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「えっ……、」
フォルマが名乗った名前にアレンシカだけは驚き声が漏れる。その名字はエイリークの名字そのものだ。
「フォルマさんは……、あの……。」
「ん?」
「お子さんがいると仰っていましたが、もしかしてその子の名前はエイリークですか?」
「あれ?エイリークの友達⁉そういえば同じくらいの年頃っぽいもんね!」
エイリークの名前が出た途端フォルマは本当に嬉しそうにニカッと笑った。
「えーなんだなんだエイリークにこんな綺麗なお友達がいるなんて知らなかったなあ言ってくれれば良かったのにアイツもー。」
「あの……、」
「エイリーク今こっち帰ってきてるんだよー!旅行中なんだっけ?偶然だねー!」
「えっと……。」
「……え待って!じゃあ私はエイリークのお友達に怪我させたってこと⁉どうしよう!エイリークからも怒られるじゃん!」
「本当にお気になさらず……。」
エイリークの友人だと知って心なしか先程よりは大分打ち解けているような気もするが、再び怪我をさせたことを思い出し頭を抱え落ち込み始めた。
「どうしようなんて説明しよう……エイリーク怒ると怖いからさあ……。」
「あの……僕からもきちんと偶然だって説明するので大丈夫だと思いますよ……?」
「ほんと!?……ああでも駄目だ隠してたら余計怒られる……。」
せっかく話がまとまっていたのに再び怪我の話に戻りそうな雰囲気に焦り始めた時。
「おい!父さん!」
「ぎゃー!」
「勝手にどっか行くなって言ってるだろーが!」
もの凄い勢いで走ってきた人が思い切りフォルマの首根っこを掴んで引っ張った。まさに今話に出たエイリークだった。とても怒っているのかフォルマしか見えておらずもの凄く怒っている。
勉強をしないプリムに向けてでもここまで怒ることはないエイリークの見たことのない姿に少し戸惑った。
「いつもいつも言ってるのにすぐどっか行くのやめろよ!父さんはそそっかしいんだから周りに迷惑かけるだろ!今度は何やらかした!何もしなかっただろーな!」
「ごめんねエイリーク……もうやっちゃったんだ……。」
「はあ⁉」
「こちらの……。」
エイリークの怒りに触れ先程までの元気はなくなり顔が真っ青になっているフォルマがブルブル震えながらアレンシカを手で示した。
つられてエイリークもフォルマの襟元を掴んだままぐるりと振り返った。
「え……。」
「あ……こんにちはエイリ。」
ピタリとどちらも動きが止まる。しばらく間が続きアレンシカはにこりと笑ってみたがエイリークはカッチリと止まって動かない。
「エイリ?」
「……は、」
そのうち掴んでいた手からフォルマの襟元が離れた。フォルマは膝から崩れ落ちまだ青い顔をしながらガクガク震えている。
「え……。な、え?」
「エイリ?」
「ど、ど、ど、どうしてアレ、もがー‼」
とても目を見開き今にも叫びそうになったエイリークをジュスティがベンチに置きっばなしになっていたフォルマの鞄で口を抑えた。アレンシカの名前を出そうとしていたのを、アレンシカの名前をあまり出さない方がいいという判断からとっさにしてしまったのだろう。
「エレシュカ様の名前を口外しないようにしてください。」
「もがー!!」
「ジュスティ!大切な友達なんです。大丈夫なので離してください!」
エイリークはジュスティに抑えられながらメイメイに注意されるも突然何が何だか分からないエイリークは逃れようと暴れる。アレンシカに止められてやっと離したがフォルマの鞄だというのに手に持ったままエイリークに向けて構えている。
「いいですか、もう一度言います。こちらの方のお名前を口外してはなりません。」
「はあ?なんで?意味わかんない!」
「エレシュカ様がここにいる理由です。けして話されませんよう。呼ぶときは『エレシュカ』様でお願いします。」
「……はあ、何でそんな隣国の古い発音で呼んでるのかは分からないけど、分かったんでそれしないでくれます?」
「ありがとうございます。」
「ごめんなさいエイリ。大丈夫?」
「これくらいぜーんぜん問題ないですよ。」
エイリークはさりげなくメイメイとジュスティから離れてアレンシカの横に陣取る。一応友達とは今聞いた上でアレンシカが親しげにしているので引き離すことはしないがそれでも護衛として二人は警戒を緩めてはいなかった。
「でもどうしてエレシュカ様がここにいるんですか?ここがボクの出身なんですよ!知ってればボクが案内しましたのに!」
「いろいろ……事情があって……旅行中、というか……。」
「そうなんですね!エレシュカ様が来てくれてボク嬉しいです!やっぱり長期休みは旅行ですよねえ。」
