『ホームレス王の孫』の異世界転移 スラム暮らしも悪くない!

石のやっさん

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第23話 【閑話】奇跡の料理人

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「なんだ、このクソ不味いシチューは話が違うぞ!」

私事、コルクはスラムで評判のシチューを食べに来ている。

美食家で有名なグルメール男爵が絶賛する。たった小銅貨3枚で食えるシチュー。

グルメール男爵曰く。

『元から美味しかったが、日に日に美味しさを増していき、今では王都の二つ星レストランに匹敵する。やがてはきっと三つ星になるであろう』

そう絶賛されていた。

だからこそ、食べに来たんだ。

男爵ともあろう者が庶民に混ざり、身分を隠し態々スラムにまで行き食べるメニュー。

たった小銅貨3枚で王都の高級レストランの味が出せるわけが無い。

さらに『いつかは最高峰の三星になる』という日に日に進化する味。

それを聞いたからこそ、こんなスラムに迄来たのだが……

「小銅貨3枚で作るシチューですぜ、材料は野菜くずや肉の切れ端の残飯、多くを望んじゃいけませんぜ」

「確かに……だが、その料理が絶品だという噂があるんだ! なんでも、ハンスという者が作っていたと……」

「またハンスの話か? 彼奴の作るシチューはたしかに絶品だったな! だが、もう彼奴はもう店を畳んでこのスラムから去ってしまったぜ……」

「もう居ないのか!?」

「ああっ、此処のスラムにはいないな」

「そうか、何か手掛かりはないのか?」

「前はアカネの売春小屋で暮らしていたが、もうとっくに引っ越しちゃったぜ! 引っ越し後の小屋にゴルドー爺さんっていう爺さんが住んでいて、二人とは随分仲良くしていたから、何か聞けるかもな? もし気になるなら行ってみたらどうだい?」

「ああっ、行ってみるとも……」

食えないと解ると余計食いたくなる。

たった小銅貨3枚で食える最高級のシチュー。

眉唾だと思うがどうしても食したい。

◆◆◆

「あっ、ハンス達かい? それならもうシチュー屋を辞めて他のスラムに移っていったぞ」

「シチュー屋を辞めたって? 何故、そんな事に、シチューは絶品だったんですよね?」

「ああっ、多分、そのシチューが原因なんじゃないか? そう言う噂じゃ」

繁盛していたのに辞める?

それに何故、そんな凄い料理人がこんなスラムに居るのかがわからない。

「どう言う事ですか?」

「これはあくまで噂じゃが、ハンスは恐らく元は名だたる料理人だったんじゃないか? そういう噂があるんじゃ。 人生に疲れた様にこのスラムに現れてのぉ……」

「それだけでなんで、料理人だと分かるのですか?」

ふらっと現れた人間が何故料理人とわかるんだ。

「これは偶々、スラムの住民が城壁の外で見かけたのじゃが、スラムにまで落ちぶれた人間が包丁とまな板を持っていたそうじゃ。 普通にスラムに来る人間が包丁など大切に持っているのはおかしく無いか?」

確かに落ちぶれた人間が後生大事に包丁を持っている。

料理人じゃなくちゃあり得ない。

「確かにその通りですね」

「それだけじゃない。最初からそれなりに美味かったが、どんどん腕が上がっていくのじゃ。 恐らく何かで料理の道を捨てた人間が久々に料理をした。そして昔の勘を取り戻し錆を落として本来の腕を取り戻した……そう思えてならんのじゃ」

「そんな凄腕の料理人引き留めようと思わなかったのですか?」

「何かの事情があって捨てた料理の道。だが、飢えたスラムの住民の為再び料理をし始めた。そんな感じがしてのぉ。 あのシチューは肉がゴロゴロ入っておってのぉ、絶対に原価割れしておるよ! その証拠に奴はシチューを作りながら鉱山で働いておったよ。きっと稼いだ金を足して皆の食事を作っておったのじゃろうな」

「そんな事が……」

「そうじゃ……そんな体に鞭打って作るシチュー。続けてくれとは誰も言えんよ。 それに実際にあいつのシチューを食べた物は餓死寸前の状態からも健康を取り戻していったよ......自分の実を削ってまでスラムの現状をどうにかしたかったのかも知れぬのぉ」

そんな、小銅貨3枚のシチューが美味しいだけじゃなく、栄養まであるのか?

まるで奇跡。

そればかりじゃない。

人の為に鉱山に行き、稼いだ金を足して料理を振舞う。

まるで聖人みたいじゃないか?

「そんな奇跡の様なシチューだったのですか?」

「これは大げさかも知れぬが、スラムの人間の中には奇跡の料理人と呼ぶ者もおる。これはハンスが儂にくれた鳥の丸焼きなんじゃが、少し分けてやろう」

鳥の丸焼きを少しむしって分けて貰った。

何処にでもあるような焼き鳥に見える。

「ありがとうございます……あむっ……これは美味い」

「美味いだけじゃない、ハンスが作った料理は何時までたっても痛みもせず腐らんのじゃ」

「そんな、そんな料理が出来る料理人など、王都にも居ない……」

「そうじゃろう?」

「それで、そんな凄い料理人が何故此処を立ち去ったのでしょう?」

「味こそ劣るが同業者が出来た。 恐らく自分の役目は終わった。そう思ったのじゃろうな……嫁と一緒に旅だっていきよったよ」

「そうですか……」

もう、食べられないのか?

「儂は思うんじゃ……きっとハンスにはなにか使命があるんじゃないかとな」

「使命ですか?」

「スラムの爺には解らぬが、きっとどこかでまた奇跡の料理を作り腕を振るっている様な気がしてならぬのじゃ」

「そうですね」

奇跡の料理人。

いつか遭って見たい物だ。


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