天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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水やり

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もうすっかり葉は色づき、ほんの少しだけ冷たい風が吹き始めた頃。
この時期の園芸クラブは少し忙しい。とは言ってもおそらくすべてのクラブが忙しいだろう。
来たる感謝祭での出し物の準備をする為だ。
感謝祭とは多くの貴族の子が集まる王立学園が主催するもので、自分達を支えてくれる平民への感謝と、これから家を継いだ時によろしくという意味を込めてする2日間の祭りのようなものだ。
この時は演芸が行われたり、バザーが行われたりと王立学園は一気に賑やかになる。
園芸クラブでは、毎年来場者へ鉢植えの花とドライフラワーを配っている。
その為時期に合わせて植えた花の管理と、ドライフラワーを作っている。

「見てーアレンシカ様ー。泥団子ー。」

「……プリム、そこの土も使うからね。遊んだらちゃんと戻しておくんだよ?」

「はーい。」

新学期から園芸クラブに加入したプリムは、花に関しては初心者でよくアレンシカの後ろをついてまわる。
甘いものが好きなのだから調理クラブの方が性に合っているんではないかと一度尋ねてみたことはあるのだが、

「アレンシカ様がいるからこっちですよー。お友達でお付きの人ですもん。えっへん。」

と胸を張りながら言った。
夏休みのパーティーの日、リリーベル家の執事であるディオールの弟子になると言ったあの言葉はどうやら本気だったようで、あの後すぐ菓子折りを持って当主の兄と頼みにやって来た。
ほんのジョークだと思っていたアレンシカには目から鱗でその時また彼の兄とプリムはひと悶着あったのだが、父のリリーベル当主は笑って快諾し卒業後にプリムが正式にアレンシカの侍従となることが決まったのだ。

「ちょっとアンタね、いっくらアレン様が認めたからってボクは許さないからね。ちゃんとやりなよ。」

こちらは園芸クラブには入っていないエイリーク。
夏休みが終わってからはプリムに負けじとアレンシカのそばをついて回る。

「お手紙だけじゃ寂しくて寂しくて、不足してます!」

と学校で会ってからはずっと隣りだ。
実家は野菜を育てているというから花にも詳しそうだが、一年の間は勉強に専念する為に入らないで、クラブ活動が終わるまではクラスで待っていたり、今日のようにそばでテキストを開きながらアレンシカの様子を眺めたりしている。

「夏休みが終わってからまさかプリムとそんなに距離が縮まってるとか酷くない!ズルいんだけど!」

「うーん。友達ですもん。普通ですもん。」

「ボクだって友達だけど、」

「……うーん……?そうなんですか……?」

もはや多少の言い合いは日常茶飯事だ。
二人の話を聞きながらの作業も楽しい。園芸クラブが部員以外の立ち寄りも大歓迎で良かったなとにこにこしながら聞いていた。

「葉っぱギザギザですねー。」

「でもね、とっても優しい色の花が咲くんだよ。優しくて心が安らぐ花をみんなに渡すからね。」

「へーえ。」

遠くでは他の部員たちの作業する声が聞こえる。
自分の近くでは再び泥団子作りに精を出すプリムのはしゃぐ声と、そんなプリムに叱りながらも見守っているエイリークのテキストを捲る音がする。
穏やかで楽しい時間だなと、自らも作業をしながら優しい気持ちになっていた。

「きゃあ!殿下だ!」

「土がかかったら不味い、止めろ。」

穏やかな時間も一変ざわざわとした声に変わる。
万が一にも土が掛かってしまったら問題の為に、皆土を使わない作業に移行し始めた。
それもそのはずで遠くから彼の人が現れたからだ。

「ウィンノル殿下、感謝祭はどちらへ行かれるんですか?」

「も、もし良かったら私と、」

「僕も、」

「俺も!お願いします!」

園芸クラブも賑やかだが、作業しながらではやはり静かな時間も増えていくというもの。周りの声は聞こえやすくなってしまう。
そして、幼少期から覚えのある声が聞こえてくれば尚更聞き耳を立ててしまうというものだろう。
遠くからでもひと目で分かる深い青の婚約者は、今日も沢山の子息を侍らしながら花壇の方までやって来た。

「アレンシカ様ー。お花にお水あげていいですかー?」

「人が来たからもう少し待ってね。離れたらいいよ。」

「うーん、でも枯れてるお花がいっぱいあるんです。いっぱいです。すぐにお水あげなきゃー。」

「この花壇の花はまだ咲いてないよ?」

一度もこちらに目もかけずに周りの子息と楽しそうな会話をしながらただ通り過ぎて行った。

「……はあ。」

「もうお水撒いてもいいですねー。えいえい。」

再び本来の作業に戻っていく。
検討違いな方向へと水を撒き始めたプリムをしり目にアレンシカもいつの間にか止まっていた手を動かして葉に薬をつけていく。
どことなく不機嫌なプリムを見ていると、声が足りない気がして目の前にいたエイリークへ視線を上げてみる。
やけに真剣な顔をしているエイリークは、こちらを見てはおらず遠くの方向を見ていた。
視線の行き先は深い青が消えた方角だった。
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