今さっき彼の親のフォルマに偽名と理由を伝えたばかりなのに真実を言っては不思議に思われてしまう。それに王都から遠く離れていると言っても誰が聞いているか分からないここで話す訳にもいかず言葉を濁してしまう。それでも普段のアレンシカと違うことを察したのかすぐにエイリークが話を合わせてきた。
エイリークからしてみればもうすぐ夏休みなのに急に学園を休んで何故かエイリークの故郷に出没した謎の行動でしかないのに。
(僕も分からないことが多いからあまり事情は言えないけど……エイリには説明できることは説明したいな。)
「エイリ、あの……後で時間ある?」
「エレシュカ様のためならいつだって時間とれますよ?」
「ありがとう。でもね、エイリにしっかり話しておかなくちゃいけないことがあって……。」
「エレシュカ様。」
メイメイに声をかけられた。きっと話をすることを気づいて咎めようとしてきたんだろう。でもエイリは学園生でアレンシカがどういう立場かある程度はなんとなく知られている。もし話さなくてもエイリークは黙ってアレンシカの今の現状にずっと合わせてくれるだろう。しかしエイリークはアレンシカにとってとても近い友人でありそれはウィンノルにも知られている。何も話さないままでは万が一にも巻き込まれた時に大変なことになるかもしれない。
(もしかしたら……僕の天啓通りになって大丈夫かもしれないけど……それでも近くに家族もいるなら尚更巻き込ませたくない。)
「エイリークは僕のことを知っています。本当の名前も。友人であることはあちらも知っているので、このままでは何も知らせられないままエイリークに何か起きたら……。」
「ですが……。」
「もちろんその前に伯爵に相談します。だがら今日ではありません。その上で許可が取れたら話すことにします。」
「……分かりました。エレシュカ様の判断にお任せします。」
「ボクにはよく分からないですけど、楽しみにしてますね!」
目の前で話していたから訳があることはもう分かっているというのに、ただの遊びか何かの誘いのフリをしてエイリークはにこにこ笑っている。もしかしたら事の次第では何も話せずじまいになるかもしれないのに。それなのに瞬時に合わせてきてくれた優しさに感謝しかない。
一方そんな話が目の前で繰り広げられているとは知らずフォルマはボケッとただ見ていた。思ったよりも今まで見たことのない不思議な光景だからだった。
「なんかエイリークがキュルキュルしてる……。」
フォルマが名乗った名前にアレンシカだけは驚き声が漏れる。その名字はエイリークの名字そのものだ。
「フォルマさんは……、あの……。」
「ん?」
「お子さんがいると仰っていましたが、もしかしてその子の名前はエイリークですか?」
「あれ?エイリークの友達⁉そういえば同じくらいの年頃っぽいもんね!」
エイリークの名前が出た途端フォルマは本当に嬉しそうにニカッと笑った。
「えーなんだなんだエイリークにこんな綺麗なお友達がいるなんて知らなかったなあ言ってくれれば良かったのにアイツもー。」
「あの……、」
「エイリーク今こっち帰ってきてるんだよー!旅行中なんだっけ?偶然だねー!」
「えっと……。」
「……え待って!じゃあ私はエイリークのお友達に怪我させたってこと⁉どうしよう!エイリークからも怒られるじゃん!」
「本当にお気になさらず……。」
エイリークの友人だと知って心なしか先程よりは大分打ち解けているような気もするが、再び怪我をさせたことを思い出し頭を抱え落ち込み始めた。
「どうしようなんて説明しよう……エイリーク怒ると怖いからさあ……。」
「あの……僕からもきちんと偶然だって説明するので大丈夫だと思いますよ……?」
「ほんと!?……ああでも駄目だ隠してたら余計怒られる……。」
せっかく話がまとまっていたのに再び怪我の話に戻りそうな雰囲気に焦り始めた時。
「おい!父さん!」
「ぎゃー!」
「勝手にどっか行くなって言ってるだろーが!」
もの凄い勢いで走ってきた人が思い切りフォルマの首根っこを掴んで引っ張った。まさに今話に出たエイリークだった。とても怒っているのかフォルマしか見えておらずもの凄く怒っている。
勉強をしないプリムに向けてでもここまで怒ることはないエイリークの見たことのない姿に少し戸惑った。
「いつもいつも言ってるのにすぐどっか行くのやめろよ!父さんはそそっかしいんだから周りに迷惑かけるだろ!今度は何やらかした!何もしなかっただろーな!」
「ごめんねエイリーク……もうやっちゃったんだ……。」
「はあ⁉」
「こちらの……。」
エイリークの怒りに触れ先程までの元気はなくなり顔が真っ青になっているフォルマがブルブル震えながらアレンシカを手で示した。
