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明日の朝
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青い空に薄く雲がかかっている。
「……よく眠ったなあ。」
柔らかい朝の光がアレンシカの顔に差し込む。
いつもはあまり寝起きが良くないが、外でたくさん歩いた疲れなのか今日の寝起きはずいぶんと良かった。
軽く身支度をして、外に出てみる。
生徒達がパラパラと朝の準備をしているが、まだ少しだけ早いからかそこまで人はいない。
「おっはようございます!アレン様!」
「おはようエイリ。今日も元気だね。」
「あったり前ですう!朝からアレン様に会えるなんて最高ですよ!」
朝からご機嫌なエイリークはアレンシカの周りをぐるぐる回った。
「あ、アレン様の寝癖発見です!双葉みたいで可愛いですね!」
「本当?ちゃんと直したと思ったんだけどな。」
いつもは身だしなみをきちんと整えてから学校に行くから、朝から誰かに見られるのは気恥ずかしく指摘された辺りを指先で引っ張ってみる。
しばらくすると集会があるからその時までに直さないとと思いながら、水場に向かおうとすると真後ろにあった扉が開いた。
「あ、プリムおはよう。」
「……おはよーございまーす。」
まだ眠そうなプリムが起きてきた。寝癖のつきやすい髪質のようで髪はぐしゃぐしゃだった。
アレンシカの声でやっと前に人がいることに気づいたプリムは自分で髪をいじってみたが頑固なようでなかなか寝癖は取れない。
「おはよーミラー。すっごい寝癖ー。」
「あ、えと。」
隣りにいたエイリークも挨拶すると、二人から声をかけられて流石に目が覚めたのかプリムはびくっとした後に目がぱっちりと開いた。
エイリークはしばらくじろじろとプリムの頭を見ていたが、やがて思い出したようにあ!と声を上げた。プリムはびっくりして少しだけアレンシカの袖を掴んだが、エイリークが再びプリムを見ると離れた。
「ボク、昨日レポート順番通りにまとめようと思ってうっかり寝落ちしちゃったんでした。朝礼までにまとめとかないと!」
「えっ?珍しいね、エイリ。昨日歩き疲れちゃったもんね。」
「そうなんですよね。それと……。」
エイリークはちらりと別の方を見てから再び、アレンシカの方を向いた。
「アレン様!ちょっとやってきますね!戻ってきたら僕の髪いじりもお願いしますね!」
「エイリの髪いじり……?」
全く必要のないくらいサラサラふわふわしたエイリークの髪を見ている間にササッと戻って行ってしまった。
そうしてここにはアレンシカとキョトンとしたプリムだけだった。
「……朝からすごいですねー。」
「元気いっぱいだよね。エイリ。」
ふふと笑うと、くるりとアレンシカはプリムの方に向き直った。
「さて、じゃあプリムは僕と行きましょう。」
「え?え?なんですか?え?」
「おいで。」
まだプリムと連れ立ってアレンシカは水場に向かった。
「はい、出来たよ。」
「……ありがとうございますー。」
公爵子爵として身だしなみには十分に気をつけてなければならないアレンシカは、最低限の道具はいくつか持ってきていた。
オイルやらブラシやらを使って一房ずつ真っ直ぐに伸ばしていくとやっといつものプリムの髪型になった。
自分の髪よりも何倍も時間がかかったかもしれない。
あまりの髪型の変化さについそのまま撫で回していると、プリムは髪いじりの間に再び戻って来た眠気にウトウトしていたがハッと気づいて少しだけ慌てたようにパッと立った。
「うーうーうー。」
「プリム?」
「…………帰りの準備してきます!」
バタバタと慌てて戻っていく。
あまりの速さにアレンシカはポカンとしたままプリムの行ってしまった方向を見続けていたが、後ろから声を掛けられて意識が戻った。
