勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん

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【外伝】神託の英雄

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「勇者が勝てぬほど魔王が強き時、慈愛に満ちた真の英雄が調和をもたらすだろう」

その様に神託が降りて来た。

女神が選んだ勇者が負ける事は意外な事にある。

その様な事が起きた時は5~10年この世の地獄が起きる。

小国や村や街は蹂躙され、地図が大きく魔族側に傾く。

だが、この様な神託は受けた事が無い。

それ程までに魔王との戦いは勇者頼みだった。

勇者が勝てぬと言う事は《勇者が負ける》という事だろうか?

勇者が負けるような相手に人間の英雄が勝てるとは思えなかった。


私はこれは何かの間違いだと思い、誰にも伝えなかった。

教皇様なら兎も角、只の見習い司祭の私にそんな神託が降りるとは思わなかったからだ。


私は司祭になり、そんな神託を忘れていた。


英雄パーティーに《英雄》と呼ばれる男がいる事を聞いた。

今の魔族は強力で騎士に相当な犠牲が出ている事を聞いた。

そして一番の恐怖は、今の魔王や四天王は強力で、勇者リヒトじゃ勝てない。

そういう話が教会では裏で囁かれている。

竜種相手に苦戦する、勇者リヒトじゃ恐らく討伐は無理だろう。

恐らく、この後暗黒の時代が始まる、そう思っていた。


私はあの時の神託を思い出す、あれは私の妄想では無く、本物だったのではないか?

だが、私は落胆した。

もしかしたら救世主になるかも知れない、そう思っていたケインが勇者パーティーを追放された。

やはり、あれは只の妄想だったのだ。

辛い現実から逃避したい、そう思った私が見た夢だったのだと。

だが、違った、追放された英雄ケインは、自由の翼という強いパーティーを組み魔族に挑んでいった。

《剣姫アイシャ》に《アイスドールのアリス》そして、今や彼女自身が伝説と言われる《戦メイドのシエスタ》凄いメンバーが英雄の元に集まり、更に剣聖までが英雄の元に合流して魔族への反撃が始まった。


そして騎士団にすら敵わなく、勇者すら勝てない、そう言われる、四天王にこの英雄ケインは戦いを挑んだ。

その時のシエスタの戦いは劇にすら後になる程だった。

私も劇を見に行った。

凄く感動した。

特に、シエスタが時間稼ぎの為に命を張るシーンは今でも頭に残っている。

奴隷だった少女が、英雄ケインに磨き込まれて強く育った、その感動の話だ。


【劇場版 戦メイドシエスタより】


無数の死霊やゾンビに突っ込むシエスタ、数の暴力を相手にその巧みなナイフ裁きで倒していく。

だが、その死霊の後方からドラゴンゾンビが現れる。

シエスタ「これは大物ですね、今の私じゃ敵わないでしょうね、だがケイン様が四天王の一人スカルを倒すまで倒れる訳にいかないんですよ」

毒霧を吐く、ドラゴンゾンビの攻撃を躱しながら華麗に躱していくシエスタ。

だが、その圧倒的な力の前に流石のシエスタも力尽きていく。

シエスタ「これで最後みたいですね、ケイン様ありがとう」

決死の想いでナイフを持ち突っ込んでいく。

シエスタ「行かせません、命に代えても、奥義、光翼の輝き」

光り輝くシエスタが突っ込み、ドラゴンゾンビが崩れ落ちた。


信じられるだろうか?

メイドが、ドラゴンゾンビや無数の死霊相手に勝利を勝ち取ったのだ。

信じられる訳が無い、だから私は作者を割り出し話を聞いた。

「全て真実です、嘘はありません」

そう言い、王印が押してある書類を出した。

王印が押してあるのだ、これは王宮が正式に許可した事だ、嘘の可能性は無い。

しかも王立の劇場で公開だ、嘘では無いだろう。


だとしたら、戦メイドシエスタの力は、勇者パーティーに匹敵する。

もし、他のメンバーも同じ位強ければ、魔王軍に対抗できる、そう思った。

幸い、シエスタはメイドなのでよく買い物に出ていると聞いた。

だから、思い切って聞いて見ることにした。

「シエスタさんですよね?」

「そうですが? 神官様は私に何か御用でしょうか?」

「聞きづらいのですが、貴方は英雄パーティーでどの位強いのでしょうか?」

彼女は一瞬顔を顰めたが答えてくれた。

「あはははっ私只の!メイドですよ、一番弱いに決まっているじゃ無いですか」

「貴方がですか!」

驚きで声が出てしまった。

「当たり前ですよ、メイドですからね」

それだけ言うと不機嫌そうに彼女は去っていってしまった。


これで解かった。

あの日の神託は正しかった。

あの強者、戦メイドシエスタが一番の弱者なら、もう英雄ケインのパーティーは勇者パーティーより上だ。

私は、正式に「勇者が勝てぬほど魔王が強き時、慈愛に満ちた真の英雄が調和をもたらすだろう」という神託を教皇様に伝えた。

司祭様や教皇様は、正式な神託で無いと笑ってらしたが、一応預かってくれた。


私はもう世の中の心配はしていない。

勇者が勝てなくても、英雄ケインがどうにかしてくれる。

それを知っているから。

私は他の教徒が勇者の勝利を願うなか、ただ一人英雄の活躍を願った。

「英雄ケイン様に女神の加護あれ」



【後日談】


ケインが活躍して、天使長ハービア様を味方につけ、武神マルスを仲介して魔族との間のいざこざを治めたころ、今迄嘘だと思われた、この神託は本物として扱われるようになった。

そして、その書簡は今は中央聖堂に展示されている。










【ケイン達】


「これ、何?」

「最近、教会で配っているそうです、【英雄の誕生は教会は神託を受けていた】そういっているそうです」

「本当なのかな?ケイン聞いた事ある? 僕は知らないよ」


「もうどうでもいいさ」

「だけど、これさり気なく、シエスタの内容が多くないか」


「そりゃ、シエスタの故郷の村が今や街になって名前も【シエスタ】に変る位だからね」

「流石はシエスタ」

「もうどうでも良いです、私は只のメイドで奴隷なのになんでこんなに..」

「歴史に名前が残りそうだな」

「最近では貴族の娘がファンクラブを作ったって聞きましたわ」

「冗談ですよね」

「...いや俺も聞いた」

「もう良いです、諦めました」

シエスタは溜息を突き目線を下した。


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