事を軽く洗い流す。庭の池はもう影色で、白い花は輪郭だけが残っている。街道を行く車輪の音が遠くに流れ、鳥の声が少しだけ残る。音が一本ずつ退場していく時間帯。
額に、ふい、と風よりもあたたかい気配が触れた。驚いて手をやる。皮膚は冷たく、何の痕もない。それでも確かに、触れられた感覚だけが、肌の奥に残っている。指が額の中心に降り、そっと撫でる触れ方。祈るみたいな、約束するみたいな。
――その手は、夢の男のものだった気がした。
昨夜の夢の底から、甘い声が浮かぶ。蜂蜜を混ぜた紅茶の香りをまとった声。
「必ず迎えに行く、僕の花嫁」
声は低くて、やわらかく、背骨を撫でる。わたしの体が、声に反応して呼吸を浅くする。胸の内側に、何かが流れ込む。その何かは、甘くて、舌に乗せたらすぐ溶ける砂糖の粒のようで、同時に、喉の奥で棘になる。
窓から見える西の空に、一番星が灯った。星は遠く、屋根の上を吹く風は近い。わたしは窓枠に手を置き、冷たい木の感触に自分の輪郭を確かめる。指輪が薄く光を返し、内側の古い文字が一瞬だけ形を結ぶ――が、すぐにまたほどけて、読めなくなる。読めないことに、苛立ちと安堵が同時に湧いた。今、読み解いてしまったら、何かが決定されてしまう気がした。
背後で、扉が軽くノックされた。リオンの足音は、すぐに分かる。重くはないのに、地面と体の関係がきちんと繋がっている音。彼は部屋に入ってこず、扉の向こうから声だけを落とした。
「調子は」
「いい。今日は、たくさん歩きました」
「そうか。……鍵の件で、不快にさせたなら、悪い」
「不快じゃない。ただ、気になるだけ」
扉の向こうで、わずかな沈黙。やがて、低い吐息。
「必要なものと、不要なものがある。お前にとって今、不要なものも」
「誰が決めるの?」
「……俺だ」
正直だった。短く、真っ直ぐ。扉越しの言葉は、部屋の空気を少しだけ振動させ、わたしの皮膚に薄く触れる。
「分かった。今は、任せる」
「助かる」
そこで、彼はふと話題を変えた。
「傷は」
「平気。……転んだだけ、なんでしょう?」
少しだけ皮肉が混ざった。自分でも驚く。扉の向こうで、彼はほんの短く息を止めた。それから、掠れた声で言う。
「俺の、落ち度だ」
それ以上、彼は言わない。謝罪の形は色々ある。言葉にしないものも含めて。わたしは窓辺の風に額を当て、仕舞いきれない言葉を吹き流す。
「……夜、眠れなかったら、呼んでいい?」
「いい。すぐ行く」
「夜中でも?」
「夜中でも」
それは、昨夜と同じやり取り。くり返しは、約束になる。わたしは小さく笑い、彼も扉の向こうでわずかに笑った気がした。
「夕食は軽めにする。……無理すんな」
「うん」
足音が遠ざかる。扉のこちら側に残るのは、誰もいない空気と、窓から流れ込む夜の匂い。ジャスミンの花が微かに香り、暖炉はまだ火を入れるには早いと判断して沈黙している。
窓を少しだけ閉め、椅子を引いて腰かける。額に残る幻の温度に、ゆっくり指を置く。触れて、離す。触れて、離す。皮膚は何も言わない。けれど体は、どちらの手がどちらの温度で触れたかを、たぶん知っている。
“僕の花嫁”。“俺はここにいる”。
ふたつの声が、胸の真ん中で遠く響き合う。甘さと鋼。蜜と鉄。どちらも、わたしを抱きとめるための温度を持っている。けれど、抱き方は違う。額に触れた指の幻と、袖を掴んだときに返ってきた布の確かさ。夢の手と現実の袖。そのあいだに、わたしは立っている。
白い花びらが、窓の外でひとひら舞った。庭の池は夜の色を濃くし、星の数が増えていく。扉の多すぎる屋敷は、夜になるとさらに静かになり、鍵穴は小さな沈黙の口を閉ざす。開かない扉の向こうに何があるのか――それを知るのは、たぶん今ではない。今は、開いた窓から入る風だけで十分だ。
わたしは深く息を吸い、四つ数えて止め、四つ数えて吐いた。呼吸がまとまるたび、体の輪郭がはっきりする。額の幻は薄れ、指輪の冷たさが少しだけ温もりに変わる。夜はまだ浅い。今日の地図は、ここまで。明日もまた、扉の前に立つ。鍵の音を聞く。池に映る自分を見る。額に触れた指の記憶を、風の中に置いてみる。