「アレンシカ様。おはようございます。」
「おはようございます。」
「おはよう……君たちは。」
そこにいたのはいつもプリムと一緒にいる友人二人だった。
今回は違う組分けで離れてしまっているが、いつでも三人で一緒に行動していた記憶がある。
「プリムなら、ついさっきまでここにいたんだけど……。」
「あ、今はいいんです。」
「今はプリムじゃなくって……。」
二人はちらりとアレンシカを見る。どうやらプリムではなくアレンシカに用があるらしい。
アレンシカは少し姿勢を正した。
「アレンシカ様。……プリムは大丈夫でしたか?」
「プリム?どうして?」
「あの子……その。」
少し言いにくそうにしているクラスメイトにアレンシカは何も言わずにただ待つ。
「あの……プリム。僕達と同じで大人しいですけど、その……。」
「僕は昔からプリムを知ってるんですけど、えっと……。」
先程から何か言おうとしているが、友達では言いにくいのかそれとも公爵子息相手には言いづらい内容なのか、どうしても言おうとしても言い淀んでしまう。
そのうち少し待ってみても揃って何も言わなくなってしまった。
「大丈夫だよ。」
アレンシカがそう言うと二人はパッと顔を上げた。
二人が何を言おうとしていたのかはアレンシカには分からない。
けれどアレンシカは知っている。
こういう時どうすれば良いのかを。彼らの為に、相手の為に、何を考えずに何を思わずに何をすれば良いのかを。
二人はいずれ言えると思ったらその時に言えればいい。もちろん何も言わなくても大丈夫だ。
「プリムは大丈夫。」
そうしてアレンシカはただ笑った。
少し遠くで三人が話している様子を伺う。
悪意は感じなかったが何か悪さに巻き込まれるのではないかと思い、見える範囲で気にしてみたが大丈夫そうだった。
とりあえずほっとした。昨日は少し大変だったから。
「ねえ、アンタは何なの?」
突然後ろから声をかけられた。
さっきまで誰もいなかった筈だ。まばらに起きてきた他の生徒達は遠くの方で自分の周りにはいなかった。音もなく、突然。
だけど声はよく知っていた。クラスメイトで同じ組なら当たり前だった。
おまけに何だか敵対的で、よくこちらを試すように見て来る。
思わず離れるようにしてパッと後ろを向くとこれまでと同じ試す目でこちらを見てきていた。
「……音もなく来ないでくんない?怖いから。」
「質問に答えたほうがいいよ。怪しいから。」
振り返って下を見ると、自分よりも背は低いのに、低さなど感じさせない鋭い目で見ていた。
「最初から、近づいたよね。アンタとつるんでた奴と別に話し合うでもなくくじ引きでもするでもなくこっち側に来てたから、変に思ってたんだよね。ハルク。」
「……俺からしたらお前のが変だと思うけどな、スプリンガード。」
こちらも負けじと少しだけ厳しい目で見返してみるも、エイリークはそんな目は意に返さない。
「アレンシカ様の敵とかじゃないし。お前も敵じゃない、と思う。あいつみたいに何かするとかじゃなければ、少なくとも。」
「ああ、昨夜のこと知ってるの。へーえ。」
存外に匂わせて返せばこちらにも返してくる。
その反応から見れば、ルジェが何を見ていたかもエイリークには知っているのだろう。
おそらくルジェがどこから来たのかも。
「それで、答えてもらえてはないんだけど。アンタは何?誰かの回し者?……それとも、……天啓で何か見た?」
一番強い目で見られて、少しだけ怯んでしまったがそれでも言える訳ではないので黙っている。
しばらく黙っているとエイリークは諦めたようでふっと視線を外した。
「まあいいや。別にアンタが何してようがどうしようがオレには関係ないから。」
そうしてエイリークは歩き出す。どこへ行くのかなんて一目瞭然だ。
ただ数歩歩いてからもう一度鋭い目をして振り返って来た。
「ただ覚えておきな。何かするんなら、許さないから。」
