5 / 7
第5話:夏祭り、帯がほどける五秒前!
しおりを挟む
七月の夕方。
浴衣姿の人たちで賑わう神社の境内に、私は少し緊張しながら立っていた。
「うわぁ……すごい人……」
頭上には提灯の明かり、甘い綿あめの匂い、子どもたちのはしゃぐ声。
こういう賑やかな場所は久しぶりで、自然と胸が高鳴る。
今日の浴衣は藍色に白い朝顔の柄。
お母さんに手伝ってもらって着たけれど、帯だけは自分で頑張った。
……その“頑張り”が、後であんなことになるなんて、このときはまだ知らなかった。
「星野ー! こっち!」
手を振っていたのは、同じクラスの篠原くん。
祭りの実行委員で、今日はお手伝いの合間に私を案内してくれるらしい。
Tシャツ姿に浴衣女子をエスコート。なんかドラマっぽい。
「浴衣、似合ってるな」
「えっ、ありがと……!」
思わず背筋が伸びる。褒められ慣れてないから、すぐ顔に出ちゃう。
しかも篠原くん、さらっと言うタイプだから余計にずるい。
「さて、どこから回る?」
「えっと……金魚すくいとか?」
「お、意外と王道。清楚系でもそういうの好きなんだ」
「清楚系“でも”って何!?」
「だって、今日の帯、ちょっと色っぽいじゃん」
「!?」
な、なにその目線。下見ないで!
屋台をまわりながら、ヨーヨー釣り、りんご飴、かき氷。
気づけば笑いっぱなしだった。
普段は学校で“真面目キャラ”を装ってるけど、こういう時間は素の自分でいられる。
「星野、氷ついてる」
篠原くんが、私の口元についたかき氷の欠片を指で取ってくれた。
その指先が頬をかすめて、心臓が一拍ずれる。
「……ありがと」
「いえいえ」
彼は照れ隠しに笑ってるけど、私の方がずっと赤い。
たぶん、浴衣のせい。いつもより、空気が近いせい。
少し人の少ない神社の裏道を歩いていると、風が吹いた。
その瞬間、帯の結び目がふわっと軽くなる。
……え?
やな予感。
「ま、まって、帯が……!」
手を当てたけど、するりと滑ってゆるむ感触。
ぎゃあ! これ、ほどけるやつ!?
「ど、どうした!?」
「ちょ、ちょっと、動かないで! 今、帯が……!」
「帯?」
篠原くんが覗き込む。
ダメダメダメ、それ一番見られたくない位置!
「だめっ、見ないで!」
「見ないって言われても、もう半分外れてるけど!?」
「言わないでぇぇぇ!!」
慌てて両手で押さえるけど、片手で浴衣、片手で帯は無理がある。
動くたびに裾がずり落ちそうで、身動きが取れない。
「ちょ、篠原くん……お願い、後ろ結んで!」
「えっ!?」
「いいから早く!」
「い、いやでも俺、帯の結び方とか知らないし!」
「今そんなこと言ってる場合じゃないのっ!」
背中を向けたまま、帯を後ろに差し出す。
彼の指が、慎重に布をつまんで引っ張る。
風がまた吹いて、髪が頬にかかる。
その一瞬の静けさが、妙に息苦しい。
「……こんな近くで見るの、初めてだな」
「な、なにを……!?」
「浴衣の背中。なんか、すごい綺麗」
「~~~~っ!!」
もう顔が爆発しそう。
お願いだから、早く結んでぇ!