そうやって、空白の縁を、少しずつ、少しずつ、丸くしていく。
身を起こすと、肩に落ちていた外套がするりと滑り、淡い影を床に描いた。昨夜、彼――リオンが掛けてくれたものだ。触れるとまだ彼の匂いが残っている。香木と鉄の、乾いた温度。胸の奥がわずかに整い、わたしは深く息を吸った。
扉をノックする音が二度。メイドのサナが、湯と朝食のトレーを運んで来た。栗色の髪をきっちり結い上げた、目の澄んだ若い女だ。彼女は一礼し、いつもの言葉を落とす。
「本日も、どうぞご無理はなさらず」
同じ言葉。耳が覚えた合図。でも、サナの声には昨夜よりほんの少しだけ柔らかさが増えていた。わたしが頷くと、彼女は支度を手早く整え、湯気の上がる洗面器をベッド脇に置いた。
「お加減は――」
「大丈夫。頭も軽いし、眠れました」
「それはよかったです。……何かございましたら、すぐに、鈴を」
短い会話のあと、サナはすっと下がり、扉は静かに閉じられる。部屋に独りになると、わたしは白いカップの温度で指を温め、朝の光の加減をじっと眺めた。今日は歩けそうだ。歩いて、この屋敷の地図を、少しでも自分のものにしたい。
着替えを済ませ、軽い靴を履いた。廊下に出る。昨夜は長く見えた廊下も、朝は少し短く感じる。壁のランプは息を潜め、窓から差し込む光だけが床の模様を動かしていた。絨毯の毛足が指先のように足裏を撫で、遠くの方で誰かが銀器を磨く微細な音がした。
屋敷は広い。けれど、広さよりも気になるのは扉の数だ。一歩進むごとに、右手に一つ、左手に一つ。扉、扉、また扉。どれも重厚で、鉄の取っ手が冷たく光る。気づいてしまったのは、その半分以上に鍵がかかっていることだった。取っ手をひねると、カチ、と乾いた抵抗が返ってくる。扉の向こう側から、薄い拒絶が流れてくるみたいに。
手前の寝室、客間、控えの小間――開く部屋もある。開いた部屋には、使われた痕跡が薄く、どこも整いすぎていた。埃はない。匂いも淡い。ここに人がいた時間の重さが、ほとんど残っていない。鍵のかかった部屋の前に立つたび、わたしは耳を澄ます。中から音がしないか。気配が滲まないか。けれど沈黙は水のように扉の隙間を満たし、わたしの好奇心を静かに押し返した。
階段を降りる。踊り場の大きな窓から、庭が見えた。朝靄がまだ低く漂い、花壇の白と緑が柔らかくぼやけている。庭の真ん中には小さな池。表面は薄いガラスのように張りつめ、時折、水鳥が尾で波紋を描いた。水の音が呼ぶ。足が自然と庭へ向かう。
外の空気は冷たかったが、太陽は優しくて、肩の緊張がほどけた。石畳の目地から小さな青い草が顔を出し、露を抱えた白い花が低く揺れている。白百合ではない。庭師のグレッグが遠くで剪定をしているのが見える。彼は気づくと帽子に手を当てて会釈し、やはり言った。
「お嬢様、どうぞご無理はなさらず」
わたしは笑って頷く。池の縁に立つ。水は深くない。底の石が見える。覗き込むと、そこにわたしの顔が映った。朝の光に薄く透けた肌、知らない表情。目の形、唇の線――鏡で見たものと同じ。今度は水面がほんの少し揺れ、映ったわたしが微笑んだみたいに歪む。
視線が、腕に吸い寄せられた。手首の少し上、肘に向かう途中――細い傷が一本、白く伸びているのに気づいた。浅くない。古くない。目を凝らすと、周りの皮膚がうっすらと新しい。指先で触れると、ちくりとした痛みが生きていて、体が本能的に引いた。思わず袖を戻す。心臓が一拍、早く打つ。
いつ、どうやって。いくら考えても、そこだけ時間が欠けたように何も出てこない。鉄の匂いが、一瞬鼻の奥をくすぐった。昨日の夜、夢の中で嗅いだ冷たい鉄。その匂いに重なるように、額の皮膚がひやりとする。誰かの指。やさしい指。――額に触れる、あの触れ方。
「どうした」