「そのまんまお前に言っとくよ。」
返事をすると今度こそエイリークは歩き出した。
先程とは思えない軽くスキップを踏みながら。
こうして波乱の校外キャンプは終わった。
「……よく眠ったなあ。」
柔らかい朝の光がアレンシカの顔に差し込む。
いつもはあまり寝起きが良くないが、外でたくさん歩いた疲れなのか今日の寝起きはずいぶんと良かった。
軽く身支度をして、外に出てみる。
生徒達がパラパラと朝の準備をしているが、まだ少しだけ早いからかそこまで人はいない。
「おっはようございます!アレン様!」
「おはようエイリ。今日も元気だね。」
「あったり前ですう!朝からアレン様に会えるなんて最高ですよ!」
朝からご機嫌なエイリークはアレンシカの周りをぐるぐる回った。
「あ、アレン様の寝癖発見です!双葉みたいで可愛いですね!」
「本当?ちゃんと直したと思ったんだけどな。」
いつもは身だしなみをきちんと整えてから学校に行くから、朝から誰かに見られるのは気恥ずかしく指摘された辺りを指先で引っ張ってみる。
しばらくすると集会があるからその時までに直さないとと思いながら、水場に向かおうとすると真後ろにあった扉が開いた。
「あ、プリムおはよう。」
「……おはよーございまーす。」
まだ眠そうなプリムが起きてきた。寝癖のつきやすい髪質のようで髪はぐしゃぐしゃだった。
アレンシカの声でやっと前に人がいることに気づいたプリムは自分で髪をいじってみたが頑固なようでなかなか寝癖は取れない。
「おはよーミラー。すっごい寝癖ー。」
「あ、えと。」
隣りにいたエイリークも挨拶すると、二人から声をかけられて流石に目が覚めたのかプリムはびくっとした後に目がぱっちりと開いた。
エイリークはしばらくじろじろとプリムの頭を見ていたが、やがて思い出したようにあ!と声を上げた。プリムはびっくりして少しだけアレンシカの袖を掴んだが、エイリークが再びプリムを見ると離れた。
「ボク、昨日レポート順番通りにまとめようと思ってうっかり寝落ちしちゃったんでした。朝礼までにまとめとかないと!」
「えっ?珍しいね、エイリ。昨日歩き疲れちゃったもんね。」
「そうなんですよね。それと……。」
エイリークはちらりと別の方を見てから再び、アレンシカの方を向いた。
「アレン様!ちょっとやってきますね!戻ってきたら僕の髪いじりもお願いしますね!」
「エイリの髪いじり……?」
全く必要のないくらいサラサラふわふわしたエイリークの髪を見ている間にササッと戻って行ってしまった。
そうしてここにはアレンシカとキョトンとしたプリムだけだった。
「……朝からすごいですねー。」
「元気いっぱいだよね。エイリ。」
ふふと笑うと、くるりとアレンシカはプリムの方に向き直った。
「さて、じゃあプリムは僕と行きましょう。」
「え?え?なんですか?え?」
「おいで。」
まだプリムと連れ立ってアレンシカは水場に向かった。
「はい、出来たよ。」
「……ありがとうございますー。」
公爵子爵として身だしなみには十分に気をつけてなければならないアレンシカは、最低限の道具はいくつか持ってきていた。
オイルやらブラシやらを使って一房ずつ真っ直ぐに伸ばしていくとやっといつものプリムの髪型になった。
自分の髪よりも何倍も時間がかかったかもしれない。
あまりの髪型の変化さについそのまま撫で回していると、プリムは髪いじりの間に再び戻って来た眠気にウトウトしていたがハッと気づいて少しだけ慌てたようにパッと立った。
「うーうーうー。」
「プリム?」
「…………帰りの準備してきます!」
バタバタと慌てて戻っていく。
あまりの速さにアレンシカはポカンとしたままプリムの行ってしまった方向を見続けていたが、後ろから声を掛けられて意識が戻った。
「アレンシカ様。おはようございます。」
「おはようございます。」
「おはよう……君たちは。」