つられてエイリークもフォルマの襟元を掴んだままぐるりと振り返った。
「え……。」
「あ……こんにちはエイリ。」
ピタリとどちらも動きが止まる。しばらく間が続きアレンシカはにこりと笑ってみたがエイリークはカッチリと止まって動かない。
「エイリ?」
「……は、」
そのうち掴んでいた手からフォルマの襟元が離れた。フォルマは膝から崩れ落ちまだ青い顔をしながらガクガク震えている。
「え……。な、え?」
「エイリ?」
「ど、ど、ど、どうしてアレ、もがー‼」
とても目を見開き今にも叫びそうになったエイリークをジュスティがベンチに置きっばなしになっていたフォルマの鞄で口を抑えた。アレンシカの名前を出そうとしていたのを、アレンシカの名前をあまり出さない方がいいという判断からとっさにしてしまったのだろう。
「エレシュカ様の名前を口外しないようにしてください。」
「もがー!!」
「ジュスティ!大切な友達なんです。大丈夫なので離してください!」
エイリークはジュスティに抑えられながらメイメイに注意されるも突然何が何だか分からないエイリークは逃れようと暴れる。アレンシカに止められてやっと離したがフォルマの鞄だというのに手に持ったままエイリークに向けて構えている。
「いいですか、もう一度言います。こちらの方のお名前を口外してはなりません。」
「はあ?なんで?意味わかんない!」
「エレシュカ様がここにいる理由です。けして話されませんよう。呼ぶときは『エレシュカ』様でお願いします。」
「……はあ、何でそんな隣国の古い発音で呼んでるのかは分からないけど、分かったんでそれしないでくれます?」
「ありがとうございます。」
「ごめんなさいエイリ。大丈夫?」
「これくらいぜーんぜん問題ないですよ。」
エイリークはさりげなくメイメイとジュスティから離れてアレンシカの横に陣取る。一応友達とは今聞いた上でアレンシカが親しげにしているので引き離すことはしないがそれでも護衛として二人は警戒を緩めてはいなかった。
「でもどうしてエレシュカ様がここにいるんですか?ここがボクの出身なんですよ!知ってればボクが案内しましたのに!」
「いろいろ……事情があって……旅行中、というか……。」
「そうなんですね!エレシュカ様が来てくれてボク嬉しいです!やっぱり長期休みは旅行ですよねえ。」
今さっき彼の親のフォルマに偽名と理由を伝えたばかりなのに真実を言っては不思議に思われてしまう。それに王都から遠く離れていると言っても誰が聞いているか分からないここで話す訳にもいかず言葉を濁してしまう。それでも普段のアレンシカと違うことを察したのかすぐにエイリークが話を合わせてきた。
エイリークからしてみればもうすぐ夏休みなのに急に学園を休んで何故かエイリークの故郷に出没した謎の行動でしかないのに。
(僕も分からないことが多いからあまり事情は言えないけど……エイリには説明できることは説明したいな。)
「エイリ、あの……後で時間ある?」
「エレシュカ様のためならいつだって時間とれますよ?」
「ありがとう。でもね、エイリにしっかり話しておかなくちゃいけないことがあって……。」
「エレシュカ様。」
メイメイに声をかけられた。きっと話をすることを気づいて咎めようとしてきたんだろう。でもエイリは学園生でアレンシカがどういう立場かある程度はなんとなく知られている。もし話さなくてもエイリークは黙ってアレンシカの今の現状にずっと合わせてくれるだろう。しかしエイリークはアレンシカにとってとても近い友人でありそれはウィンノルにも知られている。何も話さないままでは万が一にも巻き込まれた時に大変なことになるかもしれない。
(もしかしたら……僕の天啓通りになって大丈夫かもしれないけど……それでも近くに家族もいるなら尚更巻き込ませたくない。)
「エイリークは僕のことを知っています。本当の名前も。友人であることはあちらも知っているので、このままでは何も知らせられないままエイリークに何か起きたら……。」
「ですが……。」
「もちろんその前に伯爵に相談します。だがら今日ではありません。その上で許可が取れたら話すことにします。」
「……分かりました。エレシュカ様の判断にお任せします。」
「ボクにはよく分からないですけど、楽しみにしてますね!」
目の前で話していたから訳があることはもう分かっているというのに、ただの遊びか何かの誘いのフリをしてエイリークはにこにこ笑っている。もしかしたら事の次第では何も話せずじまいになるかもしれないのに。それなのに瞬時に合わせてきてくれた優しさに感謝しかない。
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