背後から、低い声。振り向くと、リオンが庭の小径に立っていた。黒い軍衣に朝の光。肩の影、眉間の薄い皺。彼が立つと、庭の景色が輪郭を持つ。わたしは少しほっとして、けれど傷の場所を咄嗟に隠したりはしなかった。隠すべき理由が分からない。
「水を見ていました。……それから、これ」
袖をそっと上げる。傷が白く、朝の光に浮かぶ。リオンの目が、わずかに細くなった。彼はすぐに距離を詰めず、まず視線だけで傷の状態を確かめ、それから一歩、また一歩と近づいた。手を伸ばす。触れる直前で、一拍、ためらう。次の瞬間、指はやはりガラスに触れるみたいに軽く、傷の縁を撫でた。
「……転んだだけだ」
言葉は用意されていたみたいにすぐ出た。けれど声が掠れていた。乾いた石に水を一滴落としたときの音。嘘の音ではない。けれど、すべての真実の音でもない。
「痛むか」
「触ると、少し。でも、大丈夫」
「薬をつけてある。痕は残らない」
痕。残らないと言われても、残っているのは今の痛みの方だ。わたしは彼の顔を見上げる。彼は視線を傷からわたしの目に上げ、ほんの少しだけ喉を鳴らした。言いたいことがあるのに、口にしないときの癖。
「……気にするな」
「気に、します」
自分で言って、驚く。思っていたより、わたしは食い下がる声を持っている。彼の目の端がわずかに柔らかくなった。
「転んだ。石段で。俺のせいだ」
「せい、って」
「支えそこねた」
それ以上、彼は言わない。必要最小限の言葉だけが、朝の空気に落ちた。わたしの胸の中で、その言葉は別の意味をつくりはじめる。支えそこねた――ということは、支えようとしたのだ。彼の手が伸び、でも間に合わず、わたしは落ちた。石に腕を打った。鉄の匂いがした。額に触れた誰かの指――。
額に触れたのは、彼ではない。触れ方の記憶が違う。リオンの手は、今こうして触れているように、割らないように、折らないように、壊さないように触れる。あの夜の指は、別の熱を持っていた。所有の熱。甘さの熱。思わず、額に手を当てる。皮膚が記憶を抱いている。
「寒いか」
「いいえ。ただ、少し」
言葉の続きは、喉の奥でほどける。リオンはわたしの視線の揺れに気づいたようで、池の縁に視線を落とし、話題を少しだけずらした。
「この池は、浅い。子どもの頃、よく落ちた」
「……リオンが?」
「ああ。兄がいた。よく突き飛ばされて、よく笑われた」
彼が自分の過去を口にするのは珍しいのだと、なぜかすぐに分かった。言葉は少し照れたように短く、記憶は切り取られた小さな絵のようだった。それを想像すると、池の水面が柔らかく見えた。彼にも、裸足で駆ける小さな頃があった。戦場の匂いを身につける前の、泥と太陽の匂い。
「兄さんは、今もここに?」
「……いない」
それ以上、彼は言わなかった。わたしも問わなかった。問いは大抵、答えの準備ができてから口にする方が、双方に優しい。
庭の奥から、グレッグが気を遣ったように別の小径へと消えていくのが見えた。二人きりの空気が戻る。池の水が小さく揺れ、白い光がリオンの顎の線を撫でた。彼は小さく息を吐く。
「屋敷の中を、見たいか」
「はい。歩きたい」
「なら、俺が――」
言いかけて、彼は言葉を切った。代わりに、わたしの指先に視線を落とす。指輪が朝の光で薄く光る。
「……いや。今日は俺は仕事がある。サナに言って、案内させる」
「ひとりで大丈夫です」
「駄目だ」
短い。はっきり。拒絶ではない。保留でもない。必要な線引きの音。
「分かりました」
素直に頷くと、彼はわずかに息を緩める。わたしはふと池に目を戻し、映る自分に小さく笑いかけた。映ったわたしが、ほんの少し返す。同じ笑い方を、身体が練習している。
屋敷に戻ると、サナがすぐに現れて、案内の準備を整えた。鍵束を持っている。数十本の鍵が金属の輪にまとめられ、歩くたびに小さく触れ合って鳴った。その音が妙に心地よい。世界に秘密があると教えてくれる音。
「まずは一階の客間と、図書室からでよろしいですか」
「お願いします」