「よし、たぶんこれで大丈夫」
帯をきゅっと締められて、やっと息ができた。
けれど、あまりに強く結ばれたせいで、腰のあたりが苦しい。
「……うん、ちょっと苦しいけど助かった」
「そっか。でも、ほら」
篠原くんがいたずらっぽく笑う。
「今の、けっこうレアなお願いだったよね」
「忘れてください!!」
夜空に花火が上がる。
ドン、と音が響いて、赤や金の光が空に散る。
人混みの中、私たちは並んで立っていた。
「星野、さっきの帯のこと……」
「忘れてって言ったでしょ!」
「でも、あれも含めて、今日の星野……なんかすごく楽しそうだった」
不意打ちの言葉に、胸の奥がきゅっとなる。
浴衣の中の鼓動がうるさくて、花火の音に紛れてくれと祈る。
「……うん。楽しかったよ」
私は笑って、空を見上げた。
遠くで最後の花火が大輪を描く。
その光が帯に反射して、少しだけきらめいた。
浴衣姿の人たちで賑わう神社の境内に、私は少し緊張しながら立っていた。
「うわぁ……すごい人……」
頭上には提灯の明かり、甘い綿あめの匂い、子どもたちのはしゃぐ声。
こういう賑やかな場所は久しぶりで、自然と胸が高鳴る。
今日の浴衣は藍色に白い朝顔の柄。
お母さんに手伝ってもらって着たけれど、帯だけは自分で頑張った。
……その“頑張り”が、後であんなことになるなんて、このときはまだ知らなかった。
「星野ー! こっち!」
手を振っていたのは、同じクラスの篠原くん。
祭りの実行委員で、今日はお手伝いの合間に私を案内してくれるらしい。
Tシャツ姿に浴衣女子をエスコート。なんかドラマっぽい。
「浴衣、似合ってるな」
「えっ、ありがと……!」
思わず背筋が伸びる。褒められ慣れてないから、すぐ顔に出ちゃう。
しかも篠原くん、さらっと言うタイプだから余計にずるい。
「さて、どこから回る?」
「えっと……金魚すくいとか?」
「お、意外と王道。清楚系でもそういうの好きなんだ」
「清楚系“でも”って何!?」
「だって、今日の帯、ちょっと色っぽいじゃん」
「!?」
な、なにその目線。下見ないで!
屋台をまわりながら、ヨーヨー釣り、りんご飴、かき氷。
気づけば笑いっぱなしだった。
普段は学校で“真面目キャラ”を装ってるけど、こういう時間は素の自分でいられる。
「星野、氷ついてる」
篠原くんが、私の口元についたかき氷の欠片を指で取ってくれた。
その指先が頬をかすめて、心臓が一拍ずれる。
「……ありがと」
「いえいえ」
彼は照れ隠しに笑ってるけど、私の方がずっと赤い。
たぶん、浴衣のせい。いつもより、空気が近いせい。
少し人の少ない神社の裏道を歩いていると、風が吹いた。
その瞬間、帯の結び目がふわっと軽くなる。
……え?
やな予感。
「ま、まって、帯が……!」
手を当てたけど、するりと滑ってゆるむ感触。
ぎゃあ! これ、ほどけるやつ!?
「ど、どうした!?」
「ちょ、ちょっと、動かないで! 今、帯が……!」
「帯?」
篠原くんが覗き込む。
ダメダメダメ、それ一番見られたくない位置!
「だめっ、見ないで!」
「見ないって言われても、もう半分外れてるけど!?」
「言わないでぇぇぇ!!」
慌てて両手で押さえるけど、片手で浴衣、片手で帯は無理がある。
動くたびに裾がずり落ちそうで、身動きが取れない。
「ちょ、篠原くん……お願い、後ろ結んで!」
「えっ!?」
「いいから早く!」
「い、いやでも俺、帯の結び方とか知らないし!」
「今そんなこと言ってる場合じゃないのっ!」
背中を向けたまま、帯を後ろに差し出す。
彼の指が、慎重に布をつまんで引っ張る。
風がまた吹いて、髪が頬にかかる。
その一瞬の静けさが、妙に息苦しい。
「……こんな近くで見るの、初めてだな」
「な、なにを……!?」
「浴衣の背中。なんか、すごい綺麗」
「~~~~っ!!」
もう顔が爆発しそう。
お願いだから、早く結んでぇ!
「よし、たぶんこれで大丈夫」
帯をきゅっと締められて、やっと息ができた。
けれど、あまりに強く結ばれたせいで、腰のあたりが苦しい。
「……うん、ちょっと苦しいけど助かった」
「そっか。でも、ほら」
篠原くんがいたずらっぽく笑う。
「今の、けっこうレアなお願いだったよね」
「忘れてください!!」
夜空に花火が上がる。
ドン、と音が響いて、赤や金の光が空に散る。
人混みの中、私たちは並んで立っていた。
「星野、さっきの帯のこと……」
「忘れてって言ったでしょ!」
「でも、あれも含めて、今日の星野……なんかすごく楽しそうだった」
不意打ちの言葉に、胸の奥がきゅっとなる。
浴衣の中の鼓動がうるさくて、花火の音に紛れてくれと祈る。
「……うん。楽しかったよ」
私は笑って、空を見上げた。
遠くで最後の花火が大輪を描く。
その光が帯に反射して、少しだけきらめいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる