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第11話 寝た後に アイカSIDE
しおりを挟む生きていれば良い事もあるものですね。
今なら、少しだけそう思います。
今、私の横には『とんでもない美少年』が眠っています。
綺麗な銀髪のシャギー、前髪は長めで顔が隠れています。
やや赤み掛かった黒い目、その瞳は涼しげで儚く見えます。
身長は少し低めですが、綺麗と可愛いを兼ね備えた丁度良い高さです。
そして、何よりも鍛えられた体。
細いのに筋肉がついていて逞しい体をしています。
それなのに、ウエストは私より細いなんてズルすぎます。
この人がカッコ良いのは当たり前です。
だって、この人こそが平民の女の子なら誰もが1度は憧れる『英雄リヒト様』なのですから。
リヒト様は本当の英雄という訳ではありません。
勇者パーティの第5のメンバーだったので、他の四職に比べて『魔法戦士』だと聞こえが悪いからと『英雄』そう呼ばれています。
普通に女の子に生まれたら、一度は勇者様や王子様との恋愛を夢見ると思います
その中で私達、平民の女の子が恋愛相手として夢を見るのがリヒト様です。
だって、王子様との恋愛は最低でも上位貴族じゃないとあり得ません。
勇者ガイア様との恋愛もやはり高嶺の花で想像できません。
確かに、平民でも恋愛対象にはなるのかも知れませんが、それは三職限定です。
だから、ガイア様との恋愛をするなら、自分が聖女か賢者か剣聖で無ければ平民には無理です。
後は貴族か王族がお相手になります。
だから、平民の女の子の憧れは自然とリヒト様になります。
カッコ良いですよね…
ジョブは魔法戦士なのに幼馴染の勇者パーティに入り活躍する姿。
若くしてこの世界に20人と居ないS級冒険者になり、皆に優しいまさに英雄のような方です。
普通の平民には狩れないオーガもミノタウルスもワイバーン倒しちゃうんですから。
本当に溜まりません。
ガイア様みたいな派手さはありませんが、それはそれでカッコ良いのです。
一見地味に見えますが、小顔で凄く整った顔立、女の私よりもサラサラした髪の毛。
それがすぐ近くにあるんですよ!
無防備に寝ているんです…
まさか本当にこうなるなんて思いませんでしたよ…
私は酷い女です。
◆◆◆
奴隷として高く売る為に、私を助けてくれた人は、私の胸にさらしを巻いて美乳に見せかけて私を売りました。
奴隷商人が怒るのは当たり前です。
こんな価値が無く商品にならないような『化け乳女』を掴まされたのですから、私なんて鉱山奴隷の価値すらありません。
だから、凄く恨みを買い、私は価値のない奴隷ばかりがいる、カーテンから奥の部屋の檻に入れられました。
此処は暗くて汚くて真面な場所で無いのが良く解ります。
周りを見れば四肢欠損の者や女だと私と同じ化け乳や顔に火傷を負ったような人しか居ません。
容姿に問題があるか働けない奴隷しか居ないんです。
うふふっ、あははっ、私は何を言っているのでしょうか?
その中でも一番価値が無いのは私です。
化け乳は醜い女の代表です。
確かに、周りに化け乳は居ますが、皆は普通より少し大きい位。
お腹も出ているから『デブ』で通せるかどうかギリギリ。
それに対して私のは凶悪すぎます。
だれが見ても…一番醜いのは私です。
これで顔が悪ければ諦めも付きますが、もし醜い胸の塊さえなければ、私は美少女と呼ばれても可笑しくない『顔』なんですよ…
あそこでエリスの罠に嵌まらなければ、幸せに暮らせて…いませんね。
◆◆◆
普通に盗賊に慰み者にされて殺されて居たかも知れません。
『醜いから』盗賊のお情けで見逃されたのですから…
盗賊から
「見ろよ!俺達より不幸そうな女が居るぜ! この胸じゃ抱く気にもならないし、売り物にもならないな」
そう言って笑い物にされました。
「これどうする? こんな奴でもお頭に報告する必要あるか?」
「必要ないだろう? 俺達『煉獄の狼』は搾取する人間から富を奪う盗賊だ…惨めで俺達より悲惨な奴は放置でいいんじゃないか?」
「そうだな…このまま豚の中に居ろ!外に出るなよ! 明日の朝には俺達は居なくなるからな」
「解りました」
そう言って私は放置されました。
次の日のお昼までそのまま豚小屋で豚に隠れて過ごした私が見たものは…皆殺しにされたバルバドール家の人々です。
その死体には両親も居ましたが…何とも思いませんでした。
きっと、虐められ続けた結果『家族』『友達』そう思えなくなったのでしょうね。
あはははっ醜い『化け乳』だから私は助かったのですから。
元の綺麗な私だったらきっとあそこで死んでいましたよ。
煉獄の狼は虐げられた人達が作った盗賊として有名です。
その方たちから同情される位私は醜い化け乳です。
◆◆◆
滅多にあかないカーテンが開きました。
だけど私の所に来るわけは有りません。
もしこんな悲惨な状態の奴隷でも欲しいのなら、私よりは真面な手前側の奴隷を買う筈です。
同じ化け乳でも私より真面なのですから。
私は恐らく数日中に死ぬはずです。
私は此処に来てから食料も水も貰っていません。
他の奴隷は一日一回、芋や固いパン、水を貰っていますが…私にはありません。
毛布も私にはありません。
私がさらしを巻いて売られてきた腹いせです。
『もう助からないし…死ぬしかありません』
もう何日も食料も口にしていないし水すら飲んでいません。
目が霞み相手がだれかもう解りません。
ですがこの人が助けてくれなければ、もう私は死ぬしかありません。
「助けて…」
「解った、すぐに助けるからな!」
力強い返事がすぐに聞こえてきました。
◆◆◆
リヒト様は凄く優しい人です。
こんな醜い私を買ってくれて、貴重なポーションまでくれました。
私の為に店と喧嘩して、自分だってお腹が空いているから買った筈なのにお弁当を二つとも私にくれました。
こんなにも醜い私なのに、奴隷の身分の私にベッドまで譲ろうとするなんて『英雄』な訳ですね。
こんな醜い私でもこの方には『女の子』なんでしょうね。
醜い私が愚痴を沢山言っても聞いてくれました。
だけど辛いんですよ…
憧れの『英雄リヒト様』美少年でカッコ良い男の子の傍に、物凄く醜い姿の私が居る。
惨めだし辛いんです。
貴方が醜かったら、ううん、せめて普通だったら良かったのに。
私は奴隷です。
きっと貴方が素敵な奥さんを貰い幸せになる姿を見るのでしょう。
そして幾ら優しい貴方でも流石に『お情け』はくれない筈です。
凄く幸せな反面…それを考えてしまったら辛くなってしまって。
「カッコよくて可愛らしい素敵な笑顔ですね…今日だけは許して下さいね」
私は月明かりに照らされた美しいリヒト様の唇に自分の唇を合わせました。
きっと愛しては貰えない…惨めな女に恵んで下さい。
明日からはちゃんと奴隷として部をわきまえますから。
そのまま私は再びリヒト様の胸板に顔を移し体を押し付ける様にして眠りにつきました。
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