サナの歩幅は控えめで、わたしの歩みに合わせるのが上手かった。客間は整っていて、壁には花の刺繍のタペストリー。窓枠はきれいに磨かれ、カーテンの重さは季節に合わせられている。どの部屋も「正しい」。不足がなく、過剰がなく、丁寧だった。
ときどき現れる鍵のかかった扉の前で、サナは立ち止まり、少し困った顔をする。
「こちらは……倉庫です」
「見ても?」
「失礼がなければ」
鍵が回る。扉が少し渋い音で開く。中には布で覆われた家具、額縁、包まれた鏡。人の気配は薄い。埃は、驚くほど少ない。管理の手が入っている。サナはすぐにまた鍵をかけ、次の部屋へ進む。
「皆、よく働いていますね」
「はい。旦那様が、きれいなお屋敷を好まれますので」
屋敷の空気は、主人の呼吸に似るのだろう。整っていて、寡黙で、でも冷たすぎない。
図書室の扉の前で、サナの手が鍵束から離れた。ここには鍵はかかっていない。重たい扉は滑らかに開き、紙と革の匂いがふわりと流れる。棚が壁一面を覆い、背の高い梯子が二つ、細いレールに載っている。窓は高い位置にあり、光が本の背に薄く縞を作っていた。
「素敵」
思わず漏れる。サナが嬉しそうに笑った。
「アイリス様は、図書室がお好きでした。午後にお茶をお運びすると、よくここにいらっしゃって」
「そう、だったんですね」
わたしは一番手前の棚に手を伸ばし、背表紙の題字をなぞる。歴史、地理、魔術、詩。指が、ある背表紙で止まる。革の色が少し深く、手触りが違う。引き抜くと、薄い紙が一枚、ひらりと落ちた。拾い上げると、そこには見覚えのない筆跡で短い言葉。
――“忘れても、花は香る”
裏は白紙だ。誰が書いたのか、いつのものか。胸の奥で、何かが軽く鳴った。サナに見せるか迷い、結局、頁の間に戻して本を棚に差し込む。今は、意味が追いつかない。
「他の部屋も、見て回っていい?」
「もちろんです。ただ……」
「ただ?」
「奥の廊は、鍵のお部屋が多くて。滅多に使いません」
行ってみる。サナの言った通り、奥の廊は扉のほとんどが閉ざされ、鍵穴が黒く口を開けていた。金属の冷たい匂いが、かすかに漂う。一本だけ、扉に布が掛けられている部屋があった。布は白く、端に小さな刺繍が縫い込まれている。
「ここは」
「……昔の家族の肖像です。布は、埃よけで」
布の向こうから、絵の存在が静かな圧のように伝わってきた。わたしはほんの少しだけ近づき、布越しに額縁の角を指でなぞる。角は丸く、触り心地は柔らかい。誰が描かれているのだろう。わたしは、その中に“今のわたし”の形があるかもしれない、と思う。
サナは鍵の束を握り直し、視線を落とした。「こちらは、本日は……」
「うん。今日はいい」
引き際は、大切だ。扉は、いつでもまた開けられる。今は、ここまで。
午前の探索を終えて部屋に戻ると、窓から入る光はすでに少し白く、影は短くなっていた。昼の鐘が遠くで鳴り、屋敷の中に、昼食の準備の音が小さく走る。サナは「午後はお昼寝を」といつもの言葉に一つ笑みを足して、部屋を辞した。
ベッドの端に腰を下ろし、袖をまくって傷をもう一度見る。朝よりも赤みは引いている。痛みは薄い。触れると、皮膚の下で脈が小さく動くのが分かる。人体は小さな機械みたいだ。部品が自動で動き、壊れたところを自分で直す。わたしはその機械の持ち主なのに、取扱説明書を一冊も持っていない。
午後は短く眠り、夕刻の光に目を覚ました。部屋の隅に置いた白い花瓶が、薄金の光を飲んで柔らかく光る。頬に残った寝顔の熱がすぐに引き、代わりに窓の外から冷たい風が入ってきた。わたしは立ち上がって窓を開ける。空は青から群青に移る途中で、風が屋根の上の旗を少しだけ鳴らす。
窓辺の風は、日中の心配事を軽く洗い流す。庭の池はもう影色で、白い花は輪郭だけが残っている。街道を行く車輪の音が遠くに流れ、鳥の声が少しだけ残る。音が一本ずつ退場していく時間帯。
額に、ふい、と風よりもあたたかい気配が触れた。驚いて手をやる。皮膚は冷たく、何の痕もない。それでも確かに、触れられた感覚だけが、肌の奥に残っている。指が額の中心に降り、そっと撫でる触れ方。祈るみたいな、約束するみたいな。
――その手は、夢の男のものだった気がした。
昨夜の夢の底から、甘い声が浮かぶ。蜂蜜を混ぜた紅茶の香りをまとった声。
「必ず迎えに行く、僕の花嫁」
声は低くて、やわらかく、背骨を撫でる。わたしの体が、声に反応して呼吸を浅くする。胸の内側に、何かが流れ込む。その何かは、甘くて、舌に乗せたらすぐ溶ける砂糖の粒のようで、同時に、喉の奥で棘になる。
窓から見える西の空に、一番星が灯った。星は遠く、屋根の上を吹く風は近い。わたしは窓枠に手を置き、冷たい木の感触に自分の輪郭を確かめる。指輪が薄く光を返し、内側の古い文字が一瞬だけ形を結ぶ――が、すぐにまたほどけて、読めなくなる。読めないことに、苛立ちと安堵が同時に湧いた。今、読み解いてしまったら、何かが決定されてしまう気がした。
背後で、扉が軽くノックされた。リオンの足音は、すぐに分かる。重くはないのに、地面と体の関係がきちんと繋がっている音。彼は部屋に入ってこず、扉の向こうから声だけを落とした。
「調子は」
「いい。今日は、たくさん歩きました」
「そうか。……鍵の件で、不快にさせたなら、悪い」
「不快じゃない。ただ、気になるだけ」
扉の向こうで、わずかな沈黙。やがて、低い吐息。
「必要なものと、不要なものがある。お前にとって今、不要なものも」
「誰が決めるの?」
「……俺だ」
正直だった。短く、真っ直ぐ。扉越しの言葉は、部屋の空気を少しだけ振動させ、わたしの皮膚に薄く触れる。
「分かった。今は、任せる」
「助かる」
そこで、彼はふと話題を変えた。
「傷は」
「平気。……転んだだけ、なんでしょう?」
少しだけ皮肉が混ざった。自分でも驚く。扉の向こうで、彼はほんの短く息を止めた。それから、掠れた声で言う。
「俺の、落ち度だ」
それ以上、彼は言わない。謝罪の形は色々ある。言葉にしないものも含めて。わたしは窓辺の風に額を当て、仕舞いきれない言葉を吹き流す。
「……夜、眠れなかったら、呼んでいい?」
「いい。すぐ行く」
「夜中でも?」
「夜中でも」
それは、昨夜と同じやり取り。くり返しは、約束になる。わたしは小さく笑い、彼も扉の向こうでわずかに笑った気がした。
「夕食は軽めにする。……無理すんな」
「うん」
足音が遠ざかる。扉のこちら側に残るのは、誰もいない空気と、窓から流れ込む夜の匂い。ジャスミンの花が微かに香り、暖炉はまだ火を入れるには早いと判断して沈黙している。
窓を少しだけ閉め、椅子を引いて腰かける。額に残る幻の温度に、ゆっくり指を置く。触れて、離す。触れて、離す。皮膚は何も言わない。けれど体は、どちらの手がどちらの温度で触れたかを、たぶん知っている。
“僕の花嫁”。“俺はここにいる”。
ふたつの声が、胸の真ん中で遠く響き合う。甘さと鋼。蜜と鉄。どちらも、わたしを抱きとめるための温度を持っている。けれど、抱き方は違う。額に触れた指の幻と、袖を掴んだときに返ってきた布の確かさ。夢の手と現実の袖。そのあいだに、わたしは立っている。
白い花びらが、窓の外でひとひら舞った。庭の池は夜の色を濃くし、星の数が増えていく。扉の多すぎる屋敷は、夜になるとさらに静かになり、鍵穴は小さな沈黙の口を閉ざす。開かない扉の向こうに何があるのか――それを知るのは、たぶん今ではない。今は、開いた窓から入る風だけで十分だ。
わたしは深く息を吸い、四つ数えて止め、四つ数えて吐いた。呼吸がまとまるたび、体の輪郭がはっきりする。額の幻は薄れ、指輪の冷たさが少しだけ温もりに変わる。夜はまだ浅い。今日の地図は、ここまで。明日もまた、扉の前に立つ。鍵の音を聞く。池に映る自分を見る。額に触れた指の記憶を、風の中に置いてみる。
そうやって、空白の縁を、少しずつ、少しずつ、丸くしていく。
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