そこにいたのはいつもプリムと一緒にいる友人二人だった。
今回は違う組分けで離れてしまっているが、いつでも三人で一緒に行動していた記憶がある。
「プリムなら、ついさっきまでここにいたんだけど……。」
「あ、今はいいんです。」
「今はプリムじゃなくって……。」
二人はちらりとアレンシカを見る。どうやらプリムではなくアレンシカに用があるらしい。
アレンシカは少し姿勢を正した。
「アレンシカ様。……プリムは大丈夫でしたか?」
「プリム?どうして?」
「あの子……その。」
少し言いにくそうにしているクラスメイトにアレンシカは何も言わずにただ待つ。
「あの……プリム。僕達と同じで大人しいですけど、その……。」
「僕は昔からプリムを知ってるんですけど、えっと……。」
先程から何か言おうとしているが、友達では言いにくいのかそれとも公爵子息相手には言いづらい内容なのか、どうしても言おうとしても言い淀んでしまう。
そのうち少し待ってみても揃って何も言わなくなってしまった。
「大丈夫だよ。」
アレンシカがそう言うと二人はパッと顔を上げた。
二人が何を言おうとしていたのかはアレンシカには分からない。
けれどアレンシカは知っている。
こういう時どうすれば良いのかを。彼らの為に、相手の為に、何を考えずに何を思わずに何をすれば良いのかを。
二人はいずれ言えると思ったらその時に言えればいい。もちろん何も言わなくても大丈夫だ。
「プリムは大丈夫。」
そうしてアレンシカはただ笑った。
少し遠くで三人が話している様子を伺う。
悪意は感じなかったが何か悪さに巻き込まれるのではないかと思い、見える範囲で気にしてみたが大丈夫そうだった。
とりあえずほっとした。昨日は少し大変だったから。
「ねえ、アンタは何なの?」
突然後ろから声をかけられた。
さっきまで誰もいなかった筈だ。まばらに起きてきた他の生徒達は遠くの方で自分の周りにはいなかった。音もなく、突然。
だけど声はよく知っていた。クラスメイトで同じ組なら当たり前だった。
おまけに何だか敵対的で、よくこちらを試すように見て来る。
思わず離れるようにしてパッと後ろを向くとこれまでと同じ試す目でこちらを見てきていた。
「……音もなく来ないでくんない?怖いから。」
「質問に答えたほうがいいよ。怪しいから。」
振り返って下を見ると、自分よりも背は低いのに、低さなど感じさせない鋭い目で見ていた。
「最初から、近づいたよね。アンタとつるんでた奴と別に話し合うでもなくくじ引きでもするでもなくこっち側に来てたから、変に思ってたんだよね。ハルク。」
「……俺からしたらお前のが変だと思うけどな、スプリンガード。」
こちらも負けじと少しだけ厳しい目で見返してみるも、エイリークはそんな目は意に返さない。
「アレンシカ様の敵とかじゃないし。お前も敵じゃない、と思う。あいつみたいに何かするとかじゃなければ、少なくとも。」
「ああ、昨夜のこと知ってるの。へーえ。」
存外に匂わせて返せばこちらにも返してくる。
その反応から見れば、ルジェが何を見ていたかもエイリークには知っているのだろう。
おそらくルジェがどこから来たのかも。
「それで、答えてもらえてはないんだけど。アンタは何?誰かの回し者?……それとも、……天啓で何か見た?」
一番強い目で見られて、少しだけ怯んでしまったがそれでも言える訳ではないので黙っている。
しばらく黙っているとエイリークは諦めたようでふっと視線を外した。
「まあいいや。別にアンタが何してようがどうしようがオレには関係ないから。」
そうしてエイリークは歩き出す。どこへ行くのかなんて一目瞭然だ。
ただ数歩歩いてからもう一度鋭い目をして振り返って来た。
「ただ覚えておきな。何かするんなら、許さないから。」
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